340.武闘大会 リミテッドクラス 3

 リミテッドクラス二日目、午前中と昼間は家事で潰れ、ログインしたのは夕食が終わったあとの夜時間だった。

 いざログインしてみると、『ライブラリ』メンバーが勢揃いしていた。


「あ、トワっち。ようやくログインしてきた」

「曼珠沙華か。聞かなくてもわかるが、いちおう聞こう。なんの集まりだ?」

「これから、リミテッドクラスの三位決定戦と決勝戦なのよ。それの応援に行こうと思って」

「応援ね。……そういえば、曼珠沙華の知り合いって、結局どこまで勝ち上がることができたんだ?」

「聞いて驚け、決勝戦まで駒を進めたよ!」

「ほう、それはそれは」

「なかなかやるでしょ?」

「まあ、曼珠沙華じゃないけどな」

「ふふん。でも、知り合いが決勝戦まで駒を進めてるのは、素直に嬉しいのよ」

「だろうな。……それで、全員巻き込んで応援に行こうと?」

「まあ、そうなるわね。ちなみに、三位決定戦も私たちと浅からぬ繋がりがあるし」

「そうなのか?」

「三位決定戦のプレイヤーたちが使ってる装備、どっちも『ライブラリ』製だよ」

「ほほう。ガンナーじゃないだろうし、ドワンと柚月の作品か」

「そういうこと。おじさんのアクセもだけどね。だから、皆で応援に行こうと思って」

「そういうことなら、俺も行くけど。……ユキも構わないか?」

「うん、大丈夫だよ。それに、三位決定戦や決勝戦なら、きっと面白いバトルが見られると思うし」

「そうそう。そういうわけだから、トワっちも強制参加ね」

「はいはい。了解。それで、もうそろそろ時間じゃないのか?」

「あ、本当だ。全員、武闘大会会場に移動だよー」


 ツアーコンダクターの様に、手を高く上げながら先導をする曼珠沙華。

 俺たちはそのあとに続きながら、武闘大会の観戦席へと移動する。

 いつも通りのボックス席に辿り着くと、早速、対戦カードを確認する。


「三位決定戦は、斧使いと魔術士か。これって、予選のときと同じカードじゃないか?」

「多分そうじゃないかな。予選のときは、魔術士さん、剣士と戦っていて斧使いとは戦っていないけど」

「なるほどのう。確かに、あの斧はわしが作ったものじゃの」

「魔術士の装備は、私ね。杖は別で用意したみたいだけど、ローブ一式は私の作品よ」

「昨日は気がつかなんだが、ここまで残るとよくわかるのう」

「そうね。……決勝戦の方は、どうなってるのかしら」

「決勝に出てる軽戦士、キャロルってほうが私の知り合い……というか、UW歌劇団の残留メンバーだよ!」

「へえ、相手は……重戦士ね。相性が悪いんじゃないかしら?」

「うーん、たぶん大丈夫だと思うよ。私は手札を知ってるしね」

「そうなの? ……まあ、実際のところは、決勝戦が始まればわかる、か」

「そういうこと。……あ、三位決定戦が始まるよ」


 観戦席でいろいろ情報交換をしている間に、時間となったらしい。

 三位決定戦がスタートとなった。

 三位決定戦は、先程も述べたとおり、斧使いと魔術士の一戦。

 普通に考えれば、射程距離的に、魔術士が有利そうなのだが……


「あの斧使い、さすがは三位決定戦まで勝ち残ってきただけあるわね。トマホークスキルで上手く遠距離攻撃を使い、魔術士に強力な呪文の詠唱をさせてないわ」

「そうじゃの。ブーメラントマホークは、発動時も技後硬直も少ない、便利な遠距離攻撃スキルじゃからな。魔術士の詠唱潰しには、もってこいじゃろうて」

「魔術士側も、フェイントを上手く使って、詠唱の隙を作ろうと努力してるねぇ。ただ、二本の斧が飛び交う状況じゃ、なかなか隙を作れていないけど」

「仕方がないと思います。二本の斧を器用に使って、時間差で攻撃したり、一斉に投げつけたり、緩急を使って攻撃してますから」

「そうだな。斧使い側から見た場合はそうなるが……。逆に、魔術士側も劣ってるわけじゃないんだよな」

「ふむー。そうなのー? トワー?」

「ああ。あれだけの波状攻撃を受けつつも、最下級レベルの魔法を発動させて、確実に弾幕を形成してる。詠唱時間が長くなるような、強力なスキルは発動できてないけど、詠唱時間が一秒未満のスキルを上手く使い回して、魔法の弾幕を作ってる。おかげで、斧使いも確実な攻撃に移る事ができず、なおかつ、魔法の弾幕を時々食らって、ダメージが重なっていってるみたいだ」

