365-2.Unlimited Sky, Infinity World
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本日2話目の更新
昨日から連続更新しています
まだ読んでいない方は昨日の1話目からどうぞ
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病院へ行き、逸る気持ちを抑えつつリハビリを行った。
まあ、結果は散々だったけど。
家に帰った後は部屋で一通の手紙を書く。
レターセットのような洒落たものがあるのは、妹様のおかげだ。
リハビリに行く前にメールで伝え、買ってきてもらった。
慣れない手書きの手紙をなんとか書き終え、陸斗を呼び出す。
陸斗は、丁度晩ご飯を食べ終えたところだったらしく、面倒くさがりながらも家に来てくれた。
「悠、聞いたぜ、雪姉に会えたんだってな」
「雪音から聞いたのか?」
「ほかに誰から聞くんだよ。……まあ、会ったってことしか話してくれなかったけど」
「そっか。まあ、まともに話はできなかったからな」
「雪姉もそう言ってたな。平気そうな顔をしてたが、内心は穏やかじゃないと思うぜ」
陸斗は努めて明るく話してるけど、内容は結構重い。
口調まで重くならないようにしてるのは、陸斗なりの気遣いだろう。
「それで、俺を呼び出したのはなんの用だ?」
「ああ、これを雪音に渡してほしくて」
「……? 手紙か? 今の時代に手紙なんて、よく書いたな」
「陸斗だって、ラブレターをもらったことはあるだろう?」
「……よく知ってるな。基本的に、もらってもそれだけだが」
おや、一度くらいは会いに行ったことはないのかな?
それを聞いてみると、自分から直接会いに来てくれる子がいい、と返された。
……人の好みはそれぞれだよな。
「で、これを雪姉に渡すのは構わないけど、読んでくれるかどうかまでは保証しないぜ?」
「構わないさ。……本当は直接手渡したいんだけどな」
「……さすがに、それは厳しいな。雪姉、気持ちの整理がついていないみたいだから」
「だよな。というわけで、陸斗、よろしく」
「わかった。渡したらメールでもするか?」
「いや、それもいらないよ。悪いけど任せた」
「あいよ、任された。それじゃあな」
陸斗は手紙を大事そうに持って帰っていった。
さて、あとは手紙を雪音が読んでくれるかだな。
「……明日は早起きしなくちゃいけないし、今日はもう休むか」
手紙の結果がどうであれ、俺のすることは変わらない。
今日のところは、早めに寝て明日に備えよう。
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翌日、学校は休みなので、朝早くから近所の公園へと出かける。
雪もちらほら降っているし、防寒対策は万全に。
自分の意思で長時間出かけるのに、風邪をひいたらただのバカだ。
向かう先の公園は、幼いころよく遊んだ場所。
俺に雪音、秋穂、遥華、陸斗。
五人で一緒にいろいろなことをして遊んだな。
たいてい、陸斗か遥華が無茶をして秋穂に怒られていた。
……あの日は確か、遥華と陸斗が無茶をして怪我をしたから、母さんが家に連れて帰ってたんだっけ?
俺もよく覚えてないや。
さて、俺がそんな因縁めいた公園にやってきたのは、昨日渡した手紙で指定した場所だからだ。
手紙には、今日の昼にこの公園で会いたい、と書いておいた。
勿論、雪音が来てくれるかわからないし、そもそも読んでもらえるかも不明である。
それでも、俺はこの場所に来たかった。
自分にけじめをつけるためにも。
「……この公園も変わったな。……いや、俺のほうが変わったから、そう感じるだけか?」
この公園は、冬場でも近所の子供たちの遊び場になっていた。
そのため、誰がやっていたのかはわからないが、定期的に除雪されていて、公園として機能していた。
だが、いまは雪に覆われており、中に入るのも難しい。
……これなら、見た目を気にせず長靴をはいてくるべきだったか。
「……まあ、この様子なら、公園の中に入れないし、ここで待つとするか」
かじかむ両手をポケットの中につっこみ、俺はその場でじっと待つ。
雪は降っているが、風はほとんど吹いていないので、そこまで寒いことはない。
……身体の芯まで冷えるのと、お昼が来るの、どちらが早いかな。
「……やっぱり、朝から来ていたんだね、悠くん」
俺がここについてから、そんなに時間は経っていない。
それなのに、俺の待ち人はここにやってきた。
「冷え込む中、待たせるわけにはいかないからな」
「……それを言うなら私もだよ。こっちで会うのは本当に久しぶりだね」
「ああ、そうだな。来てくれるか不安だったよ、雪音」
やってきた雪音も、大分着ぶくれしている。
あっちも、長時間ここで待つことを想定していたようだ。
雪音の顔を見ると、俺の記憶にあるものより、少しやつれているように見える。
やっぱり、夜中にうなされる日々が続いたのは、心身共に厳しいものがあるのだろう。
