372.下見:天上の試練に挑みし者_1
とりあえず80までレベルが上がった翌日、今度は『天上の試練に挑みし者』を体験してみるということでレイドに駆り出された。
その日は定期的なレイド挑戦日だったらしく、実際に戦うメンバーが集まっていたようだ。
「それで、やってきたはいいけど、俺たちの参加する枠はあるのか?」
「そこは大丈夫だよ、お兄ちゃん。わたしたちのパーティに参加していた『白夜』のメンバーふたりが抜けてるから」
「普通にそのふたりがいたほうが強くないか?」
「んー、たぶん大差ないんじゃないかな? 単純なステータスならお兄ちゃんたちのほうが低いけど、プレイヤースキルまで見たら大差ないと思うし、ユキ姉のバフの存在は大きい」
「ならいいんだが」
俺たちが参加するにあたっての問題はないらしい。
ユキはレイドが始まってからの動きについて、白狼さんから直接話を聞いている。
さて、俺はどう動くのが正解なんだろうね?
「よう、トワ、昨日ぶり。準備は万全か?」
「鉄鬼か。準備はまったくできてないぞ? レイドの詳細すら聞いてないからな」
「あ? ……【魔剣姫】よう、せめてレイドの内容ぐらい説明しておけよ」
「うーん、その辺も白狼さんがしてくれると思ったから。わたしが説明するよりもわかりやすいでしょ?」
「……ちげぇねえが。白狼のダンナはあっちで説明中だから、概要だけ説明しておくぞ」
「頼んだ」
鉄鬼から聞いた話によると、これから挑むレイドはボス一体のみとの戦闘になるようだ。
ボスの名前は『幻体・オーディン』、レベルは80とのこと。
前衛狙いの物理攻撃のほか、定期的に後衛にも魔法攻撃が飛んでくるらしい。
後衛狙いの魔法は事前に予兆があるタイプと狙い撃ちしてくるタイプがあり、予兆があるタイプは当たると即死級のダメージを受けるとか。
また、狙い撃ちの攻撃は着弾した周囲にもダメージを拡散させるため、狙われているプレイヤーは散開して周りへの被害を最小限に食い止める必要もあるという。
前衛陣にはそれ以外にもいろいろと気をつけなくちゃいけないことがあるようだが、俺は基本的に後衛固定だから魔法攻撃にだけ気をつけていればいいらしい。
なお、魔法攻撃はすべて雷属性の攻撃なので、雷獣素材による雷ダメージカットが有効になる。
素材としてみれば最前線に比べて何段階かランクが落ちる雷獣素材だが、雷属性の素材としてはまだまだ一級品のようである。
「……細かい点はもう少しあるが、後衛の動き方としては以上だな。なにか質問があったら、白狼のダンナに聞いてくれ」
「了解。説明ありがと」
「それじゃ、俺は自分のパーティに戻るわ。今日は頑張ろうな。……勝てないのはわかりきってるけど」
「始める前から弱気だな?」
「お前は初めてだからそんなことが言えるんだよ。……後半戦まで行けば勝てない理由がわかるさ。じゃあな」
手を振りながら去っていく鉄鬼を見送っていると、ユキと白狼さんがやってきた。
ユキへの説明はどうやら終わったらしい。
「お待たせ、トワ君。……鉄鬼君から説明を受けたのかい?」
「そうですね。概要については説明を受けました」
「そうか。それじゃあ、僕からはトワ君個人にやってほしいことを説明するかな」
「よろしくお願いします、白狼さん」
白狼さんから説明を受けた俺の立ち位置は、アタッカー兼ヒーラーというところだった。
普段はアタッカーとしてオーディンへの攻撃に参加、後衛が範囲攻撃でダメージを受けたときのみヒーラーとして回復を優先させる、そんな立ち回りらしい。
それ自体は普段からやっていることなのでとくに問題はないが、問題になりそうなのはその次に言われた内容だった。
「前半はそれだけで大丈夫だけど、後半になったらちょっと別のこともお願いしたいんだ」
「なんですか?」
「後半戦になるとオーディンが槍を投げてくることがあるんだ。トワ君にはその迎撃を優先してほしい」
