第58話
ピンポンピンポンピンポンピンポン。
女が慌ててインターフォンを取ると、受話器の向こうからは渋く落ち着いた男の声と、それを遮ろうとする妙齢な女性の声が聞こえてきた。
今手が離せないから出直してくれと言うと、
女性は内心舌打ちする。
今は間が悪い。
油断して顔を外したままだったし、
しかし、断り切れる雰囲気ではなかった。
無視すれば
今行くからちょっと待っててと告げた女は、投げ捨てていた顔を拾い上げて自分の顔へと押し付ける。
取り敢えず玄関で追い返そうと、
「ごめんねまーちゃん。
玄関の扉を開けると、申し訳なさそうに立つ
「マスターの生体反応に異変あり。確認させてください」
押し留めようとした
中に入る
「
玄関から申し訳なさそうに入ってきた
その横に膝をついて座る
「起こしちゃダメよ」
首の骨格が壊れているせいで、人ならざる勢いで首が回りすぎているが。
「眠っている時の眼球運動ではありません。いつからこの状態ですか?」
「ついさっきよ。突然眠いって言い出して、その場で横になっちゃったの」
「昏睡している可能性があります」
「昏睡?! 本当に? ……じゃあ、少し様子を見て、起きないようだったら病院へ連れて行くわ」
自分が麻酔で昏倒させた事などおくびにも出さず、
本音は、早くここから出て行って欲しい、だ。
「私ちょっとパソコンで仕事で手が離せないんだ。また後で連絡するから、今は遠慮してくれないかな」
そう言って、
その時。
「まーちゃん、変わったね」
腕組みして今まで様子を伺っていた
横にいた
「突然なんですか?」
「そりゃ変わりますよ。人間ですからね」
そう言って
「そう……昔は、ちょっと熱が出ただけでりっちゃん抱えて病院に駆け込んでたもんだったけど」
何か引っかかる言い方をする老婆に、
──この老婆、何かを疑っている。
しかし、
この場にいる誰よりも賢いと自負しているから。
「やだなぁ
これが正解の対応だ。
言われた
「そういえば、まーちゃんはどうしてもう私の事を『お婆ちゃん』って呼んでくれなくなったんだい?」
その言葉に、
「私ももう子供じゃないんですから、ちゃんと名前で呼ぶように変えたんですよ。もう、いい大人ですからね」
頭の中では、事前に調べた情報を思い出そうと躍起になっていた。
しかし、どの情報の中にも姉である『
このレベルの情報しかない。
ましてや、姉の
しかし。
言い逃れてみせる。
自分にはその能力がある。
「そうかい。寂しいねぇ。ねぇよっちゃん」
突然話を振られた
「それじゃあ──」
「その声変わりも、大人になったって事かい?」
その場に突然、痛いほどの緊張感が充満する。
その場にいた
「──声変わりなんてしてないですよ。やだなぁ」
カマをかけられた。
確かに、先程変声装置を外してしまった。
自分としては手痛いミスだが、まだ誤魔化せる。声なんて、普通人には判別が難しい筈。
焦ってはダメだ。
この老婆は只者じゃない。
こういう時は、ひたすらしらばっくれて話をはぐらかす方がいい。
「それよりも、
話題を変える為、今朝まで
「2人は夕方には戻ってくるよ。今日は事件解決のお祝いだからね」
このまま畳み掛けて話題を違う方向へと持って行こうとした。
が。
「……声紋認証検索履歴と一致。貴女は、
「……は?」
その名前に激しく動揺してしまい、
「
突然出てきた聞き覚えのない名前に、
やっと立ち上がった
「マスターの執拗なストーカーである養育ロジックの研究者です。嫌がらせの如く事あるごとにマスターに突っかかってくる方で、恐らくマスターの才能に嫉妬しているのではないかと」
「嫉妬なんかしてない!!」
咄嗟に否定してしまい、
「……アンタ、挑発なんかも出来たんだね。子守りだけさせとくなんて勿体ない」
「恐縮です」
そんな2人のやりとりを、
言い逃れは無駄か。
「アンタたち本当に
運動不足と言っていたのが嘘のような体捌きで
太腿に隠していた細身のナイフを素早く抜き放ち、
その只者ではない動きに、
「もっと穏便に済ませたかったわ。
ああ、可哀想な
眩しそうに目を細めて、それはそれは楽しそうな声でそう言葉を紡ぐ
「そうは──」
させない、と
「私はあの3人ほど甘くもないし愚かでもないわ」
部屋の温度が急激に下がったかと思うほどの殺気を放ち、
「スマホを捨てなさい。──特に、そこの老害」
着物の袖に手を突っ込んで腕組みしていた
そこには、スマホが握られていた。
「アンタが考えそうな事はお見通しよ。さ、捨てなさい」
言われて、
同時に困惑する
2台のスマホが畳の上に転がった所を見て、
それを、
「フンっ。違和感をもっと早く掘り下げておくべきだったよ。
私の事を『
しかし、声が違変わるまで確証が持てないとは……私も
鼻を鳴らしてふんぞり返る。
「あのっ……良く分かってないんだけど、アレは誰?」
猫を被るのをやめた
「
しかし、色々黒い噂の絶えぬ方で、明確な証拠はありませんがオートマータを破壊して人間の世界を取り戻す事を目的とした過激集団のリーダーだと、私は状況的に判断しております。
マスター──
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