第15話
「あ、言い忘れました。お邪魔します」
緊迫した雰囲気の中で、場違いにのんびりとした口調で居間の中へと入って来たのは──
黒いツナギの作業着を着ていても分かるほどに全身に蓄えられた筋肉と、酷く似合うサングラスと整えられた髭。
おおよそ
迷彩服の大男とはまた違った大男が部屋に入ってきて、
「門前の虎、後門の狼……」
完全に救いようのないその状況に、
その次の瞬間──
先程までのノンビリとした雰囲気を一変させるツナギの大男。
途端に目にも留まらぬ動きで迷彩服の男にタックルをかました。
「うぐっ?!」
突然の事で身構えてもいなかった迷彩服の男は、肺の空気をそのまま全て吐き出させられ、後ろへと吹き飛ばされる。
そのまま、ちょうど後ろに立っていた痩せぎすの男も巻き込み、3人共々壊れた窓から庭先へと転がり落ちて行った。
床に崩れ落ちる
痩せぎすの男から解放された
「
青ざめた妹の顔を両手で包み込み、すぐさま呼吸を確認する。
しかし、呼吸音がするはずのその口からは、何も音がしなかった。
「……っ!! どきな!」
我に帰った
そして、彼女の胸の真ん中に両手を添えて、思いっきり押し込んだ。
「うっ……げほっ……」
咳き込んで大きく息を吸い込む
途端に頬に赤みが戻ってきた。
「……よかっ……た……」
身体を捻って止まらない咳をする
「あのバカ男っ……」
「あのっ……」
やっと安堵した4人に、おずおずとした声がかけられる。
各々が振り向くと、そこには場違いな雰囲気にオロオロする1人の少年が立ち尽くしていた。
「え……?
その少年の名前を意外そうに呼ぶ
この場に居る筈のない人間が立っているのが信じられない、といった顔だ。
当の
幼馴染とまではいかないものの、小学校からの同級生であり、母親同士が比較的仲が良かった為、
しかし、到着した
一旦家に戻って出直す事を提案した
なるべく早く会いたい。
そう告げられた
そういえば、仲の良い祖母のような人が家の近所に住んでいると言っていた事を思い出した。
それがどの家なのかは分からなかったが、確か苗字を聞いていた気がして、それも思い出そうと躍起になる。
が、思い出せたのは『美味しそうな名前』という聞いた時の印象だけだった。
これだ!
見つけたと思い、
もし間違っていたら、謝ればいいだけの事だ。
ただ、目的の家だったとして、
本当にここに
彼の目的もまだ聞いてないのに。
後ろを振り返り、おおよそ
今更だが、彼に真意を訪ねようとして……
「警報音がしますね」
言われて
小さくくぐもってはいたが、確かに警報音がした。
窓を閉め切った屋内からその音はしているのであろう。
しかし、それが
むしろ、こんな一般家庭からするような音とは思えなかった。
「どこから──」
ガラスが割れる音が響き渡り、警報音が大きくなった。
「?!」
人が出てくる気配はない。
しかし、電灯は付いているし警報音は間近からしていた。
「もしかして……」
玄関の扉の向こうから、なにやらドスンバタンという物々しい音が聞こえてきていた。
警報音は止んだが、何か女性の声のようなものも聞こえてくる。
どうしよう……
この家で何か起こっているのは確かだ。
おそらくガラスが割れたのも警報音がしてるのもこの家から。
しかし、許可なく勝手に人の家に入れるほど
ここは平和な日本の平和な住宅街だ。
そんな下手な事が、自分の間近で起こり得るはずがない──無意識に、
しかし、そんな事御構いなし大男が、
「失礼します」
鍵がかかってなかったのか、扉は問題なく開いた。
するとその途端──
「りっちゃん……」
「
複数の女性の悲鳴が中から聞こえてきた。
その悲鳴を聞いて、今までののっそりとした動きと正反対な機敏な動きで家の中へと突入していく
「た……
「逃げるよ!」
そんな2人の硬直を解いたのは、
それを見て、
「行こう!」
「おぅら!!」
男の野太い気合の声が上がったかと思うと、居間のローテーブルを蹴散らして大きな二つの塊が踊り込んできた。
お互いを掴みあった、迷彩服の大男と黒いツナギの大男だ。
「人型のクセにっ……」
迷彩服の男が、一瞬身を屈めたかと思うと──
黒いツナギの大男をぶん投げた。
ガシャァァァン!
盛大な音を立て別の窓が割れ、黒いツナギの大男は窓の外へと放り出された。
「きゃあ!」
その余りの勢いに、悲鳴をあげて立ちすくむ
「ガラクタ風情がっ……」
肩で息をしつつ迷彩服の大男が、窓の向こうに消えたもう1人の大男に向かって吐き捨てた。
そしてゆっくりと、立ち止まっていた
いつの間にか、痩せぎすの男も居間に戻って来ていた。
「とんだ邪魔が入ったが……」
下卑た笑いをしつつ、ジリジリと
「
その瞬間我に帰った
怯える2人のクラスメイト
立ちはだかる2人の女性
そして
肉薄する2人の男
味方で男は今自分しかいない事に気づく。
「行こう!」
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