375.難題:四重刻印の壁
遅れてた今週分の更新でっす!!
来週は定刻通りに更新したい。
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三重刻印を作ることもできたし、次は四重刻印なのだが……ここで詰まってしまった。
三重刻印武器を作った翌日から何回も作製を試みているが、まったく成功しない。
三つでも非常に成功率が低かったのでそれなり以上の失敗率は覚悟していたが、三十回連続失敗はさすがに精神にくる。
さて、どうしたものか……。
「トワくん、少し休憩してきたら?」
俺が完全に手詰まりになった様子を見て、ユキがそう言ってくれる。
……確かに、いまのまま続けても失敗しかしないだろうからな。
「わかった。そうさせてもらうよ」
「うん、行ってらっしゃい。私はその間に作業させてもらうね」
「ああ、わかった」
俺が刻印装備を作っている間は、ユキの作業は止まっていた。
正確には、別の部屋で店売り用のアイテムを作っていたらしいのだが。
さすがに、ドカンドカン爆発する隣で作業をするのは、ユキでも大変だろう。
そういうわけで、休憩にきたのだが、ドワンも休憩中だった。
「おう、トワか。刻印装備の調子はどうかの?」
「最悪だな。まったく成功する気配がない」
「なるほどのう。愚痴程度なら聞くぞい?」
「あー、なにか閃くかもしれないからな。少し話に付き合ってくれるか?」
「よかろう。で、なににつまずいておるんじゃ?」
ドワン相手にいまの作業状況を説明する。
三重刻印まではなんとか完成したこと、四重刻印になると失敗し続けること、依頼内容から考えて四重刻印は必要そうなことなどを説明した。
そこまで話を聞いたドワンは、各種刻印が記載されている辞典を取り出す。
そして、描かれている刻印一覧のページを開いて、ある刻印を指し示した。
「ふむ、トワよ。四重刻印じゃが、この刻印を加えてみるのはどうかのう?」
ドワンが指し示した刻印は『刻印連結』と名前が記載されているものだ。
詳細ページを確認すると、『複数の刻印を連結する際の成功率がアップ』、と説明書きがされていた。
「わしも三重刻印を越える多重刻印は、挑戦したことがないのでのう。ヒントになることと言えば、これくらいじゃ」
ドワンでも四重以上の刻印装備は作ったことがないのか。
やっぱりコスパの問題かな?
「三重刻印は練習として作ったことがあるがの。さすがに四重は作ったことがない。三重の時点で成功率が低すぎたからのう」
確か、昔聞いた話だと20%ぐらいだったか。
「そういうわけなので、わしから提示できるヒントはこれくらいじゃ。失敗してもいいように、部品だけは大量に用意しておる。それでは、成功を祈るぞい」
休憩を終え、ドワンは自分の工房へ戻っていった。
……ふむ、刻印を結ぶための刻印があったとは気がつかなかった。
いや、一覧はすべて確認したつもりだったけど、見落としてたかな。
「『刻印連結』試してみる価値はあるかもな。そうと決まれば、工房に戻ろう」
俺も休憩を終えて自分の工房に戻る。
ただ、工房ではユキが作業中だったため、ユキの作業が終わるまでは俺も刻印装備以外のアイテムを作ることにした。
最近、刻印装備ばっかり作っていて、ポーションとかは作ってなかったものな。
たまにはポーションとかも作らないと。
―――――――――――――――――――――――――――――――
ユキの作業が終わり、刻印装備を作り始めたのは、戻ってきてから一時間ほど経った時だった。
ユキはもうログアウトしているため、工房には俺ひとりしかいない。
あまり遅くならないように、とユキから言われているので、一時間くらい作業してダメだったらまた明日にしよう。
さて、連結刻印を入れる作業だが……うん、これの成功率はほかの刻印と一緒で八割程度だな。
二割ぐらいは素材がダメになっているけど、これも必要な犠牲と割り切ろう。
「……さて、連結刻印も十分に用意できた。あとは組み立てだが…うまくいくか?」
問題の組み立て作業だが、どれだけ成功するか。
さて、まずは一回目……。
「うわ、いきなり成功したよ。……成功率がかなり上昇しているのかな?」
そう思って、二個、三個と試していくが、やはりそうそう成功はしない。
とりあえず、十回試してみて、成功したのは四個だった。
「現時点だと成功率四割。かなりマシになってると言えるのかな?」
さて、ここまではいいんだ。
現時点でも四重刻印になっているけど、ひとつは連結用の刻印だから、攻撃力アップのための刻印は三つ。
そのため、このままだと三重刻印と攻撃力は一緒のはずで。
「……ライフルの部品は全部で四つ。それらすべてに刻印を刻んである。つまり、素材の時点ではこれ以上刻印できないわけだ」
素材に刻印できない以上、とる手段はひとつだ。
完成品であるライフルに直接刻印するしかない。
……さて、どれだけ成功するかな……。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「うーむ、四つのうちひとつだけ成功か。……全部失敗しなかっただけマシか?」
そう、なんとかひとつは成功してくれた。
成功してしまった、と言い換えてもいいのかもしれないが。
「もう夜遅いけど、試し撃ちだけしておこうかな」
早速、完成したライフルを持って訓練所へ。
刻印なしのライフルに比べて、どれくらいの差が出るか……。
「……いや、もうバカだろ? この倍率設定を考えたヤツ」
試し撃ちの結果、刻印発動なしの場合と比べ、約四十倍のダメージ差があった。
さすがにこの倍率はおかしいと思い、運営に問い合わせたが、正常値であるとの回答がすぐに帰ってきた。
……これだけの威力があれば、実戦でも役に立つかな?
とりあえず、実戦での運用はある程度数ができてからにして、今日はもう休もう。
あまり遅くなると、ユキがうるさいからな。
―――――――――――――――――――――――――――――――
その頃、運営管理室では、トワが完成させた武器の話題が持ち上がっていた。
「……いや、さすがですね。四重攻撃力強化を作るなんて」
「確かに。さすがとしか言いようがないな。成功率は数%しかないはずだが」
理論上の成功率は、『刻印連結』を含む四重刻印を成功させる時点で40%。
さらに、そこに刻印を重ねる成功率は20%の成功率となっている。
つまり最終的な成功率は、8%となるわけで。
トワが十個中一個を成功させたのは確率通りの訳ではある。
だが……。
「まず、刻印素材を作る時点で二割は消えてるもんなぁ。大手の生産力がなきゃ、やってられない成功率だわな」
「それを言うなって。ただでさえ低い確率がさらに低い計算になってしまうんだから」
素材ひとつひとつの成功率が80%。
それを四つ集めるわけだから、この時点で素材の個数は大分減っている。
それが8%しか成功しないわけなので……あとは推して知るべしというところか。
「成功率に見合う見返りは用意しているんだ。……量産されるとゲームバランスが崩れかねないのは事実だが」
「素材が尽きるか、根気が負けるかって話ですからね。いや、恐ろしい恐ろしい」
「オンラインゲームってそういうもんだろ」
昔より、オンラインゲームの最終強化武器の成功率なんて数%。
1%未満なんてこともざらにあるわけだから、今回の仕様はある程度温いのかもしれない。
「……さて、それでは監視を続けるぞ。問題が起きないわけではないのだからな」
「了解です。……俺たちの出番がないのがベストなんですけどね」
そのような感じで、運営管理室の夜は更けていくのであった。
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