334.イリスの特訓 2

「そこ! ペネトレイトアロー!」

「ガードブレイクショット!」

「とどめ! セブンスラッシュ!」


『ヒヒイロカネの坑道』に突入してしばらく、地下三階まで来ることができた。

 とはいえ、けして楽な道程ではなく、どちらかといえばかなりぎりぎりだったりもする。

 これは、レベル不足と言うより、スキルの手札が足りていないのだろう。

 ……俺とか、いちおう、種族レベル67だし。


「ふー。やっぱり、ここのモンスターは強いねー」

「だろうな。難易度だけなら、最上位クラスのダンジョンだ」

「そうなんだよね。この前、ドワンと一緒に来たときも、クリアできなくて死に戻りだったし」

「それは仕方がないよー。ボクたちだけじゃなく、白狼さんたちでもクリアに時間かけてるらしいし」

「そうか。あまり攻略状況とか聞いたことないから、その辺は知らなかったな」

「やっぱり、モンスターの種類によって耐性が違うのが大変だってー。物理も魔法も揃えてないと、倒すのに時間がかかって仕方がないって言ってたよー」

「そっかー。じゃあ、いま私たちが苦しんでるのって、魔法攻撃力不足?」

「……だろうな。かといって、俺の眷属を精霊に切り替えると、前衛が不足するから」

「だよねー。魔法火力は任せるよ、トワっち」

「まあ、任された。MPポーションを多めに持ってきておいてよかったよ」


 戦闘を終えた後のインターバルを終えたら、この部屋にある採掘ポイントを採掘してまわる。

 『ヒヒイロカネの坑道』は名前通り、ヒヒイロカネが手に入る。

 ここまでの採掘ポイントでも、ヒヒイロカネがぼちぼち手に入っていた。

 ヒヒイロカネ以外だと、アダマンタイトとメテオライトがメインになっている。

 ドワンとしては、ヒヒイロカネが大量にほしいらしく、ちょくちょく掘りにきてるらしい。

 ドワン一人ではモンスターを倒せないので、『白夜』のメンバーと一緒だったり、柚月やイリス、おっさんが一緒だったりするとのこと。

 おかげで、ドワンの種族レベルはすでにカンストしてるらしいし。


「……さて、この部屋の採掘ポイントも掘り尽くしたな」

「だねー。ヒヒイロカネがたくさんで、ドワンにいいお土産ができたよー」

「そうだね。ドワンが喜びそう。……でも、ヒヒイロカネの装備って売りに出してるのって見たことがないけど?」

「ヒヒイロカネ装備は、全部受注生産だって聞いたぞ。作ったあと、装備名やフレーバーテキストを変えて、ヒヒイロカネを使ってることはバレないようにしてるらしいが」

「そっかー。じゃあ、私も頼めばヒヒイロカネ装備を作ってもらえるのかな?」

「鉱石も持ち込めば、喜んで作ると思うよー。ヒヒイロカネ装備、スキル経験値がたくさん手に入るって言ってたしー」

「上位鉱石だし、経験値は美味しいだろうな。……あとは、いつまでこの独占状態を維持できるかだが」

「そういえば、独占してからかなり経つよねー。そろそろ公開した方がいいのかなー?」

「新入りの私にはわからないかなー? トワっちはどう思う?」

「そうだな……とりあえず、公開するかどうかは、本職に相談かな?」

「つまり?」

「教授に話を持ち込んでみる」

「そうなるよねー。ちなみに、独占状態が崩れて困ることってあるのかなー?」

「……たぶん、俺たちにはないと思うぞ。ドワンとしては、ヒヒイロカネが流通することになれば、入手機会が増えて嬉しいだろうし」

「そうなると、『白夜』の皆との交渉かー。『白夜』としてはどうなんだろうねー?」

「さてなぁ。『白夜』的に一番影響がありそうなのは、『天上の試練に挑みし者』の情報が拡散されることだと思うが」

「『天上の試練に挑みし者』って、ここの入口のところにあるモノリスから挑めるレイドだっけ? 『白夜』が独占してるの?」

「独占してるというか、『ライブラリ』と『白夜』しか情報を持ってないから。レベル的にも、そう簡単に来ることができる場所じゃないし」

「そっかー。私的にも、格上だから経験値が美味しいけど、さすがにレベル60後半のダンジョンってきついよね」

「だねー。ボクたちもかなりぎりぎりだしねー」

「これで、一度に襲ってくる雑魚の数が多いと対処できないけどな」

「一度の戦闘で戦う数が少ないから、何とかなってる感じだよね」

