第59話
未来の
その言葉に、
「じゃあ、昨日未来へ送り返した3人は──」
「そう、アイツらは可愛い可愛い私の手足。ま、本当に可愛かったのは
「そんな筈のないっ……だって、アイツらは最初から3人だった! もう1人いるなんて……」
リーダーは
「ああ。貴女をスパイに仕立て上げようって事になった時に、思ったのよ。
この子は危険だって。
だから、念の為身を隠してたの。
最後のアレを見た時、私は自分の直感が正しかった事を確信したわ。
貴女、
「笑えない冗談……」
「まさか! 本気よ。貴女がサポートしてくれたらとても物事がすんなり進むもの!
私が成り代わって成功した後に、莫大な利権を管理させてあげるわ。私は称賛さえあればいい。
どう? win-winでしょ?」
そう捲し立てる
「成り代わる? アンタ……りっちゃんを殺そうとしてんじゃないのかい?」
あの3人は間違いなく
追い詰めて追い詰めて、殺そうとしていた。
なのに、リーダーである
「あの3人はねー。オートマータ撲滅派だから。でも私は違うわ。
そもそも、あの3人に事件起こさせたのは、追い詰めて精神的に姉に依存させる為だっただけだし。本当に殺してしまわないように、最後の戦いではずっと
鷹揚に肩をすくめて見せる
こんな人間と組むのは勘弁、と心の中で辟易とした。
その瞬間、
「なるほどなるほど。そういう事ね。
アンタはりっちゃんの立場が欲しかったのね。
だから、りっちゃんに成り代わろうとしたのね。
アンタの頭ん中には、りっちゃんの構築した理論が入ってる。
その理論を、りっちゃんが公表するの前に自分が出してしまおうと。
なんて
「違う!!!」
「私の理論は
あんな女の理論なんか使わない!
私は私が私の力だけで構築した理論を使って脚光を浴びるのよ!
あの女が盗んだ私が受けるべきだった評価を、ただ取り戻すだけよ!!」
今にも切れてしまいそうなほど近くに。
「私がコイツから盗むのは、戸籍だけ。
コイツを闇に葬りつつ、私の代わりの戸籍も用意できる。一石二鳥よ」
ナイフの反射した光を目に映しながらウットリする様は、まさに『狂っている』という表現が似合っていた。
当の
「なぁに言ってんだい。アンタ1人の力をじゃないだろうが」
「アンタ20歳そこそこだろう? もう少し上だとしたっても、アンタが生まれた頃には、もう養育ロジックは出来上がってただろうが。
アンタは自分だけでゼロからその『素晴らしい理論』とやらを考えたつもりでも、影響を受けてんだよ。
養育ロジックだけじゃない。
アンタが生まれてから享受してきた恩恵は全て、アンタが生まれる前から誰かが身を削って作り出して研磨されてったものだよ。
それらを60年前に持ってきて、周りの人間を馬鹿呼ばわりしてチート無双しようってのかい?
笑わせんじゃないよ」
そう強く言い放った。
怒りが一定容量超えたのか、彼女はこめかみに青筋を立てて怒鳴り散らし始めた。
「うるさい! 団塊世代のお荷物の分際で偉そうに!」
「その団塊世代が高度経済成長期を支えたんだよ! 日本が先進国の仲間入り出来たのは誰のおかげだと思ってんだい!」
「役割が終わったなら大人しく棺桶入ってろ!」
「まだまだ現役さ! 早く死んで欲しけりゃ殺すんだね!」
「それが出来ないから医療費食い潰されたんだろうが! 空気読んで自殺しろ!!」
「前後不覚になって呼吸器繋がれて喜ぶ人間なんかいるか! 制度を見直しな! 尊厳死を認めさせてみな!」
「お前たちがそうさせなかったんだろうが!」
「民衆ごと動かしな天才様! 文句だけなら誰でも垂れられる!」
「そうやって苦労ばっかり押し付けやがって!」
「何言ってんだい! 団塊世代の片付けに苦心したのはお前じゃないだろう! りっちゃんたちの世代だよ! 昔の苦労をさも自分がしたかのような顔して! アンタはその後整備された世の中を安穏と生きただけだろうが!」
「く……
口喧嘩のようなものを始めてしまい、
「望み通りお前から殺してやる!」
挑発された
しかし、すぐに壁際に追い込まれてしまった。
「あら残念。もう終わり? 粋がってたババァの呆気ない幕切れね」
ナイフを弄びながらジワジワと距離を詰めていく
「私だって、子供達やりっちゃんたちのお荷物にはなりたくないんだよ。やるんならサッサとやりな」
挑発をやめない
何かにしがみついていないと生きていけない女がいる中、彼女はどうしてこんなに潔く格好良く生きられるのか?
その時、彼女は後ろから肩を叩かれてその顔を見上げた。
「じゃあね生ゴミ」
その手首を、力強い誰かの手に掴まれた。
驚いて
その場には居るはずのない人間の顔がそこにあった。
肩で息をし、顔を真っ赤にして汗だくな彼が、しっかりと
「
よく見ると、茶の間の窓が開け放たれ、そこから
手にはスマホを持っている。
まさかと思って、冷静になっていく頭で
彼女は今まで袖で隠していた左手を出し、持っていたガラケーをヒラヒラさせていた。
「二台持ちは女の嗜みよ」
「賢さっていうのは、IQの高さを言うんじゃない。
今あるもので、どう工夫して課題を乗り越えていくか。それを考えて実行に移せる事を言うんだよ」
畳に叩きつけられた
笑ってはいなかった。
その代わりに、同じように顔を覗き込みに来た
嗜虐的に残酷な笑顔である。
「そんなにチート無双したいならすればいいじゃん。いつがいい? 江戸時代? 安土桃山時代? 魑魅魍魎が跋扈する平安時代がいいかな?」
「待って……やめて……」
「本望でしょ? アンタの理論とやら、振りかざしてみれば神様として崇められるんじゃない? あ、でも気をつけてね。時代によっては今と口語体が違くて、そもそも言葉通じないかもしれないし」
装置が稼働する瞬間、
「やめ──」
彼女の悲痛な懇願は、その後発生した音と光により全てが掻き消される。
激しい光と音が巻き起こって──消えた。
「どうすんだコレ……」
床に空いた大穴に、
こんな状態、一朝一夕には直らない。
しかし、そんな心配をよそに──
「もうちょっと食べたい……」
呑気にムニャムニャ寝言を言い始めた
誰からともなしに笑い声が漏れ始め、終いには大爆笑になってご近所中に響き渡った。
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