335.イリスの特訓 3

「はい、トドメ、ハイチャージバレット!」


 である建御雷から放たれた銃弾は、敵骸骨型モンスターの頭蓋を打ち砕いた。

 マギマグナムで【ライフル】スキルの『ハイチャージバレット』を使えるのは、先程覚えた【銃聖術】スキルによるものだ。

 このスキル、本来の装備制限を取り払ったスキル使用を可能としているため、実に様々なことが可能になっている。

 今回のようにライフル以外の武器で、高倍率スキルを使ってみたり、逆にライフルを使って、長距離からデバフ付与をしたり。

 組み合わせパターンが一気に増えたことによって、手札の枚数も一気に増えた。

 とくに、マナカノンとマギマグナムのシナジーはかなり強い。

 武器の魔法攻撃力やクリティカルダメージを上昇させるマナカノン。

 純粋な魔法攻撃力を上げるマギマグナム。

 この二系統のスキルをあわせて使うことによって、一気に攻撃力を高めることができるのだ。

 ぶっちゃけ、魔法防御の低い敵なら一撃で倒すことができるくらい強化される。


「いやー、トワっちが新スキルを覚えてから、戦闘が一気に楽になったね」

「それはそうだよー。マスタースキルって、消費もはげしいけど、効果も非常に強いからねー」

「そうなんだ。私も狙ってみようかな?」

「やめたほうがいいと思うよー? 剣系統のマスタースキルは、【剣】スキル派生を五種類マスターだし、銃系統はトワが覚えたように、【銃】スキル派生を四種類マスターだからねー」

