376.試射:刻印装備の力

「それじゃ、刻印装備ができたんだね、お兄ちゃん!」

「なんとか、な。これ以上の刻印は施せないし、これで完成で問題ないと思うぞ」

「思っていたよりもかなり早かったね。さすがトワ君だ」


 四重刻印のライフルが完成した、翌日。

 実物を見せるため、皆に集まってもらった。

 皆と言っても、ハルと白狼さんだけだが。

 本当はリクもくる予定だったのだが、ユキに捕まってなにかお説教をされているらしい。


「それで、この銃っていくつできたの?」

「まだひとつだ」

「えー、たったそれだけ?」


 まあ、そう言いたくもなるよな。

 俺も同感だし。


「そう言われてもな。これでも百個以上の部品を使ってこの結果だから」

「百個以上か……大昔のオンラインゲームだと、武器の強化成功率が1%程度だと聞いたことがあるけど」

「そんな感じですよ、白狼さん。素材ひとつひとつに刻印を施すだけで二割は壊れますからね。それを組み立てて、さらに刻印を加えてですから……」

「なるほどね。最終的な成功率は数%程度あればいいほうというわけだ」


 実際、確率だけだと1%未満な気がするからな、いまのところ。

 もっと試作を繰り返していけば、また変わってくるんだろうけど……。


「それで、お兄ちゃん。集まったけどこれからどうするの?」

「そうだな。とりあえず、完成報告がしたかったのと、この先どうすればいいのかの確認をしたかったんだが」

「……そうだね。まずは、この刻印武器の威力を確かめたいな。できれば実戦がいいけど、的はどれくらいがいいだろう?」

「うーん、雷獣あたりはどうです? 雷獣ならわたしと白狼さんのふたりだけでもなんとかなりますし」

「うん、悪くないかな。それじゃあ、雷獣を倒しに行ってみよう」


 刻印武器の試射、ということで雷獣を相手にすることとなった。

 俺も雷獣相手なら立ち回れるけど、刻印装備を使ったあとだと、反動でしばらく装備変更できないからな。

 実質的な戦力外だろう。


「それでは、早速雷獣へしゅっぱーつ!」

「ああ、頑張ろうか」

「了解。程々にな」


 今日も元気な妹様の号令で、雷獣の元まで移動することとなった。

 さて、この武器の威力はどれくらい出るかな……?



―――――――――――――――――――――――――――――――



「いやー、実戦テストまでに間に合ってよかったぜ」

「ゴメンね、トワくん。遅くなっちゃって」

「気にするな。……でも、リクはよかったのか?」

「きちんとお話はしてあるから大丈夫。ね、リク?」

「お、おう。大丈夫だぜ」


 本当かな?

 かなり怪しいけど……ユキに任せるか。


「それで、今日の予定ってどうなってるんだ?」

「雷獣相手に刻印武器の威力を試すんだよ。まだ、実戦でテストしたことはないからな」

「了解だ。……ちなみに、剣の刻印武器とかってないの?」

「そっちはドワンの受け持ちだな。俺は知らん」

「……帰ったら、ドワンさんに聞いてみよ」


 聞いてみるのは構わないけど、盾役が一瞬の高火力を求めて意味があるのかね?


「さて、準備も整ったわけだし、どういう風に試してみましょうか?」


 とりあえず持ってきたのは、各種刻印ライフル。

 二重刻印に三重刻印、四重刻印と段階をふんで持ってきた。

 単独刻印は攻撃力が足りないだろうから、試してみるつもりはないよ。


「まずは二重刻印から順番に試してみようか。どの程度のダメージ量になるか、単独で確認してみたい」

「了解です。それじゃあ、一戦ごとに一回だけって感じですか?」

「そんなところかな。ユキさんはバフをお願い」

「わかりました。デバフは使わなくて大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だよ。オーディン戦を想定しているから、デバフはなしで」


