332.ガーゴイル・ブースター

「トワ君、ガーゴイルを作ったそうであるな」

「……教授、出し抜けだな。どこからその情報を?」

「イリス君から直接聞いたのである」


 ルーキークラスの観戦も終わったある日。

 クランホームにやってきた教授は、いきなりそのようなことを切り出してきた。

 ……イリスに口止めとか依頼してないし、教授に伝わるのも仕方がないことかもしれないな。


「確かに、イリスと柚月にガーゴイルを作ったよ。それで、どうかしたのか?」

「『どうかしたのか?』では、ないのである。せっかくの機会、例のガーゴイル用補助装備を作るのであるよ」

「……ああ、それもいいかもしれないな。少なくとも、気分転換にはなる」


 俺の場合、ガーゴイルは使わないから補助装備があっても、宝の持ち腐れだ。

 だが、イリスや柚月は実戦でガーゴイルを使う機会も多いだろう。

 なら、実物を作ってみて、性能を確認するのも悪くないかな。


「わかった。それじゃあ、補助装備を作ってみよう」

「うむ。……それで、作り方は大丈夫であるか?」

「……そういえば、レシピ状態のまま覚えてなかったな。……よし、覚えたぞ」


 ガーゴイル用補助装備のレシピを使用して、作り方を覚える。

 作れるようになった装備名は……


「ガーゴイル・ブースターか。わかりやすいと言ってしまうと、それまでな名前だな」

「うむ、ここの運営らしい、ストレートなネーミングである」

「だな。さて、こいつの素材は……」

「おや? レシピと一緒に、素材も受け取ったのではなかったのであるか?」

「素材も受け取っていたけど、『素材セット』って扱いで中身がわからなかったんだよ。使用することで、中の素材が手に入るタイプだな」

「そうであるか。それで、素材はなんであるか?」

「えーと、アダマンタイト鉱石100個、ミスリルインゴット20個、レベル70以上のボスモンスターの魔石と魔核1セット、だな」

「ふむ。ボスモンスターの魔石と魔核が厳しい以外は、ガーゴイルに比べて楽な部類であるな」

「アダマンタイト鉱石100個は厳しいと思うけどな。それから、ミスリルが鉱石じゃなくてインゴット20個なのも引っかかるだろ」

「インゴット20個と言うことは、鉱石で言うと100個であるな。メテオライトを必要としないだけ、良心的である」

「アダマンタイト鉱石100個ってだけでも、良心的とは言えないがな。……とりあえず、素材セットも開封したし、作製は可能になったぞ」

「ふむ。それで、実際に作る際にはどうすればいいのかね」

「上級錬金生産セットに素材を並べて、ピカッで終わりみたいだな。……まあ、ピカッてやるための魔力操作が難しいのだろうけど」

「まあ、ガーゴイル専用の装備と言うだけでも、十分に高難易度なのは予想できるのであるからなぁ」

「そういうことだな。……さて、まずは小手調べ代わりに一個作ってみるか」

「うむ。それでは、工房に向かうのであるよ」


 教授を引き連れて、工房へと向かう。

 工房では、いつも通り、ユキが生産活動をしていた。


「あ、トワくん。……それに、教授さん? 工房に教授さんと一緒に来るなんて、珍しいね?」

「お邪魔するのであるよ。トワ君に、見せてもらいたいレシピがあるので、お邪魔させてもらったのである」

「そうなんですね。それでは、お茶の準備をしますから少し待っていてください」

「うむ。ありがとう」


 ユキと教授が、やりとりしてるのを聞きながら、俺のほうでは錬金セットを準備しておく。

 合成系スキル使用のための設備を準備して、素材類を所定の位置に配置、数が多いけど、そこはゲーム的なあれこれが働いているらしく、全てのアイテムを並べることができた。


「うん。これで、準備は完了かな」

「ふむ。思っていたよりも早いのであるな」

「作業的には合成系スキルだからな。素材を並べるだけでいいから、準備はすぐに終わるさ」

「なるほど。それでは、早速始めるのであるかな?」

「ああ。一つ目は基本に忠実に、オリジナル要素は一切抜きで作ってみるよ」


 準備は整っているので、所定の位置について、合成作業を始める。

 予想通り、かなり上位のレシピらしく、魔力を流すのが難しい。

 強めに流さなくちゃいけないタイミングもあれば、逆に弱く細く流さなくちゃいけないタイミングもある。

 銃製造でも似たような感覚はあるが、あれよりもかなり繊細なコントロールを要求されているな。

 そんな合成作業を続けることしばらく、ようやく補助装備が完成した。


「ふむ。合成作業だけで、5分もかかるのであるか。これは大変なレシピであるな」

「……5分もかかってたのか。こっちは魔力のコントロールだけで精一杯だったな」

「無理もあるまい。傍から見ていても、かなり繊細な作業だというのは見受けられたのである」

「そうか。とりあえず、完成品を見てみるか」


 ―――――――――――――――――――――――


 ガーゴイル・ブースター ★-


 ガーゴイル専用の補助装備

 ガーゴイルにセットすることで、ステータスを引き上げることができる

 この装備は特殊枠扱いになり、同系統の装備は一つしか装備できない

(製作者:トワ)


