329.武闘大会からの招待状

「さて、運営からのメールだ。読まないわけにもいかないだろう」


 時間的に参加が難しい、とわかってはいても、いちおう読んでおかないわけにもいかない。

 届いたメールを確認してみると、内容は以下のとおりだった。


『拝啓 Unlimited World第一回武闘大会上位入賞者様

 Unlimited World運営よりご連絡いたします。

 前回大会上位入賞者様につきましては、前回と同じクラスに参加する場合、予選を免除いたします。

 また、決勝トーナメントにつきましても、第二回戦からの参加となります。

 今大会も、ぜひご参加いただけますよう、ご一考願います。敬具』


 ……うん、予選と第一試合をシードにするから今回も出場してね、というお願いメールだな。

 ご丁寧に、前回と同じクラスへのエントリーボタンまでついてるし。

 ……さて、どうしたものか。


「トワくん、なにかあったの?」

「ああ、運営からメールが来ててな。武闘大会への参加依頼だった」

「そうなんだ。……でも、参加するにも病院があるんじゃ難しいよね」

「……だなぁ。さて、どうしたものか」


 どちらにしても、午前中に通院しなくちゃいけないのは変えようがない。

 となると、不参加が一番いいのだが……


「あ。ご丁寧にメールの最後でGMへの質問がある場合、GMコールしてくれと書かれてるや」

「そうなんだ。トワくん、どうするの?」

「……参加しないとなると、曼珠沙華あたりがうるさそうだしなぁ」

「他にも、鉄鬼さんとかがっかりしないかな?」

「……GMコールで相談してみるか」


 ご丁寧にGMコールまで対応してくれるんだ。

 至れり尽くせりとはこのことだろう。

 早速だが、GMコールをさせてもらうとしよう。

 GMコールをして数秒後、工房内に一人のアバターが現れた。


「GMコールありがとうございます。GM篠原です」

「……随分と早い対応どうも。自己紹介をしたほうがいいかな?」

「いえ、大丈夫ですよ、トワ様。それで、どういったご用件でしょう」

「武闘大会の件なんだけど、これって不参加でも大丈夫?」


 俺が『不参加』と口に出した瞬間、篠原GMのアバターが一瞬凍り付いた気がする。

 しかし、動きを止めたのも一瞬で、すぐに持ち直したのか、質問をしてくる。


「ちなみに、不参加の理由はお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「あー、まあ、GMなら個人情報の取扱は厳しいか」

「はい、この場での質問内容について、外部に漏らすことはありません」

「マイスタークラスの開催日、午前中に病院へ行かなくちゃいけないんだよ。だから、エントリーしても不戦敗になるからさ」

「……なるほど。ちなみに、ご帰宅の予定時間は何時頃になるでしょうか?」

「うん? たぶん、午後3時から4時くらいになるけど……」

「それでしたら、問題ありません。トワ様は前回大会優勝者ということで、予選及び第一回戦はシードとなっています。現時点でのタイムテーブルですが、大会初日の午前中が予選会、午後2時から予選を勝ち上がったメンバーによる抽選会、その後、第一回戦を開催する予定となっております。第二回戦は第一回戦終了後、食事等の休憩として時間を空け、午後9時からの開催となります。第二回戦の時点で、ログインしていていただければ問題ありません。なので、お送りしたメールのエントリーボタンからエントリーしていただけば、自動的に予選及び第一回戦をシードさせていただきます。なので、エントリーしていただいても問題ないかと」

「……本音は?」

「……トワ様に参加していただかないと、いまいち盛り上がりに欠けることになりかねません。できれば、抽選会の時には参加していただきたいのですが、シード組は任意参加の予定です。なので、抽選会を欠席されても問題ないように取り計らわせていただきます」


 やっぱり、運営としても前回の上位入賞者には参加してほしいわけだ。

 そうなると、実際のところはどうなるんだろうか?


「ちなみに、決勝トーナメントって何回戦を戦うんだ?」

「決勝までで四回戦になります。なので、シード権を使って参加していただく場合、ベストエイトは確実となりますね」

「……それって問題ないのか?」

「ベストエイトでは、賞品もそこまで豪華ではありませんので。今回は決勝トーナメント進出時点で、賞金を出すことも決まっております。決勝トーナメントでも、それぞれの成績に応じた賞品をご用意することとなっております」


