330.ガーゴイル素材の行方

 武闘大会への不参加を決め、イリスが武闘大会へ参加するという話を聞いた翌日。

 この日は、受ける事にした依頼の詳細について、何件か聞くことにしておいた。

 とは言っても、実際に決める内容はほとんどなく、相手の予算についての確認と、それに応じた予想性能を伝えて終わりだ。

 なので、予定していた打ち合わせはすぐに終わり、かなり時間が余ることになった。

 時間が余ってるなら、その時間を使って依頼に取りかかればいいのだが、銃身とグリップがないと作業にならない。

 まずは、ドワンに銃身、イリスにグリップを依頼するところからスタートだ。

 ドワンへの依頼はすぐ終わり次にイリスへの依頼なのだが、イリスの工房を訪ねてみたが不在で、フレンドリストから居場所を確認してみると、談話室になっていた。

 なので、談話室に移動してみると、そこにはイリスのほか、柚月や曼珠沙華、それに教授の姿があった。


「こんばんは。いったいなんの集まりだ?」

「ああ、トワ。大した話じゃないわ。談話室で休んでいたら、教授がやってきただけよ」

「なるほど。それじゃ、教授。今日はなにか用事があったのか?」

「うむ。用事があったのである。まずは、トワ君に魔導書の製作依頼であるよ」


 そういえば、教授のメイン装備である魔導書は、錬金術で作るんだっけ。


「了解。素材さえ揃えてもらえれば、すぐにでも対応するよ」

「ふむ。やはり、素材は持ち込みのほうがいいのであるか」

「魔導書の素材なんて、一切ストックしてないからな。集めるとすると、時間がかなりかかるぞ」

「なるほど、道理である。それに、高品質素材を集めるならば、私が集めたほうが手っ取り早いのであるな」

「そうなる。魔導書用の素材を取り扱っている生産者とは、接点がないからな」

「了解したのである。それでは、次の用事についてである。前に、ガーゴイル関連の依頼でガーゴイル用の補助装備を作れるようになっていたはずであるが、それの詳細を知りたいのである」

「ガーゴイル用の補助装備? ……ああ、そんなのもあったな」

「その様子でいくと、完全に忘れていたのであるな」

「ああ、すっかり忘れていたよ」


 そもそも、ガーゴイルを取得して、ドワンに装備を依頼しフル武装させるところまではやった。

 でも、そのあとは、一回も実戦投入していない。


「トワ君は、ガーゴイルを取得していたはずであるな?」

「ああ、取得しているよ」

「……その様子だと、使ったことはなさそうであるな」

「一度も使ったことはないな」


 うん、困った事にガーゴイルを使う機会がないのだ。

 前衛がほしいときは、フェンリルのシリウスを使えば問題ない。

 他人とパーティを組み、前衛を必要としないなら、精霊のエアリルを呼んだほうが相性がいい。

 つまりは、ガーゴイルの出番というものがないのだ。

 出番があるとすれば、前衛タンクが必要な状況なのだが……そんな状況、滅多にないからな。

 シリウスでも、ある程度のタンク役は務まる。

 ユキと一緒の時は、プロキオンがタンクを務めるから、なおさら呼び出す理由がない。

 従って、ガーゴイルを使う機会はなく、宝の持ち腐れ状態なのだ。


「せっかく手に入れたのに、使わないのはもったいないのではないのであるよ」

「そうは言われてもな……。俺の場合、前衛はシリウス、後衛はエアリルがいるから、タンクのガーゴイルを呼び出す理由がな……」

「シリウスはフェンリル、エアリルは精霊であったのであるな。……そう考えると、トワ君にガーゴイルは必要ないのであるなぁ」

「そうなんだよな。……そういうわけで、補助装備も使ってないし、作ってもいないよ」

「……もったいない話であるな。ガーゴイルを作るために、鉱石を必死で集めているプレイヤーが聞いたら、石を投げられそうである」

「だよなぁ。ドワンに頼んで、★12のフル武装までさせてるのに、一度も使ってないとか、贅沢にも程があるよな」

「であるな。……ということは、クエストの追加報酬としてぶんどった、ガーゴイル素材も未使用であるか?」

「ぶんどったとは人聞きの悪い。……まあ、クエストを引き受けたくなかったから、無茶な要求をして、それが受理された結果、使わない素材が貯まったのは事実だけど」

「ふむ。確かに、素材だけ余らせておくのは、本当に宝の持ち腐れであるな」

「まあな。……教授、引き取る?」

「いいや、間に合っているのである」


 ふむ、教授に押し付ける作戦も失敗か。


「トワー、ガーゴイル素材が余ってるって本当ー?」

「ああ、本当だ。ガーゴイル二体分の材料が、魔鉄と魔石以外は揃ってるぞ」

「それなら、ボク用にひとつ作ってほしいなー。代金はしっかり払うから」

「イリス、使うのか?」

「ボクの場合、遠距離戦闘がメインだからねー。ケットシーに前衛をお願いするわけにもいかないし、精霊はもっと前衛向きじゃないからねー。前衛を務めてくれる眷属がいれば大助かりだよー」

「……確かに、そうだろうな。俺やユキは、フェンリルがいるからなにも困らないけど、イリスたちは前衛向きの眷属はいないものな」

「そういえば、ユキ用には作ってあげないの?」

「うーん。ほしいって言われてないからな。ユキがほしいって言うのなら、作る事は問題ないのだけど」

「トワくん、私がなにかしたの?」


 ユキの話をしていると、廊下からユキが談話室に入ってきた。

 先程まではログインしていなかったし、ログインしてすぐに談話室へときたのかな?


