368.刻印術

先週の更新を落としてしまい申し訳ありませんでした。

立つのにさえ支障出るレベルの腰痛と風邪のダブルパンチでダウンしてました。

小説を書くためにPCに向かうのが、腰に負担がかかってきつかったのじゃよ……


話は変わりますが、書籍版『Unlimited World~生産職の戦いは9割が準備です~』第一巻の発売日が決まりました。

12月21日発売予定です。


密林さんや紀伊國屋書店などでは予約も始まっています。

どうぞよろしくお願いします。


(本当は表紙を公開したいのですが、カクヨム様では挿絵表示ができないようなので……)


**********


「試験が終わってこれから忙しくなる、というときに呼び出して済まないな」

「いえ、かまいませんが……。今日はどんな用件で?」


 無事、試験も合格して各種手続きをしていると、ギルドマスターが呼んでいると言われ、そのまま面会することとなった。

 ただ、今日呼び出されたのは理由がよくわからないな。


「まずは、試験合格おめでとう。我々の予測では一発合格だと思っていたが、思いの外時間がかかったな」

「それはまあ。ちょっと怪我をしてまして」

「ふむ。まあ、そこについてはあまり聞くまい。それでだ、今日呼び出した理由だが、お主には【刻印術】の説明をしておこうと思ってな」

「【刻印術】ですか?」


 さて、知らない技術の名前が出てきたぞ。

 最近あった、一周年記念アップデートで追加されたものだろうか?


「【刻印術】とは、装備品に特殊な術式を刻むことで、一時的にその性能を強化する技術だ。簡単に言ってしまえば、装備に仕込める強化術式といったところか」

「なるほど。それで、デメリットは?」

「まずはそこを聞いてくるか。勿論、デメリットも存在している。【刻印術】を発動させると、装備の耐久値が一気に減ってしまう。さらに、一時的にではあるが、装備を変更することもできん。また、装備を作る際にも刻印の力が障害となり、完成品ができずに消滅してしまうことも多いな」


 簡単にまとめると、


 ・【刻印術】を発動すると装備の性能が増すが、耐久値が激減する

 ・【刻印術】の発動後、しばらくの間装備変更不可になる

 ・【刻印術】を使った装備は、作製するときに作製失敗判定がでる


 ということのようだ。

 また、消耗品や消耗品関係の道具を作る際は、【刻印術】が使えないらしい。

 完全に装備専用の技術のようだな。


「……私からの説明は以上だ。もし、【刻印術】を学びたいなら、ギルドの受付で話をしてくれ。担当教官に話は通しておく」

「わかりました。ちなみに、俺がポーション作りを学んでいる師匠からは【刻印術】を学ぶことができないのですか?」

「彼はポーション関係が専門なのでな。錬金術分野では銃系統でメインに使われる【刻印術】を、教えることはできないのだよ」


 なるほど、やっぱりポーションが専門だったのか。

 それなら仕方がないな。


「わかりました。このあと、調合ギルドにも行ってきますので、そのあとにでも学ばせてもらいますよ」

「そうしてくれ。……まあ、その特性のために扱いやすい技術ではないのだがな」

「なんとなくですが、わかります。ちなみに、【刻印術】って上級生産セットでは付与できないのでしょうか」

「ああ、できないな。【刻印術】のことを教えているのは、特級生産セットを入手できた中でも、相応に貢献しているものだけだ。おいそれとは広められる技術ではないのだよ。……単純に、扱いにくいという理由で」


