358.決勝トーナメント抽選会

「お帰りなさい、トワくん」

「ただいま。そっちの試合は終わってたのか」

「というか、トワの試合が長引き過ぎね」

「そうそう。予選終了時間ギリギリだったよー」


 観戦スペースまで戻ると、『ライブラリ』のメンバーから祝福と注意を受けた。

 星夜、霧椿と連戦していたため、想像以上に時間がかかっていたらしい。

 最後の二人も予選終了直前だったから、割り込んできたんだろうか。


「それよりも、ユキは勝ち残れたのか?」

「うん、なんとか勝ち残ることができたよ」

「なんとか、ねえ。十分余裕があったように見えるけど」

「じゃのう。トワと戦えるだけあって、対人戦はお手の物のようじゃな」

「そんなことないですよ。たぶん」


 ユキたちの会話を聞く限り、あちらは大分早めに終わっていたようだ。

 俺の試合には二つ名持ちが三人も集まっていたのだから、ある意味仕方がないと思うのだけど。


「ユキの試合には二つ名持ちがいなかったのか?」

「えーと、たぶん、いなかったんじゃないかな?」

「そうじゃの。いたとしても、絞り込まれる前に敗退したのじゃろう」

「予選の出場者名簿はないからね。……それで、トワとユキはこのあとどうするの?」


 うーん、予選が思いのほか早く終わってしまったし、特にやることもないんだよなぁ。

 さて、どうしたものか。


「失礼するのである。トワくんたちはいるかね?」

「……教授? 一体何のようだ?」


 どうするか悩んでいたところにやってきたのは、教授だった。

 はて、なにか用事があったのだろうか?


「いるけど、どうかしたのか?」

「そうであるな。まずは、おめでとうと言っておくのである」

「……ありがとうよ。それで、本題は?」

「いつぞやの【学術都市】の一件を覚えているかね?」


 ……【学術都市】といえば、ガーゴイルの件があった場所か。

 えーと、なんだったかな。


「何かあったっけ?」

「……やはり、忘れていたのであるな。ガーゴイルの件で住人NPCから逆恨みを受け、襲撃された話であるよ」

「ああ、そんなこともあったなぁ」

「すっかり忘れてたね、トワくん」


 あのあと、すぐにハロウィンイベントに突入したから、完全に覚えてなかったよ。


「それで、錬金術ギルドからお詫びの品をもらえることになっていたのである」

「なるほど。それの受け取りに行くのか?」


 時間も余っているし、ちょうどいい。

 だが、教授の答えは違っていた。


「いや、もうもらってきたのである。その分配を決めたいのであるよ」

「了解。ここでやっても構わないのか?」

「私は構わないのである」


 ふむ、俺もあまり気にしない。

 移動するのも面倒だし、ここで決めてしまうか。

 ほかのメンバーも興味があるのか、こっちを見てるが、あまり問題にはならないだろう。


「わかった。それじゃ、ここで分配を決めてしまおう」

「それでは分配をするのである。もらってきたアイテムであるが……」


 教授が教えてくれたリストは、ガーゴイルとガーゴイル・ブースターそれぞれ一つ分の鉱石、それに大量の薬草類であった。

 リストを教えてくれたあと、教授はメガネを気にしながら話を続ける。


「私としては、ガーゴイルの素材をもらいたいのであるよ。無論、それに見合った金額は支払うのである」

「俺は構わないが。ユキは?」

「私も大丈夫ですよ。……でも、なにに使うんですか?」

「もちろん、ガーゴイルを作るのであるよ。事情が変わって、検証用に一つ用意しておきたいのであるからな」

「そうか……。ってことは、ガーゴイルの作製も必要か?」

「そちらは大丈夫であるよ。『インデックス』の錬金術士で、ガーゴイルの製法を知っている者がいるのである」

「わかった。ガーゴイルの種類で選びたかったら呼んでくれ」

「了解である。あとは、ガーゴイル・ブースターと薬草であるが……」


 うーん、俺はガーゴイル・ブースターの素材、いらないしな。

 ほかの物をもらおう。


「俺は薬草だけもらえればいいや。ガーゴイル・ブースターの素材は放棄するよ」

「私も必要ないですね。……教授さんが買い取ってもらえれば、収まりますけど」

「では、そうさせてもらうのである。ガーゴイル・ブースターもあとで作ってもらうのであるよ」

「それじゃ、この話はここまでだな。教授、一緒に観戦していくか?」

「ではお言葉に甘えるのであるよ。『インデックス』では、観戦スペースを用意していないのであるからな」


 教授も一緒となったし、俺も予選を最後まで観戦していくか。

 決勝トーナメントの抽選会は、予選が終わったらすぐやるらしいし。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



