356.オープンクラスルール

「それじゃあ、今回の納品はこれで大丈夫だな」

「ああ。今回も助かった」

「素材と工賃を用意してもらえるなら拒まないさ」


 数日経って水曜日、ほとんどの依頼の納期が迫っているため、納品できるものから納品してしまう。

 いまは次元弐に頼まれていた銃5種類を渡しているところだ。


「……それにしても、やはりここで用意できる武器は凄まじい。攻撃力500ですら出てくるとは」

「逆をいえば、攻撃力500は普通に用意できるという意味でもあるけど」

「……それは恐ろしいな。やはり、遠距離攻撃は一撃必殺が基本か」


 銃にしろ弓にしろ、最長距離装備は攻撃力が倍近い。

 そうなると求められるのは、一撃ないし二撃で相手を倒せる技術だろう。


「超長距離はそうなる。中距離から近距離は……個人の好みだね」

「そうか。……竜帝装備も用意しておくべきだろうか?」

「どの竜帝なのかにもよるけど、お守りとして準備しておくのはあり。おすすめは猛毒付与の樹竜帝だけど」

「遠距離攻撃に猛毒のスリップダメージは厄介だな。……まあ、素材はないのだが」


 次元弐は肩をすくめながら、残念そうにため息を漏らす。

 素材があれば、サクッと用意してしまうのだけど、残念だ。


「……そういえば、オープンクラスに出場すると聞いたが本当か?」

「え? ああ、参加する予定だけど」

「……そうなると、予選も前回以上に厳しくなるな」

「そうでもないだろうさ。次元弐はシードじゃないのか?」

「ああ、シードだな。前回4位は伊達じゃなかった」

「ふーん。まあ、決勝でかち合わないように祈ってるよ」

「そうしてもらえるとありがたい。……それでは失礼する」


 納品された銃をしまい、次元弐が帰っていく。

 おまけで、ブーストポーションをいくつか渡したけど、役に立ってくれると嬉しい。

 ……さて、俺はこのあとどうするかな。


「おーい、トワっちいるー?」


 ドアの外から元気な声が飛んでくる。

 あいつは今日も元気だな。


「曼珠沙華か。どうかしたのか?」

「オープンクラスに参加するんでしょ? 装備とかルールの確認とか大丈夫?」

「装備は大丈夫だと思う。ルールはあとで確認しておくよ」

「そう? ほかのクラスとはかなり違うみたいだから、注意しておいた方がいいって」

「ありがとう。ちなみに、それはどこから仕入れた情報だ?」

「さっき、私の所に受け取りにきた人。なんでも、眷属も使えるらしいから、このあと眷属のレベル上げだって言ってたよ」


 眷属も使用できるのか。

 そうなると、俺も考えなくちゃいけないかな。


「わかった。そっちはどうするか考えるよ」

「おっけー。じゃあ、またねー」


 話したいことは終わったようで、曼珠沙華は帰っていった模様。

 さて、真面目にルールを確認しないとまずいかな。


「トワくん、こんばんは。今日はどうするの?」


 ルール確認をしようとしたところで、タイミングよくユキがログインしてきた。

 ちょうどいいし、ユキと一緒にルールを読んでみよう。


「こんばんは。今日はルールの確認をしておこうと思って」

「……ようやく確認するの? 私はもう終わってるよ」

「そっか。ともかく、俺はこっちがメインかな」

「わかったよ。私も生産作業が終わったら、確認するね」

「ああ。がんばってな」

「うん。またあとでね」


 ユキは料理を始めたので、邪魔にならないように、自分のスペースでルール一覧を開く。

 ルール一覧とは言っても、オープンクラスのルールは本当にわずかしかない。


 まずは全クラス共通の『回復アイテムの持ち込み禁止』だ。

 これはマイスターでも同じだったし、最初から確認しているので問題ない。


 次は『決勝トーナメントでの眷属使用許可』

 今回は決勝トーナメントまで勝ち上がれば、眷属を使って戦うことも許可されているらしい。

 ただし、召喚した眷属を撃破された場合、1分間の再召喚禁止が発生するとのこと。


 最後に『レベル制限について』

 これは、一切制限をしないというルールが書かれている。

 ほかのクラスは大なり小なり制限がされていたため、いちおう書いてある、という感じだ。


 以上がオープンクラスのルールらしい。

 ほとんどなんでもありなところ、頂上決戦っぽい。


「トワくん、ルール確認終わった?」

「……まあ、三行しかなかったからな」

「それもそっか。それで、今日はどうするの?」


 どうするかか。

 眷属も使えるとなると、用意するものが変わってくる。

 というかだ、遠距離職がタンクを用意していかないというのも問題だろう。


「ちょっと、ヒヒイロカネの坑道に行ってガーゴイルを鍛えてくる」

「それなら、私も一緒に行くよ。いいよね?」

「そうだな。目的は一緒だろうし、一緒に行くとするか」


 お互い、あとできることは眷属の強化だけだ。

 それなら、同行しても問題ないだろう。

 ……まあ、大会で戦う可能性もあるけどね。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「……さて、これくらいで大丈夫だろう」

「お疲れさま、トワくん」


 結局、ボスを戦わない形で三周ほどダンジョンを周回した。

 これだけで、ガーゴイルのレベルは30を超えて、目に見えていい動きをするようになった。

 レベル一桁のときは、ターゲットを取るのも難しかったのに。


「トワくんの眷属、基本はガーゴイルなの?」

「……あー、どうだろうな。状況次第だけど、メインはガーゴイルになりそうか」

「それじゃあ、ガーゴイル・ブースターはどうするの?」


 ああ、そんな補助装備もあったな。


「うーん。取り外し可能とはいえ、改良型を作る余裕もないし、そのままかな」

「イリスちゃんか柚月さんに借りるのは?」

「取り外しできなくなったときが恐いから、それはなし」

「そう。……今日はこれで終わり?」

「その予定だけど。ユキはなにかしたいことがあるのか?」

「えっと、戻ってドワンさんに頼んでおいた武器を受け取らなくちゃいけないかな」


 おや、ドワンに武器を発注していたのか。


「武器を新調したのか?」

「うん。といっても、メイン武器じゃないんだけど」

「……その辺は、武闘大会まで聞かないほうがよさそうだな」

「だね。大会で戦うことになったら手加減抜きだからね!」

「わかってるよ。それじゃあ、ここで解散だな」

「トワくん、また明日!」


 クランホームに帰っていくユキを見送り、俺はジパンの屋敷に移動する。

 最後の仕上げとして、ここの道場でガーゴイルを鍛えるためだ。


「さてさて、どこまでレベルが上がってくれるか……」


 その後、寝る時間ギリギリまで粘り、レベルを少しだけあげることができた。

 レベルが上がったことよりも、おまけで覚えたスキルがありがたかったけど。

 ともかく、これで武闘大会の準備は終わりかな。

 大会は明後日からだし、明日を最終調整に回せばどうにかなるだろう。

 妹様の口車に乗せられたのはあれだけど、出場する以上全力を尽くさせてもらおうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る