342.イリスの対人戦特訓 2

「トワくん、イリスちゃん、調子はどう?」


 イリスと模擬戦を始めてから、しばらく経って、ユキが道場にやってきた。


「調子かー。やっぱりトワは強いねー」

「イリスも最初の頃よりは強くなってきてるぞ。まだまだ、接近戦は不安が残るところだけど」

「やっぱり接近戦は苦手なんだ」

「ボクって弓がメインウェポンだからねー。近接射撃で攻撃力が増すっていうスキルもあるけど、基本的には接近戦は専門外だよー」


 イリスの言う通り、弓で近接戦闘をやるのはかなり難しい。

 ガンナーが近接戦闘をやるよりも、数倍難しいというべきだろう。

 ただし、接近戦で動きがかみあった場合、攻撃力はガンナーの比ではないレベルで上昇するけど。


「トワくん、どうすればいいと思う?」

「対処方法はふたつだな」

「ひとつ目はー?」

「いまから近接戦闘用のスキルを鍛えること。問題はいまから覚えても付け焼き刃になりかねないことだな」

「うーん、ちなみに、覚えるとしたら、なにがおすすめ?」

「そうだな……手軽なところでいけば、短剣あたりだろう。短剣は短剣で難しいんだけど」

「たぶんそっちは間に合わないと思うよー。もうひとつの方法はー?」

「弓の接射スキルを鍛えることだな。近接武器の間合いでも恐れずに、弓矢を扱うことができるようになればかなり違ってくる」

「トワくん、そんなに違うものなの?」

「かなり違うな。接射されるってことは、間合いを外しても、そのまま狙い撃ちされる可能性が高いってわけだし。有効な対処方法が、左右に逃げることくらいしかない、っていうのは精神的に優位に立てるぞ」

「そうなんだねー。それならふたつ目の方法で鍛えていこうかなー」

「それがいいと思うぞ。そうと決まれば特訓だが……」

「特訓の前に空腹度回復したほうがいいよね」

「そうだな。ユキが料理を持ってきてくれたみたいだし、それを食べてからにしよう」

「うん、わかったー」


 ユキが持ってきた料理を三人で食べ終え、早速接近戦の特訓を開始する。

 俺は銃を使うので、弓を使うイリスとは立ち回りが異なるが……そこは上手く修正してほしいところ。

 基本は、お互いに通常攻撃を連射して間合いを詰めていくところから始まる。

 だが、俺のほうは、ゆっくりななめ前の方に歩を進め、間合いを詰めていく。

 イリスもそれには気付いている様子だが、下がりながらの射撃はかなり難しいため、実行できない。

 そして、互いの距離が3メートルほどになったタイミングで、フォワードステップを使い、一気に間合いを詰める。

 間合いがゼロになったらそこからは【格闘】スキルの出番だ。

 隙の少ないスキルを繰り出してイリスの体勢を崩し、イリスの体勢が崩れたら【銃】系統スキルの高火力スキルでさらにHPを削る。

 このタイミングでダウンを取れれば儲けもの。

 今回、イリスはダウンしたので、さらにスキルを積み重ねてダメージを与え、一気にHPを削りきってしまった。


「うー。やっぱりこういうときのトワって強すぎるよー」

「まあ、対人戦になれてるってのはあるけど。……ひとまず、一連の流れを受けてみて、どんな感じだった?」

「うーん、やっぱり接近戦に移行してからの動きが大事かなー。トワは【格闘】系のスキルから始めるんだねー」

「俺の場合は、【格闘】がスタートだな。攻撃力はそんなに高くないけど、隙が少なくて連射がきくから、繋ぎの技としてはとても便利なんだよ」

「うーん、ボクの場合もそっちを覚えた方がいいかなー?」

「【格闘】のスキル回しを覚えるのは悪くないけど、あと一週間を切ってる状態だと、付け焼き刃になりかねないのが問題かな。せめて、あと一週間あればまた違ったんだろうけど」

「さすがに、そこまでの時間は捻出できなかったかなー。そうなると、メインの戦術は弓一本のほうがいい?」

「そうだな……駆け引きの手段として、弓のほかに格闘を覚える感じでいいんじゃないのか? どちらか一方だとすぐに対処されそうだけど、両方使えれば、相手を多少なりとも惑わすことができるだろうし」

「なるほどー。それじゃ、その方向で練習しよう。トワ、だいじょうぶー?」

「ああ、俺のほうは問題ない。さて、始めるとするか」

「うん、よろしくねー」


 そのあと、イリスを相手にして模擬戦を繰り返し行った。

 途中、ユキにも相手をしてもらったり、銃ではなく刀装備で対戦したりと、対戦バリエーションを増やしておく。

 ただ、予選についてはバトルロイヤルなのは変わっていないらしく、そこで負けないかを心配している様子だった。

 さすがに、俺のバトルロイヤルでの立ち回りはかなり特殊なので、教えることはできなかったが、基本的に逃げ回りながら追ってきている敵を射るという形で決まったようだ。

 イリスの特訓は時間がある限り行われ、マイスタークラスの前日となった。

 今日は、柚月たちがイリスの装備を渡すことになっているらしいが、はてさて、どのレベルの装備が出てくることやら。

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