「槍の迎撃ですか……それってそんなに難しいことなんですか?」
話を聞いただけなら、問題になりそうなことじゃないんだけど。
「問題なのは、槍を破壊したときなんだ。槍を破壊した時点で、槍に対してダメージを与えていたプレイヤー上位三名を狙って小さな槍が飛んでくる。これが当たると即死なんだよね」
「……即死級のダメージ、じゃなく即死ですか」
「即死だね。幻狼の腕輪を持ってきて試したこともあるんだけど、腕輪の特殊効果をすり抜けて即死だったから。ダメージではなく、直接的な即死だと判断したんだよ」
なるほど、試せる部分は試したという訳か。
「ちなみに、その槍を破壊しなかった場合は?」
「全員即死だね。30秒以内に槍を破壊できなかったら、全滅ということになる」
ふむ、破壊は必須というわけか。
でも、それくらいなら攻略を阻む理由にはならないと思うんだけど。
「それって、そんなに難しいんです?」
「問題は蘇生した時なんだよね。槍の効果で即死したプレイヤーを復活させると、衰弱状態が付与されるんだ。この効果を受けているプレイヤーは、600秒の間攻撃力や回復力が六割減少する」
「……それは面倒ですね」
六割も減ったら、戦力外になるだろう。
そんなプレイヤーが増えてくると、まともに戦うことはできなくなるな。
「それから、槍による攻撃は2分ごとに行われる。そのせいで、段々、戦力外になるプレイヤーが増えていって、最後は時間切れで負け、という結果になるんだよ」
「時間切れですか。それってレイドの攻略時間切れですか?」
「いや、最初の攻撃から60分経ったら、全体即死攻撃が飛んでくるんだよね。その結果として、時間切れによる全滅となるんだ」
制限時間は実質60分か。
それはそれでめんどくさい。
「衰弱状態になったプレイヤーは実質戦力外だし、槍の破壊は必須条件。でも、どんどん破壊できるプレイヤーが減っていく。まさに負のスパイラルというわけさ」
「それがクリアできない原因ですか?」
「まあ、それが直接的な原因かな。ほかにも細かいところでミスだったり、回復漏れが出たりといろいろあるけど、そこはトワ君たちには関係ないところだからね。いままでのプレイで修正してきてはいるよ」
っていうことは、さっきの説明にあった内容をしっかり守っていればなんとかなる、のかな?
俺以外の動きについては、最初は見ているだけでも大丈夫そうだし。
「今回はお試しということで話はついている。失敗して全滅してもかまわないから気楽にいこう」
「わかりました。それじゃあ、今日はよろしくお願いします」
「ああ、頑張ろう」
白狼さんは説明を終えると、ほかのパーティのところに向かっていった。
開始前の意思疎通とかいろいろあるんだろう。
戦闘に向けて準備をしていると、ユキが話しかけてきた。
「トワくん、そっちはどんな説明を受けたの?」
「基本的な立ち回りと、後半戦の注意事項かな。ユキのほうはどんな説明を受けたんだ?」
「えっと、基本的にバフを切らさないようにしてほしいって説明されたよ。ただ、範囲攻撃に巻き込まれそうなときはすぐに退避するようにって。バフが一時的に切れるよりもバッファーがダメージを受けることのほうが大変らしいね」
「そうだろうな。回復対象のプレイヤーが増えたら、ヒーラーの手が回らなくなるし」
「……私にもできるかな?」
ユキは不安そうにしているが、そこは気にしなくてもいいだろう。
「大丈夫だろう。今回はお試しらしいし、白狼さんが根回ししてくれているだろうから」
「……そうだね。それじゃ、今日は頑張ろう」
「ああ、頑張るとするか」
こうして、多少の不安は残しながらも、俺たちの初挑戦は幕を開けることとなった。
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