「……うん、私には無理!」

「だよねー。ボクは弓のマスタースキル狙ってるけどー」

「そうなのか。弓のマスタースキルって?」

「【弓聖術】スキルだよー。【弓】スキル派生を三種類マスターで覚えられるんだってー」

「そうなのね。ちなみに、それってどこ情報?」

「教授から聞いたー。だから、確度は高いと思うー」

「教授経由か。剣や銃のマスタースキルについても?」

「うん。弓の話を聞くとき、一緒に教えてくれたー」


 どうやらイリスの知識は、教授からの話のようだ。

 イリスが自分の武器種と違う、剣や銃のマスタースキル取得条件を知っているわけだ。

 普通に考えて、イリスには必要な知識じゃないものな。


「イリス、マスタースキル覚えるって、大丈夫なの?」

「大丈夫だよー。もう、【短弓】と【長弓】はマスターして、残りは【魔導弓】だけだからー」

「そうか。それで、さっきから魔導弓でばかり攻撃してたのか」

「そういうことー。でも魔導弓も、もうそろそろマスターになるはずだよー」

「そっか。よーし、それじゃあ気合を入れて最後の追い込みにいこう!」

「おー!」

「了解」


 いまは、二周目の地下一階をクリアする目前。

 もう少し進めば、地下二階に到達だ。

 イリスの魔導弓を鍛えるため、俺や曼珠沙華はダメージを与えるスキルを最小限にし、逆に、デバフ系のスキルを多めに使うようにした。

 その結果。


「やったー! 【魔導弓】もスキルマスターだー!」

「やったね、イリス!」

「おめでとう。これで、【弓聖術】スキルも覚えられるか?」

「うん、覚えられるようになったみたい。スキル覚えるから、少し待っててねー」

「おっけー。休憩してるね-」

「わかった。あまり、急がなくていいからな」

「うん、ありがとー」


 イリスがスキルを覚えるということで、少し休憩である。

 いまは、地下二階を半分ほど進んだあたりだ。

 このまま進めば、あと20分程度でボス前に辿り着くだろう。


「おまたせー。スキル覚え終わったよー」

「おっ、早いねー。ほかの準備は大丈夫なの?」

「そっちも平気ー。基本的に、使う武器が増えるわけじゃないからー」

「なら、いけるな。ひとまず、慣らし運転ということで、慎重に進むぞ」

「いえっさー」

「わかったよー」


 イリスが、【弓聖術】を覚えたばかりということで、より慎重に戦うようにした。

 だが、心配は杞憂だったようで、イリスはバンバンモンスターを狩っていく。

 魔導弓を使って、短弓や長弓のスキルを使えるというのは、かなりの意味があるようだ。

 射程の長い魔導弓から、複数の矢が連続で放たれたり、逆に攻撃力の高い一本の矢が放たれたり。

 魔導弓の弱点だったらしい、瞬間火力の低さを補っているようだ。

 俺の【銃聖術】は、どちらかといえば補助スキルメインで活用しているので、攻撃スキルをメインに使っているイリスとは対照的だろう。

 まあ、攻撃スキルが少ないとも言えるんだけどね、【銃】系統の派生は。


「うーん、ボスまで呆気なくたどりつけたねー」

「そうだな。【銃聖術】や【弓聖術】を覚えたことで、ダメージ量も増したみたいだから、順当な結果とも言えるが」

「そうみたいね。……で、ボスに挑んでみる?」

「どうする、イリス?」

「うーん。時間的には、もう一周するだけの時間があるんだよねー」

「なるほど。それじゃ、もう一周してきて、それから余裕があったらボスに挑んでみる、でどう?」

「それがいいかもー」

「わかった。それじゃあ、入口まで戻ろう」


 こうして、俺たちは再度入口まで戻り、三周目のダンジョン攻略を始める。

 さすが、スキルが揃ってきただけあって、ダンジョンを進むスピードも上がってきた。

 いままでは、戦闘と採掘が同じくらいの時間をかけて作業をしてきたが、今回は、戦闘時間より採掘時間のほうが明らかに長くなっていた。

 こうして、踏破のための時間を短縮できた結果、40分ほどでボス前までたどりつけた。


「三周目のボス前でございまーす」

「誰に向けて説明してんだよ、曼珠沙華」

「うーん、なんとなく?」

「……そうか。で、イリス、さすがに、もうそろそろ寝る時間だよな」

「うん、そうだねー。勝っても負けても、緋緋色の亡霊武者と戦えばちょうどいい時間かもー」

「そういうことなら、ボス戦に挑んでみるか」

「だねー。負けても問題ないしねー」

「まあ、イリスが問題ないなら、私も問題ないかな?」

「それでは、反対意見はなしということで、ボス戦、行ってみるか」

「おー」

「ゴーゴー!」


 俺たちは、ダンジョン奥にある重厚な扉を開け、その中に進入する。

 部屋の中はボスフィールドとなっており、部屋の奥でこのダンジョンのボス『緋緋色の亡霊武者』が待ち構えていた。


