341.イリスの対人戦特訓 1
本日より更新再開いたします。
ただ、作者が暑さでダウン気味で書きためができていないため、更新頻度は3日に一度とさせていただきます。
暑い時期よ早く過ぎ去れ_(:3」 ∠)_
****************************
「トワー、対人戦の練習がしたいから手伝ってー」
「んー」
リミテッドクラスが終了してから数日。
今週末は、マイスタークラスの週ということもあって、クラン内は熱を帯び始めていた。
柚月やドワン、おっさんに曼珠沙華、この四人はマイスタークラス向けの依頼を受けているため、現在は工房にかんづめらしい。
俺とユキは、マイスタークラス向けの依頼をそこまで多く受けていないので、身軽なものである。
そういうわけで、余裕を持った生活をしているところをイリスに捕まってしまった。
「対人戦の練習か。モンスター相手の練習はしなくてもいいのか?」
「そっちはもうだいじょうぶー。ボク一人で行けるところは行動パターンも含めて覚えちゃったからー」
「なるほど。そうなると、残りの懸念は対人戦の経験不足、か」
「うん、そうそう。やっぱり、PvPイベントは経験がものをいうと思うんだよねー。だから、少しでも、実戦形式の訓練をしておきたいんだー」
イリスの考えは、おおよそ正しい。
対人戦……PvPでは、モンスター戦…PvEとはまた違った立ち回りが必要になる。
モンスター相手なら強スキル連打でも勝てるが、対人戦で強スキル連打を行っても、大きな隙を晒してしまうだけになる。
強スキルというのは、発動前か発動後に大きな隙ができてしまうものなのだ。
なので、対人戦では強スキルよりも、弱スキルを上手くつなげて戦うことが重要になってくる。
弱スキルを重ねていって、相手の体勢を崩したり相手の大技をかわしたりしたところを、自分の強スキルで撃ち抜く。
これが基本戦術だ。
もちろん、基本があるということは、そこから派生する、さまざまな攻撃パターンも存在するわけで……はっきり言って、個人で覚えきれる戦闘パターンの数を余裕で超える。
つまり、イリスが付き合ってほしい練習というのは、対人戦の練習、実戦時の駆け引きについて学びたい、ということのようだ。
イリスのほうは、準備万端とでも言うべき感じに身支度が調っている。
俺のほうも、消耗品を補充したら問題なく練習に付き合える状態だ。
そして、イリスの特訓を断る理由はないんだよな。
「ユキ、これからイリスの特訓に付き合ってくるよ」
「うん、わかった。どこで特訓をしてくるの?」
「PvPの練習だからな。ジパンにある、俺の屋敷の道場あたりが妥当だと思うんだが。設備的にも、行きやすさ的にも」
「そうだよね。わかったよ、行ってらっしゃい。あとで差し入れ持っていくね」
「ああ、頼んだ」
ユキに事情を話したら、イリスと一緒にジパンにある俺の屋敷へと転移する。
ジパンの屋敷にある道場は、スキル修練やPvP練習用の設備だ。
道場で対戦形式を設定することで、道場内の広さや移動範囲、ダメージ率などを調整できる。
広さと移動範囲を設定すると、本選と同じ広さでの試合を、ダメージ率を調整すると、本来のHP以上のダメージを食らっても対戦継続が可能になる。
前者は広い場所ならどこでも構わないが、後者は修練用の施設じゃないと設定できない。
そういう意味でも、道場は優秀な設備だった。
「トワー、設定はどうするのー?」
「広さは本選と同じ広さまで拡張だな。ダメージ率は……すぐに終わらないように、30%まで減らそうか」
「おっけー。ちなみに、PvPって最初はどうすればいいのかなー?」
「弓や銃みたいな遠距離攻撃だと、基本は通常攻撃で牽制、相手の動きを見計らってスキルでダメージを重ねる、ってところか」
「初めからスキルでダメージを与えにいっちゃだめなのー?」
「ダメというか、基本的に遠距離武器のスキル攻撃は、発動から発生そして着弾まで、かなり間がある。PvP慣れしてないプレイヤーはともかく、慣れているプレイヤーなら、スキルの発動を見てから躱すことなんて余裕でできるだろうな」
「そっかー。それじゃあ、基本的に通常攻撃は牽制目的?」
「牽制用でもあるけど、ダメージソースとしても使えるぞ。一発の威力はそこまで高くなくても、速射系スキルを重ねれば短時間で大量の矢を射ることができるから」
「なるほど。それじゃー、早速、実戦をお願いしてもいいかなー?」
