第54話
「ねぇ
幼馴染が、薄い唇をこれ以上ないほど引き上げて問いかけてきたその言葉に、
「分かんない……」
今、自分がどんな気持ちなのか分からない。
何故
どうしていいのか分からない。
もう、全部分からない。
「
友達だと──親友だと思ってた。
現にそうやって、今までと変わらずずっと仲良く過ごしてきた。
──そう思っていたのは、自分だけだったのか?
「なんでって……アンタの事が嫌いだからに決まってんでしょ。コイツらと同じ。アンタが憎くて憎くて仕方ないの」
物分かりの悪い幼馴染に、次第に苛ついてくる
しかし、分かっていた自分もいる。
本性を見せたところで、
仕方ない。
だって
「ま、無理矢理にでも理解してもらうね」
「バイバイ、
朗らかな笑顔で
「ダメっ!!」
咄嗟に
「いけませんマスター!」
その拍子に、
「伏せろ!」
誰かがそう叫んだとほぼ同時に──
カプセルが弾け飛び、周囲に強烈な光と音を放った。
光が収まって
倒れて動かない
「
庇ってくれた
しかし、100kg以上ある彼の身体を動かす事は出来なかった。
「あはははは! 壊れちゃった! 壊れちゃったね! どう?
起き上がった
「……悲しい……痛い。胸の真ん中が……痛い……」
その言葉を聞けて、
「そうよ! その気持ちよ! 分かった?! アンタが私に毎回毎回毎回毎回味あわせてくれていた気持ちよ! やっと分かった?! どんだけ辛いか!」
そう笑いながらも、
起き上がった
「いつもいつもいつもいつも! アンタは無意識に私を踏みつけて、そんな痛みを与え続けてきたの!
無邪気っていいよね! 害意がなければ傷つけても誰にも怒られない!
無垢なものっていいよね! 必ず誰かが助けの手を差し伸べてくれるから!
私にはなかった!
誰も助けてくれなかった!」
肩で息をしつつ
「言ってくれれば──」
なんとか言い募ろうとする
「助けたのにって?! 私は言った! 助けを求めた! なのに、アンタあん時なんて言ったか覚えてる?!
『たかがそんな事、気にする必要ない』ってほざいたのよ!
たかが?! たかがって何?! そんな軽い問題じゃない!
気にするな?! 気にせずにいられたら相談なんてしないわよ!」
叫ぶ
誰にも言えず、母親にも相談できない事。
ただ唯一、この人だけは大丈夫。
きっと親身になってくれる。
だって、幼馴染で親友なんだから──
そう信じて相談した人──
鋭い刃物で胸の真ん中を突き刺されたかのような痛みに襲われた。
その日以来、
期待するから裏切られるのだ。
それなら、期待しないほうがいい。
一人で解決すればいい。
誰も助けてくれない。
なら、自分でどうにかするしかない。
自分でどうにかしなければ、ただ潰されて壊されて終わってしまうのだから。
誰も助けてくれない。
なら、自分の足で立ち上がるしかないのだ。
自分はそんな事を言った覚えがないのだ。
でも、
記憶に残らないほど、無意識に、適当に。
それで、
「ごめんなさい……」
強くなりたい。
強くなる。
そして、みんなを守るんだ。
そう決意したばかりだったというのに。
守るどころか、自分が一番傷つけていたのだ。
大切な友達を。
最悪だ。
傷つけてしまっただけでなく、他人を平気で傷つけるような人間にしてしまった。
あの、優しかった幼馴染を。
何かあったら、一番に心配してくれた人を。
呆れながらも、協力してくれた人を。
落ち込んでいたら、いの一番に慰めてくれた人を。
それなのに自分は──
「ごめんなさいィ……」
「許すわけないでしょうが! 泣けば許されると思ってんの?!
子供っぽい行動だと自分で分かっていたが、やらずにはいられなかった。
しかし、
「許さないでー……」
今、何て?
「許さないでいいよー……許す必要なんてないよー……酷い人間なんだからァ」
泣きながらそう訴える
「痛かったんだね……ごめんね……やっと分かった。
幼児のように泣きべそをかき、手で涙をゴシゴシ擦りながらそう訴える友人に、
「アンタ、自分が今何言ってるのか分かってる?」
「わがってるー……
涙どころか鼻水でズルズルの
「ちょっと……アンタ馬鹿ァ?! 私が、酷い事を、したの! アンタのロボット壊したの! ぶっ壊したの! 私は元から酷い人間なの!」
「ぢがうもんー……
そんな二人のは微妙に噛み合わないやり取りに水を差したのは、先程から沈黙していた
「お言葉ですが、まだ壊れていません。損壊率67.19%で立てないだけです」
「充分壊れてるでしょうがっ!」
思わず
いつのまにか、
涙を拭い終わった
「許ざなぐでいいから……お願いだがら、
「なんで私が……」
「好ぎだから!」
その言葉に、
「
この子は、今なんて?
喉から手が出るほど欲しかった言葉を、
今この子はアッサリ言わなかったか?
「……なんで私が好きなの? 優しくしたから? バカ話を聞いてくれるから?」
「
立っていられなくて、ヘナヘナと床に崩れ落ちると、心配した
「私は……何の為に……」
復讐しようと思っていたのか。
傷つけられた。
だから傷つけ返してやろうと思った。
そして、傷つけ返してやった。
希望に溢れる瞬間を滅茶苦茶にしてやり、長い時間をかけて裏切ってやった。
なのにこの子は、自分の事が好きだって。
「ホント、馬鹿じゃないの…」
思わず口から溢れたその言葉は、
ただ彼女は、今まで常に胸の奥に突き刺さっていた大きな棘が抜け落ちて、その痛みが消えた事を感じていた。
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