338.武闘大会 リミテッドクラス 1

「今回はすんなり観戦を決めたね、トワっち」

「まあ、俺が装備を作ったプレイヤーも参加してるからな」


 本日は武闘大会リミテッドクラスの開催日。

 午前中に家事を終わらせて、午後から始まる予選を見に来ている。

 なお、この場にいるのは俺のほか、曼珠沙華と柚月、ドワンの四名だ。

 イリスは、スキル修練のため別行動、ユキとおっさんは不在である。


「しかし、リミテッドクラスは参加者が多いようじゃの」

「みたいね。全クラスでもっとも参加人数が多くなるんじゃないか、って予想のようよ」

「オープンクラスじゃないんだね」

「オープンクラスは、化け物じみた猛者が集ってるからね。少しでも可能性のある、こちらを選んでるんじゃないかしら」

「なるほどねー。リミテッドクラスのルールってどんなのだっけ?」

「まずは、レベル50に制限。装備もレベルに応じた性能制限がかかる。超級以上のスキルが使用不可能。矢と弾丸以外の消費アイテム持ち込み不可。これくらいじゃなかったか?」

「そうね。いろいろと細かい制限はほかにもあるみたいだけど、大枠だとそれくらいかしら」

「へぇ。でも、そうなってくると、純粋なPSプレイヤースキル勝負にならない?」

「だろうな。ただ、オープンクラスの無制限よりはワンチャンある、そう考えてるプレイヤーは多いだろう。あっちは、ド派手なスキルが飛び交う可能性もあるし」

「じゃのう。スキル制限がない分、大技も小技も超級スキルで埋められる可能性が高いからの。第二陣以降じゃと、第一陣に追いつくのはきついじゃろう」

「それもそっか。で、皆はリミテッドクラス向けにどれくらい納品したの? 私は、8件ほどだったけど」

「俺は4件だな。銃しか納品してないだけあって、件数は少なかった。それに、本気の銃を持ち込んでも、性能制限かかるから店売りで済ませてるプレイヤーも多かったみたいだし」

「わしも似たようなものじゃの。武器依頼は9件、防具依頼は8件じゃ」

「私は12件ね。……リミテッドクラスでオーダー依頼をしてきたプレイヤーって、リミテッドクラスで優位に立つためというより、あとのことを考えてオーダーしてきてると思うわ」

