343.イリス用決戦装備

「さて、明日は遂に武闘大会本番だが、準備はどうだ?」


 時間の許す限りイリスと対人戦を行い、イリスの戦い方も大分様になってきた。

 今日は武闘大会前日のため、訓練よりも準備の再確認に時間をとっている。


「うーん。やれるだけのことはやったかなーって思ってる」

「大丈夫ですよ。あんなに頑張ってたんですし、きっと勝てますから」

「ユキちゃん、ありがとー。でも、やっぱり緊張するねー」

「本戦前だし仕方がないさ。それよりも装備はどうなっているんだ?」

「ああ、装備。武器はもう作ってあって、訓練でも使ってたあの武器を持ち込むよー」

「なるほど。確かに、あの威力なら申し分ないか」


 武器となる弓については、いままで使い込んでいたものをそのまま使うらしい。

 対人戦のときも思ったが、弓の攻撃力は非常に高い気がした。

 具体的な攻撃力は聞いていないが、普段、市場などで見かけるそれとはわけが違うのだろう。

 いくら紙装甲の狐獣人だからって、三次職まで辿り着いているプレイヤーを一撃で瀕死にすることもあるのだから。


「となると、残りは防具の類いか」

「そうなるねー。そっちはドワンと柚月に丸投げだったけどー」

「あの二人か。まあ、曼珠沙華に比べれば暴走はしないだろう」


 二人とも、本気で装備を作れる機会ってかなり少ないからな。

 おそらく、技術の出し惜しみ抜きにして最高峰の装備を仕上げてくることだろう。

 それこそ布装備なのに、革鎧よりも防御性能が高いとか……


「あら、トワにユキ。あなたたちもイリスと一緒にいたの」

「おや、イリスにトワ、それにユキか。三人とも揃っておったとは、偶然じゃのう」

「トワっちたちが来るなんて珍しいねー」

「ああ。イリスと明日の本戦について少し話をしていたんだ」

「明日は遂に予選だからねー。トワに少し話を聞いてもらってたんだー」

「そう。それはよかったわね。私たちから渡す装備も完成してるわよ」

「本当? これで明日の勝負も問題なしだね!」

「まあ、そうなるわね。それじゃあ、装備の説明といきましょうか」


 柚月とドワンそれから曼珠沙華の三人は、談話室の机の上にさまざまな装備を並べ始めた。

 並べられた装備を見る限り、上半身はブレストアーマー、下半身はキュロットスカート、金属製の籠手にトレッキングシューズ、頭はサークレットのようなもの、となっている。

 どれもこれも、一切手抜きが見当たらない、まさに一級品だろう。


「さて、これが、今回イリスに作った装備だけど、ひとつひとつ順を追って説明するわ」

「よろしくねー。柚月ー」

「まずは、このブレストアーマーね。これは、『黒飛竜のスケイルアーマー』よ。名前の通り、黒飛竜……つまりは、黒いワイバーンのウロコを使ったスケイルアーマーよ。黒飛竜……正式名称はハイブラックワイバーンって言うんだけど、このウロコは物理攻撃に対しても魔法攻撃に対しても十分に高い性能を持っているわ。生半可な攻撃ならこの鎧だけで防げるわね」

「……ハイブラックワイバーンか。聞いたことのないモンスターだが」

「そうでしょうね。ハイブラックワイバーンが生息してるのは、帝国と王国の国境付近らしいから。私たちには馴染みのない場所よ」

「ああ、それを聞いて納得した。……ちなみに、自分で狩りに行く予定は?」

「いまは持ち込み分の素材だけで十分だから、大丈夫よ」


 かなり強力な素材のようだし、複数集めたいかと思ったら、持ち込み分だけで足りているらしい。

 どれくらいの量が持ち込まれているのだろうか。


「さて、次は下半身装備ね。こちらは『パールシルクのキュロットスカート』。その名前の通り、パールシルクっていう布素材をベースに作った装備ね。パールシルクは見た目も綺麗だけど、物理防御と魔法防御、どちらも高い優れものね。あとは、デバフ系のスキルをレジストする効果があるわ。それと、ハイブラックワイバーンの革を使って部分部分を補強しているわ」

「……あの、これってパールシルクで上半身装備を作ったほうがよかったんじゃないでしょうか?」

「ユキ、私がそれを考えないと思う?」

「あ、やっぱりダメだったんですね」

「いかんせん、メイン素材になるパールシルクが品薄なのよ。キュロットスカートを作る分には足りるけど、上半身装備を作るには足りない、そんな量しか集まらなかったのよね」

「パールシルクか……。ちなみに、どこで手に入るんだ?」

「ええと、魔法王国の辺境地域だって聞いたことがあるわ。そこにいるモンスターと友好的な関係を築くことで、パールシルクの糸をもらえるそうよ。それを、裁縫スキルで織り上げたものがパールシルクね」

