333.イリスの特訓 1

 ガーゴイル・ブースターを作成後、俺はのんびりと依頼の対応をしていた。

 次の週末はリミテッドクラスということで、そちらに参加するプレイヤー用の装備作成だ。

 予算に合わせた品質の装備を仕立てていく。

 ……もっとも、品質は全て★12に揃えてるけど。


 銃だけということで、そこまで依頼の数は多くない。

 錬金アクセサリーの依頼もあるかと思ったが、リミテッドクラスに限れば、そっちの依頼もなかった。

 今日はユキもいないので、日課のポーション作りが終わったあとは、依頼の銃作製にあてることにする。

 そんな中、工房の扉をノックする者がいた。


「うん、誰だ?」

「トワー、ボクだよー」

「ああ、イリスか。何か用事か?」

「レベル上げにいきたいんだけど、付き合ってー」

「レベル上げ? どこに行くんだ?」

「ヒヒイロカネの坑道に行こうと思ってー」

「……ヒヒイロカネの坑道か。俺とイリスだけじゃキツくないか?」

「曼珠沙華も手伝ってくれるってー」

「……そうか。わかった、手伝うから少し待っててくれ」

「やったー。それじゃあ、談話室で待ってるねー」

「ああ。いまの作業が終わったら、そっちに行くよ」


 ……曼珠沙華も一緒というのが微妙に引っかかるが、まあ、問題はないだろう。

 というか、曼珠沙華、ヒヒイロカネの坑道に行けたのか?


 疑問はあるが、とりあえず、いまの作業で今日の分は切り上げる。

 装備と消耗品を確認したら、談話室へと向かう。

 談話室では、イリスと曼珠沙華が待っていた。


「はろー。今日はよろしくねー」

「ああ。ところで、曼珠沙華、ヒヒイロカネの坑道に行けたのか?」

「先週のうちにドワンが連れて行ってくれたよ。……まあ、採掘作業の人手として」

「だろうな。ヒヒイロカネを手に入れることができるのは、いまのところあそこだけだし」

「みたいだねー。ヒヒイロカネって、そんなに便利な素材なの?」

「基本的な性質はミスリルの上位互換だな。産出量の問題で、一般プレイヤーには出回ってないけど」

「そうなんだ。ってことは、『ライブラリ』で独占?」

「いや。『白夜』もヒヒイロカネを入手できるぞ。あと、『白夜』経由でいくつかのパーティも」

「そうなんだ。……ヒヒイロカネの坑道ってレベル上げに向いてるの?」

「どうだろうな。インスタンスダンジョンだから、他のプレイヤーを気にしなくていいのはあるけど」

「ふーん。まあ、イリスのお手伝いだし、どこでもいいけどね」

「だな。それで、今日はこの三人で行くのか?」

「うん、そうだよー。盾役はボクのガーゴイルに任せてー」

「わかった。……ガーゴイルの調子はどうだ?」

「レベルが低いときは、結構微妙?」

「そうなのか?」

「うーん、なんて言えばいいのかなー。AIがあまり賢くないって感じ」

「……なるほどな。いまは大丈夫なのか?」

「レベル40越えたからねー。かなり賢くなってるよー」

「そうか。ちなみに、曼珠沙華って立ち位置はどうなるんだ?」

「私? 私は中衛かな。基本はライフルで攻撃。隙を見つけたら飛び込んで、剣で攻撃って感じ」

「……職業ってガンナー系だっけ?」

「ううん。スカウト系の『ソードレンジャー』だよ。スカウト系だから、DEX補正が高くてライフルも問題なく扱えるの」

「そうか。それならいいんだが」

「でも、そうなると、パーティに前衛が不足してるよね」

「ああ、そこは俺がフェンリルを出すよ。そうすれば、ガーゴイルとあわせて、前衛二体になるから問題ないだろう」

「了解。そういえば、フェンリル持ちだっけ」

「まあな。……さて、準備は大丈夫か?」

「オッケーだよー。トワが来るまでの間に、準備整えておいたからー」

「私も大丈夫。……まあ、私は眷属をケットシーしか持ってないから、眷属抜きだけど」

「……ケットシーじゃ、ヒヒイロカネの坑道はキツいだろうな」

「だよね。私のケットシー、完全生産型だし」

「曼珠沙華もガーゴイルか妖精手に入れたらー?」

「うーん、ガーゴイルは入手難易度がねぇ。お金は足りるけど、数集めるのがきついなー。妖精は……今度、『妖精郷の封印鬼』に行くときに同行させてもらおうかな」

「わかった。先週は『妖精郷の封印鬼』に行かなかったからな」

「それじゃ、そっちはよろしく。……ガーゴイル、私も入手した方がいいかなー」

「便利だよー、意外と」

「接近戦が苦手な生産職には便利だよね」

「素材が集まったら教えてくれ。作るのは、いくらでも作るから」

「ハーイ。とりあえず、今日はよろしくね」

「よろしくー」

「ああ、よろしく。では、出発だ」


 ホームポータルから『ヒヒイロカネの坑道』へと転移。

 『ヒヒイロカネの坑道』前は、誰もいない。

 と思ってたら、『白夜』のメンバーと鉢合わせた。


「おや、トワ君。君たちもここに?」

「ああ、白狼さん。ええ、イリスの手伝いで」

「こんばんはー」

「ああ、こんばんは。イリスちゃんの手伝いというと?」

「ボク、今回の武闘大会に参加するからレベル上げー」

「そうなんだ。トワ君と戦うことになるんじゃないのかな?」

「ああ。俺はマイスタークラス、不参加ですから」

「おや、そうなのかい? 運営からシード権のメールが来てたと思うけど……」

「残念ながら、来週の土日はリアルの予定がつまってて」

「……ああ、なるほどね。それじゃあ、仕方がないか」

「まあ、そういうことで。俺は不参加ですけど、イリスが参加するらしく」

「なるほど。でも、イリスちゃんのレベルも、マイスターの制限レベルより上じゃないのかい?」

「うん。種族レベルは制限値より上だよー。上げたいのは、スキルレベルのほう」

「……らしいですね」

「なるほど、スキルレベルか。それは頑張らないとね」

「うん、頑張るよー」

「マスター、再突入の準備、整いました」

「わかった。……そういうわけだから、またね」

「はい。……ああ、次に『妖精郷の封印鬼』に行くときは、曼珠沙華も行きたいそうです」

「わかったよ。次に行く機会では、人数を調節しよう」

「お願いします。それでは、お気を付けて」

「ああ。ヒヒイロカネ、集めないとね」


 それだけ言い残して、『白夜』のパーティはダンジョンに潜っていった。

 ……俺たちも、準備して突入しないと。


「来い、シリウス!」

「出ておいでー、夜叉丸!」


 俺がシリウスを呼び出すのと一緒に、イリスもガーゴイルを召喚した。

 イリスのガーゴイルは、夜叉丸と言う。

 鬼神型を選択した、イリスらしい名前だ。


「それが、イリスのガーゴイルか」

「うん。ドワンに言って、装備を調えてもらったー」

「うーん。こうして見てみると、ガーゴイルほしくなるなー」

「いると便利だよー。曼珠沙華も作ろー」

「今日の結果を見てから考えるね。それじゃあ、準備できたのかしら」

「ああ、準備完了だ」

「ボクもオッケー」

「それじゃあ、ダンジョンに入ろっか」

「うん、とつにゅー!」


 眷属も準備ができたので、『ヒヒイロカネの坑道』に入ることに。

 さて、このパーティでどこまで行くことができるのか。

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