 いろいろと段取りも決まり、いよいよ実戦開始となる。

 まずは、二重刻印のライフルだが……。


「おー、雷獣のHP、見てわかるくらいに減ったねー」

「雷獣相手にあの威力が出せるなら、十分強いね。これは三重刻印にも期待が出来る」

「そうですね。まずは、あれを倒さなくちゃいけないですけど」

「そうだな。一気に倒しちまうか」

「そうしよー!」


 刻印装備の威力を確認したあとは、皆で総攻撃をして一気に倒してしまう。

 なお、刻印のダメージを確認するのにはハイチャージバレットで威力を確認している。

 通常攻撃では、さすがに威力がわかりにくいし。


「さて、次は三重刻印だね。トワ君、一発撃ったらいきなり武器が壊れる、なんてことはないよね?」

「ええ、大丈夫ですよ。一発だけなら」

「……つまり、一発しかもたねーんだな」

「一発で最大耐久値の半分以上を持っていかれるからな」


 刻印武器の最大の弱点は、耐久値消費が激しいところだ。

 三重刻印でも、最大耐久値の六割を一回の使用で消費するのだからたまらない。


「うへぇ……きっついな」

「きついんだよ。だから、実際にボスに持ち込むときはかなりの数を用意しなくちゃいけないんだけど」

「その数を作るのも厳しいんだね、お兄ちゃん?」

「まあ、そうなる。気合いと根気で挑むしかないわけだが」


 こればっかりは数を試すしかない。

 気力がごっそり持っていかれるが。


「ところでお兄ちゃん。その銃に付いている脚みたいなのはなに?」

「これか? バイポッドって言って、地面に銃を置いたときの脚になるパーツだよ。三脚みたいなものだな」

「へー。……で、なんでそんなものを付けてるの?」

「伏せ撃ちじゃないと反動が強すぎて、後ろに倒れるからだよ。その分、威力も半端ないけどな」

「それは楽しみだね。……さて、準備も整ったみたいだし、次に行こうか」


 全員の状態を確認して、二度目の雷獣戦開始だ。

 さて、今度の威力はどんな具合かな?

 伏せ撃ちの態勢から、刻印を発動させてトリガーを引く。

 すると、轟音を立てて弾丸が飛び出し、雷獣の頭部に炸裂する。


「うっわー。頭部クリティカルも含めてだけど、HPが三分の一くらい減ったよ……」

「これは凄まじい威力だね。雷獣って、かなりHPが高いはずだけど」

「そんなことより、早く倒しちまおうぜ! こっちをガッチリロックオンしてる!」

「それもそうだね。一気に倒してしまおう」


 二戦目は、初撃でHPをかなり削っていたため、一戦目よりも短時間で倒すことができた。

 うーん、これは四重刻印だとかなりやばいんじゃなかろうか。


「さて、次が四重刻印のわけだけど……どれくらいの威力が出るだろうね?」

「さあ? 試してみないとですが……あ、ちょっと待ってください」


 準備をしていると、ドワンからフレチャが入った。

 なんでも、シューティングスターから輝竜装備の作製依頼が入ったらしい。

 ドワンとしては受けてもいいという判断だが、俺が組み立てる以上、俺の意見も聞きたいそうな。

 俺としても作る分には問題ないから、依頼は受けることに。

 ただ、特級生産セットを使ってみたいので、品質のばらつきについては了承してもらうことにした。


「トワくん、なんだったの?」

「ん、銃の依頼の話。息抜き代わりに引き受けることにした」

「そっか。了解だよ」


 さて、いよいよド本命の四重刻印を試すこととなった。

 雷獣戦を開始して、バイポッドを立てて伏せ撃ちの態勢になり、刻印を発動。

 そして、狙いを定めて、引き金を引いてみる。

 すると……。


「……お兄ちゃん。その銃、なんなの?」

「いや、さすがに威力が高すぎるんじゃないかな?」

「今のって、クリティカルじゃなかったよな?」

「すごく強いね、トワくん。発射音もすごかったけど」


 ユキの言う通り、三重刻印以上の轟音を立てて、銃弾が発射された。

 その銃弾は雷獣の右肩あたりにヒットしたのだが……一発でHPをすべて削り取ってしまった。

 勿論、デメリットとして、耐久値が九割近く削られているのだが……些細な問題だろう。


「俺だって実践で試すのは初めてなんだ。威力が桁違いなのも仕方がないだろう?」

「それにしても限度があるよ。……それってバグじゃないの?」

「運営に問い合わせは済んでる。バグじゃないって回答ももらってるからな」

「……それがあれば、オーディン戦もかなり楽になるだろうね。頼りにしているよ、トワ君」


 これで試射は終了したので、装備を修理して検証終了となった。

 帰り支度をしていたところにロックンロールがやってきたので、せっかくだから四重刻印の威力を見せてやることに。

 ロックンロールも言葉を失っていたが、まあそんなものだろう。

 納期については、あとで別途連絡することを告げて、この場は解散となった。

 クランに帰ると、ドワンたちはすでにロックンロールから受けた依頼の作業を始めていたようだ。

 これなら、明日の夜にでも納品できそうだな。

 あとでメールしてやらなきゃ。

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