第5話 ある日の情景
「ちょっと、右に回ってみて」
右、とは言っても、
二人は地球防衛戦線宇宙人対策委員会の実戦部隊、略して戦隊の隊員だ。今は目前の敵を追っている、もとい、敵に追われているところである。
少し時をさかのぼる。
いつものようにスマホのベルが鳴ったのだが、学校にいた健斗は昼食のパンを
桃色は健斗を
「桃色、今日は黄色は休みですか」
健斗が走りながら問いかけると、桃色は「ええ」と肯定した。
「随分前から休み
桃色の優しい言葉遣いが彼女の優しい心根と共に健斗に伝わる。
「ヒーローにも休日は必要です」
もっともらしく言う健斗に桃色が微笑んだ。もちろん、ヘルメットで表情は見えないが。
「ねえ、
桃色の問いに健斗は走りながら首をひねる。
「これって何の目的で走ってるんすか?」
「さあ?捕まえるように言われただけだから」
お互いに意図があるわけではなかったので、健斗は走りながらも状況を把握しようとあちこちに目を走らせる。
「どこかに誘い込むにしても、ちょっと崩れそうな建物ばかりですね」
ヘルメットで地図を確認しても、いい場所がない。
「おタケさん、あいつの属性は?」
ヘルメットの無線に問いかけると、むむうと言う返事が返ってくる。
「あれは俺の犬なんだが」
その言葉に健斗だけではなく、桃色も驚きの声を発する。
「いや、もともとだぞ?散歩中にいきなり影みたいなやつに食われてしまって、それからああなったんだ。恐らく、電気系かなあって思っているんだが、うちの優秀なコンピューターにもわからんらしい」
化学分析班の情報分析でもわからない、という答えだ。
「どうしましょうねえ」
走りながら健斗は元犬をみやる。
「じゃ、待て、で反応するかやってみますか」
「おい、健斗、あれは犬じゃないぞ」
おタケさんが止めに入る前に、健斗は疾走をやめた。
馬並みの犬が迫ってくる。
健斗は右手を挙げて、手の平を見せる。
「待て」
よく通る声で言うと、犬は止まって、はあはあ、と舌を出しながら指示を待っている。
「おタケさん、止まりましたよ?」
「ああ、うん、そうみたいだな」
犬は首を
「終わった?」
健斗はあっけない終わり方に疑問詞で確認を取る。
「ああ。任務完了。ご苦労」
健斗はふう、と息を吐いて、桃色とハイタッチした。腕時計のスイッチを押して制服に戻ると、次の瞬間には学校の化学の授業中の教室に戻されていた。
教室では健斗の突然の
健斗は食べ損ねた昼食のパンをカバンにしまって、ぐうぐう鳴るお腹を恥ずかしそうにさすりながらノートを開いて板書を写す。
気になるのは、今日の出動の時給は危険手当がいくらかだ。あれでは危険も何もなかったから、大した額じゃない。今月の貯金額はもう貯まっているから、余剰分で欲しいものが買える、かもしれない。高給取りになるまで買い物は我慢するべきだよな、と思い直して健斗は、ん?と窓の外を見た。
空に浮かぶのは地球防衛戦線の宇宙船。そこに彦島がいる。
健斗は彼がどんな顔してこの学校を見ているのか気になった。
特に何もなかったように、宇宙船は消えた。
たまに監視の様に宇宙船が来ることがあるが、意味はないらしい。隊員のいる地域には
平和だよなあ。
健斗はしみじみと思ったのだった。
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