第57話

 畳の上で大の字に寝転ぶ妹の姿を見下げ、眞子マコは舌打ちした。


 


 今は咄嗟に麻酔を使ったが、幸い、これ以外にも手元に1本だけ薬剤が残っている。

 後でソレを使って暗示をかけ直さなければ。

 ただ、ほかのアンプルは全て睡蓮スイレンに預けていた為、昨夜彼女とともに未来へ送り返されてしまった。

 眞子マコは耳たぶを触りながら考える。


 


 李子リコの両親は、帰国後タクシーで迎えに行った時に事故に見せかけてしまえばいい。

 は連絡を取れないように細工しているが──

 無理矢理にでも帰国を促し、早めに片付けてしまうか?


 それよりも。

 李子リコのそばには、まだ刀義トウギがいる。

 それに、李子リコに深く関わる人物たちも。

 その人物たちの目は


 いっそ引越しして、誰も知らない場所に移動すべきか。

 そうだ。その方がいい。

 ここには、

 引越しは李子リコの高校入学時のタイミングと考えていたが仕方がない。

 どのみち引っ越す予定だったのだ。

 それが少し早まるぐらい、なんて事はない。


 そもそも、李子リコがこんなチビなのがいけない。

 日本人女性の平均値程の身長があれば、のは簡単だったはずなのに。


 確かに、彼女は小さいなとは思っていたが、車椅子に乗っていたし歳をとれば背も縮む事もある為、あまり重要視していない事柄だった。

 まさか中学時代は、小学生並みに小さかったとは。成長期が遅すぎる。


 眞子マコは苛ついて頭をガリガリと掻き毟る。

 暑くて集中して考えることができない。


 彼女は前髪をかきあげ、コメカミより少し上の生え際の辺りを微かに押し込んだ。


 ピピっ


 微かな電子音がし、眞子マコの表情が歪む。

 彼女は、そんな顔のきわに両手の爪を立てた。

 そして、


「はぁ……スッキリした」

 その下からは、眞子マコとは似つかない、全く別の女性の顔が現れた。

 ついでといった感じで、首にしていたチョーカーペンダントも外す。

 そしてその下、喉仏あたりに貼られた肌色のシールのようなものも剥がした。

 その瞬間、顔どころか声も変わってしまう。


「流石に連日付けっ放しはキツイわ」

 手にしたそれらを、眠る李子リコの傍らに投げ捨て、眞子マコ──女は自分の顔を両手で擦った。


「さてと。ここからが本番ね」

 女は、横たわる李子リコに眉根を寄せて侮蔑の眼差しで見下した。


「アンタの人生、丸ごと奪ってあげるわよ」


 口の端を持ち上げてニヤリと笑うと、彼女は李子リコに背を向けた。


 そして考える。

 盛大なこのの締めについてを。



 例え私の居た事実が消えても、私自身が残って讃えられればそれでいい。


 だって、私の名前が残らなくても、私の存在そのものが残るのだから。

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