 任意のステータス1種類を20%強化

 被物理ダメージを10%軽減


 ―――――――――――――――――――――――


 完成した装備の見た目は、魔石と大差ないものだった。

 だが、普通の魔石とは違い、無色透明な握り拳大の結晶だ。


「ふむ。これは、なかなかの装備品であるな」

「ステータス増強とダメージ軽減か。確かに、なかなかの品物だな」

「であるな。これはまた、面白いネタが見つかったのである」

「……ネタとしては面白いのかもだけど、素材はかなり難易度高いぞ?」

「大丈夫であるよ。根本的に、ガーゴイルを持っているプレイヤーが少ないのである」

「どこが大丈夫なんだか」

「とりあえず、トワくん。少し休憩にしよう?」

「……それもそうだな」


 ユキに誘われるまま、席についてジュースを飲む。

 完成したガーゴイル・ブースターは、テーブルの上に置いておく。

 教授は興味深げに観察しているが、見ただけではわかることはあまりないだろう。


「ふむ。見た目的には、ただの結晶体であるな。これをどう装備するのであるか?」

「ちょっと待ってくれ。……どうやら、胸部に埋め込むらしいな」

「ほう。そのような部分があるのかね?」

「俺もいま知った。取り外しは可能みたいだし、俺のガーゴイルで試してみるか」


 俺はガーゴイルの降魔を呼び出し、ガーゴイル・ブースターを取り付けることにした。

 まずは、胸部を露出させなければいけないので、鎧を取り外す。

 鎧を外したら、胸部へとガーゴイル・ブースターを近づけてみる。

 すると、胸部に穴が空き、そこにガーゴイル・ブースターをはめ込むことができた。

 はめ込まれたガーゴイル・ブースターは、そのまま胸部奥へと格納され、見た目ではわからなくなった。


「これで装備完了であるか?」

「そのようだ。……ガーゴイルのステータス画面で、どのステータスを強化するのか選択できるようになってるな」

「ふむ。なんとも、地味であるな」

「補助装備なんてこんなものだろ? とりあえず、VITを強化しておこう。使う機会がないのがなんだけど……」

「まさに、宝の持ち腐れであるなぁ。フェンリル持ちである以上、仕方がないのであろうが」

「……フェンリルのほうが用途が広いからな。まあ、盾役がほしい状況ができれば使うだろうさ」

「……限定的であるなぁ」


 正直、入手した時点で、使う機会がないのは想定済みだからな。

 いちおう、装備は完全に調えたけど、これだって使われないのはもったいない気がするし。


「……さて、休憩も終わったし、早速だけど、レシピの改良といきますか」

「おや、早速オリジナルレシピに挑戦であるか」

「オリジナルレシピではあるけど、基本的な作業だな。ミスリルインゴットを、ミスリル金インゴットに置き換えてみる」

「なるほど。わかりやすい修正であるな」

「大丈夫なの、トワくん?」

「んー、やってみないとわからないかな」


 まずは、手持ちのミスリルインゴットを金と合成し、ミスリル金インゴットを作製する。

 この辺りのレシピはすでに入手済みなので、とくに問題なく作業可能だ。

 ……ミスリル金がほしい場合、基本的にドワンに頼むから、自分で作るのは数える程度しかやってないけど。


「ふむ。ミスリル金インゴットは完成したようであるな」

