第52話

「知らない! そんな事は知らない! 私の家族を殺したのは子守ナニーオートマトンだ! だから私は復讐するんだ!」


 頭を掻きむしりながら、睡蓮スイレンは自分に言い聞かせるように叫ぶ。


 しかし、そんな彼女の悲痛な声に真っ向から反論したのは刀義トウギだった。

子守ナニーオートマトンは子供とその家族を傷つけません。子供の安全を守る事が、子守ナニーオートマトンの存在意義そのものだからです」

 李子リコを強く抱きしめて、刀義トウギはそうハッキリと告げる。


 その言葉に、今まで狼狽していた睡蓮スイレンが、焦点の合わない目をユラリと刀義トウギへと向けた。

 フワリとした動きで起き上がると、無表情で刀義トウギ李子リコ、そして眞子マコに対峙する。

「そうか……関係ないんだ、そんな事……」

 力なくそう呟いた。

中邑ナカムラ李子リコを殺す。ただそれだけ……」

 その言葉が発せられた瞬間、グローブとブーツから噴き出した蒸気が周囲に充満する。

「復讐する。私はそれだけの為に生きてきた。それが私の存在意義──」

 睡蓮スイレンの姿が蒸気で完全に見えなくなった。

 刀義トウギは危機感を覚えて、李子リコの身体を側にいた眞子マコに押し付ける。

「離れて下さい!」

 半ば眞子マコ李子リコを突き飛ばした瞬間、蒸気を切り裂いて睡蓮スイレンが突撃してくる。

 その攻撃を受け止めた刀義トウギの身体が、背にしていたロッカーに更にめり込んだ。

 バキバキという金属がひしゃげる音は、ロッカーのものか刀義トウギのものか。

 彼の胸に半ば抱かれたような形になっている睡蓮スイレンは、そのまま彼の顔を両手で掴む。

 鈍い音がするとともに、刀義トウギの首が有り得ない方向へと曲げられた。

「まずはお前。お前は子供を守れずに、あの子を独り残すんだ」

 睡蓮スイレンはそのまま刀義トウギの胸筋へと爪を突き立てる。

 ギチギチという音とともに、隠されているはずのコントロールパネルの扉が壊されようとしていた。

「そんな事はしません。私は必ず、マスターを──李子リコを守ります」

 刀義トウギは大きく腕を広げると、睡蓮スイレンの細い体を抱き込んで前のめりに倒れる。

 自分の重量を使って床へと睡蓮スイレンを押し付けた。


「マスター。今です」

 刀義トウギ李子リコに呼びかける。

 その声に応じて、眞子マコに抱かれていた李子リコは、弾けるように飛び出すとポケットからスタンガンを取り出した。

 刀義トウギ睡蓮スイレンが倒れこむ場所へとスライディングする。

刀義トウギは裏切らないもん」

 真っ直ぐに睡蓮スイレンの顔を見据えて、李子リコはハッキリと告げた。


 そして、青白い火花を散らしたスタンガンを、彼女の肩へと押し付けた。

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