「だろうな。さて、もうじき予選が始まるけど、どうなることやら」

「まったくの未知数だよね。どう転ぶかわからないって意味では」

「じゃのう。さて、始まるようじゃぞ」


 リミテッドクラス予選は、第一回武闘大会と同じく、バトルロイヤル方式のようだ。

 第一試合に参加することになっているプレイヤーが、舞台の上に転送されてきた。


『さて、それでは第二回武闘大会リミテッドクラス、予選第一試合準備はいいか!』

『試合開始まで5秒前! 4、3、2、1……スタート!』


 GMたちによるカウントダウンも終わり、予選が始まった。

 最初はやはり乱戦になるみたいだな。


「ふむ、スキルを制限されている以上、大技でいきなり決めることはできぬ、か」

「だろうな。まずは、順当に手数で人数を減らしていくしかないだろう」

「派手な技がないっていうのも寂しいね」

「仕方がないでしょう。ルールがそうなってるんだから」

「まあ、そうだけど。こうして見てると、いまのところ特別目立つプレイヤーはいないかな?」

「始まったばかりだし、そんなものだろう。ここから、どう抜け出すかがポイントだな」


 戦闘開始直後の混戦状態から、5分ほど。

 かなりの数のプレイヤーが脱落し、舞台上に残っているプレイヤーは、最初の三割程度まで減っていた。

 ここまで減ってくると、個々の立ち回りも見られるようになってくる。


「ふむ。あの剣士。なかなかの腕前じゃの」

「だな。あとは……長杖の魔術士と斧使いか」

「目立っているのはその三人ね。うまいこと、それ以外のプレイヤーでつぶし合うように誘導してるわ」

「ほかのプレイヤーはどう?」

「その三人の術中にはまってるな。ここからの挽回は難しいだろう」

「ただ、予選の勝ち残り人数はふたりよね。どこかで、直接対決しなくちゃいけなくなると思うのだけど」

「そのようだな。剣士と魔術士が戦闘を始めるようだぞ」

「じゃな。この勝負の勝者が決勝トーナメント進出を決めそうじゃわい」

「残りのプレイヤーは……つぶし合いが終わって、斧使いが倒してしまったようだな」

「残りはあの三人だけだし、剣士の人と魔術士の人の直接対決が最終戦かな」

「斧使いは割って入らずに静観の様子じゃし、そうなるかの」

「どちらにしても、これが第一試合の勝者を決める戦いね」

「さて、どうなるやら」


 剣士と魔術士は向かい合った状態から、なかなか動かない。

 距離的に、魔術士有利な間合いだが、下手に攻撃して外してしまうと一気にピンチになるのは明白だ。

 とはいえ、このまま動きがないという訳にもいかず……先手をとったのはやはり魔術士側だった。


「ふむ、初級魔法を連打か」

「基本だけど、一番厄介な戦法だな」

「なかなか近づけないでいるわね」

「スキルレベルが高いと、詠唱はすぐに終わるし、技後硬直もないからね。私でも同じことになるかな。トワっちならどうする?」

「一撃被弾覚悟で一気に間合いを詰めるな。このまま回避を続けても、攻められなくちゃ意味がないから」

「【剣】スキルにも遠距離攻撃なかったかしら?」

「あるよ。でも、魔法の連打をされてると、使う暇はないかな」

「近距離武器のスキルによる遠距離攻撃は、使い始めにためが必要じゃからの。ためてるところに数発被弾する覚悟がいるわい」

「それじゃあ、トワが言ってたように、一撃被弾で一気に間合いを詰めるのがベターかしら」

「それが最適解じゃない? 初級魔法のダメージなら、一撃もらったところでそこまでダメージ入らないし」


 攻めあぐねている剣士は、二分ばかり回避を続けたが、距離をつめることはできていない。

 このまま回避をし続けても勝ち目がないとわかっているのか、ある瞬間、二発ほど被弾して一気に間合いを詰めた。


「いまのって、縮地?」

「だろうな。フォワードステップなら二発食らう必要ないし」

「縮地だと二発食らうの?」

「タイミングが悪いとな。無条件に前に進むフォワードステップと違って、縮地は移動先指定の必要なスキルだから」

「ふむ。それじゃあ、二発で済んでるってことはそこそこ上手くいってる?」

「だと思うぞ。問題はこの先だけど」


 距離を詰めた剣士の攻撃を、魔術士がかわしていく。

 攻守が交代したが、一方が攻め一方がかわすという展開は変わりがない。

 ただ、魔術士側は、近距離戦でもかなり対応できていた。


「ほほう。あの魔術士、近距離戦の心得もあるようじゃの」

「剣による攻撃をかわし続けられる程度には、近接戦闘もできるみたいね」

「ふたりとも、簡単に言ってるけど、結構難しいと思うよ、あれ」

「簡単じゃないだろうな。ただ、あそこまで回避出来るとなると……」


 剣士が焦れたのか、大ぶりな攻撃をしてしまう。

 それを回避した魔術士は、バックステップで距離を離し、初級魔法を連発し始めた。


「ふむ、また魔術士の攻撃ターンじゃの」

「今度はフォワードステップでも距離を詰め切れるとは言え、剣士からすると痛いだろうな」

「そうねえ。このペースで行けば、剣士の負けかしら」

「そうなるかな。剣士側で逆転の秘策でもない限りは」

「難しそうだね。なにか隠し球を持ってると面白いけど」


 だが、結局、この勝負はこのまま魔術士側が勝利した。

 剣士も奮闘はしたが、魔術士のほうが一枚上手だった様子。

 剣士が両手斧を取り出して、ぶん投げたのは面白かったけど、サイドステップで余裕を持って回避されたからな。

 せめてもう一発、ぶん投げられる武器を持ち込んでいればわからなかったのだけど。


「第一試合は終わりじゃのう。第二試合以降も見ていくか?」

「私は見ていくよ。面白い人がいるかもだし」

「私は一度クランホームに戻るわ。予選が終わって決勝トーナメントが始まったころにまた来る予定」

「わしも一度戻ろうかの。予選は大差ないじゃろう」

「俺は……まあ、急ぎの作業もないし、予選を見ていくことにするよ」

「了解。それじゃあ、またあとでね」


 柚月とドワンは、一度クランホームへと戻っていった。

 残ったのは俺と曼珠沙華のふたり。

 さて、それじゃあ、このまま予選終了まで見ていくとするか。


「トワっち、知り合いが参加していたりしない?」

「そもそも、リミテッドクラスに参加するって聞いた知り合いはいない」

「そっか。でも、参加人数は多そうだし、知り合いが混じってるかもね」

「混じっていても、区別がつかないのがな……」

「だよねー。私も、前のクランの残留組が参加するって聞いてたけど……この人数じゃ探しようがないかな」

「せめて、ある程度人数が絞られるまで、生き残ってくれることを願うしかないだろう」

「そだね。予選の第何試合に出るかもわからないし、ある程度以上、勝ち残ってくれることを祈ろう」


 その後、予選第八試合まで観戦していったが、俺の知り合いは見当たらなかった。

 見つけられなかっただけで参加していたのか、そもそも参加していなかったのか。

 どちらかわからないけど、まあ、そんな感じだ。


 なお、曼珠沙華の知り合いは予選を勝ち上がることができたらしい。

 よかったな、曼珠沙華。

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