 なるほど。

 今回は、下位であってもそれなりの賞品がでるわけか。

 ……PvPイベントって人が集まるか微妙だからな。


「これって話してもいい内容なのか?」

「公式ページで掲載されている内容しかお話ししていませんので、問題ありません。具体的な賞品がなにになるかは、まだお答えできませんが……」

「ああ、そこまで聞く気はないから別にいいよ」


 うーん、これは参加を断る理由がつぶされたな。

 さて、どうしたものか。


「トワくん。参加するのはいいけど、二日目の夜って出かける日じゃない?」

「……え?」

「11月18日って家族で出かけようって話になってる日だよね」

「……ああ、すっかり忘れてた」


 確かに、そう言われて思い出したが、この日はうちの家族とユキの家族で食事に出かける日だった。

 そうなると、今度は二日目の日程があわなくなってくる。

 俺たちの話を聞いていたのか、GMの頬が引きつっている気がする。


「……二日目の夜って、試合はなにが行われるんだ?」

「マイスタークラスの三位決定戦と決勝戦ですね」

「……勝ち上がらなければ問題ないけど、勝ち上がった場合、当事者不在はまずいよな?」

「……非常にまずいですね」

「うん。参加辞退で」

「……かしこまりました」


 土曜日の病院を辞退の理由にしようと思ってたけど、よく考えれば、翌日も予定があった。

 というか、ユキに指摘されるまで、まったく覚えてなかったな。

 ……うん、興味があること以外、覚えていない悪い癖はどこかでなおさないと。


「ご返答ありがとうございます。他にご質問はございますか?」

「いや、参加辞退になったし、これ以上質問してもな。回答ありがとう」

「こちらこそ、ご回答いただきありがとうございます。それでは、今後ともUnlimited Worldをお楽しみください」


 挨拶をすませ、篠原GMは去っていった。

 さて、参加辞退することになったし、このメールも必要ないな。

 削除はしなくてもいいけど、参加ボタンは押さないようにしなくちゃ。


「……さて、武闘大会の不参加も決まったし、そろそろ自分の生産作業に取りかかるか」

「そうだね。私も自分の作業に戻るね」

「ああ、手を止めさせて悪かったな、ユキ」

「ううん、気にしないで。それじゃあ、作業がんばろう」

「ああ、今日の分の作業はさっくり終わらせるとしよう」


 懸念材料だった武闘大会の話も済ませたので、俺も自分の生産作業に入ることにした。

 オッドから場所を譲ってもらい、サクサクとポーションを作っていく。

 今日の分の作業を終えたら、曼珠沙華からもらったメモに目を通す。


「……曼珠沙華、受けた依頼を全部書いてやがるな」


 これが柚月だったら、最初から引き受けないような依頼内容もメモには書かれていた。

 まあ、依頼の選別をしてほしいとは言わないけどさ。


「……とりあえず、納品日が明日の依頼は全部除外して、条件面で折り合いがつくのを選別して……と」


 さすがに、明日納品の依頼を受けるつもりはない。

 間に合うかどうかと聞かれれば微妙だが、受けられる件数に制限はでる。

 普段、店頭で売っている物より安い依頼は最初から除外だし、それ以上の依頼にしても、今度は素材の問題が出てくる。

 魔石は市場から調達すれば問題ないが、グリップや銃身を作ってもらうのに、すでに間に合うような時間ではない。

 それに、イリスはそろそろログアウトする時間だ。

 これから依頼をしても、明日の納品に間に合うかは……まあ、間に合うとは思うがやりたくない。

 そういった基準で依頼を選別していって、引き受けない依頼は依頼者に断りのメールを送る。

 引き受けられる依頼については、詳細を詰めたいという内容のメールを送る。

 そういった選別作業を行っていると、俺もそろそろログアウトする時間になった。


「トワくん。そろそろ寝ないとだよ」

「ああ、そうだな。落ちる前に談話室に行ってみるか。他の皆の様子も気になるし」

「依頼を受けたかどうかだね。わかった、私も一緒に行くね」


 こうして、ユキと一緒に談話室へと移動すると、イリス以外のメンバーは全員揃っていた。


「あら、トワ。そろそろ寝る時間じゃないの?」

「ああ、そろそろログアウトするよ。その前に、皆は今回の武闘大会に関する依頼ってどうしたのかな、と思って」

「……ああ、そこは気になるわよね。私は明日納品っていう依頼は全て断ったけどね」

「わしもじゃの。明日納品ということはルーキークラスじゃろうし、それならば店頭で売っている装備でも事足りるじゃろう」

「おじさんも、明日納品は全て断ったね。さすがに、今日の明日っていうのはちょっとね」

「私も断ってるよ。一日で満足のいく品物ができるかは微妙だしね。トワっちは?」

「俺も断ったよ。依頼したくなる気持ちはわかるが、さすがに一日で納品はきつい」

「だよねー。受けるかどうかわからないから、念のためメモっておいたけど」

「まあ、断るな。イリスはどうなんだ?」

「イリスも断ったって聞いてるわ。もうログアウトしてるけどね」

「だろうな。……さて、俺たちもログアウトするか」

「あ、トワっち。武闘大会は参加するんだよね?」

「……一日目の昼間、病院にいかなくちゃいけないから不参加にしようと思ったけど、前回大会の上位者は予選と第一回戦をシードだから、夜からの参加で大丈夫だって言われた。でも、二日目の夜も不在だから、結局不参加になったよ」

「え~。さっき、鉄鬼と話してたけど、トワっちが不参加を決め込むんじゃないかって心配してたよ」

「……参加してもいいけど、二日目の夜は不在だから、三位決定戦か決勝は不参加になるぞ?」

「む~」

「参加しても二日目で不戦敗が決まってるなら、参加しないほうがいいだろう。最終戦が不成立とか、盛り上がり的にも困るだろうし」

「……まあ、そうじゃの。勝ち進む前提で考えねば盛り上がらぬじゃろう。それに、最後まで勝ち上がって、決勝戦は不戦敗、では観ているほうもシラケるじゃろうな」

「まあ、最終戦が不参加じゃ仕方がないわよね」

「……念のためGMにも確認してみたよ。当事者不在はまずいってさ」

「……それは、そうでしょうね」

「そういうことだ。エキシビションとかあって、それまでに帰ってきてログインしてれば、そっちに参加するのは構わないけど」

「わかったわ。そういうことなら、仕方がない、わよね?」

「仕方がないじゃろうな。リアルの予定が入っているのに、ゲームの予定を差し込むわけにもいくまいて」

「……そういうことなら、仕方がない、のかな。鉄鬼には、私のほうから不参加だって連絡しておくよ」

「任せた。……さて、そういうわけだから、武闘大会についての話はこれで終わりかな」

「そうじゃの。……イリス以外は、直接関係ないかのう」

「うん? なんで、そこでイリスの名前が出てくるんだ?」

「ああ、言ってなかったわね。今回のマイスタークラス、イリスも参加するんですって」

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