『決まったー! オープンクラス、最後の勝ち上がりは、【双腕】仁王選手、【深淵】ホリゾン選手!!』


 どうやら、最終戦の結果も出たようだ。

 結果としては、仁王とホリゾンが勝ち上がり。

 妥当と言えばそれまでの結果かな。


『それでは、決勝トーナメント抽選会を開始いたします! 決勝トーナメントに勝ち残った選手は集合してください!!』

〈抽選会場に転移します。よろしいですか?〉


 どうやら、俺たちも出番らしい。

 さくっと行って、終わらせてきますか。


「お、俺も呼ばれたな」

「わたしもだ。……シードでも抽選会には出なきゃだしね」


 結局、予選の終わりまで一緒にいたハルとリクも呼ばれたようだ。

 ……予選会の間は割と静かだったけど、なにをしてたんだろう。


「それじゃ、ちょっと行ってくる」

「行ってきますね、皆さん」

「行ってらっしゃーい」

「早々に負けるようなくじを引かないようにね」

「頑張ってね、トワっち、ユキちゃん」


 残る皆に見送られて、抽選会場に移動。

 そこには予選を勝ち抜いた強豪たちが勢揃いしていた。


「うーん、やっぱりこれだけのプレイヤーが集まると楽しそうだね、お兄ちゃん!」

「……俺はめんどくさくなってきたよ」


 勝ち上がった面々のほとんどは二つ名持ち。

 つまり、個人でそれだけ目立つメンバーというわけで……。

 それと戦うとか、考えただけで面倒だ。


「やあ、トワ君。オープンクラスに出てくるとは思わなかったよ」

「こんにちは、白狼さん。俺も参加すると思ってませんでしたからね」


 話しかけてきたのは、白狼さん。

 あちらはいつも通りの表情で、緊張を感じさせない。


「決勝トーナメントからは眷属ありらしいし、できれば君と戦ってみたいね」

「……前回大会のエキシビションで負けてますし、それで勘弁してください」

「できれば本戦で戦ってみたいんだよね。じゃあ、お互い全力で頑張ろう」


 白狼さんは、手を振って去っていく。

 そのあとも、何人かに話しかけられたけど、さすが本戦に残っているだけあって、全員緊張してる様子は見受けられなかった。

 ……一番緊張しているのは、ユキかな。


『お待たせしました! それでは決勝トーナメント抽選会を開始します!!』


 実況の宣言と共に掲示板が現れ、そこにトーナメント表が表示される。

 どうやら、シードされたメンバーも一回戦から出場するらしい。


『それでは、名前を呼ばれた選手からどうぞ! まずは前回大会一位、ハル選手!』

「はーい、それじゃ行くよー」


 ハルが引いた番号は十二番。

 出番としては、真ん中あたりかな。


 そのあとも、次々とくじを引いていき、一回戦の対戦カードも段々決まっていく。

 ハルの一回戦は仁王、リクの一回戦は次元弐となかなかの好カードとなった。

 リクの試合は、前回の三位決定戦と同じカードということで、一段と盛り上がった。


『次はトワ選手、よろしくお願いします!』


 どうやら、俺の出番がやってきたようだ。

 トーナメント表は半分近く埋まっており、誰が相手になるかはすぐに決まりそう。


「それじゃあ……これだ」

『トワ選手の引いた番号は一番! 第一試合からの出場だ!』


 ありゃ、また最初からか。

 そして、まだ対戦相手は埋まってないのな。


『それでは霧椿選手、お願いします!』

「さて、できれば二番を引いてみたいものだね」


 霧椿の引いた番号は……。


『霧椿選手、二番! 第一回戦第一試合でトワ選手とのバトルだ!!』


 ……まじか……。


「さて、トワ。予選では邪魔が入ったけど、今回は勝負が決まるまでとことんやるよ」

「……お手柔らかにな。霧椿」


 ともかく、決まってしまったものは仕方がない。

 全力を持って、霧椿に勝ちにいこう。



**********




~あとがきのあとがき~



ひゃっはー、一戦目から霧椿だぜ!

……うん、サイコロの神様は甘くなかった。


ちなみに、1d6ダイス結果は1。

用意していた対戦表。


1:霧椿

2:次元弐

3:ハル

4:リク

5:ターフ(シューティングスター)

6:ユキ


でした。


一番勝ち目のない試合だよ!

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