339.武闘大会 リミテッドクラス 2

「トワ、リミテッドクラスの進行状況ってどうなってる?」

「うん? 柚月か。戻ってきたのか」

「まあね。それで、いまどこまで試合が進んだのかしら?」

「いまは決勝トーナメントの一回戦第四試合だ」

「そう。……曼珠沙華はどうしたの?」

「知り合いが勝って、次の試合まで駒を進めたから会いに行くって言って出てった」


 柚月にも言ったが、現在行われているのは一回戦第四試合。

 ガンナー対アーチャーという、遠距離職同士の戦いだ。


 曼珠沙華は第二試合が終わったあと、知り合いに会うため観戦席から出て行った。

 どうやら、第一回戦は無事に勝ち上がることができたらしい。


「そっちの作業は順調なのか?」

「大丈夫よ。もともと余裕はあったわけだし、少しくらい息抜きしても問題ないわ」

「了解。ドワンは工房に篭もりっきりか」

「たぶんね。ああ、あと、イリスは一度帰ってきてログアウトしたみたい」

「わかった。……どうやら、第四試合も終わったようだ」

「そのようね。ガンナーの勝利、か。実際の試合内容はどうだったの?」

「うーん、割と均衡がとれてた試合だったな。アーチャーが焦って大技を出したところを、ガンナーが冷静に反撃したのが大きな勝因か」

「そう。やっぱり、制限下だと一瞬の差が勝負を決めるのね」


 同じ制限がかかっている以上、どちらが優勢になるかは戦いの中で決まる。

 制限種族レベルやスキルレベルまで育てるのは、そこまで時間はかからない。

 そのため、差が出るのはPSプレイヤースキルの差だ。


「キャラの強さはほぼ同等だからな。一度スキルを食らうと、そのまま一気に持っていかれることも多いかな」

「でしょうね。……いまの試合は、どのような感じなのかしら?」

「んー。この試合は……斧使いのほうが優勢かな」

「その理由は?」

「動きが全然違う。相手のランサーは頑張ってるけど、槍よりも内側の間合いに入り込まれるのを防げてないからな。このままだと、じり貧で勝負が決まるさ」

「ふむ。やっぱり、PvPはよくわからないわね」

「だろうさ。動きのパターンが決まっているPvEと違って、PvPは動きの読みあいが重要になってくるから」

「……素人にはわからないわね。そろそろ試合の決着がつきそうね」


 柚月が言っていたとおり、この試合の決着がつきそうだった。

 俺の読み通り、斧使いの勝ちみたいだ。


「勝負、決まったみたいね」

「のようだな。……次は第六試合か」

「リミテッドクラス、有名どころは参加してないの?」

「結論を言うと、参加してない。有名プレイヤーは、オープンクラスに参加のようだ」

「……それは優勝予想も難しそうね」

「難しいぞ。ここまで五試合終わったけど、明確に上手かったプレイヤーは五試合目の斧使いくらいで、残りの四試合はどちらが勝ってもおかしくなかったからな」

「随分と接戦ね」

「なんというか、対人戦慣れしてない感じだな。あとは、スキル制限のせいで普段の戦い方から動きを変えてるとか」

「なるほど。戦い慣れしてないのね」

「そんなところ。対人戦の基本は、スキルの使いどころなんだけどな」

「戦い慣れしてないと、スキル連発しそうだけどね」

「スキルを使うと、技後硬直がなぁ。2秒もないんだけど、対人戦だとかなりでかい」


 もちろん、技後硬直のないスキルもある。

 だが、その手のスキルはたいてい移動系スキルなので、戦闘用スキルは多かれ少なかれ隙がある。

 あとは、どうやってスキルを決めるまでの流れを作るかなのだが……


「やっぱり、こうして見てると、戦い慣れしてないのがよくわかるわね」

「本人たちは必死でわからなくても、第三者から見ると、な」


 第六試合は剣士同士の戦いだが、どちらも決め手を欠いている。

 迂闊にスキルを使うと反撃されるのがわかっているらしく、どちらもスキルを使ってない。

 ただ、スキル抜きで戦えているのかというと……割と微妙なラインだ。


「こういうときって、どうすればいいのかしらね?」

