第8話
おおよそ、一般家庭ではしない筈の音──警告音。
火災報知器の警報音とはまた違う、不快でけたたましいその音に、
「ハッキングされてる……?」
「ハッキングっ?!」
すぐさま
「ハッキングって……」
目にも留まらぬ指さばきでキーボードを叩き、黒地の背景に白の字を次々に流していった。
その様子を、後ろからマジマジと見入る二人。
「お婆ちゃん! 英語読めるの?!」
流れ行く文字の中に英語らしき単語を見つけて、鳴り止まない警告音に対抗して大声でそう尋ねる
「ちょっとだけね」
そう短く
──と、
しかし、画面は相変わらず白い文字が高速で流れていっていた。
その画面を凝視して顎をさする
「何これ?! さっきから同じ文字が沢山流れてってる!」
サイバー系ドラマのような展開に、
なんせ、ここはドラマの中ではない。
画面を不穏に埋め尽くす文字に、どうすればいいのか何か出来ることはないのかと、
「VPSの方じゃなくホームサーバの方に? 何故……。
警告音に
「お婆ちゃん! コレヤバイんじゃないのっ?! どうするの?!」
黒い背景を埋め尽くす、繰り返される同じ白字の文章に、
まるで焦りも危機感も覚えていない様子の彼女に、不安を掻き立てられた。
当の
そして、またふぅむと不思議な声を出す。
「……面倒ね」
そう、ポツリと呟くとすくっと立ち上がり、部屋の角天井間際に付けられた小さな壁掛けラックの扉を開け──
プチンと何かのコードを引き抜いた。
途端に止まるディスプレイの白い文字の洪水。
同時に、今までけたたましく鳴っていた警告音もピタリと止まった。
またビックリして小さく跳ねる
「止まった……?」
先ほどまで激しく鳴り響いていた警告音が、幻聴のようにまだ
「止まった!」
警告音も白字の洪水も止まった事に、
「今のは……?」
「私のサーバがね。何か攻撃されてたみたいなんだよ」
また再びキーボードを、奏でるかのように優雅に叩きつつ、今度はちゃんと返事をする。
「こっ……攻撃?!」
不穏な言葉に敏感に反応したのは
「攻撃ってどんな?! サイバー攻撃?! ハッキング?! えーと……なんだっけ? マルフォイ?!」
「それを言うならマルウェアだね。
サイバー攻撃といやぁサイバー攻撃かねェ。ハッキングしようとしてたのか……クラックしようもしてたのかは分からないけれど」
さっきまであった緊迫した空気はいつの間にか消えていた。
「でも、凄いですね。その攻撃を
しかし、
「違う違う。防げないからLANケーブルを引っこ抜いたのサ」
LANケーブル──そう言われて、二人は床に落ちたケーブルを見た。コンセントとは違う、不思議な形の先端をしている。
二人はそれが何なのか知らなかった。
彼女らはタブレット・スマホ世代だ。
学校でパソコンの授業はあるものの、そのパソコンがLANケーブルで繋がっている事を意識した事はない。
二人がよく分からずに、へーという顔をしていた為、
「……技術の進歩を教えないのもちょっと問題だねぇ……」
そんな一言を漏らし、
「一般家庭のインターネットはね、そもそもこのケーブルで繋がってるのサ。だから、このケーブルさえ抜いてしまえば、インターネットに接続できなくなる代わりに、向こうからのアクセスも受けなくなるんだよ」
二人にケーブルと、先程ケーブルを抜いた機械──モデム──を指差して簡単に説明する
「スマホや携帯電話の場合は、無線で直接携帯会社のアンテナと通信してるから、こういうコードは使わないんだけどねェ」
ケーブルを再びポイっとし、懐から先程使ったスマホを取り出してヒラヒラさせた。
──そう、攻撃されたのがサーバで、不幸中の幸いだった。
LANを抜ける有線接続では、こうやってサイバー攻撃を物理的に回避できるが、無線で繋がっていたらこうはいかない。
攻撃で極限まで処理速度を落とされたら、端末の電源を切る前に壊される。
二人の、今度は理解した時の『へー』という可愛い顔に和みつつ、これからやるべき事を
「突然の事で中断しちまったけど、二人はゆっくりしておいで。なんなら風呂でも沸かして入ってきな。まーちゃんが迎えに来るまで、暫くかかるだろうからね」
勝手知ったる他人の家である
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