351.マイスタークラス決勝トーナメント準決勝
「来たな、イリス。今日は全力で頼むぜ」
「うん、よろしくねー。鉄鬼」
お昼ご飯を食べて、準決勝開始直前。
舞台の上で鉄鬼と挨拶を交わす。
相変わらず、鉄鬼の鎧はゴツゴツしてるね。
持ってる武器も、すごくゴツゴツした両手剣。
確か、鉄鬼の身長って二メートル近いはずなのに、刀身だけでそれを越えてる気がする。
あんな重そうな武器、よく扱えると感心しちゃうな。
「鉄鬼はこの試合も両手剣なんだ」
「ああ、そうだな。最近は、クランでタンクをやるときも両手剣を使ってるし、慣れだな」
「両手剣でタンクってできるの?」
「そこまで難しくもねーぞ? ただ、相手の攻撃を刀身で防いだり、こちらも攻撃して相殺したりとコツはあるが」
「そっかー。やっぱり大変そうだねー」
「だが、一撃の威力は片手剣の比じゃないからな。……まあ、ハーフリングじゃ装備するためのSTRを準備するだけでも一苦労だが」
得意げに解説してくれたけど、やっぱりハーフリングじゃ難しいかー。
このゲーム、種族差によるステータス補正が大きいし、その不足分を補おうとするといろいろ大変だもの。
まあ、両手剣を使うとか考えたことないから、いいんだけど。
『さて、両選手ともに準備はできたようだ! それでは、準決勝第一試合! カウントダウン、スタート!!』
実況の人が合図をすると同時に、カウントダウンが開始される。
この試合、勝つためにはどうしても開幕が大事になっちゃうから、気をつけないと……。
『……3……2……1……始め!』
「行くぜ、ハードスラッシュ!!」
「ていっ!」
鉄鬼の攻撃にあわせるように、ボクはポーションを投げつける。
あっちは、開幕直後の間合いを詰めるためにスキル攻撃をしてきていたため、ポーションを回避することはできなかった。
ポーションは当たると同時に爆発を起こして、鉄鬼をスタンさせることに成功した。
うん、まずは『スタンポーション』成功!
「さあ、次々行くよ!!」
「くそっ! トワお手製のポーション連射かよ!!」
スタンして動けない鉄鬼に向かい、ボクはポーションをひたすら投げる。
相手に効果を与えるポーション類は、相手に投げつけて当たらないと効果がないからね。
戦闘中にあてることは難しいだろうから、ここで使えるだけ使っておかないと!
「バックステップ。 ちっ、スリップダメージやら防御力減少やらバステてんこ盛りだな」
「だよねー。トワって、本気になるとえげつないよねー」
とにかく、バステ系のポーションを投げ続けたので、鉄鬼にもそれなり以上に効果があったようだ。
投げたポーションの種類は覚えてないけど。
「さすがにこれだけあると、解除できないバステも多いな。……仕方ねぇ、このまま勝負と行くか」
いくつかのバステは解除されたけど、さすがに全部は無理だったみたい。
さて、どれくらい残ってるのかな?
「……どうやら、この隙にバフ系のポーションも使い終わったみたいだな」
「うん。可能な限り使ったよ」
「なら油断はできねーな。もともと、手を抜くつもりもなかったが」
鉄鬼の目つきが一段と鋭くなった。
そろそろ、本格的な戦闘開始だね。
「それじゃ、行くぜ。フォワードステップ!」
「クイックアロー!」
フォワードステップで距離を詰められたので、クイックアローで反撃。
でも、両手剣で受け止められて有効打にはならなかった。
多少はダメージが入ったみたいだけど……鉄鬼のHPからすればかすり傷だね。
「今度はこっちからだ!」
「うわっとと」
鉄鬼の豪快なスイングが繰り出され、ギリギリでそれを躱した。
でも、あっちの攻撃はそれで終わらず、ものすごい勢いで剣を振り回してくる。
それも、なんとか躱しているけど……ポーションでステータス上昇をかけていなかったら、回避が間に合わなくてもう負けていたかも。
ポーションの効果時間は残り90秒くらいだから、それまでになんとかしないと。
「ウェポンチェンジ・輝竜弓、アローレイン!」
「なんの、スピンスラッシュ!!」
魔導弓に持ち替えて、アローレインを使ったけど、鉄鬼もスキルで対応してくる。
使ったのは攻撃スキルみたいで、ボクが放った矢をほとんど叩き落としてしまった。
無事だった何本かは鉄鬼に当たったけど、あまりダメージは与えてないみたい。
「クイックアロー!」
「おっと、あぶね」
スキル硬直時間を狙ってクイックアローで攻撃。
でも、危なげなく回避されてしまった。
「魔導弓で【短弓】スキルを使うか。【弓聖術】持ちだったとはな」
「隠しても仕方がないからね。勝負に出させてもらうよ」
いままでは【弓聖術】を隠すために武器をその都度変えてきたけど、これ以上隠すのは無理。
この試合に全力を傾ける!
