357.オープンクラス開幕
「なんだ、オープンクラスは選手控室はないのか」
「予選に関してはないみたいだよ。決勝トーナメントはわからないけど」
「そうか。それなら皆のところに行ってるか」
「あ、わたしも行くー」
三連休初日、オープンクラスの初日でもあるこの日は、朝からオープンクラスの参加申し込みが行われていた。
正確には、申し込み済みプレイヤーの最終参加確認ではあるが。
「朝早めにログインしたけど、あまり意味なかったね、お兄ちゃん」
「だな。のんびり時間を潰すとするさ」
ハルと一緒に、予選開始までかなり早い時間に受付をすませてしまった。
そうなると、どこかで予選開始まで過ごさなくちゃいけないわけで。
とくにすることもない俺たちは、『ライブラリ』で借りている観戦スペースに移動することに。
この時間ではまだ誰もいないかと思っていたが、先客がいた。
「おはようトワくん。早いね」
「おっす、トワ。お前も早く来すぎたのか」
ユキとリクがすでにいたのだ。
リクのセリフから察するに、あちらも早めにすませようとして早く来たはいいが、時間を持て余している、といったところか。
「おはよう、ユキ姉、リク。わたしたちも早く来たけど、あまり意味なかったんだよねー」
「早く来てもあまり意味なかったな、お互いに」
「だな」
「そうだね」
俺たち四人とも、今日からの武闘大会ではライバルになる。
試合会場以外ではのんびりやらせてもらうけど。
「……そういえば、ハルとリクは予選シードじゃなかったか?」
「うん、シードだよ。受付は必要だから付いてきたけど」
「同じく。ま、予選で勝ち上がってきそうな連中でも見つけるさ」
「そうか、まあ、頑張れ」
「おうよ」
とくに目的もなく、武闘大会のことで話し込んでいると、柚月たちもやってきた。
「おはよう、皆。ずいぶん早いのね?」
「おはよう。リアルでやることもなかったし、早めに受付をすませたらこうなった」
「そうなんだー。控室に行かなくていいの?」
「予選は控室もないらしい」
イリスの質問に答えていると、予選の開始一時間前を知らせるメッセージが届いた。
予選は自分の番になると、転送メッセージが表示されて舞台上に移動するらしい。
参加者はそれまでに準備をすませる必要がある、とのこと。
「開始一時間前じゃな。準備は大丈夫かの、トワ、ユキ」
「俺は大丈夫。ポーションも十分に持ってる」
「私も大丈夫です。トワくんからもらったアイテムも準備できてます」
ユキが俺からアイテムを受け取ってることを告げると、柚月が反応した。
「ユキにもポーションを渡してあるのね」
「……ポーションだけでもないけどな」
「また、変わった物を渡したのね」
「それは試合までお楽しみってとこだな」
実際、ユキに渡したアイテムは、かなり珍しい物が多い。
対応できたなら、相手を褒めたほうがいい、といえる程度には。
「おっはよー。おや、トワっちとユキがまだいた」
「曼珠沙華、おはよう」
「おはようございます。曼珠沙華さん」
「おはよー。控室には行かなくていいの?」
「今回は控室がないそうだ」
「へー。ということはトワっちの解説が聞けるね」
「気が向いたらな」
おっさんは午前中は不在と聞いているから、これで全員揃ったのか。
急ぎの依頼は昨日で終わってるだろうし、全員時間はあるみたいだな。
―――――――――――――――――――――――――――――――
《武闘大会オープンクラス予選開始時間となりました。オープンクラス予選を開始いたします》
いろいろと話をしている間に、予選開始時間になったようだ。
さて、俺は何番目の試合に呼ばれることやら。
《第一試合および第二試合の参加者を会場へと転移させます。そのほかの皆様はもうしばらくお待ちください》