「そうだな。……あとは、ボスに勝てれば文句ないんだが」

「それは難しいよねー。緋緋色の亡霊武者、かなり強いしー」

「単純に強いからな。どうやって倒すかが問題だな」

「それなんだけど、ボスに挑む必要ってあるの?」

「……まあ、ないな」

「ないねー。ボス前まで辿り着いたら、引き返して周回する?」

「そのほうがいいんじゃない? 無理にボスと戦わなくってもさ」

「スキルレベルを上げるなら、その手もありか。どうせ、地下三階までしかないし」

「一度倒したモンスターは復活しないしねー」

「それじゃ、そういうことで。さあさあ、さくっとボス前まで行っちゃおう!」


 方針が決まったら、行動を再開する。

 モンスターを倒しながら進んでいくと、やがて、ボス前の扉まで辿り着く。


「ボスまで辿り着いたねー」

「だな。それじゃあ、引き返すか」

「そうしよう。死に戻りしたら、ステータス下がっちゃうし」

「だねー。それじゃあ、次の周回、いってみよー」


 ボス前まで辿り着いたら引き返し、一度ダンジョンを出てから再びダンジョンに潜る。

 それを繰り返すことで、モンスターとの戦闘回数を増やして、経験値を稼ぐ。


 イリスは短弓・長弓・魔導弓といった弓を切り替えながら戦い、スキルレベルを上げているようだ。

 曼珠沙華もライフルによる遠距離攻撃と、レイピアによる接近戦を組み合わせることで着実にダメージを与え、スキルを鍛えている。

 俺も、唯一カンストしていないハンドガンをメインにスキルを鍛えていく。

 そして、二周目の途中、目的のアナウンスがようやく流れた。


〈【ハンドガン】レベルが上昇しました〉

〈【ハンドガン】が一定レベルに達しました。【ハンドガンⅡ】を取得可能です〉

〈スキル取得条件を満たしました。【銃聖術】スキルを取得可能です〉


「ふむ、ようやくか」

「トワっち、どうしたの?」

「【ハンドガン】スキルのレベルがカンストした」

「おお、おめでとー」

「よかったじゃない。……で、それだけ?」

「いや、これで条件を満たしたから、【銃聖術】を覚えられるようになった」

「【銃聖術】? なんだっけ、それ」

「マスター系スキルの一つだねー。確か、同一系統の武器種を一定数以上カンストすると覚えられるようになるんだよねー」

「銃の場合、四系統をマスターだからな。スキルの存在は知っていても、なかなか入手できなかったわけだ」

「そうなんだ。で、覚えるの、それ」

「ああ、覚えるぞ。……そういうわけだから、少し時間をもらうよ」

「おっけー。それじゃあ、少し休憩にしよう」

「そうね。少し休もっか」


 イリスと曼珠沙華は休憩に入った。

 俺のほうも、スキルを取得して準備しないとな。

 ……さて、【銃聖術】を取得するために必要なSPは……150か。

 さすが、マスタースキル、必要SPも半端じゃない。

 とはいえ、ここまできて覚えないわけにもいかないので、さくっとSPを支払って【銃聖術】を覚える。


〈【銃聖術】スキルを取得しました〉

〈【銃聖術】スキルを取得したため、【ハンドガンⅡ】【ライフルⅡ】【マナカノンⅡ】【マギマグナムⅡ】を取得します〉

〈【銃聖術】スキルの効果により、銃系統種別スキルの制限がなくなります。各銃種専用スキルを別系統の銃種でも使用できるようになりました〉


 うん、俺にとってはこれが目当てだった。

 【銃聖術】スキルを覚えると、取得可能な関連超級スキルを自動取得する。

 それから、各銃種で制限されていたスキルを、別の銃種でも使えるようになった。

 たとえば、ハンドガン用のスキルをライフル装備時にも使えるようになるというものだ。

 これは【銃聖術】に限らず、マスタースキルであればどれでも同じような効果をもつ。

 膨大なSP消費に見合うだけの効果はあるのだ。


「トワっち、スキル取得、終わった?」

「ああ、終わったぞ」

「それじゃー、続きいってみよー」


**********


2019/08/22修正:

【銃聖】スキルを【銃聖術】に変更しました。

スキル名の変更のみでほかは変更ありません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る