359.決勝トーナメント第一回戦

 俺の対戦相手が決まったわけだが、全選手の対戦相手が決まったわけではない。

 残った選手がくじを引いていく中、ユキは第二試合に決まっていた。

 対戦相手は……ターフか。

 確か、シューティングスターのプレイヤーだったはず。

 あっちはあっちで軽く話しているようだ。

 こっちは……さっきから、獲物をロックオンしたような眼光が届いている。


『さて、これで第一回戦の組み合わせは決まったぞ! なお、第二回戦開始前にも対戦相手はシャッフルするから、勝ち上がった選手はそのつもりで挑んでね!!』


 どうやら、勝ち上がったとしても、ユキの試合の勝者とそのままぶつかるわけじゃないらしい。

 めんどくさいというか、ワクワクするというか。


『第一試合は、このあと十分後に試合開始だ! 野郎ども、準備は手早く頼んだぜ!!』


 試合開始までの猶予時間は十分か。

 急いで戻って、ポーション類を調整しておかないと。


「悪いけど、一度戻って準備させてもらうよ。霧椿」

「おう! じゃあ、またあとでな」


 お互いに舞台上から姿を消し、準備時間に入る。

 俺は大急ぎで工房まで戻り、ポーション類の入れ替えを行った。

 対魔法系ポーションを少なめに、対物理ポーションを多めに変更したのだ。

 基本的に、霧椿の戦い方は物理一辺倒、特殊スキルで魔法攻撃が混じる程度だろう。

 それならば、対物理ポーションを多めに持っていったほうがいい、という判断だ。

 そのほかにも、実弾系のアイテムを普段使っているミスリル弾からアダマンタイト弾に持ち替える。

 これだけで、攻撃力はかなり上がるのだから銃は便利である。

 勿論、コストも高いけど。


 それらの作業をしている間に、試合開始時刻ギリギリになってしまったようだ。

 システムメッセージには、試合会場への転送許可メッセージが表示されている。

 これ以上、準備に費やす時間もなさそうなので、試合会場へと移動。

 そこは熱気に包まれた武闘大会の舞台だった。


「来たね、トワ。アンタとの直接対決は初めてだね。腕がなるよ!」

「それはどうも。できる限り頑張らせてもらうよ。一瞬で勝負が決まる可能性だってあるわけだし」

「それもそうだ。だから、一瞬で終わるなんてヘマはしないでくれよ!!」


『両者、舞台に揃いました! 試合開始時刻となりましたので、カウントダウンを開始します!!』


 霧椿は相変わらずの大太刀を構え、試合開始の合図を待っている。

 おそらく、試合開始と同時に突進技で斬りかかってくる算段だろう。

 だが、それだけは防がせてもらわないとな。

 逆を言えば、それに失敗すると一気に負けることもあるわけで。


 ……3・2・1・START!!