「ああ、大した話じゃないんだ。ユキ用に、ガーゴイルを用意しなくていいのかって話になって」

「ガーゴイル? 眷属のガーゴイルのこと?」

「ああ、そのガーゴイルの話。俺が二体分の素材を持ってるのに、使わずにいるから、使ったらどうかって話になっててな」

「……うーん。ガーゴイルって前衛向きの眷属なんだよね。プロちゃんがいるから、新しく眷属を増やしても、使わない気がするよ」

「……そうなるよな。それじゃあ、いま余らせている素材は、使い切っても構わないか?」

「うん。私は使わないから、トワくんの好きに使っていいよ」

「……というわけらしい。イリスの分のガーゴイルは、作ってしまって問題ないな」

「わーい。トワ、ありがとー」

「その分の代金をもらえるなら、俺としても問題ないからな。……さて、もう一体分の素材が余ってるわけだが。柚月か曼珠沙華、どちらか使うか?」

「うーん、私はパス。前衛眷属を使わなくても、なんとかなってるからね。トワっちの厚意は嬉しいけど、お金を払ってまで、いま増やすつもりはないかな」

「曼珠沙華がいらないっていうなら、私が買う事にするわ。……正直、私がソロで活動するとき、前衛がいないから戦いにくいのよね」

「了解、曼珠沙華がいらないって言うし、柚月に残りの素材は渡すよ」

「ありがとう。……ああ、でも。ドワンやおじさんは大丈夫かしら?」

「……二人とも、ログインしているな。いちおう、念のために聞いておくか」


 クランチャットを使って、ドワンとおっさんにもガーゴイルを使わないか確認する。

 結果としては、二人とも必要ないそうだ。

 ドワンはそもそも前衛だし、おっさんもシールドガンナーという性質上、前衛キャラである。

 二人とも、眷属枠は後衛を呼んで補助をしてもらうほうがいいそうな。

 つまり、二人とも精霊を使っているらしい。



「……どうやら、私がもらってしまっても問題ないようね」

「そのようだな。それで、ガーゴイルはいつ作る?」

「そういえば、ガーゴイルを入手するには、高位の錬金術士が必要だったわね。……足りない素材って、なにかしら?」

「魔鉄鉱石100と、レベル50以上のボスモンスターの魔石と魔核のセットが4セットだな」

「ふーん。それくらいなら、すぐに手に入りそうね」

「だねー。あまり時間をかけても仕方がないし、ぱぱっと素材を買いそろえて、作ってもらっちゃおー」

「それもそうね。トワ、このあと用事はあるかしら?」

「いや、ないぞ。ガーゴイルを作るなら、付き合うよ」

「それじゃあ、私は自分の生産作業を始めますね。トワくん、またね」

「私も自分の作業に戻ろっと。柚月、イリス。完成したら見せてねー」

「ふむ、私も今日は出直すのである。トワ君、今回は補助装備も作るのであるぞ」

「わかってるよ。そっちも作って、情報を渡すから心配するな」

「ならば結構。それでは、魔導書の素材も集めて、また来週にでも来るのである」


 ガーゴイルを作る事になった二人以外は解散となり、柚月とイリスはマーケットボードから市場にアクセスして、足りない素材を買い集めている。

 魔鉄鉱石100個というのは多そうな雰囲気があるが、実際のところ、魔鉄鉱石レベルの鉱石なら数十個単位でまとめて売り出されているので、100個程度集めるのはなんの問題もない。

 むしろ、ボスモンスターの魔石と魔核セットのほうが、高くつくだろう。


「トワー、魔石と魔核って同じボスのセットが入ってるとダメなのー?」

「ああ、同じセットは一組しか使えないな。これは、そういうシステムだと思って、諦めてくれ」

「りょうかーい。……うん、ボクのほうは揃ったー」

「私も準備できたわ。それで、このあとはどうすればいいのかしら?」

「どこかの錬金術ギルドに行って、ガーゴイルを作製する必要があるな。まあ、簡単にいけるところで、王都の錬金術ギルドが一番手っ取り早いだろう」

「わかったわ。それじゃあ、移動しましょう」

「うん、早く移動しよう」


 二人を伴い、王都の錬金術ギルドに行ったら、ガーゴイルを作りたいと受付で申請した。

 そのあとは、一度ギルドマスターの部屋に通され、ギルドマスターと一緒に、ガーゴイルの作製部屋へと移動する。

 そして、二人に材料を渡し、ガーゴイルの種類などを選び、作製をしてしまえば完了だ。

 ちなみに、柚月は基本的な悪魔像タイプを、イリスは鬼神タイプを選択した。

 クランに帰ってきたら、二人は早速、ドワンに装備を発注しに行った。

 俺のほうは、材料費も受け取ったし、これ以上できることもない。

 ガーゴイル用の補助装備とやらを作る事はできるが……今日はもう遅いし、また今度の機会でいいか。

 なので、この日は残りの時間をポーション作りに費やしたのだった。

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