365-2.Unlimited Sky, Infinity World

**********

本日2話目の更新

昨日から連続更新しています

まだ読んでいない方は昨日の1話目からどうぞ


**********


 病院へ行き、逸る気持ちを抑えつつリハビリを行った。

 まあ、結果は散々だったけど。


 家に帰った後は部屋で一通の手紙を書く。

 レターセットのような洒落たものがあるのは、妹様のおかげだ。

 リハビリに行く前にメールで伝え、買ってきてもらった。


 慣れない手書きの手紙をなんとか書き終え、陸斗を呼び出す。

 陸斗は、丁度晩ご飯を食べ終えたところだったらしく、面倒くさがりながらも家に来てくれた。


「悠、聞いたぜ、雪姉に会えたんだってな」

「雪音から聞いたのか?」

「ほかに誰から聞くんだよ。……まあ、会ったってことしか話してくれなかったけど」

「そっか。まあ、まともに話はできなかったからな」

「雪姉もそう言ってたな。平気そうな顔をしてたが、内心は穏やかじゃないと思うぜ」


 陸斗は努めて明るく話してるけど、内容は結構重い。

 口調まで重くならないようにしてるのは、陸斗なりの気遣いだろう。


「それで、俺を呼び出したのはなんの用だ?」

「ああ、これを雪音に渡してほしくて」

「……? 手紙か? 今の時代に手紙なんて、よく書いたな」

「陸斗だって、ラブレターをもらったことはあるだろう?」

「……よく知ってるな。基本的に、もらってもそれだけだが」


 おや、一度くらいは会いに行ったことはないのかな?

 それを聞いてみると、自分から直接会いに来てくれる子がいい、と返された。

 ……人の好みはそれぞれだよな。


「で、これを雪姉に渡すのは構わないけど、読んでくれるかどうかまでは保証しないぜ?」

「構わないさ。……本当は直接手渡したいんだけどな」

「……さすがに、それは厳しいな。雪姉、気持ちの整理がついていないみたいだから」

「だよな。というわけで、陸斗、よろしく」

「わかった。渡したらメールでもするか?」

「いや、それもいらないよ。悪いけど任せた」

「あいよ、任された。それじゃあな」


 陸斗は手紙を大事そうに持って帰っていった。

 さて、あとは手紙を雪音が読んでくれるかだな。


「……明日は早起きしなくちゃいけないし、今日はもう休むか」


 手紙の結果がどうであれ、俺のすることは変わらない。

 今日のところは、早めに寝て明日に備えよう。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 翌日、学校は休みなので、朝早くから近所の公園へと出かける。

 雪もちらほら降っているし、防寒対策は万全に。

 自分の意思で長時間出かけるのに、風邪をひいたらただのバカだ。


 向かう先の公園は、幼いころよく遊んだ場所。

 俺に雪音、秋穂、遥華、陸斗。

 五人で一緒にいろいろなことをして遊んだな。

 たいてい、陸斗か遥華が無茶をして秋穂に怒られていた。

 ……あの日は確か、遥華と陸斗が無茶をして怪我をしたから、母さんが家に連れて帰ってたんだっけ?