「つまり、最初の好感度上げが大変なパターンか」

「そうなるわね。私もできれば行きたいんだけど、生息地がかなり辺境の地域にあるらしいのよ」

「そうなると厳しいだろうな」

「そういうことよ。だから、細々とした持ち込み以外だと、いまのところ入手方法がないのよねぇ」

「将来的には自力で取りに行けるようにするのか?」

「場所と好感度上げの方法については教えてもらってるから、武闘大会が落ち着いて時間ができたら、曼珠沙華と一緒に行くつもりよ」

「そうか、わかった」

「トワも一緒に来る?」

「俺が布素材を入手してもしょうがないからパス。それで、次の装備は?」

「次はわしの作ったガントレットかのう。名前は『緋緋色の弓士手甲』。アーチャー用に仕上げた特殊なガントレットじゃ。普通のガントレットとは違い、指の部分は革で保護する形となっておる。手甲部分を使えば、ガードや格闘も行える優れものじゃて」

「緋緋色のっていうことは、ヒヒイロカネがメイン素材なんですよね? やっぱり魔法防御が高めなんですか?」

「そうじゃの。アダマンタイトとの合金にしているので、物理防御もそれなりに高い。じゃが、メインは魔法防御じゃの」

「対人戦だと、どちらにも対応できないといけないから大変なんだよな。……ところで、このガントレット、作りが特殊なようだが?」

「うむ。ひとつ隠し機能を追加してある。そちらについては、本番でお披露目じゃな」

「了解。残りは靴とサークレットだけど……」

「トレッキングシューズは私の作品だよ!」

「曼珠沙華だったのか。こういう靴は柚月の範囲かと思っていたんだが」

「柚月やドワンから、今回の装備について構想を聞いてたからね。私のほうでも、なにかお手伝いできないかと思って作ったのよ」

「曼珠沙華がコスプレ系衣装を作らないなんて珍しいな」

「そうね。私も珍しいなって思ってる。まあ、たまにはいいかなって」

「それで、性能のほうは?」

「革素材部分はハイブラックワイバーンの素材を使ってるよ。染色してあるから、黒色じゃなくなってるけど。内部には、アダマンタイト製の鋼板を仕込んであって、キックの攻撃力も増すよ。あとは……履きやすくて、動きやすいことをメインに作ったかな」

「つまり、結構シンプルな作りなんですね」

「そうそう。私の作品にしては、すごくシンプルな作りだよ」

「それじゃ、最後のサークレットだけど。ドワンの作品か?」

「そうじゃの。わしの作った作品じゃ。素材はヒヒイロカネとミスリル金の合金。魔法防御が非常に高い装備になっておるぞ」

「それ以外に特殊機能とかはないのか?」

「特殊機能を付けない代わりに、基本性能を伸ばした感じじゃのう。イリスが魔法使いであれば、魔法攻撃力を伸ばしたのじゃが」

「ボクは魔法攻撃を滅多にしないから、宝の持ち腐れだよねー」

「そうなるの。……さて、これで、装備品の説明は以上じゃな」


 主な装備品の説明はこれで終わったようだ。

 武器については、イリス自身が作るものなので、ここでお披露目する必要もないだろう。

 しかし、それにしても……


「素材がかなり豪華だけど、これ、市販したらどれくらいの金額になるんだ?」

「……そうね。ハイブラックワイバーンの革やパールシルクの仕入れ値から考えると、全身で80M前後かしら」

「それくらいじゃろうな。わしらが遠慮や自重をせずに作る装備じゃて、こんなもんじゃろう」

「まあ、普通の人じゃ買えない金額になっちゃってるけどね」


 やっぱり、並大抵の金額じゃなかった。

 イリスには身内価格で売ることになるんだろうけど、それでもかなりの高額だな。


「そういえば、おっさんはなにも作ってないのか?」

「おじさんには別口でアクセサリーを作ってもらってあるよー。そっちはもう受け取ってあるから、今日はいないかなー」

「それじゃあ、準備は万全ということか」

「そうなるねー。あとは、ゆっくり休んで、明日に備えることかなー」

「そうだな。明日の昼間は応援に行けないけど、頑張れよ」

「うん、がんばるー。それじゃあ、ボクは落ちるねー。皆、おやすみー」


 普段よりも早い時間帯ではあるが、イリスはログアウトしていった。

 さて、残された俺たちだが……


「それで、トワ。イリスの仕上がり具合はどうなの?」

「大分よくなってきているぞ。さすがに、俺が負けることはないけど、かなりHPを削られるようになってるし」

「ふむ、トワがそう言うのであれば、そう簡単には負けないじゃろうな」

「だよねー。トワっちのお墨付きなら問題なさそう」

「問題があるとすれば、予選のバトルロイヤルだろうが……そこを乗り切れば、結構いい線いけるんじゃないかな」

「バトルロイヤルは不安なの?」

「あれはあれで、特殊な技術……というか、戦術が必要だからな。イリスがどこまで戦えるか、わからないというのが正直なところか」

「なるほどのう。……トワとユキは、明日の日中はログインできないのじゃったな」

「そうなる。応援に行けないけど、イリスなら大丈夫だろう」

「そうだね。トワっちたちの分まで応援しておくよ!」

「ああ、任せた。それじゃあ、今日はこれで解散か」

「そうね。明日の試合、楽しみにしていましょう」


~更新についてお知らせ~


申し訳ありませんが、書籍化作業の関係でまた更新をお休みさせて下さい。

(この十日間、暑さでまともに書きためが出来ていないのもありますが)

今回は来週いっぱいあたりまで更新できそうにないです。


次の更新は18日から20日くらいになります。


よろしくお願いします。

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