377.試験:実地テスト
ロックンロールからの依頼をサクサクとこなして、数日後。
今度は、実際にオーディン相手にどこまで通用するかを確認することになった。
集まった面子は前回とほぼ一緒。
時間が合わなくて来られなかったメンバーなどについては、各クランで人数調整をしたらしい。
なお、この数日間で四重刻印のライフルは三丁ほど増えた。
……これが完成するまで、どれくらいの素材が犠牲になったかは数えていない。
「おっす、トワ。バカげた威力の武器ができたそうだな?」
「鉄鬼か。……まあ、その表現が正しいわなぁ……」
「大丈夫かよ、その武器?」
「運営にバグじゃないことは確認済み。あとは、本番で試してどうなるかだな」
俺のその言葉に首をかしげながらも、鉄鬼は頷いた。
「まあ、多重刻印の難しさは俺も承知の上だからよ。期待してるぜ」
「まかせろ。期待外れにはならないと思うぞ」
「相変わらず、言うな。それじゃ、またあとでな」
鉄鬼のあとも、白狼さんやハル、リクなど見知った面々が俺のところにやってきた。
白狼さんたちは威力を知っているけど、念のための確認だそうだ。
ちなみに、今日の戦闘は一本目の槍にどれくらいのダメージが入るかを確認したら切り上げるらしい。
装備の消耗を少しでも抑えるための措置だとか。
あとは、今日の段階では勝つつもりもないので、精神的な疲労を抑えることも理由のひとつだろう。
「……さて、そろそろ時間だね。皆、準備はいいかい?」
あらかじめ決めてあった時間になったところで、白狼さんが確認を取る。
全員、準備は終えていたらしく、異論は出なかった。
「準備もいいようだし、それじゃあ、オーディン戦開始だ。事前に告げていた通り、今日は途中で切り上げるから、必要以上に消耗しないよう気を付けてくれ」
白狼さんの合図とともに、戦闘フィールドに移動する。
戦闘が開始されると、全員それぞれの役割分担にしたがって行動を始める。
俺もアタッカーとして攻撃を重ねながら、ときにはヒーラーとして回復も行った。
「やっぱり楽じゃないな、オーディンは!」
「無駄口叩いてないで、攻撃していくぞ! いくら途中退場するからって、確認するところまではきっちり進めなくちゃいけないんだからな!」
「わかってるって!」
誰かの話し声が聞こえるが、それも激しい戦闘音ですぐにかき消されてしまう。
俺はあまり派手な技を使っていないけど、メインアタッカーたちはかなり派手な技も使っている。
……俺の場合、メインが生産だからあまり攻撃スキルを伸ばしていないんだよな。
もう少し、戦闘方面も鍛えるべきか?
「トワ君! そろそろ出番だよ!」
「了解です。さて、新しい銃はどの程度通用するのかね」
白狼さんの言葉通り、オーディンが一本目の槍を繰り出してきた。
俺は四重刻印のライフルに装備を変更し、それに狙いを定めスキルを発動。
さて、そのダメージ量だが……。
「……うっわー。一発で破壊かよ」
「ないわー。四重刻印、ないわー」
ほかのアタッカー陣に引かれながらも、一発で槍を破壊することに成功した。
その結果……。
「うわっ、よっ、とっ」
本来、三人に向けて放たれる即死効果の槍が、三本とも俺の元に飛んでくることとなった。
……まあ、ヘイト上位三人のに飛んでくるわけだし、仕方がないか。
ギリギリ躱せたし。
「……うん、予想外ではあったけど、試したいことは試せた。戦闘終了するよ」
白狼さんの合図で、レイドバトルは終了。
今日の戦闘はこれで終わりとなった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「すごかったね。トワくん」
「ああ、そうだな。まさか、一発で槍を破壊できるとは」
戦闘が終わり、それぞれが後処理をしている中、俺とユキは結果についてのんびりと話していた。
ユキは後方支援に徹していたため、ほとんど消耗していない。
俺も最後に使った四重刻印のライフル以外は、そこまで激しい損傷はなかった。
「やあ、トワ君。やっぱりすごいね、そのライフルは」
そんな風にのほほんとすごしていたところ、白狼さんがやってきた。
「威力もすごいですけど、消費もはげしいですよ。雷獣で試した通り、一発で耐久力が危険域です」
「だろうね。あの威力がそう何発も使えるはずないから」
「そういうことです。いまのところ、合計四丁のライフルがありますけど……足りませんよね?」
白狼さんは、申し訳なさそうな顔をしてから続ける。
「うん、足りないね。せめて、十から十五はほしい」
……十以上か。
覚悟はしていたけど、やっぱり遠いな。
「……わかりました。でも、素材のほうは大丈夫ですか?」
「そっちは心配しなくても大丈夫だよ。僕ら全員でかき集めているから」
それって大丈夫なのかね?
白狼さんが大丈夫って言っていることだし、信じるとするか。
「それで、相談なんだけど、銃以外の武器にも多重刻印ってできるかな?」
「銃以外ですか。それなら、鍛冶武器はドワンに、木工武器はイリスに、それぞれ相談してみてください」
「……やっぱりそうなるか。あの威力をアタッカー全員が出せれば、最後の一押しになりそうだったんだけど」
「そこまで甘くはないってことですね。それに、作れても三重刻印が限度だと思いますよ? 素材の数に応じて、刻印数が変わってきますから」
そこまで聞いて、白狼さんは少し考える素振りを見せる。
だが、ここまでの話を聞いても、あの瞬間火力は諦めがたいようだ。
「状況はわかったよ。念のため、ふたりにも相談してみよう」
「そうしてもらえると助かります。俺も、自分の武器だけで精一杯ですので」
「だよね。……ああ、レイドに参加しているほかのガンナー向けの銃はお願いできるかな?」
「それでしたら作りますよ。……時間と素材は必要ですけど」
「うん、負担にならない範囲で頼むよ。それじゃあ、またね」
「はい、お疲れ様でした」
白狼さんを見送り、これからの予定について考える。
……考えたが、正直、あまり考えたくない日々が続きそうだな。
「トワくん、この先大丈夫?」
「……まあ、なんとかするさ。楽じゃないのは確かだけど」
「私にできることがあったら言ってね。できる範囲ならお手伝いするから」
ユキにできることか。
バフを使っても成功率は変わらないし……。
「そうだな……とりあえず、疲れたときのリフレッシュ用にドリンク系のアイテムを頼む」
俺の言葉を受け、ユキは嬉しそうに続けた。
「うん、それなら任せておいて!」
「ああ、任せたぞ、ユキ」
なお、白狼さんから相談を受けたドワンとイリスだが、俺と同じように素材を消費する日々を送るようになった。
ユキには、そっちにも差し入れをしてもらったので、多少は精神的ダメージが緩和されたと信じたい。
確率で素材や装備が壊れるのって、精神的にくるからなぁ……。
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