「いくよ! 円刃!!」


 霧椿はジャンプして回転しながら斬りかかってきた。

 これが、あのスキルの効果なのだろう。

 実際、走って接近するよりも早いし、ステップを使うより柔軟性は高い。

 ステップは発動してしまうと、決まった方向に決まった距離だけしか移動できないのがな……。

 さて、黄昏れてないでサクッと対抗策を講じよう。


「眷属召喚・降魔!」


 俺の目の前、霧椿と俺の間に、巨大な石像が出現する。

 するとどうなるかというと……。


「ちっ! でぇい!!」


 霧椿は進行方向上にいる降魔を攻撃せざるを得ないのだ。

 勿論、降魔のほうも、こんな見え見えな攻撃はタワーシールドで受け止める。


「やっぱり出してきたね、眷属。てっきり、フェンリルだと思っていたけど」

「スピード重視なら、そっちのほうがいいんだろうけどね。今回は防御重視でいかせてもらうよ」

「へっ、どっちにしても倒さなきゃ話は進まないか。いくよ!」

「おう、かかってこい!」


 次の攻撃が当たる前、降魔にアンチフィジカルポーションとレジストフィジカルポーションの、二大物理バリアは貼らせてもらう。

 それから、自分にも同じアイテムを使っておき、万が一の備えとしておく。

 そのほか、自分にはDEXブースターや、視認能力が上がるサイトブースターも使用する。

 これで、霧椿の動きも追いやすく……なってくれるだろう。


「ははっ! 眷属を相手にするのも悪くはないね!」


 そうこうしている間にも、霧椿の勢いは止まらず、降魔のHPをガリガリと削っていく。

 あちらの攻撃はタワーシールドで受け止めているが、それでもダメージが積み重なっている。

 それだけ霧椿の攻撃力が凄まじいというわけだ。


「このっ……! ロックオン、ハイチャージバレット!」


 射線を確保し、霧椿に攻撃を仕掛ける。

 だが、その攻撃は読まれていたのか、太刀で弾かれて無効化された。

 でも、こちらの狙いは、攻撃を弾かせることだったので問題ない。


「いまだ! 降魔、攻撃開始!」


 降魔が武器を両手斧に持ち替え、霧椿に攻撃を始める。

 両手斧を使った重い連撃が霧椿の動きを制限し、そこを狙って俺が狙撃を行う。

 霧椿は降魔の攻撃を受け止めるので精一杯のため、俺の攻撃まで手が回らないようだ。

 数発は躱されたが、霧椿に攻撃が当たる回数も増えている。

 だが、同時に、霧椿が降魔に反撃を加える回数も増えてきており、降魔のHPはかなり危険な状態まで減っていた。


「そろそろ替え時か。降魔、送還。召喚、シリウス!」

「アウォォン!!」


 眷属を倒されてしまうと、再召喚の制限がかかってしまう。

 でも、倒される前に送還すれば、連続で別の眷属を出せるというわけだ。


「次はフェンリルか! さあ、かかってきな!!」


 霧椿はすでに臨戦態勢を整えており、こちらの様子を窺っている。

 あちらから仕かけてこないようだし、遠慮なく先手は取らせてもらおう。


「いくぞ、シリウス!」

「ガゥッ!」


 俺はシリウスに騎乗し、高速移動しながら銃撃を加えていく。

 霧椿はほとんどの攻撃を弾いていくが、全部を受け止められるものでもない。

 そして、こちらは隙を見つけると、刀での接近戦も行っており、文字通りの高速戦闘となっていた。


「さすがに、この状況はまずいね! こちらからも行くよ!」


 霧椿は遠距離スキルの飛燕刃でこちらの動きを止めると、瞬歩で一気に近づいてきた。

 そして、そこから力任せの大振りで俺の身体を吹き飛ばし、シリウスから強制的に下ろされた。


「さて、これで少しはマシになったかね。いくよ、トワ!」


 引きずり下ろされたあとは、霧椿の間合い。

 各種スキルも混ぜ込んだ、霧椿の強烈な連撃が俺を襲ってくる。

 俺も基本的には攻撃を弾き、弾ききれない攻撃のみガードしていく。

 それでも、じわじわとダメージを受けていく。

 まだ、アンチフィジカルポーションもレジストフィジカルポーションも効果を失っていない。

 なのに、これだけダメージを受けるとは。

 まともに攻撃を受け止めていたら、すでに負けているだろう。


「グガァァ!」

「ああ、まだフェンリルがいたね!」


 シリウスが霧椿に飛びかかり、隙を作ってくれたので、そのタイミングで逃げ出す。

 ただ、その一瞬の攻防でシリウスも大きなダメージを負ってしまい、これ以上の戦闘は難しくなってしまった。


