第38話
無駄に広いマンションの一室。
迷彩服の大男──
まどろっこしいやり方に、フラストレーションが溜まり苛々が止まらないのだ。
チマチマ遠回りなやり方は、彼の性に合わない。
何かを思いっきり殴り付けてスッキリしたい衝動に駆られるが、彼は我慢していた。
部屋の片隅でニコニコしながら正座をする美女──
彼女の持ち主──タカは、独占欲が強いのだ。
貸せと言っても断られるのが目に見えている。
解消できない鬱憤を抱えて、彼は膝を小刻みに震わせるしか出来なかった。
「そろそろ頃合いなんだが……動きはねぇなぁ。別行動してたヤツらも家に戻ったようだけど……」
そして、そんな彼の横に付き従う
「なんでボスはこんな回りくどいやり方をすんだ?」
貧乏揺すりを一旦止めて、
「さてなぁ。俺はこの時代で好き勝手出来ればそれでもいいさぁ。ここは天国。やりたい放題だからな。個人情報吸い上げまくり。売りまくり。稼ぐのは簡単だなぁ。ここに移住してぇなぁ」
ひひひひと、肩を揺らして引き笑いをするタカに侮蔑の視線を
タカは、自分と違って崇高な目的を持っていない。
いや、持ってはいるが目的遂行の意思が弱いのだ。
反吐か出る。
なんでボスは、
そうは思いつつも、
彼の持つ技術は、所属する団体の中ではピカイチだった。
性格には難ありだが。
「あっ。あの小僧の携帯の電源落とされた。バレたな」
地図から1つアイコンが消えた事に舌打ちするタカ。ひび割れた唇をペロリと舐めて、地図とは別のウィンドウを立ち上げる。
そこには、とあるマンションの入り口とエレベーター内部の画像が表示された。
「外出はやっぱ映像で確認かなぁ。面倒クセェなぁ。廊下にも部屋にも監視カメラねぇし、家はネット入れてねぇみたいだし……原始人生活かよ」
独り言の声の大きさではないが確実に独り言である言葉をブツクサ呟くタカ。
その時、ガチャリと扉が開いて、ブーツを抱えた
「次が最後の襲撃だ。それで
部屋にいる3人にそれだけを伝えると、反応を見ずに窓のそばに置かれたトランクの上にブーツを置く。
両腕のグローブを少し手間取りながら外した。
「とうとうか。長かったな」
右手の拳を左手に打ち付けて気合いを入れる
「もう終わりかー。つまんねぇなぁ」
つまらなそうにそう呟くタカ。
2人には見えない位置で自分の震える腕と掌を見た。内出血を起こしてできた青あざが、彼女の白い腕を彩っていた。
「あと、もう少しだ」
そう呟いて、ぎゅっと手を握りこんだ。
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