370.刻印装備の力

 刻印術を覚えて数日、初日はひとつも作れなかった刻印装備もそれなりに作れるようになった。

 ただ、事前に指摘されていたとおり、どんなに上手くいっても一定割合で失敗するのだけは避けられないようだ。

 体感的な成功率は七割くらいの気がするけど、記録をつけてるわけじゃないし、実際にはもっと失敗しているんだろうな。


「さて、作るのに成功するようになったし、そろそろ性能試験といきますか」


 いままではひたすら作り続けていたけど、性能試験もしないことには売値の見当がつけにくい。

 というわけで、試し撃ちのために場所を移動する。

 訓練所に着いたら、ダメージを可視化して早速性能試験を開始だ。


「……無強化チャージショットを100として、刻印発動チャージショットが300か。単純なダメージ3倍っていうのは大きいな」


 数回試してみたけど、結果はだいたいダメージ率250%から350%だった。

 振れ幅が大きいのは乱数の影響だと思われる。


「で、耐久値消費が一回の発動につき最大耐久値の7%程度、装備変更禁止時間が30秒か。威力と消費のバランスはいい……のか?」


 少なくとも、最後の詰めみたいに短時間で大ダメージを与えなくちゃいけない状況下では便利な機能だろう。

 使いどころを間違えると大変なことになりそうだけども。


「あとは、複数刻印の装備を作ってみることか。……何度も爆発させることになりそうで気が進まないなぁ」


 乗り気にはなれないけど、試さないわけにもいかない。

 さて、とりあえず工房に戻りましょうかね。



―――――――――――――――――――――――――――――――



 工房に戻っても、すぐに武器製造というわけではない。

 店売りやスキル修練のためのポーション作製もしなくてはならないのだ。

 ポーション作りが一段落したころ、ユキがやってきたので休憩することとなった。


「それじゃあ、刻印武器の性能は試したんだね」

「まあな。性能的には便利な武器、といったところだな」

「そっか。最近は狩りに行ってないし、他の人といると私はサポートしかしないから、武器の性能にはこだわってないんだよね」


 ユキの場合、強力なサポートスキルがあるため、自分が攻撃に参加することはほとんどない。

 ユキがアタッカーとして参加するより、バフとデバフを使った方が全体の火力が増すからだ。

 俺とふたりならその限りではないかもしれないけど……最近、俺も狩りに行かないからな。


「それで、トワくんは自分の装備を更新するの?」

「んー。その必要性は感じないかな。一式更新するとなるとかなり大変だし、そもそも瞬間火力が必要な状況って俺の場合はあまりないし」

「そうだよね。私たち、あまりボスには行かないものね」


 ユキの言うとおりだが、最後にボスへと挑んだのはいつだったか……。

 冬にあった事件以降、封印鬼にも行ってないからかなりご無沙汰だ。

 新しいボスのものと思われる素材は入手しているあたり、新規ダンジョンかマップは解放されているようではあるのだけど、自分で行く意味って基本的にないからね。

 うん、仕方がないことだな。


「そういえば、最近、白狼さんやリク、ハルちゃんたちに特級生産セットで作った料理を頼まれてるんだけど……トワくんのほうにはそういう話って来てる?」

「いや、来てないな。……というか、特級生産セットを入手できたことを話した記憶がないな。いちおうその辺にはメールをしておくか」


 いつも贔屓にしているメンバーのところへ、特級生産セットを手に入れたということを伝えるメールを出す。

 すると、メールを送ってすぐに白狼さんから返信が届いた。

 特級生産セットで作成したポーションを可能な限り融通してほしいそうだ。

 対価は十分に用意するということなので、休憩が終わったら大量生産をするけど……わざわざ特級生産セットの指定があるってことは相応のボスに挑むのかな?

 いろいろと解放されているみたいだし、新しい上位レイドボスが追加されたのかもね。


「さて、そろそろ休憩は終わりにして、依頼があったポーションを作るとするか」

「私もそうするね。……でも、最高品質の消耗品が必要なバトルってどんな感じなんだろうね?」

「さて、どうだろう。俺もボス戦からはだいぶ離れてるから、あまり見当がつかないかな」


 そんなことを話しながら生産を続けることしばらく、柚月からハルがクランホームにやってきたと連絡を受けたので、工房に案内する。

 ハルは出されたお茶を飲み干したあと、やってきた用件を切り出してきた。


「お兄ちゃん、ユキ姉。レベル上げに行こう!」

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