第17話
電灯が殆どない暗い路地をひた走る。
先頭を行くのは
チビだが運動神経だけは抜群で足も速い。
続くのは、
先程転んで擦りむいた膝から血が滴っていたが痛みを感じていないのか、今度は転ぶまいと一生懸命に走る。
その後ろに
少し開けて、
時々、
しかし、追って来ていた筈の男たちの息遣いも足音も聞こえて来なかった。
兎に角逃げなきゃ
なんとしても無事に逃げ切り、早く2人の無事を確かめたい。
早く、早く、早く──
そんな思いとは裏腹に、手を引かれて走ると
この辺は地元、いわば庭である。
その道は追っ手を撒く為だろうと予想出来る道のりだった。
路地を縦横無人に走ってはいたが、
しかし今は?
ここは、どこだ?
今どこへ向かっている?
この先にあるものは?
今自分が走っている場所がどの辺りか分からない。
よく知ってる町中である筈なのに、今自分がその町中のドコに居るのか分からない。
それは、最後尾を走る
入り込んだ路地は知っている路地だった。
しかし、交番への道としてはあまり良くない為選ばなかったのだ。
しかし──こんな道だったか?
そして、疑問に思っている事がまだある。
道が暗すぎる。
その為、ただ付いて行くしかない。
疑問はもう1つ。
脇道がない事。
この辺の路地は昔の畑の畦道の名残である。
狭い上に右へ左へとグネグネ曲がっていて、歩いているうちに方向感覚を失う事も多い。
しかし、こんな1本道の路地なんてない。
脇道が沢山あるはずだ。
しかし、今走っている間に脇道はなかった。
そんなわけないのに。
「あ! あそこ!」
釣られて
路地の先──少し広くなった場所に、先程この路地を指し示した人物が立っていた。
袖なしのグレーのパーカーを着てフードを目深に被っている為表情は見えない。
ただ、その美しい曲線を描く身体で女性だという事はやはり分かる。
その横まで辿り着き、
「さっきは……ありがとう……ございましたっ……」
息を切らせながらも女性にお礼を言う
その声に、美しい形の唇の端が持ち上がるのを
「あの……貴女は……」
なんとか息を整えようとしつつ、
しかし、女性は
かといって
そこへ、バタバタと後続が駆け込んでくる。
全員
「奴らはついて来てないみたいだっ……もう大丈夫。安全だっ……」
以前行っていた全力疾走のお陰で走る事には慣れてる
「そう」
凛として落ち着いた声で、女性が呟く。
そして、そのままの口調で続けた。
「本当に?」
その一言に、その場にいた全員がギクリとする。
てっきりあの男達を巻ければ大丈夫かと思い込んでいた。
確かに、ドラマやゲームではないのだから『コレさえ乗り切れば問題なし』なんて事は現実には有り得ない。
何を、何を見落としてる?
「どういう事?」
女性の言葉の意味が分からない
周りをキョロキョロして、あの男達の姿がない事をもう一度確認した。
「ここまで来ればもう大丈夫なんじゃないの?」
だから貴女はここに立ってたんじゃないの?
女性の姿を見て、てっきりそうだと思った。
そんな
そして、肘まであるゴツいグローブを着けた右手を上げた。
「この男は誰?」
そう、問いかける。
黒いツナギを着た大男──
指差された先に居る
確かに、誰だか知らないや
ふとそう気づく。
そうだ、
てっきり、助けてくれた人なんだと思ってたけど……違うの?
しかし、その時慌てた
「
自分が連れて来た人だよ、そう続けようとして言葉に詰まる。
確かに自分が連れて来た。
でも
そういえば、
なんで、この大男は
なんて言ったらいいのか分からなくなり、何も言えなくなる
てっきり生徒達の知り合いなのだと思っていたからだ。
窓を突き破って転がり出て来たこの大男。
生徒達はその家から出て来たのだと。
そして、その後を追って来た2人の男達。
状況的に、2人の男達が生徒達を追っていて、この大男はそれを手助けしていたのだと──だってこの大男は、転がり出て来た後、自分たちに向かってここは危険だと忠告してくれたし──
でも確かに誰がどう危険なのかは言っていなかった。
「え? でも彼は──」
大男は黙ったままだ。
背筋を張って立っている為、ここに居る誰より背が高い。
2m近い彼は筋骨隆々で肩幅も広く、例えるなら立ち塞がる肉の壁といったところである。
そう。
誰一人、この男が誰なのか知らない。
辺りに緊張感が走った。
フードを目深に被った女は、ニヤリと笑って更に口を開いた。
「そいつ──人間じゃないよ」
大男──
彼女はそうハッキリと告げた。
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