 ふむ、それなり以上に扱いにくいもののようだ。

 学べるものは学んでおくけど。


 ギルドマスターとの面会も終わり、調合ギルドに行ってそちらでも特級生産セットを入手する。

 調合ギルドでもギルドマスターと話をすることになったが、こちらは新しい技術の話ではなく、ギルドの新しい依頼についての説明だった。

 特級生産セットを入手できるだけの技量を持った異邦人プレイヤー向けで、新しい依頼が数種類発生するらしい。

 内容的には、一定以上の品質をもったアイテムの納品がメインだが、珍しい内容では『ギルドの研修会で講師をする』なんていうのもあった。

 どれも報酬的には非常に美味しいのだけど……今更、お金には困ってないからな。

 緊急依頼として舞い込んできたときだけにしておこう。


 調合ギルドで用事を済ませたら、錬金術ギルドに戻り【刻印術】の講義を受ける。

 受付で申し込みをして受講料を払うと、すぐに作業部屋に案内してくれた。

 作業部屋では講師が待っていて、すぐに【刻印術】習得のための作業に入る。


「【刻印術】だが、基本はその名前の通り、装備品に印を刻むことがメインになる。魔力を使って紋章を彫り込むのだ」

「なるほど。紋章はどんなものになるんですか?」

「いくつかパターンがあるが……錬金術の場合、メインは銃になる。扱う紋章のパターンは『攻撃力増加』か『命中率増加』の二種類だろう。アクセサリー作りにも紋章を刻むことはできるが……適切な紋章は発見されていない」

「……紋章は自分で形作ってもいいのでしょうか?」

「オリジナルの紋章を作るのは問題ない。だが、紋章は意味を持つ記号の組み合わせだ。そう簡単には新しい組み合わせが見つからないことは覚えておくように」


 ……漢字やアルファベットみたいな組み合わせになるのかな?

 そうなると、単純な意味だけの紋章に分解して、その上で新しい紋章パターンを考えることになるけど……なんとなく楽しそうだ。


「まずは、基本的な紋章から教えよう。私と同じ紋章を銃身に刻み込んでくれ」

「わかりました」


 実際に見せてもらった紋章は、中心部に模様を刻み、さらにその周囲を別の模様で囲む、というものだった。

 六芒星や五芒星を刻んで円で囲う、魔法陣のようなもの、といえばわかりやすいか。

 実際に見せてもらったとおりの紋章を刻んでみるがうまくいかずに失敗してしまい、銃身が消滅してしまった。


「初めての作業で、そこまで上手に描けるとはなかなかだな。練習用の銃身はたくさん用意してある。数をこなして練習あるのみだ」


 講師の言葉通り、練習用の素材は大量に用意されていた。

 これなら、失敗を恐れずに練習できていいな。


 その後、ひたすら紋章の書き込みを練習して、なんとか三回に一回は成功できるようになった。

 『攻撃力増加』の紋章が描けるようになったら、今度は『命中率増加』の紋章を練習する。

 そちらも『攻撃力増加』と同じくらいの精度になったとき、講師から声がかけられた。


「紋章の書き込みはその程度でいいだろう。次は、実際の組み立てだ。こちらについては、普通に組み立てるのと同じ手順になる。あとは実際にやってみるといい」


 講師にそう促されたので、部屋に用意されていた特級生産セットで組み立てを試してみる。

 普段と同じように錬金術を使ってみると、用意された材料が光ってひとつにまとまりだし……一瞬強い光を放ったあと、跡形もなく消えてしまった。


「……このように、刻印を刻み込んだ部品を使うと、組み立てのような最終工程で失敗することもある。こればかりは、運が絡む要素としか言えないので、素材は大量に用意しておいて数をこなしていくしかない」

「成功率を上げる方法はないのでしょうか?」

「少なくとも、いまの時点ではそのような技術は発見されていないな。もし、そのような方法を見つければ、ギルドから莫大な報奨金が出るぞ?」


 つまりは、ギルドとしてもそういった技術を求めていると。

 有効な手段がないのなら、数をこなすしかない。

 ひたすら練習していくとしよう。


 数打ちをこなし、『攻撃力増加』と『命中率増加』、それぞれ五個ずつ作製成功したところで、講習は修了。

 講習が終わった時、『紋章辞典』なるアイテムをもらった。

 内容としては、基本的な紋章を網羅した辞典とのことだ。

 武器用の紋章以外にも防具用の紋章も書いてあるらしいので、必要ならば自力で練習しろ、ということらしい。


 また、【刻印術】を使うには素材の強度もそれなり以上に必要だそうな。

 具体的には、金属ならばミスリル以上が必須らしい。

 もっとも、ミスリルに刻印するには強度的に相当慣れていないと難しいと言われたが。


 講習が終了した時点で、システムメッセージがログに刻まれ、【刻印術】を取得できるようになっていた。

 覚えるためのSPは60とかなり多めだったが……効果を考えると妥当か。

 さっくりSPを支払って【刻印術】を取得してしまう。

 さて、ユキ以外の皆は【刻印術】をすでに覚えているだろうし、情報のすりあわせをしてみましょうかね。

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