「ほほう。どちらも、予選のときは使ってなかった技術じゃの」

「予選のときは温存していたんだろうな。実際、温存しても勝ててるし」

「そうじゃの。ときに、トワよ。この勝負、どうなると思う?」

「そうね。トワの見解を聞きましょうか」

「そうだな……まず、このまま最後まで動きがないと、弾幕で確実に少しずつでも削っている魔術士の勝利だろうな」

「なるほどね。確かに、このまま行けば、魔術士側の勝利は揺るがないだろうねぇ」

「ああ、このまま行けば、な」

「つまり、トワはこのまま行かないと思ってるのー?」

「そんな気がするぞ。斧使いが、このままブーメラントマホークだけで終わるとは思えない」

「じゃあ、まだ切り札は切ってないわけだね」

「そうだと思いたいな。……さあ、動くようだぞ」


 斧使いがブーメラントマホークで、両手に持った片手斧をそれぞれぶん投げる。

 そして、その直後に、両手の中に両手斧を呼び出して、こちらもぶん投げる。

 最初の片手斧二発は危うげなくかわしたが、そのあとの両手斧は想定外だったようで、無理矢理ステップスキルで移動して回避した。

 だが、そこを狙っていた斧使いに縮地で強制的に接近され、新たに取り出した、二本目の両手斧による強烈な一撃をお見舞いされた。

 魔術士タイプの貧弱な物理防御と少ないHPでは、両手斧によるノックバックからの、大威力攻撃には耐えきれず、HPを全損させてしまった。

 これにて、三位決定戦は斧使いの勝利に決まった。


「……試合が動いたと思ったら、一気に勝敗が決まったわね。トワは、この流れは想定内?」

「想定内だな。もともと、どちらも高火力タイプのキャラクターなんだ。魔術士は詠唱時間、斧使いは間合いを詰める、それぞれ条件はあるけど、それを満たせれば、相手を一気に制圧できる、そんなビルドだったはずだよ」

「そっかー。ところで、途中、ブーメラントマホークを三つ投げてたけど、あれって可能なの?」

「可能だよ。ブーメラントマホークで攻撃中に、ウェポンチェンジで装備を変更するんだ。そうすると、投げた斧を受け取る前に新しい武器を装備できる。それを使って、戦闘を優位に進めた、ってところだろうね」

「うーん、それってありなの?」

「ウェポンチェンジを使ったテクニックとしては、割と昔から存在しているぞ。実戦投入されることが少ないだけで」

「そうなんだー。実戦ではあまり使われないんだねー」

「まず、武器を投げるスキルが少ないからな。そして、ウェポンチェンジで武器が消えないのにも条件が必要だし」

「条件なんてのもあるの?」

「ブーメラントマホークのように、投げて帰ってくるスキル限定なんだよ。単純に、投擲系スキルで武器をぶん投げただけだと、ウェポンチェンジをしたら、投げた武器が回収されて消えてしまうから」

「……かなり、ニッチな条件ねぇ」

「まあ、そういうことさ。だから、技術として知られていても、あまり実戦投入される機会のない技術、かな」

「なるほどねー。あ、キャロルの試合が始まりそう」

「あっちの軽戦士がキャロルだったか」

「うん、そう。……こうして見てると、やっぱり重戦士は迫力があるよね」

「だろうな。重戦士って職業自体、全身装備で相手を威嚇する意味合いもあるだろうし」

「そうだよねー。さて、試合が始まったけど、どう戦うのがセオリーですかね、トワっち」

「ああ、そうだな。……まずは、重戦士がどの程度動けるのかを確認しなくちゃいけないかな」

「どの程度動けるか調べる?」

「ああ。重戦士の素早さは、全身鎧で致命的に少なくなっているはずなんだ。それを【重装行動】のようなペナルティ解除スキルで、どこまで軽減することができて、動き回れるかを絞り出さないと」