「……あの手紙を見たのは今朝なんだよ? 私が来なかったらどうするつもりだったの?」
「……さてな? 来なかったときは、その時だ。としか考えてなかった」
実際、こなかったらどうするかは、あまり考えてなかった。
雪音が来てくれることを信じていた、と言うより、そこまで考えがおよんでいなかった、と言うべきか。
「相変わらず、行き当たりばったりなところがあるよね。悠くんは」
「だな。……それで、来てくれたってことは、俺と話をしても大丈夫なんだよな?」
「……たぶん大丈夫だと思うよ。ダメだったときは……、救急車を呼んでもらえるかな?」
雪音の顔色もイマイチすぐれないが、体調だけでなく心のほうも大分弱っているようだ。
……これは早めに話を終わらせないとな。
「雪音、この場所を覚えているか?」
「うん、思い出したよ。秋穂お姉ちゃんたちと一緒に遊んでいた公園だよね」
「ああ。あの事件があってから、一切近づかなくなったけどな」
「そうだね。……やっぱり、私を気遣って?」
「それもあるけど、俺たちも近づきたくなかったんだよ」
最初は、少しずつ記憶を埋めていく。
お互いに、記憶の底に沈めていた思い出を呼び起こすために。
「いつも遥華と陸斗が無茶をして大変だったな」
「そうだね。ブランコから飛び降りて怪我をしたときは、本当に大変だったよ」
……それは確か陸斗だな。
遥華は、ブランコから飛び降りても難なく着地してたし。
「あとは……回転遊具で振り落とされたりとか?」
「……なんだか、陸斗の過去ばかり思い出すな」
「そのたびに、私たちが面倒を見てたからね」
あのころの陸斗は、本当にやんちゃだった。
同時に、怪我をしても平然としていたが。
「……そろそろ本題に入ろう? このまま思い出を話し合っていたら、風邪をひくよ?」
「……だな」
俺も覚悟を決めるとしよう。
このあとどうなるかなんて、すべてが終わったあと考えればいい。
「まずは、雪音。俺たちは、別れたほうがいいと思うんだ」
最初なのに重い言葉を告げる。
ここからじゃないと、なにも始まらない。
「……そうだよね。私が、いつまでもお姉ちゃんの代わりを務めるわけにはいかないよね」
「ああ。もう、秋穂の影を追うのは、お互いにやめにしよう」
秋穂のことは俺も引き摺っていた。
雪音が一緒にいることで、秋穂の影を雪音の中に見つけて、安心していたんだ。
秋穂がいまでも一緒にいると。
「……つらいけど、仕方がないよね。一緒にいられなくなるのは寂しいけど」
雪音はうつむきながらも、別れを了承してくれる。
雪音も覚悟を決めてきたのだろう。
弱々しいが、はっきりとした意思を感じられるから。
さて、これで一段落。
……ここから先が、大勝負だ。
「それでだ、雪音。……あー、その」
「なに?」
「……うん、なんだ」
……覚悟を決めてきたつもりだけど、やっぱりためらってしまう。
これほど一言を告げるのが恐ろしいとは思わなかった。
昨日の陸斗の話、笑えないな。
「……どうかしたの?」
「ああ。……雪音、改めてお願いする。俺と付き合ってくれないか?」
「えっ?」
うん、ちゃんと言えた。
これは手紙で書くわけにはいかなかったから。
自分の言葉で伝えたかったんだ。
「……さっきは別れようって言ってたのに?」
「……秋穂の影を追って一緒にいるのはやめにしたかったんだ。雪音と一緒にいたくないわけじゃない」
「……なにそれ。都合がいいよね?」
雪音はほんの少しだが、笑みを浮かべている。
「確かに都合がいいな。でも、やっぱり、雪音がそばにいてくれると楽しいんだよ」
「……そうなの?」
「ああ。俺にとっては、それが大事なんだ」
「そっか。そうなんだ」
ああ、そうだ。
結局、雪音がいないと、俺もダメなんだ。
「……わかったよ、悠くん。私も一緒にいたい」
「そうか。……よかった」
ああ、チクショウ。
手紙じゃなくて、直接伝えるって、本当に勇気がいるな。
「……ねえ、さすがに冷えてきちゃった。どこかで温かいものでも食べない?」
「どこか、と言ってもコンビニくらいしか近くにないけどな」
「じゃあ、そこで。私、あんまんが食べたい」
「わかった。行くとするか」
「うん。悠くんのおごりね?」
「はいはい。さあ、行こう」
……結局は、元に戻っただけ。
それでも、きっと。
前までとは、なにかが違うはずと信じて。
さっきまで降っていた雪は止み、雲の隙間から青空も見え始めていた。
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365_2話終了
次話の更新は21時頃を予定
~あとがきのあとがき~
書き上がったぞ、コンチクショウ!!
できれば二千文字未満に抑えたいとか言ってたバカはどいつだ!!
結局、四千文字近いじゃないか!!
……次話はエピローグです。
本当は、この話の最後に書きたかったんよ……
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