第40話
リビングの入り口に立つ
安堵の気持ちが沸き起こる一方で、
手首には、彼に掴まれた跡がクッキリと残っているし、首を掴まれた感覚もまだ消えていない。
同い年といえど、自分より大きな男に組み敷かれた恐怖と嫌悪感は、いくら消そうとしても簡単に消える傷ではなかった。
「もう、大丈夫なのかい?」
そして、チラリと
俗に言う、土下座。
その場にいる誰もが度肝を抜かれた。
「ちょっ……何してるの?!」
アワアワした
肩を揺さぶられても、
「ごめん……
消え入りそうな声を絞り出す
それにより、何故彼がこんな事をしているのかに気づく。
どうやら、
「……
……そうだよね?」
一瞬、
「……でも、意識はあったんだ……何をしたのか覚えてる。俺はっ……俺……」
「私、凄く怖かった」
「
涙で潤んだ目。
唇を噛んで、泣き出しそうなのを我慢して笑顔を作っていた。
「怖かった?」
身体中を物凄い勢いで駆け巡る、血と衝動。
強烈な破壊衝動と、それを押し留めようとする理性。
脳が爆発するんじゃないかという激しい葛藤と、言う事を聞かない身体。
「……こわかった……」
顔をクシャクシャにして泣き笑いをした。
「一緒だね」
その
彼女は、身体が恐怖を覚えていても、自分を許そうと努力してくれている。
それがどれほどキツイ事なのか。
空気の読めない
手足も細くて肩は柔らかかった。
同い年なのに、別の生き物のように自分とは違う身体なのだと気づいた。
いや、違う生き物なのだ。
これが女の子。
男とは違う成長をする生き物。
ならば──男の俺が、守らなければ。
今まで、自分の身体が無駄にデカイ事が少しコンプレックスだった。
デカくて上手く思ったように動かない身体。
手先は器用だったので、余計にこんなデカイ身体は無駄だ、いらないと思っていた。
しかし違う。
伸びる身長、大きな手足、筋肉がつきやすい身体。
男の身体。
何かを守る為に、強くなるようになっているのだ。
そうなのだと、今気づいた。
目の前で泣き笑いする女の子の手を逆に握り込んで、
「もう……
絞り出された
少年が、一歩、男として成長した時。
少女もまた、考えを改めていた。
自分の行動が、どう他人に影響を与えるのか。
周りの事は、あまり深く考えた事はなかったし、それでも問題なく生活出来ていた。
でもそれではダメなのだ。
自分の行動が、大なり小なり他人に影響を与える。
直接的にだけでなく、間接的にも。
周りの大人達が、何故
いずれ、誰かを傷つけて取り返しのつかない事を招いてしまうかもしれないからだ。
今まで気づかず生きてこれたのは、誰かが影で我慢していたり、フォローしてくれたりしてきたから。
この場だけでも、姉、お婆ちゃん、
こんなにも自分を守ってサポートしてくれる人達がいる。
そして今、
なんて恵まれているんだ。
こんなに素敵な人たちに囲まれているのに、今まで全然気づかなかった。
ちゃんと考えた事もなかった。
これは、私の戦いなんだ。
それなのに、傷ついてまでも自分を守ってくれている。
ならば、守られているだけではダメだ。
自分が強くならなければ。
そしてそれは身体が強いという事ではない。
「私も、強くなってみんなを守る」
少女は、少年に握られた両手を強く握りしめ、そう決意した。
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