378.決戦:オーディン戦

「それでは決戦の準備は整った、ということかの?」

「そうだと思うぞ。今週末に決戦を行うって言ってたし」

「ボクたちの武器もそこで使うんだよねー。活躍してくれるといいなー」


 俺とドワン、それからイリスは、ここ数週間、オーディン討伐に向け準備を進めていた。

 その甲斐あって、今週末に最終決戦ということになったようだ。

 武器も刻印装備が行き渡り、それ以外の通常装備も最新鋭のものに更新されている。

 これでも勝てなかったら、次のレベルキャップ開放を待つか、調整を待つしかないとのこと。


「でも、なんであのボスだけあんなに強いんだろうねー?」

「さてな? 見つけていないだけで、ほかにも強いボスはいるのかもしれないが……」

「そういった相手を探しそうな戦闘系クランが、オーディンにかかりきりじゃからのう。新しいフィールドも追加されていないのじゃし、ほかにも強ボスがいるかは疑問じゃわい」

「ま、そんなところだよな」


 俺たちの話題は、オーディンの様な強ボスがいないかどうかという話だったが、さすがに生産系クランの俺たちがそのような情報を知っているはずもない。

 そういう情報を持っていそうなのは教授だが……。


「そういえば、教授の姿を最近見ていないな?」

「教授は教授で忙しいみたいだよー。新しい眷属につながりそうな情報を見つけたとかなんとか」

「そんなことを言っていたのう。まだ、公表できるほどの情報は集まってないらしいのじゃが……」

「情報が集まっていないからこそ忙しいと。わかる気がするなぁ」


 不確かな情報ほど、好奇心を注がれるものもないしな。

 教授は教授で上手いことやっているのだろう。


「柚月たちも忙しそうだし、最近は大変だねぇ」


 柚月と曼珠沙華は、ともに演劇用の衣装を作るのに忙しいとのこと。

 長いこと休止期間があり、その間の作り置きがなかったので、いま大急ぎで作っているらしいな。

 おっさんはおっさんで仕事が忙しく、あまりログインできていないみたいである。

 マイペースなのは、今回の件に直接関わっていないウォルナットと、普段通りなペースで問題ないユキくらいか。

 俺たちも装備作りから解放されたので、のんびりすごす予定ではあるのだが。


「それで、オーディンを倒せたときの報酬はどのようなものになるのかの?」

「確定的なのはスレイプニルだな。おそらく、眷属だろう。あとは……わからないな」

「報酬がわからないのに、皆頑張ってるんだねー」

「まったくだ。まあ、強いボスに挑むのが好きってこともあるんだろうが」


 俺じゃ、あんなに勝ち目のない戦いをひたすら挑み続けるのは無理かな。

 実際、各クランでも、脱落者はかなりの数いるらしいし。


「それで、今週末はどうする予定なのー?」

「土曜の夜に集まって決戦、って話だ。それで勝てなかったら、日曜の夜も戦うらしい」

「それは土曜の夜で決めてしまいたい話じゃの」

「まったくだ。勝てたあと、どうするかは未定らしいけど」

「じゃろうな。勝てることを祈っておるぞい」

「頑張ってね、トワー」

「ああ、できるだけやってくるさ」


 俺たちは席を立ち、それぞれの工房に戻っていく。

 全員、最近は刻印武器製造に追われていたから、通常の販売品が不足気味になっていたのだ。

 休息も終えたわけだし、在庫補充はしっかりしないとな。



―――――――――――――――――――――――――――――――



「さて、全員揃ったようだね。準備は大丈夫かな?」

「「「おおぉー!」」」


 土曜日の夜。

 時間通りに集まったレイド参加者たちは、かなり気合いが入っていた。

 いままで散々負け続けてきた、オーディンに勝てる見込みができたのが最大の理由だろう。

 あと、それぞれで刻印武器の性能を確認した事で、やる気が出ているとか。

 ともかく、今日が最後の挑戦だと言わんばかりに、士気が高いのである。


「さて、作戦はいままでと変わらない。アタッカー、タンク、ヒーラー、バッファー。それぞれの役目をこなしてくれ。後半戦の槍は、トワ君に処理を任せたいけど大丈夫かな?」

「ええ、問題ありません。ただ、避けるのに失敗して死んだら蘇生は頼みますよ?」

「うん、そこは任せてほしい。皆も知っている通り、刻印武器の火力ならひとりでも槍を破壊できることは証明済みだからね。万が一、一撃で破壊できなかった場合、誰かがサポートに入って破壊するってことでよろしく」


