第一章 絳焰の試練 その2
「ん……元宵団子、美味しい」
今日は朝から後宮の
「……はー、たくさん食べた。そろそろ行こうっと」
指を
暗くなり始めると、よくわかる。翠星宮の
また、本格的に陽が壁の後ろに落ちていくのを見計らうように音楽が
わたしは待った。お祭り気分がみんなの頭の芯まで
全てが夜
金細工で造られた木には、無数の燈籠や枝葉の代わりに玉を
お祭り騒ぎを
燈籠を
「え? なんで!」
逆さにひっくり返した包みから出てくるのは、首をもがれた枇杷の白い花だけ。
「──どうして荷物が消えてなくなっているのか、気になるの?」
「朔耀様!? なんでここに……?」
気づくと朔耀様が廟の入り口に立っている。
朔耀様は、手に持つ燈籠だけが理由ではない
「くだらない用事だよ。翡翠が昨日ここへ来た時、荷物を忘れていったようだったから、ぼくが拾って持っていってあげようと思ったんだ。供え物かもしれないとも思ったけれど、大事そうに
朔耀様の
「こんなもの、何に使うの? ──まるで、町人に変装するための道具みたい」
「……そう、町人に
「翡翠の
「朔耀様、わたしは──」
「行かないで、翡翠」
朔耀様は
これまでに見てきた可愛らしい朔耀様と同じ方なのかと
「朔耀様、お願いします、逃がしてください。……わたしは本当は、公主なんかじゃありません。つい最近まで
朔耀様は
優しい彼に
朔耀様はよくも
──つらつらと考えたわたしの
「そう、だから翡翠は兄弟の顔を見たことがないんだね。噓みたいな話なのに翡翠は噓を吐いていないから、少し驚いたんだ」
朔耀様はわたしの話を聞いているのかいないのか、
「人を呼ぶ。追っ手も放つよ。どうせ逃げられないから、
「朔耀様! やめてください!」
「あなたはぼくのものだよ、翡翠」
静かな
団子を包んだ
まるで幼い
「ぼくと
その時、ぱたりと音がした。朔耀様の背後からだ。外にいた誰かが
「なんだろう? いや、今はそんなのどうでもいい。それより翡翠──」
「いいえ、どうでもよくないです朔耀様! ……油の
「油? 団子を
きょとんとした顔をする朔耀様の
「扉が動かない……!
「え? どうして──」
「朔耀様、こちらへ!」
問答している
裏口は、ちょうど
そしてわたしの前でぴたりと扉が
「板を打ち付けてる! そこまでする!? どうして!」
「翡翠……? 何が起きてるの?」
先ほどまでわたしを
わたしたちは木造の廟に閉じ込められた。外からは、大量の油の、胸の悪くなるような臭いが
「なんでもありませんが早くここから出た方が──」
「
「ええ噓ですよ! なんでもなくはありません! ですがここにいるのがよくない、というのは本当ですよ? 早急にここを出ましょう」
「……翡翠、さっき、油の臭いがすると言ったね?」
自分の
「誰かが何かを燃やそうとしていて……ぼくたちは、ここから出られないんだね」
「すぐに出られます」
「うん、そうだね。ああ……火がつけられたみたい」
朔耀様は恐らくわたしの噓に気づきながらも淡々と言った。
子どもだというのにあまりにも
【画像】
朔耀様の金色の
……混乱しそうなのを、
「巻き込んでごめんね、翡翠」
「いえ、朔耀様が悪いわけでは──」
「ぼくを置いていこうとするから、
わたしを涙目で
こんな
子どものわたしは、ただ震えながら声を殺して泣くことしかできなかった。
思わず抱きしめると、朔耀様は
「な、なんなの翡翠!? こんな時に!」
「こんな状況でその
「……翡翠? いつもと
「わたしは育ちが悪いから、これが本当なの。あなたみたいな子は大好き」
「っ、さっきから、どうしてこんな時にそんなことを言うの!?」
「だってそう思っちゃったんだよ」
──どうやら、入り口と裏口、どちらからも火がつけられたらしい。
表からも裏からも火が木を
「ねえっ、翡翠! あそこはどう? あの上にある明かり取りの窓!」
「明かり取りの窓か。……そうだね。あれなら出られそう」
朔耀様が指差したのは、
確かにあそこから出られそうだ──小さくて線の細い朔耀様なら。
まず神仙像を無理やり
「翡翠! 通れそう!」
下から足を押しあげてやると、どうにか朔耀様は廟の外に
「次は翡翠の番!」
「わたしじゃこの窓は通れない。肩も通らないしね。わたしは別の出口を探すよ」
「翡翠!? 他の出口なんてないよ! どこも全部火がつけられてる!」
「探せばあるよ、
「翡翠を置いて
「わたし一人ならどうにでもなるから、お願いだから行って。そうしてくれないと、朔耀様が心配でわたしはここから動けないよ」
しばらく無言で見つめあった。
わたしが燃える火の中で本当に動かないのを見て、
その美しい月のような瞳からぽろぽろと
許せない、と思った。朔耀様に、こんなにも可愛い子にこんな顔をさせる彼の
わたしは陳皇后を、決して許すことはできないだろう。
「……翡翠。ここから出たら、
「そうだね、約束だよ、朔耀様。忘れないでね」
「ぼくは翡翠とは違って噓は吐かない!」
激しい口調で言うと、朔耀様は姿を消した。続いて
これで
「けほっ、げほっ」
火は目に痛いくらい明るいのに、煙がもうもうと立ちこめるせいで視界が悪い。
「でも、風の流れが、ある?」
倒した神仙像の
まさかと思って
「抜け道? ……出口はなくて、火に追い
とはいえ後は火を突っ切るなんて
戸板を外した先はぼんやりと明るい。火が回っているというには明るさの質が違う。
「なんだか、
地下の空気は
それは青、赤、黄、白、黒の
「
思わず火を見るために近寄ると、燈籠に下げられた
「なんでこんなところに灯謎が……解いたら何かもらえるの?」
出口らしきものは見当たらない。ここは行き止まりだった。
城市の辻に
王が
王に
王に連なる者に
王が統べる土地にある者たち
この世には
答えを見つけた
達筆すぎて読みにくい。けれど褒賞が脱出路ではないのはわかる。
「星宿ってなんだろ……って、うわ、まずい、引き返さなきゃ!」
そんな
そこで信じられない光景を目にした。
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