〈あなたは第一試合の出場になります。これより試合会場へと転送します〉
「お。どうやら第一試合が俺の出番のようだな」
「そうなんだね。……あ、私も第二試合に呼ばれたみたい」
俺は第一試合、ユキは第二試合か。
予選からぶつかり合わなくてよかった、と思っておこう。
「それじゃ、行ってくる。お互い頑張ろうな」
「うん。気をつけてね、トワくん」
ユキに一声かけて、転送された舞台上には俺以外にも多くの参加者がいた。
「……おいおい、なんで【魔銃鬼】がオープンクラスに出てるんだよ」
「マジか。……俺、終わった」
「いや、さすがに【魔銃鬼】でも、オープンクラスで戦えるほどレベルは高くないだろ」
「……だよな。まだ、望みはあるよな」
周りからそんな声が聞こえるが、俺としてはそんなこと関係ない。
決勝トーナメントに進むため、全員蹴散らすつもりで挑むだけだ。
『オープンクラス予選一試合目!! 一切の制限がないこのクラス、どんな熱戦が繰り広げられるのか!?』
実況が試合を盛り上げるために叫んでいる。
それにあわせて、試合の参加者は自分の武器を手に、あたりの様子を窺っていた。
『さあ、カウントダウンスタート!!』
試合開始のカウントダウンが始まると、全員の目つきがさらに鋭くなった。
俺も、武器をマギマグナムに変更して、試合開始の瞬間を待つ。
……3・2・1・START!!
試合開始と同時、多くの参加者たちが戦いを始める。
俺も襲撃に備えていたが、攻撃してくる相手はいなかった。
……前回の予選で開幕ブッパしすぎたせいかな。
「【魔銃鬼】、俺と勝負してもらう!」
「……おや、星夜か。そっちも暇だったのか?」
「ああ。いきなり襲ってきた相手もいたが、【原初魔術】と【精霊魔術】を覚えた俺の相手じゃない」
「……やっぱり、両方覚えてきたか」
「もちろんだ。さあ、始めるぞ!」
「まあ、いいか。それじゃあ、勝負だ【流星雨】!」
まさか、二つ名持ちと予選から当たるとは。
星夜は【原初魔術】の中でも発動が早いスキルを選んで弾幕を貼ってくる。
それに対して、俺はアンチマジックポーションとレジストマジックポーションで対抗、可能な限りの攻撃を撃ち落として相殺する。
「……さすがに、この程度の攻撃では届かないか!」
「わかってるなら、大技に切り替えたらどうだ? その程度じゃ、アンチマジックのダメージバリアを破るだけで予選が終わるぞ?」
「わかっているさ。行くぞ、メテオストライク!」
「メテオスウォームじゃないのか!?」
「単体相手ならこっちの方がいいのさ!」
どっちにしてもメテオ系だろう。
そう言いたかったが、さすがに回避しないとまずい。
なにせ、メテオ系魔法は物理ダメージ扱いなのだから。
俺目掛け高速で落下してくる隕石を、ほかのプレイヤーをかき分けるように回避する。
「な、ちょ」
「メテオ魔法!?」
「チクショウ! 【流星雨】もいたのか!?」
俺の後ろでメテオに巻き込まれた被害者がそれなりの人数いるようだが、問題はない。
むしろ、ライバルが減ったのでちょうどいい。
と、思っていたが、星夜は次のスキル準備が終わっていた。
「次だ、メテオレイン!」
「またメテオか!」
「当然だ! これが俺の戦い方だからな!」
今度は、先程よりも小さめな隕石が雨あられと降り注ぐ。
さすがに直撃するわけにはいかないので、星夜に向かいダッシュで近づいていく。
「やはりそう来たか!」
「当然! メテオは術者の近くには落ちないからな!」
文字通りの流星雨をかいくぐり、星夜に接近、武器を刀に持ち替えて攻撃に移る。
「ツキカゲ流刀術、壱の刃、望月!」
「なんの!」