『おっと、イリス選手、なにかをスキルを使用したのか? 見た目ではわかりませんでしたが……』
『そうでしょうね。イリス選手は【弓聖術】を覚えていたようです』
『弓聖術、ですか?』
『はい。ほかの武器種でも存在していますが、小分類ごとに区分されたスキルを、別分類の武器種で扱えるスキルです。たとえば、片手剣で両手剣専用のスキルを使うなどですね』
『なるほど。このスキルでイリス選手は優勢になるのでしょうか?』
『一概にはなんとも。どちらかというと補助スキルですので』
実況と解説が話をしてるけど、ボクはそれどころじゃない。
また激しくなった鉄鬼の攻撃を避けながら、時々反撃してる。
だけど、ボクの反撃はことごとく防御されて、あまりダメージは与えられていない。
逆に、小型の短弓から大型の魔導弓に持ち替えたことでボクの動きが鈍くなり、攻撃を避ける際にかすり傷を負うことが増えてしまった。
短弓に戻せば余裕ができると思うけど、あっちも連続攻撃のあとは一度離れるとか、緩急をつけているせいで短弓の攻撃範囲だと届くかどうか怪しいんだよね。
でも、このままじゃじり貧だし、ポーションの効果時間も残り少ない。
そろそろ、勝負に出ないと負けちゃう。
「そろそろポーションも時間切れだぜ。どうする、イリス!」
「だから勝負に出るよ。ブラストアロー!」
鉄鬼が接近してきたタイミングでブラストアローを使用。
相手にダメージを与えつつ、間合いを調整。
さあ、ここからが勝負!
「縮地、アッパーサイクロン!」
「甘い!」
大技アッパーサイクロンを使ったけど、あえなくガードされる。
アッパーサイクロンはきまると相手を吹き飛ばしてノックダウンにするけど、失敗すると……。
「わーっ!」
「……そういや、そういう魔法だったな、アッパーサイクロン」
自分が吹き飛ばされてしまうのだ。
それも真上じゃなく、斜め後ろ方向に。
ただ、ノックダウン効果はないので、空中でも使えるスキルで攻撃は可能!
「チャージアロー」
「今更、そんなのに当たるかよ!」
チャージアローを何発か放つけど、全部切り落とされた。
こうなったら、今のうちに……。
「ロケット……アロー!」
「やっぱりそう来たか! ダメージチャージ!!」
最大チャージのロケットアローは、鉄鬼に直撃した。
でも、鉄鬼の周りには赤色のオーラが発生していて、なんだか嫌な予感。
「かなり削られたな。まあ、いいか。リベンジエッジ!」
「え?」
鉄鬼が剣を振り下ろすと同時、ボクのHPがガクンと減った。
ギリギリ生き残ってはいるけど、本当にギリギリだ。
いまのスキルって一体!?
「耐えたか。最後、ドライヴンダー!」
鉄鬼の宣言通り、突進からの突きを受けてボクのHPはゼロになった。
そのあと、切り上げからの切り払いをやってたけど、ボクのHPは尽きていたしあまり関係ないね。
**********
~あとがきのあとがき~
1d100でクリティカルが出ればイリスの勝ちにしたけど、やっぱりクリティカルは出なかったよ。
それと技の解説を少しだけ。
ダメージチャージとリベンジエッジは次回、本編で解説してもらいます。
イリスが使ったポーションは割愛します。
(多すぎて解説ツライ)
ハードスラッシュ:【両手剣】スキル。基本となるダメージスキル。【片手剣】にも同名・同効果のスキルあり
スピンスラッシュ:【両手剣】スキル。体を回転させながらの三連切り。攻撃判定が少し広い
ドライヴンダー:【両手剣】スキル。切り・突き・切り払いの三連撃。使用順序は使用者が決めることができる。ちなみにドライヴンダーはドイツ語で『3種の傷を負わす者』って意味らしい。ドイツ語カコ(・∀・)イイ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます