337.『ヒヒイロカネの坑道』の情報

「ふむ、なるほど。いい加減、『ヒヒイロカネの坑道』の情報を秘匿し続けるのも限界か」

「ですね。まあ、もうしばらく秘匿することもできますけど、これ以上秘匿し続けてもあまり意味はないかと」


 リミテッドクラスの前日、今日納品の装備類を納品し終わったあと、白狼さんにクランホームに来てもらい、『ヒヒイロカネの坑道』の件について相談している。

 『ライブラリ』としての立場は明確で、『公表するなら公表するで構わない』、ということだった。

 あとは、共同攻略者で、『天上の試練に挑みし者』に挑戦中の『白夜』から公開の許可をもらえるかどうかだ。


「うーん。確かに、僕らがあのダンジョンとレイドを見つけてから、もうかなり経つか。そう考えると、そろそろ公表してもいい気はしてきた。ただ、『天上の試練に挑みし者』ももれなく公表されてしまうのがなぁ」

「……なんですよね。もっとも、そのレイドクエストを受けるには、ヒヒイロカネを緋緋色の鍵に交換する必要があるため、陰陽寮でクエストを受けなくちゃいけないわけですが」

「……ああ、そっちの説明もしなくちゃいけないわけか。でも、あのクエストは、陰陽寮である程度の実績がないと受けられないんじゃないかな?」

「そこの検証も含めて、『インデックス』に丸投げでしょうか。俺達じゃもう、サンプルにはならないわけですし」

「……それもそうだね。とりあえず、話はわかったよ。『ヒヒイロカネの坑道』も一カ月以上独占していたわけだし、そろそろ公開するときかもね。『インデックス』にも攻略は手伝ってもらってるけど、クエスト受注の方法とかは教えてないからね」

「それでは、『白夜』としても、公開には否定しないと」

「そうなるね。……ああ、情報料はすべて『ライブラリ』がもらって構わないよ。僕らも『ライブラリ』に教えられてついていったみたいなものだからね」

「そうですか? それでは、遠慮なくいただいておきます」

「うん、そうしてくれ。……さて、今日の話は、これで終了かな?」

「ですね。ご足労いただきありがとうございます、白狼さん」

「なに、大したことじゃないさ。トワ君は、これからどうするんだい?」

「早速ですけど、教授に話をしておこうかと。自分の性格的に、後回しにしたら忘れそうで」

「そうか。了解したよ。『白夜』としては、『天上の試練に挑みし者』を独占できなくなるのはかなり痛手だけど、このまま挑み続けても、次のレベルキャップ開放までクリアできそうな見込みはないからね。さっき、裏でクランチャットを使って確認をとってみたけど、反対したのはごく一部のプレイヤーだけだったから」

「わかりました。それでは教授と連絡を取ってみます」

「そうだね。……今日はこのあと予定もないし、僕も同席させてもらおうかな」

「構いませんが、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だよ。それに、『天上の試練に挑みし者』の情報は僕たちしか知らないわけだしね」