こちらの斬撃に対し、星夜は杖でブロックすることでダメージを軽減する。
ブロックはされたが、輝竜装備の貫通効果とガードしきれなかったダメージで、星夜のHPは大きく削られたのだが。
「この威力、特殊流派か!」
「そういうこと! ツキカゲ流刀術、弐の刃、朔月!」
先程の切り上げから、切り下ろしへとつなげる。
今度はガードせずに回避することをえらんだようだが……さすがに甘いよなぁ。
「がッ!?」
「悪いね、朔月は衝撃波付きなんだ」
星夜は刀身自体は躱せても、広い範囲を攻撃する衝撃波までは躱しきれなかった。
魔術士タイプの星夜はこの攻撃で、ほとんどのHPを失い、続く連撃のダメージで敗退となった。
「悪いね、星夜。こっちは接近戦もできるんだよ」
星夜を討ち取って周囲を見渡すと、メテオレインの効果か、かなりのプレイヤーがリタイアしていたようだ。
あんなにごちゃごちゃしていた舞台上がスッキリしている。
「……さて、まだ予選が終わってないってことは、残りも倒していかなくちゃいけないんだよな」
「そういうことさ、トワ! 次の相手はあたしだよ!」
かなり遠くから一気に飛びかかってくる剣士、【剣豪】霧椿。
いまの技は……刀系のスキルかな?
ともかく、飛び込み斬り自体は隙だらけのため刀で弾き、反撃を繰り出す。
……もっとも、これも読まれていたみたいで、あっさり躱されたけど。
「まさか、オープンクラスに出場しているとはね、トワ。楽しみが増えて嬉しいよ!」
「そういう霧椿こそ、対人戦に参加なんて珍しいな。普段は対人戦なんて見向きもしないのに」
「いやぁ、あんたの妹と戦ったらなかなか楽しくてさ。こっちにも参加してみようと思ったんだよ!」
ええい、ハルのせいか!
ともかく、まずは霧椿を倒さないと。
「さて、始めるよ、トワ!」
「めんどくさいけど、仕方がないか。行くぞ、霧椿!」
霧椿の刀は大太刀オンリー。
なので懐まで入り込んでしまえば、かなり有利なんだけど……。
「ははっ、行くよ! オウカ流刀術、一閃!」
「ちっ、ツキカゲ流刀術、望月!」
お互いのスキルがぶつかり合い、派手な激突音を鳴らす。
それでも、ガン、というより、シャン、という音がするのは刀ゆえか。
ちなみに、いまの打ち合いだけでも俺のHPは一割ほど持っていかれた。
「いいねぇ。大抵のヤツじゃ、いまの攻撃を回避出来ないのにさ!」
「変なところで認められてもな!」
守勢に回れば圧倒的に不利。
このまま戦い続けるのもあまりいいことではないけど、逃がしてはくれないだろうしな。
「さあ、次、行くよ」
「ああ、わかったよ。勝負が決まるまで付き合おうじゃないか!」
そこから先は、ひたすら霧椿との戦闘となった。
まともにぶつかると、こちらのHPがガリガリ削られるので、相手の攻撃は弾き、こちらの攻撃は受けさせる。
そんな、息のつまる戦闘を続けていると、俺たちの間に割り込んでくる無粋なヤツがいた。
「こっの」
「邪魔するんじゃないよ!」
俺は霧椿の頭上を飛び越え、霧椿に斬りかかろうとしていたプレイヤーを切り飛ばす。
霧椿は、俺の後ろから迫っていたプレイヤーを倒したようだ。
『試合終了!! 勝者、トワ選手、霧椿選手!!』
どうやら、いまの二人が残りのプレイヤーだったようだ。
……水を差された形になったが、ともかく決勝進出だ。
「ちっ、あんたとの決着はつかなかったか。……まあ、決勝トーナメントでも当たる可能性はあるさね」
「そうだな。その時は、またよろしく」
「ああ。ハルの嬢ちゃんにもよろしくな」
……決勝トーナメントで当たったら、ガーゴイルに霧椿の相手は任せよう。
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