 このあとも、白狼さんによる戦術の説明が続く。

 そして、いよいよボス戦開始となった。


「頑張ろうね、トワくん!」

「ああ。ユキもしっかりな」

「うん、任せておいて」


 バッファーはユキのほかにも三人ほどいる。

 全員が【神楽舞】を覚えているバッファーなので、重ねがけによりバフの効果はかなりのものになるのだ。

 そんなバッファー陣の前に立つのは遠距離アタッカーとヒーラー。

 そして、敵の周囲に前衛陣といういつもの編成である。

 各自、遠距離攻撃でまとめて被弾しないように、十分距離を開けている。

 そして、準備が整ったのを確認して、遂に戦闘が始まった。


「……うーん、やっぱり全員全力なだけあって派手だなぁ」


 集まっているメンバーは戦闘系クランの上位陣がメインである。

 つまり、ここにいるメンバーはほとんどが最上位勢でもあり、使うスキルは攻撃力の高いものとなる。

 その結果、各自のスキルはかなりド派手なものとなるのだ。


「さてさて、俺も役割を果たしているけど、どうなることやら」


 そんな攻撃陣の中に参加しているわけだが、どの程度が自分のダメージ量なんだろうね?

 総ダメージ量が多すぎてまったく見当もつかない。


「……そろそろ後半戦か。武器を切り替えて様子を見よう」


 いままでのペースに比べれば大分早い時間で、相手のHPを半分まで削ることに成功した。

 ここからは後半戦、例の即死攻撃が始まる頃合いだ。


「早速か。こっちも刻印を発動させてっと」


 早速飛んできた槍に向かい、刻印発動でのスキルを叩きこむ。

 前回と同じように、俺の攻撃一発で破壊された槍が宙に舞い、俺に向けて三本の小型の槍が飛んでくる。

 俺はそれをギリギリで回避して、体勢を調え……。


「……うん、いま装備している武器を切り替えるまで攻撃と回復、どっちも参加できないや」


 装備の耐久値が危険域な上、刻印装備の反動で攻撃力などがかなり落ちているので、いまの俺にできることはない。

 せいぜい、ほかのプレイヤーの邪魔にならないようにするだけだ。


「トワ君、さすがだね。あの槍もしっかり躱せるんだから」

「白狼さん? 後衛まで戻ってきて大丈夫です?」

「ああ、大丈夫だよ。それにしても、刻印武器の攻撃をボスにも使えればよかったんだけど……」

「さすがに数が足りませんね。槍を破壊するのに十分な数しか作ってないですし」

「だよね。槍を破壊できるだけでもよしとしよう。それじゃあ、僕は前線に戻るよ」

「はい、頑張ってください」


 白狼さんを見送り、俺も武器を換えて攻撃を再開する。

 時折、飛んでくる槍はその都度破壊して、俺を狙ってくる攻撃もしっかり回避する。

 何回か躱して気がついたんだけど、俺を狙ってくる三本の小型の槍は、同じタイミングで飛んでくるので、回避の方向を間違えなければ楽に回避できるようだ。

 そんな戦いを繰り広げることしばらく、遂にボスのHPがわずかとなった。


「全員、刻印武器に切り替え! 一気に決めるぞ!」


 全員が刻印武器を取り出し、一斉に攻撃を行う。

 それによって、残りわずかだったボスのHPもすべて削りきることができた。

 そして、レイドクエスト終了のメッセージが流れる。

 これで、ボス戦も終わったわけだ。


「よっしゃー! 勝ったぞ!!」

「遂に、遂に勝てた!」

「見たか運営! 勝てないボスはないんだよ!」


 思い思いに喜びを爆発させるプレイヤーたち。

 俺は途中参加だったけど、初期から挑んでいるプレイヤーは数ヶ月がかりだったはずだからな……。


「やったね、トワくん。私たちの勝利だよ」

「そうだな、ユキ。あとはリザルトか……」


 正直、リザルトは辞退してもいいかなと思ってる。

 途中参加なのもあるけど、それ以上に欲しいものがある気がしないからだ。

 全員が余韻に浸っている中、むくりと起き出す影。

 それは、今回のボス、オーディンであった。



**********



来週(16日)と再来週(23日)の更新はたぶんお休みになります。

体調云々もありますが、やることがちょっと多すぎて……。


いや、ほかにもいくつかやることがあるんですよ、本当に。

ストックがあればよかったのですが、残ってたら2月にあんな休載しませんでしたからね!

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