「さて、先制は俺のライフルとイリスの弓でいいんだな?」

「いいよ。私のライフルじゃ、そこまでダメージ期待できないからね」

「いちおう、曼珠沙華も加わっていいと思うけどなー」

「私は第二射から参加ってことで。……先制攻撃を仕かけても大丈夫なんだよね?」

「そこは大丈夫だよー。先制攻撃が終わったら、ボクの夜叉丸がすぐにターゲットを持ってくれるからー」

「それなら、いいんだけど。いきなり、接近されて、後衛二人が倒されるとかやめてね?」

「大丈夫だ。緋緋色の亡霊武者に高速移動系のスキルはないから」

「だといいんだけど」

「それじゃー、始めるよ、トワー」

「わかった。タイミングをあわせるぞ」


 俺とイリスで、タイミングをあわせて攻撃を放つ。

 俺のほうは、各種バフスキルを事前に使用し物理攻撃力を上昇させたデバフスキルを選択、イリスは高火力スキルを選択したようだ。

 こちらの動向を見ていた緋緋色の亡霊武者に、俺たちの攻撃があたり、それを合図として戦闘が始まった。


「さあ、緋緋色の亡霊武者戦、開始だよー」

「そういえば、このボスの戦闘パターンってわかってるの?」

「いいや、あまりわかってないな。『白夜』からは、オーソドックスな戦い方しかしないと聞いてるけど」

「それって単純に強いってことだよね!?」

「そうともいうねー」

「始まったものは仕方がないさ。……ターゲットも、しっかり夜叉丸が押さえてくれたみたいだし、攻撃を始めるぞ」

「うー、私的にはもっと安全な戦いができると期待してたのにー」

「戦闘開始前に説明がない時点で察しろ。ほら、さくさくいくぞ」


 緋緋色の亡霊武者は見た目通り、物理攻撃メインのタイプらしい。

 身長4メートル近い巨体と、それに見合った巨大な刀から繰り出される斬撃は、フル武装のガーゴイルに対してもかなりのダメージを与える。

 俺は、ヒーラーも務めながら、元【ハンドガン】系統のデバフスキルを緋緋色の亡霊武者に撃ちこんでいく。

 前に試したときはデバフが効かなかったが、今回いろいろなデバフスキルを試すことで、有効なデバフを絞り込む。

 そうして、確実に戦闘力を低下させながら、じわりじわりとあちらの体力を削っていく。

 シリウスもこちらの思惑にあわせてくれるようで、細かい攻撃で着実にダメージを与えている。

 緋緋色の亡霊武者は、電撃属性の攻撃を食らうと一時的にスタンする特徴があるので、シリウスが時々魔法を使って動きを止めてくれていた。

 イリスと曼珠沙華の二人は、基本的に最大火力を出し続けている。

 緋緋色の亡霊武者は物理防御が高めなので、最大火力を出さないとなかなかダメージが通らないのだ。


「うーん。やっぱり、レベルの高いボスだけあって、簡単には倒れてくれないよねー」

「そうだねー。ボクたちの攻撃力じゃ、先にこちらのリソースが尽きるかも?」

「その時はその時だな。できる限り粘ってみるさ」


 20分程攻防を続けていると、緋緋色の亡霊武者のHPが20%以下になり、攻撃形態が変化した。

 六本腕の骸骨武者へ変貌を遂げた緋緋色の亡霊武者は、その火力をイリスのガーゴイル、夜叉丸に集中する。

 すると、


「あ、夜叉丸が倒された!」

「ちっ、回復が追いつかなかったか!」


 夜叉丸への回復が追いつかず、夜叉丸は緋緋色の亡霊武者に倒されてしまった。

 盾役が倒れてしまえば、あとは全滅するだけだ。

 せめて残り数%まで削れていれば、いちかばちかの全火力開放も手段としてありうる。

 だが、まだ18%ほど残っている状況では、さすがに倒しきることはできないだろう。

 試しに、火力系統のスキルに切り替えてみたが、結局、全滅するまでの間に削れたのは2%弱だった。


「いやー、あっさり負けたね」

「相手の動きを封じる盾がいなくなったら、こんなものだろ」

「ごめんねー。夜叉丸、もう少しもつと思ったんだけどー」

「それを言ったら、ヒーラーをやっていた俺の回復力不足もあるからな。まあ、お互い様、というところだ」

「さすがに、あれ以上の回復は一人だと厳しいよねー。……うーむ、私もガーゴイルやユニコーンを取りに行くべきか」

「そこは任せるよ。……さて、いい時間だし、撤収だ」


 これで、今日のレベル上げは終了だ。

 イリスは戻るとすぐにログアウトしていったし、曼珠沙華も少し休憩したらログアウトすると言っていた。

 俺も、少し休憩したらログアウトだな。

 【銃聖術】スキルも手に入ったし、個人的には収穫の多かった一日だった。


**********


2019/08/22修正:

【銃聖】スキルを【銃聖術】に変更しました。

スキル名の変更のみでほかは変更ありません。

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