 俺もよく覚えてないや。


 さて、俺がそんな因縁めいた公園にやってきたのは、昨日渡した手紙で指定した場所だからだ。

 手紙には、今日の昼にこの公園で会いたい、と書いておいた。

 勿論、雪音が来てくれるかわからないし、そもそも読んでもらえるかも不明である。

 それでも、俺はこの場所に来たかった。

 自分にけじめをつけるためにも。



「……この公園も変わったな。……いや、俺のほうが変わったから、そう感じるだけか?」


 この公園は、冬場でも近所の子供たちの遊び場になっていた。

 そのため、誰がやっていたのかはわからないが、定期的に除雪されていて、公園として機能していた。

 だが、いまは雪に覆われており、中に入るのも難しい。

 ……これなら、見た目を気にせず長靴をはいてくるべきだったか。


「……まあ、この様子なら、公園の中に入れないし、ここで待つとするか」


 かじかむ両手をポケットの中につっこみ、俺はその場でじっと待つ。

 雪は降っているが、風はほとんど吹いていないので、そこまで寒いことはない。

 ……身体の芯まで冷えるのと、お昼が来るの、どちらが早いかな。


「……やっぱり、朝から来ていたんだね、悠くん」


 俺がここについてから、そんなに時間は経っていない。

 それなのに、俺の待ち人はここにやってきた。


「冷え込む中、待たせるわけにはいかないからな」

「……それを言うなら私もだよ。こっちで会うのは本当に久しぶりだね」

「ああ、そうだな。来てくれるか不安だったよ、雪音」


 やってきた雪音も、大分着ぶくれしている。

 あっちも、長時間ここで待つことを想定していたようだ。

 雪音の顔を見ると、俺の記憶にあるものより、少しやつれているように見える。

 やっぱり、夜中にうなされる日々が続いたのは、心身共に厳しいものがあるのだろう。


「……あの手紙を見たのは今朝なんだよ? 私が来なかったらどうするつもりだったの?」

「……さてな? 来なかったときは、その時だ。としか考えてなかった」


 実際、こなかったらどうするかは、あまり考えてなかった。

 雪音が来てくれることを信じていた、と言うより、そこまで考えがおよんでいなかった、と言うべきか。


「相変わらず、行き当たりばったりなところがあるよね。悠くんは」

「だな。……それで、来てくれたってことは、俺と話をしても大丈夫なんだよな?」

「……たぶん大丈夫だと思うよ。ダメだったときは……、救急車を呼んでもらえるかな?」


 雪音の顔色もイマイチすぐれないが、体調だけでなく心のほうも大分弱っているようだ。

 ……これは早めに話を終わらせないとな。


「雪音、この場所を覚えているか?」

「うん、思い出したよ。秋穂お姉ちゃんたちと一緒に遊んでいた公園だよね」

「ああ。あの事件があってから、一切近づかなくなったけどな」

「そうだね。……やっぱり、私を気遣って?」

「それもあるけど、俺たちも近づきたくなかったんだよ」


 最初は、少しずつ記憶を埋めていく。

 お互いに、記憶の底に沈めていた思い出を呼び起こすために。


「いつも遥華と陸斗が無茶をして大変だったな」

「そうだね。ブランコから飛び降りて怪我をしたときは、本当に大変だったよ」


 ……それは確か陸斗だな。

 遥華は、ブランコから飛び降りても難なく着地してたし。


「あとは……回転遊具で振り落とされたりとか?」

「……なんだか、陸斗の過去ばかり思い出すな」

「そのたびに、私たちが面倒を見てたからね」


 あのころの陸斗は、本当にやんちゃだった。

 同時に、怪我をしても平然としていたが。


「……そろそろ本題に入ろう? このまま思い出を話し合っていたら、風邪をひくよ?」

「……だな」


 俺も覚悟を決めるとしよう。

 このあとどうなるかなんて、すべてが終わったあと考えればいい。


「まずは、雪音。俺たちは、別れたほうがいいと思うんだ」


 最初なのに重い言葉を告げる。

 ここからじゃないと、なにも始まらない。


「……そうだよね。私が、いつまでもお姉ちゃんの代わりを務めるわけにはいかないよね」

「ああ。もう、秋穂の影を追うのは、お互いにやめにしよう」


 秋穂のことは俺も引き摺っていた。

 雪音が一緒にいることで、秋穂の影を雪音の中に見つけて、安心していたんだ。

 秋穂がいまでも一緒にいると。


「……つらいけど、仕方がないよね。一緒にいられなくなるのは寂しいけど」


 雪音はうつむきながらも、別れを了承してくれる。

 雪音も覚悟を決めてきたのだろう。

 弱々しいが、はっきりとした意思を感じられるから。


 さて、これで一段落。

 ……ここから先が、大勝負だ。


「それでだ、雪音。……あー、その」

「なに?」

「……うん、なんだ」


 ……覚悟を決めてきたつもりだけど、やっぱりためらってしまう。

 これほど一言を告げるのが恐ろしいとは思わなかった。

 昨日の陸斗の話、笑えないな。


「……どうかしたの?」

「ああ。……雪音、改めてお願いする。俺と付き合ってくれないか?」

「えっ?」


 うん、ちゃんと言えた。

 これは手紙で書くわけにはいかなかったから。

 自分の言葉で伝えたかったんだ。


「……さっきは別れようって言ってたのに?」

「……秋穂の影を追って一緒にいるのはやめにしたかったんだ。雪音と一緒にいたくないわけじゃない」

「……なにそれ。都合がいいよね?」


 雪音はほんの少しだが、笑みを浮かべている。


「確かに都合がいいな。でも、やっぱり、雪音がそばにいてくれると楽しいんだよ」

「……そうなの?」

「ああ。俺にとっては、それが大事なんだ」

「そっか。そうなんだ」


 ああ、そうだ。

 結局、雪音がいないと、俺もダメなんだ。


「……わかったよ、悠くん。私も一緒にいたい」

「そうか。……よかった」


 ああ、チクショウ。

 手紙じゃなくて、直接伝えるって、本当に勇気がいるな。


「……ねえ、さすがに冷えてきちゃった。どこかで温かいものでも食べない?」

「どこか、と言ってもコンビニくらいしか近くにないけどな」

「じゃあ、そこで。私、あんまんが食べたい」

「わかった。行くとするか」

「うん。悠くんのおごりね?」

「はいはい。さあ、行こう」


 ……結局は、元に戻っただけ。

 それでも、きっと。

 前までとは、なにかが違うはずと信じて。


 さっきまで降っていた雪は止み、雲の隙間から青空も見え始めていた。



**********



365_2話終了

次話の更新は21時頃を予定



~あとがきのあとがき~



書き上がったぞ、コンチクショウ!!

できれば二千文字未満に抑えたいとか言ってたバカはどいつだ!!

結局、四千文字近いじゃないか!!


……次話はエピローグです。

本当は、この話の最後に書きたかったんよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る