「確かに、それは大事かも。……ああ、でも。キャロルもそのあたりはわかってるみたいだね。弱い魔法を使っていろいろ調べてるっぽい」

「そうだな。あの様子だと、【重装行動】はそれなり以上の高レベルで保持しているな」

「それって嬉しい情報?」

「キャロルだっけ? 軽戦士側からすると、あまり嬉しくない情報」

「さて、ここからどう戦うといいんだろう?」

「まず接近戦は、最後の詰め以外では狙わないことだな。あれだけ動ける重戦士なんだ。接近戦は自分のテリトリーだろうよ」

「だよねー。じゃあ、キャロルとしては、このまま魔法で距離をとって戦うべき?」

「そうだな。ただ、重戦士側も【格闘】スキルは持ってるだろうから、フォワードステップや縮地には要注意、といったところか」

「うーん、つまり、キャロルのほうが不利?」

「傍目には攻めてるから有利に見えるけど、実際は綱渡りを強いられてる状態だな」

「ここから逆転する方法ってないの?」

「このまま、遠距離戦で削っていくのが一番だ。変に欲を出して、大技を使おうとしたら、その隙を突かれるぞ」

「じれったいね」

「対人戦なんてそんなものだ」


 さて、先程から始まっている軽戦士キャロルと重戦士の決勝戦だが、ここまではキャロルのほうが順調にダメージを積み上げていっている。

 下級魔法の連続で相手が一気に詰めてこられないように牽制し、フォワードステップで距離を詰めてきたら、バックステップやサイドステップで距離を開く。

 フォワードステップを使う時、何発か魔法を被弾するから、ダメージ自体は積み上がっていってるが、重戦士だけあってHPも高めのようで、決め手となるにはまだまだかかりそうだ。

 だが、接近戦で戦うにはかなり分が悪い。

 それをわかっているらしいキャロルは、常に間合いを開けて戦っている。


 そのようなじれったい攻防が五分ほど続き、先に動いたのは重戦士側だった。


「あ、重戦士が一気に距離を詰めてきた!」

「温存していた縮地を使ったな。さて、ここからどう動くか」

「……まずは、ノックバックスキルのようじゃの」

「そうね。さすがにこのタイミングではかわせないから、ノックバックによる硬直は避けられないでしょうね」

「ああ、ノックバック食らっちゃった!」

「おや、重戦士はウェポンチェンジで武器を変えたね」

「両手剣かー。これは大ダメージスキルで一気に削りにきたねー」

「さて、ここを耐えきれるかな?」


 重戦士は、両手剣で大ダメージスキルを繰り出す。

 それは、ノックバックによる硬直で動けないキャロルに吸い込まれ……キャロルのHPが70%以上持っていかれた。

 だが、その後の追撃は、硬直から回復したキャロルが回避に成功している。

 そして、強打を回避したキャロルは空振りをしている重戦士に、魔法剣によるダメージスキルを叩きこんだ。

 これで、重戦士も50%以上のHPが削られたな。


「なんで、魔法剣のダメージスキルだったんだろう? キャロルもノックバックスキルを使えばよかったのに」

「重戦士だとよく覚えられているスキルの中に、ノックバックやスタンを軽減するスキルもあるからな。それを嫌がったんだろう」

「そうなんだ。キャロルはそれを知ってたのかな?」

「スキル選択から言って、想定していただろうな。ノックバックやスタンを取れなければ、せっかくのダメージポイントを逃すことになるから」

「うーん。でも、ここから逆転するにはどうしたらいいと思う?」

「魔法で牽制するだけじゃ厳しいだろうな。隙を見つけて、魔法剣による攻撃を決めるしかないが……」

「それって大変だよね?」

「もちろん、楽じゃない。だけど、牽制だけしていても、また縮地で間を詰められたら、今度は負けが決まるだろうし、次の縮地を使われる前に、勝負を決めないと」

「うー、キャロル、がんばれー!」


 こうして解説している間にも、舞台の上では戦況が刻々と変化する。

 キャロルも接近戦で直接ダメージを稼ぎにいっているが、重戦士の盾によるガードに防がれて、有効ダメージにはなっていない。

 それでも、少しずつダメージを与えていっているが……重戦士のHPを削りきる前に、重戦士が縮地を使えるようになったみたいだ。

 先程と同じように縮地で間合いを詰め、ノックバックスキルを叩きこもうとする。


 ……だが、今回はキャロルのほうが一枚上手だったらしい。

 ノックバックスキルをサイドステップで回避して、技後硬直狙いの魔法剣を叩きこんだ。

 重戦士はこれを回避することができず、HPを思いっきり削られ……魔法剣連撃によってHPを削りきられてしまった。


『勝者キャロル選手!!』


「やった! キャロルの勝ちだ!」

「そのようだな。最後の駆け引きがすべてだったと言えるが……上手いこと誘い込んだな」

「ああ、やっぱりアレってわざとだったんだ」

「だと思うぞ。同じ状況を作れば、また踏み込んでくると考えてたんだろう。だからこそ、サイドステップでかわせたんだろうし」

「なるほどね」

「さて、試合はすべて終わったけど、これからどうするの?」

「わしはクランに戻ろうかの」

「ボクも戻るー」

「おじさんも戻ろうかな」

「俺も戻るよ。ユキは?」

「私も戻ります」

「あ、私は残るよ。表彰式が終わったら、キャロルをお祝いしてあげなくちゃ」

「了解。それじゃ、戻りましょう」


 表彰式終了後まで予定を決めている曼珠沙華を残して、俺たちはクランホームに帰還する。

 戻ったら、これからなにかをするには半端な時間だったので、俺とユキ、イリスはログアウトすることに。

 ……さて、来週はマイスタークラス開催週。

 イリスがどこまで頑張ってくれるか、楽しみかな。

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