「……確かに。俺が説明しても、クエストの受け方くらいしか説明できませんね」

「そういうわけだから、同席するよ。ああ、情報料はすべて『ライブラリ』がもらっても構わないのはそのままだから」

「わかりました。今度、なにか差し入れしますね」

「現金よりも、そっちの方がありがたいかな。さて、教授を呼ぼうか」

「ですね」


 白狼さんとの打ち合わせを終え、教授へとフレチャをつなぐ。


『トワ君であるか。なにかあったのかね?』

「ああ、教授。『ヒヒイロカネの坑道』について、ちょっと話したいことがあるから、俺たちのクランホームへ来てくれるか?」

『ふむ。ようやくであるか。これで情報を公開できるのであるな』

「その予定だよ。詳しいことは会って話そう。それじゃあ、よろしく」

『わかったのである。すぐに向かうのであるよ』


 教授もすぐに来られるらしい。

 なので、このまま談話室で教授を待っていると、二分程度で教授がやってきた。


「ほほう。白狼君もいるとは。これは、『天上の試練に挑みし者』の情報ももらえるのであるな」

「やあ、教授。まあ、そうなるかな」

「ふむ。では、トワ君。『ヒヒイロカネの坑道』について教えるのであるよ」

「わかった。とりあえず、座ったらどうだ?」

「……それもそうであるな。それで、具体的にはどのような情報であるか?」

「ダンジョン出現の条件と、ヒヒイロカネの特性、『天上の試練に挑みし者』の報酬の話かな」

「……想像以上に大物な情報であるな。それでどのような内容であるか?」

「まずはダンジョン出現の条件。これは、住人から情報を得るか、すでに行ったことのあるプレイヤーに連れて行ってもらうかだな」

「ふむ。『インデックス』は後者だったわけであるな。そこで受けられるクエストが『天上の試練に挑みし者』であると」

「そうなるな。クエスト内容は……俺よりも詳しいよな?」

「であるな。『白夜』主催で何回か挑んでいるのである」

「それじゃあ、詳しいクエストの内容は言わなくてもいいよな?」

「うむ、大丈夫である。しかし、報酬については知らないのであるよ」

「そうなのか? それじゃあ、予想でしかないけど、クリア報酬はスレイプニルだと思うぞ」

「スレイプニルであるか。おそらくフェンリルと同じく眷属であろうな」

「おそらくな。クリアできていないから、証拠はないけど」

「であろうな。『ライブラリ』がレベル80レイドなど、挑むとは思えないのである」


 ひどい言いようだな。

 まあ、事実だけど。


「それで、改めて確認であるが、『ヒヒイロカネの坑道』の場所はどうやって知ったのであるか」

「陰陽寮での情報かな。知っての通り、陰陽寮で情報を得るか、知ってる人間に案内してもらうかしないと、たどりつけないみたいだけど」

「ふむ。いまのところ、ほかに発見したプレイヤーはいなさそうであるな」

「そうだな。少なくとも、『白夜』のメンバー以外と会ったことはない」

「なるほど。やはり、『ライブラリ』と『白夜』で情報をせき止めていたのであるな」

「まあ、そういうこと。ほかに聞きたいことは?」

「『ヒヒイロカネの坑道』のダンジョンとしての性質は、どのようなものなのであるか?」

「おや、教授たちは入ったことがないのか?」

「興味はあったのであるがな。白狼君から案内されたのは『天上の試練に挑みし者』だけであるので、そちらには入っていないのである」

「意外と律儀だな」

「これでも情報屋であるからな。クライアントの意向を無視して、勝手な真似はできないのであるよ」

「そうか。『ヒヒイロカネの坑道』はインスタンスダンジョンで、地下三階までしかない。ボスは『緋緋色の亡霊武者』レベル68から69。途中で出てくるモンスターもレベル60後半だよ」

「では、そのダンジョンで手に入るアイテムは?」

「メインは採掘で手に入る鉱石類かな。名前の通り、ヒヒイロカネが低確率で、アダマンタイトやメテオライトも手に入る。上位鉱石を手軽に集められる、いいダンジョンだよ」

「やはり、その手のダンジョンが実装されていたのであるな。ヒヒイロカネの性質は、もう判明しているのであるか?」

「そっちはドワンのほうが詳しいだろうけど、基本はミスリルの上位互換。物理方面よりも魔法方面向けの素材だ」

「つまり、性質がわかる程度にはもう研究されているのであるな」

「そんなところ。ヒヒイロカネは、ドワンの時間があるときに詳しく聞くといい」

「であるな。さて、レイドクエストの詳細であるが……」

「そっちは白狼さんの方が詳しいと思うけど。とりあえず、俺から教えられる情報は、陰陽寮である程度実績を積まないと受けられないってことかな」

「ふむ。白狼君、詳しく聞いても?」

「ああ、構わないよ。僕たちがこのクエストを発見したのは、9月ころにスレイプニルの情報を得たのが始まりかな」

「……そういえば、そのころ『白夜』で陰陽寮のクエストを受けているという話であったな」

「ああ。思い出してもらえたかな」

「うむ。もっとも、『インデックス』はほかの調査で、陰陽寮については未だに未着手であるが」

「うん、そうなんだね。ともかく、僕たちはスレイプニルの情報を手に入れたんだ。ただ、それをどうやって手に入れればいいかわからなかったから、トワ君に相談した」

「ほう。そこで、トワ君であるか」

「まあな。俺の場合、陰陽寮のトップと個人的な繋がりもあるし」

「そうであったな。それで、そこからどうつながるのであるかな?」

「陰陽寮のトップ、セイメイ殿に確認をとったら、ジパンにあるスレイプニル入手クエストの場所を教えてくれた。それが、『ヒヒイロカネの坑道』だな」

「そうつながるのであるか。ジパンにあるクエスト、ということは、他の国でも存在するのであるかな?」

「セイメイ殿はそれっぽいことを言ってた……はずだ。もう一カ月以上前だから、記憶が曖昧だけど」

「それは仕方がないのであるな。さて、次はどうつながるのであるか」

「陰陽寮で教えてもらったんだけど、そのレイドクエストを受けるには、ヒヒイロカネを使ったクエストアイテムが必要だったんだ。必要な数は……」

「20個だよ」

「……だってさ」

「なるほど、けっして少ない数ではないのであるな」

「そうだね。ヒヒイロカネで装備も調えようとすると、少なくはない数かな」

「というわけで、レイドクエストを受けるには、前提条件として陰陽寮である程度の貢献をしてないとダメっぽい」

「了解である。白狼君、レイドクエストの詳細は公開しても?」

「ああ、構わないよ。受注できるようになればすぐにわかるし、大した情報でもないからね。ちなみに、『天上の試練に挑みし者』の受注条件は、6パーティのフルレイド。レイドクエスト内容は、レベル90のボス一体との戦闘だね。これに勝てば、レイドクエストクリア……らしいよ」

「我々も同行しているのであるから知っているのであるが、やはり勝てたことはないのであるか」

「残念ながらね。ハルさんやリク君にも、手伝ってもらってるんだけど、いままで一回も勝てた試しはないね」

「了解である。であるが、未攻略レイドの情報を流してもいいのであるか?」

「前提条件として、クエストアイテム……緋緋色の鍵って言うんだけど、それを手に入れられるようになるまで、それなりに時間がかかるからね。それと、ボスが強すぎて、僕たちのメインタンクですら、数発で倒れてしまうんだ」

「確かに、『白夜』のタンクで受けきれていないのは事実であるな」

「そういうこと。だから、情報を拡散してもアドバンテージはあるし、そもそも、レベルキャップが開放されないとクリア自体が非常に困難だと思ってるから」

「であろうな。『白夜』でダメなら、『百鬼夜行』を始めとした戦闘系クランでも厳しいであろう」

「そうなるかな。……ああ、ボスの攻略方法とかは聞かないでくれよ」

「そこまで聞かないのであるよ。……話をまとめるのである。まずは、『ヒヒイロカネの坑道』に行くには、住人から情報を得るか、知っているプレイヤーに連れて行ってもらう必要がある。『ヒヒイロカネの坑道』では、ヒヒイロカネを始めとした上位鉱石が掘れる。そして、そこにはスレイプニル入手のためのレイドクエストもあると」

「そんなところだな」

「そうだね」

「……なんとも言い難い情報であるなぁ。この情報が事実であれば、いままで流通が少なかった上位鉱石の流通量が一気に増えるのである」

「だろうな。俺たちも、自力で上位鉱石を手に入れたいときは、『ヒヒイロカネの坑道』に行ってるし」

「であろうな。インスタンスダンジョンというのもポイントが高いのである。周回すれば、かなりの量を掘れるわけであるからな」

「そうだね。ヒヒイロカネの入手確率は低いけど、短い分、周回を重ねれば問題ないかな」

「そして、未発見のレイドクエスト用のクエストアイテムにもなると。本当に便利であるな」

「だな」

「……さて、まずは事実確認の検証をしたいのであるが。これから一度、陸路を通って『ヒヒイロカネの坑道』に向かうことは可能であるか?」

「えーと……うん、大丈夫だ。ただ、騎獣で【星見の都】から二時間ほど走ることになるから、その覚悟だけはしておいてほしいけど」

「わかったのである。それでは、準備をしてくるので、【星見の都】で落ち合うのであるよ」

「了解。またあとで」

「うむ。では、一旦失礼するのである」


 自分のクランに戻っていく教授を見送り、俺と白狼さんはこのあとの予定を詰める。


「教授の案内は俺のほうでします。白狼さんはどうしますか?」

「うーん。僕が行く必要もなさそうだし、『白夜』に戻ろうかな」

「わかりました。ありがとうございました、白狼さん」

「気にしなくていいよ。それじゃ、またね」

「はい、また」


 白狼さんもクランに戻って行ったので、俺は【星見の都】に移動して教授達を待つ。

 少し待つと、『インデックス』のメンバーと一緒にやってきたので、教授達のパーティに入って道案内をする。

 インデックスは検証のために、俺の入ったパーティ以外にももう一パーティついてきて、『ヒヒイロカネの坑道』にたどりつけないか試すらしい。

 なお、ここにいるメンバーは誰も『ヒヒイロカネの坑道』に行ったことがないらしい。


 そして、教授たちを『ヒヒイロカネの坑道』まで案内したが、俺の入っていなかったパーティは途中で俺たちを見失ったようだ。

 やはり、一度ここを訪れたメンバーがパーティ内にいないと、たどりつけないような仕掛けが施されているらしい。

 検証の終わった教授たちは、ポータル登録していないメンバーが登録して入口付近を調査したあと、一度ダンジョンに潜ることにしたようだ。

 俺の道案内は済んだので、教授達から別れてクランホームに戻る。

 情報料は、いろいろと精査して後日改めて貰うこととなった。


 さて、そろそろいい時間だし、今日はここまでにしておこう。

 明日は、リミテッドクラス初日。

 また、曼珠沙華は観戦に行きたがるだろうし、今回は依頼主もある程度参加している。

 急ぎの用事はないし、観戦するのも悪くないかな。

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