「ああ。あとは、これを使ってガーゴイル・ブースターが作れるかどうかだけど」

「それを試すのが、これからの作業であるな」

「そういうこと。早速始めてみるか」


 素材を並べて、合成作業を開始する。

 魔力操作は、先程より、さらに繊細なコントロールを要求されるようになった。

 開始しばらくは、なんとか食いついていくことができたが……


「……うん、失敗した」

「8分かかっても、成功しないのであるか。かなり厳しいのであるな」

「そうだね。トワくん、ひとまず休憩にしよう」

「ああ、そうだな。……8分も作業を続けてたとか、まったく気付かなかったぞ」

「それだけ集中していたのであろうな。これは、手強そうなレシピである」


 休憩を挟んで、再度ミスリル金インゴットを用意し、二回目の挑戦。

 今回も途中で失敗して、素材をダメにしてしまった。

 作業が終わったあとは、ステータス的にも精神的にも疲労がたまっているので、休憩だ。


「今回は9分であるな。それで、作製はできそうであるか?」

「うーん、あとちょっとだと思うんだけど。最後の一押しが足りない感じかな」

「それじゃあ、食事とかでバフを付けてみる?」

「……そうするか。ユキ、DEXが上がる料理を頼む」

「うん、わかった」

「俺もブーストポーションでDEXを上げて、と」

「ふむ。本気モードであるな」

「最近は、ここまでしなくても大丈夫だったんだけどな」

「トワくん、料理の準備できたよ」

「ああ、それじゃ、いただくとしよう」


 ブーストポーションと料理バフで、DEXを100以上増幅させてから、三回目の挑戦。

 先程までに比べて、多少は作業をしやすくなっていることを確認しながら、合成をやっていく。

 そして、合成作業をしばらく続けた結果、無事にアイテム作製に成功した。

 完成したアイテムはこれだ。


 ―――――――――――――――――――――――


 改良型ガーゴイル・ブースター ★-


 ガーゴイル専用の補助装備

 ガーゴイルにセットすることで、ステータスを引き上げることができる

 この装備は特殊枠扱いになり、同系統の装備は一つしか装備できない

(製作者:トワ)


 任意のステータス1種類を20%強化、それ以外のステータスを5%強化

 被物理ダメージを10%軽減

 被魔法ダメージを15%軽減


 ―――――――――――――――――――――――


「ふむ。面白いものができあがったのであるな」

「だな。ミスリル金を使った時点で、魔法系に特化したものができそうな気はしてたけど」

「そうであるか。……それで、これは量産するのであるか?」

「量産しても、売る相手がいないだろ。……とりあえず、もう一個作って、イリスと柚月に渡すことにするよ」

「それが無難であるな。それでは、最後の一個を作るまで、見せてもらうのであるよ」

「……作業的には変わらないんだから、面白いものでもないだろうに。まあ、いいけどさ」


 教授とユキが見守る中、最後の一個も無事完成した。

 できあがった改良型ガーゴイル・ブースターは、その日のうちにイリスと柚月に配っておく。

 教授は、後日使用した感想を聞くことにしたみたいだが……まあ、俺には関わりのないことか。

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