「上手いこと、相手のスキルを空振りさせたほうが有利になるんだけど……どっちもスキルを使ってないからな」

「その場合の対処方法は?」

「剣士同士だろう? なら、一気に間合いを詰めて不意打ちで出の早いスキルを撃ちこむべきかな」

「高火力スキルじゃなく?」

「攻撃をあてて体勢を崩すことが優先だな。……もっとも、体勢を崩せるかも大事なんだが」

「どんなスキルがいいのかしら」

「うーん。剣系統のスキルはよくわからないんだが、ノックバック系のスキルはあるはずだから、防御されてもいいのでそれをあてたいところ、だな」


 ノックバック系のスキルは、武器種を問わずにどのスキルでもあるはずだ。

 まずは、それを相手にあてて、少しでも有利に持ち込みたいところ。

 問題があるとすれば……そこに気付いているかどうか、だろう。


「ただいまー。あれ、柚月も戻ってきてたんだ」

「あら、曼珠沙華、おかえり。知り合い、無事に勝てたんですって?」

「うん、勝てたみたい。結構ぎりぎりだったけどね」

「それでも、勝てたならいいじゃない。次もいけそうなのかしら」

「本人はやる気満々だよ。トワっちからのアドバイスも伝えたし、次も勝ち残ってくれると嬉しいな」

「そう。……あ、この試合、そろそろ決着がつきそうね」

「最終的にはダメージ差の勝負になったか。同じ装備同士、もう少し簡単に決まるかと思ってたんだけど」

「まあ、PvPを普段やらない人が多いゲームだからね。対人戦のセオリーとか、わからなくても仕方がないって」

「……それもそうだな。第七試合は、もう少し盛り上がるといいのだけど」


 そのまま、第八試合、つまり一回戦の最終戦まで見ていたが、際だって上手いプレイヤーはいなかった。

 誰か、対人ガチ勢が一人くらいいてもよかったと思うのだけど……

 ルーキークラスのときのように、手札を隠してるプレイヤーがいるかどうか。


「これで、この時間の対戦は終了ね。次は、夜に行われる二回戦だけど……」

「私は夜も観戦に来るよ。知り合いも第一試合に参加するし」

「俺は……どうしようかな。晩ご飯を食べ終わって、ログインしてから考えるか」

「私もそうするわ。それじゃ、ひとまず解散ね」

「うん。クランホームに戻ろう」


 試合も終わったし、俺たち三人はクランホームへ帰還する。

 まずは、クランホームでログアウトかな。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 夕食後、あらためてログインしてきた。

 まだ、武闘大会第二回戦は始まっていない時間だ。

 白狼さんからは、今日も封印鬼に行かないことがメールできていたので、確認して折り返し連絡を入れておく。

 さて、これからどうしたものか。


「あ、トワっち、いま暇?」

「うん、曼珠沙華か。ログインしたばかりだから、まだ予定は入ってないけど」

「ちょうどよかった。STR強化の錬金アクセって作れる?」

「宝石さえあれば作れるぞ」

「宝石ね。これでいい?」

「……うん、大丈夫だ。急ぎか?」

「急ぎでもないかな。私の装備だから」

「……まあ、忘れたらなんだし、いま作ってしまうか」

「ありがと。それじゃあ、工房に向かおう」


 俺の工房では、ケットシーたちが働いていた。

 ユキは……まだログインしてないのかな。

 錬金セットでさくっとアクセサリーを錬金してしまい、曼珠沙華に渡す。

 曼珠沙華はアクセサリーを受け取ると、代金を支払ってすぐに出て行ってしまった。

 ……まあ、第二回戦の第一試合で知り合いが出るらしいし、仕方がないか。


 そのまま、俺は普段の錬金や調合作業に入り、結局、第二回戦は見に行かなかった。

 曼珠沙華の知り合いは、順調に勝ち上がったらしい。

 明日に向けて楽しみが残ってよかった、というのは曼珠沙華の言葉。

 俺としても、明日応援する相手が残ってよしとするか。

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