「送還、シリウス。召喚、エアリル!」

「じゃーん! ようやくボクの出番!」


 俺の召喚に応じて現れたエアリルは、早速霧椿に魔法攻撃を始めていく。

 だが、あちらも魔法をすべて切り落としていっていた。


「マジックブレイクってそんなに連発できたっけ?」

「耐久力無限なら不可能じゃないさ!」


 ともかく、霧椿の動きが止まっているため、各種ポーションを再度使用して効果時間の延長をする。

 ポーションの使用が終わったら、俺も攻撃に参加したが、あまり有効打は与えられていない。


「トワ、そろそろMPがきついかも!」

「……仕方がないか。共鳴増幅、いくぞ!」

「アイアイサー!」


 霧椿の周りを飛び回りながら魔法を使っていたエアリルを呼び戻し、共鳴増幅の準備に入る。

 一方、魔法の雨から解放された霧椿は、こちらに向けて走り込んできた。


「共鳴増幅・サンダージャッジメント!!」


 現時点で使える、最大威力の雷属性攻撃が霧椿を襲う。

 あちらは、これもマジックブレイクで破壊しようとしたが、完全に打ち消すことはできなかったようで大きなダメージを受けていた。


「これでMP切れだね。さすがに、これ以上はきついかなー」

「わかった。お疲れ、エアリル」


 俺のほうも、エアリルが限界だったため送還しておく。


「どうやら、眷属は打ち止めのようだね」

「まあな。ここからは一対一だ」

「それは嬉しいね。いくよ!」


 そこからは完全に剣戟による戦いだった。

 間合いを多少離しても、すぐに霧椿が追いついてくるため、刀から銃に持ち替えている余裕がないのだ。

 お互いに武器の追加効果でジリジリHPを失っていく中、先に動いたのは俺だ。


「ウェポンチェンジ! 聖霊開放、紫電一閃!」

「甘いよっ!」


 うーん、十分に引き込んでから紫電一閃を使えたと思ったけど、バックステップで回避されたか。

 バックステップの距離でもほとんど無効化されるのが弱点だよな、紫電一閃。

 追加効果の感電状態は、すでに回復されたし。

 残りHPは俺が6割、霧椿が4割といったところか。

 割合だと俺の優位だけど、絶対値だと霧椿のほうが上だろうな。


「さて、そろそろギアを上げさせてもらうよ。オウカ流刀術、一閃!」

「おっと」


 霧椿の胴薙ぎを弾き、反撃に移ろうとしたが、あちらも連続攻撃を用意していた。


「ツキカゲ流刀術、望月、朔月!」

「おわっと!」


 胴薙ぎからの切り上げと切り下ろし。

 なんとか回避できたけど、かなり体勢を崩された。


参斬華さざんか!」

「くっ!」


 遂に攻撃をガードしなくちゃいけなくなった。

 連続攻撃だけあってかなりのHPを削られる。


「次! 上弦、下弦! 流水、瀑布!」

「このっ!」


 ツキカゲ流刀術、上弦、下弦、流水、瀑布。

 同じ流派スキルの連撃だけあって、逃げる隙がない。

 なんとか弾いているけど、このままじゃ追い込まれる。

 かといって、アイテムを使う隙ももらえないのだけど。


「オウカ流刀術、睡蓮、雪花!」


 今度はオウカ流刀術。

 弾くタイミングがつかめずに、ガードでやり過ごす。


「オウカ流刀術、塵桜!」


 今度は乱撃技の塵桜。

 回避も弾くこともできず、ガードを行うが、HPはさらに削られていく。


「ツキカゲ流刀術、朧十連!」


 今度はツキカゲ流刀術の奥義、朧十連。

 こちらは何度か見たことがあるので、半分は弾くことに成功。

 だが、残りHPは3割を切ってしまった。


「トドメだ! 聖霊開放、桜花咲夜!!」


 初見となる霧椿の聖霊開放。

 一撃目の切り上げはなんとかガードしたが、それで大きく体勢を崩す。

 そこからの連続攻撃をまともに受けてしまい、俺の残りHPはゼロになった。


『勝負あり! 決勝トーナメント第一試合、勝者霧椿選手!!』


 ……やっぱり、接近戦メインにされると霧椿には敵わなかったか。



**********



~あとがきのあとがき~



奇跡は起こらなかった。

さすがに、ダイスロールクリティカルなんて奇跡はなかった。


というわけで、トワっち一回戦敗退です。

ほかのメンバーなら勝ち目がまだ高かったのに。

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