「そうだな。まずは実際に戦ってみるか」
俺は対戦場の設定を済ませると、武闘大会のルールに沿った位置まで移動する。
イリスも、対戦ルールに従い、道場の中心部で俺と向き合う。
お互いの距離は三メートルほど。
遠距離攻撃の間合いではなく、近距離武器の間合いだ。
実際、本戦ではどうやって遠距離武器の間合いに持ち込むかも、重要な要素となる。
普通にバックステップを使っても、フォワードステップで間合いを詰められてしまう。
バックステップの移動距離は三メートル、フォワードステップの移動距離は五メートルだからだ。
なので、単純にバックステップを使えばいいかというと、そういうわけでもなく……間合いを離す部分でも駆け引きが重要になる。
「……そういえば、イリス。【格闘】スキルってどこまで鍛えてるんだ?」
「カンストまでは鍛えてるよー。だから、縮地も使えるかなー」
縮地まで使えれば戦術の幅もかなり広がる。
間合いを開くのにも使えるし、逆に間合いを詰めるのにも使えるからだ。
PvPをするなら、【格闘】スキルのカンストは前提条件だったりもするが、イリスは無事に覚えていたようだ。
これなら、俺が教える動きも問題なく使えるだろう。
「さて、それじゃあ、とりあえず第一戦目といこうか」
「うん、よろしくー」
対戦ルールの設定も終わり、対戦開始のカウントダウンが始まる。
カウントダウンが終わった瞬間、俺は後ろを振り向き、フォワードステップで間合いを開いた。
「うぇ!?」
さすがに、後ろに振り向いて間合いを開けるというのは予想外だったらしく、イリスの反応が一瞬遅れる。
遅れたのは一瞬だけで、すぐに気を取り直し、弓矢による追撃を行ってくるが、すでに俺は再びイリスと対面するような向きに変わっている。
十分な距離があれば、弓矢による攻撃を躱すことなど容易く……イリスの攻撃は、すべて外れていった。
「さて、今度はこちらから反撃だ。行くぞ、イリス!」
イリスの攻撃に対し、攻撃の隙間を狙って、俺のハンドガンによる攻撃を行う。
弓矢よりも速いとは言え、さすがにただの通常攻撃が当たるはずもなく、すべての攻撃が空を切る。
だが、こちらの狙いとしてはそれでいい。
何回か攻撃を躱させたあとに、チャージショットを撃ちこむ。
イリスはスキル発動のエフェクトを見逃さず、しっかりと攻撃を回避する。
だが、回避した先で、いきなり衝撃をくらい吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされた理由は単純、俺がハイチャージバレットを当てたからだ。
どうやって当てたかといえば、そちらもかなり単純な方法である。
通常攻撃で躱す方向をあらかじめ制限しておき、発動後の硬直が少ないスキルを囮として放つ。
今回の場合は、チャージショットが囮スキルだ。
もちろん、囮スキルは躱されるが、躱した先を狙って、本命のスキルを準備しておく。
今回は、ハイチャージバレットだったわけだが、狙い通り当たってくれた。
「ぅうー。さすがに、ハイチャージバレットはきついよー」
「だろうな。ハイチャージバレットもそうだが、ノックバック系スキルの長所は、当たれば相手の動きを制限できることだ。実際、いまだって追撃を行わなかっただけで、強力なスキルを追撃として使うこともできたわけだしな」
「たとえば、どんなスキルで追撃すればいいのかなー?」
「そうだな……単体では当てにくく、かつ総攻撃力の高いスキルかな」
「総攻撃力の高いスキルかー。テンペストアローとかかな?」
「テンペストアローは妥当な線だな。消費コスト、総ダメージ量、連射性能。どれをとっても申し分ない。外したとき、隙が大きいスキルだし、ノックバックで動けなくなっているところに使うならもってこいだろう」
「だよねー。それじゃあ、この攻撃パターンは、いちおう覚えておかなきゃだねー」
「だな。……そういえば、弓のノックバックスキルってなにがあるんだ?」
「えーと。チャージアローにバーストアロー、それから金剛の矢かな」
「ふむ、それってどの弓でも使用可能か?」
「【弓聖】スキルを覚えたからねー。使用制限は解除されてるよー」
「それなら問題ないな」
「うん、問題はなにもなし」
「それじゃあ、訓練を再開するか」
「うん、よろしくお願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます