第10章 闘いの秋

328.第二回武闘大会への参加

「お兄ちゃん、クラス分けの要項、読んだ?」


 11月1日の晩ご飯中、遥華が質問を投げかけてきた。


「クラス分け? ……ああ、武闘大会か。まだ読んでないな」

「そうなの? お兄ちゃんだって他人事じゃないのに」

「他人事じゃないとはいえ、いまから焦っても仕方がないだろう」

「まあ、そうかもしれないけど。ちゃんと読んでおかなきゃダメだよ。お兄ちゃんの参加も確定的なんだから」

「……できれば、回避したいなぁ」

「基本無理だって。諦めて、武闘大会に参加しよう」

「……対人戦とかかなり面倒なんだよなぁ。モンスター相手なら、パターンにはめれば楽なんだけど」

「そこが対人戦の面白いところじゃない。わたしは好きだけどな」

「……そこは、個人の感想だろう。βの時だって、必要だったから参加しただけなんだけどな」

「だとしても、諦めよう。前回大会の優勝者が不参加とか、盛り上がりに欠けるって」

「そんなものかな」

「そうだって。……さて、晩ご飯、食べ終わったからわたしはお風呂入っちゃうね」

「ああ。食器はあとで俺がまとめて洗うから、キッチンに置いておいてくれ」

「はーい。それじゃ、ごちそうさまでした」


 自分の分の食器を片付けて、遥華はお風呂へと向かっていった。

 俺も残りを食べてしまって、ゲームを始める準備をしようかな。

 晩ご飯を終えたあと、食器を食洗機に入れて遥華と入れ替わる様にお風呂に入る。

 あとは、少し勉強をして寝る準備を整えたらゲームにログインだ。

 さて、今日はどこから手を付けるべきか。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「あ、トワっち。ようやくログインしてきた」


 ログインして談話室に向かうと、曼珠沙華が声をかけてきた。

 他の皆は……談話室にはいないようだな。


「曼珠沙華か。何か用か?」

「うん、用事。というか、トワっちに生産依頼だよ。各種銃が色々と依頼がきてるね」

「……まさか、全部受けたわけじゃないよな?」

「だいじょぶだよ。予算と要望だけ聞いて保留にしてあるから。これ、依頼内容のメモね」

「ああ、ありがとう。……なんというか、要望だからかも知れないが、なんともいえないものが大量に混じってるな」

「だよねー。私の所にもいろんな依頼がきてるけど、予算的にムリって依頼も多いもんねー」

「……そういえば、曼珠沙華。もう依頼を受ける準備は整ってるのか?」

「うーん、無理矢理整えたってところ? 本当は、内装にこだわりたかったんだけど、柚月のほうじゃなく私に依頼したいって人も多いらしいからね。武闘大会も早いクラスは今週末から開始だから、そういう人たちは急ぎで依頼してきてるねー」

「そうなのか。まだ武闘大会の詳細を読んでないから、クラス分けとかも見てないな」

「……トワっち、自分も参加するって意識ある?」

「できれば回避したいと思ってる」

「その辺の往生際の悪さ、変わってなくて安心だよ。でも、参加しないわけにはいかないと思うから、諦めようね」

「……妹にも散々言われたよ。とりあえず、依頼の件は保留だな。というか、今週末開催ってなると、今日明日中に仕上げなくちゃいけないから、そんな依頼は無理だな」

「だよねー。私もそれは断ってるよ。他の皆も同じような感じかな。在庫で条件が合う物があるなら引き受ける、ってところだよ」

「そういうことなら、在庫のない曼珠沙華は引き受けられないな」

「そうそう。トワっちは在庫ないの?」

「あるっちゃあるけど……依頼内容に合うような物があるかどうか」

「そうなるよね。柚月から伝言だけど『依頼を受けるかどうかは各自の判断で』だって。そういうことで、トワっちもよろしく」

「了解。それじゃ、俺は工房に篭もるから」

「オッケー。私は店番をしてるよ」

「……自分の分の生産はしなくていいのか?」

「私は基本、オーダーメイドでいこうと思ってるから平気。普通の布装備や革鎧なら、柚月製のがあるからね」

「……それもそうか。柚月がなにも言わないなら、俺が口を挟むことでもないか」

「そういうこと。じゃあ、トワっちまたねー」

「ああ、またな」


 曼珠沙華と別れて、俺は自分の工房へと入る。

 工房ではいつもどおり、ユキやケットシーたちが作業をしていた。


「あ、トワくん。こんばんは」

「こんばんは、ユキ。調子はどうだ?」

「特に問題ないよ。量産品はクロユリに任せても大丈夫だし、私も自分の生産品に集中できるから」

「それならよかった。……オッドはどうだ?」

「はいですニャ。こちらも問題ありませんですニャ」

「そうか。それじゃ、引き続きよろしく頼む」

「わかりましたですニャ。……ご主人様は生産しないのですかニャ?」

「その前に確認しなくちゃいけないことがあってな」

「ああ、武闘大会のこと?」

「そう。妹にも曼珠沙華にも釘を刺されたからな。参加しないというわけにもいきそうにない」

「私は応援しかできないけど、応援頑張るよ」

「ああ、ありがとう。……そういうわけだから、しばらくは生産作業に入れない。オッドは自由に生産していいぞ」

「わかりましたですニャ。ご主人様が使うときは、言ってくださいですニャ」

「ああ、わかった」


 作業に戻っていくオッドを見送り、俺は公式サイトから第二回武闘大会の詳細ページを確認する。

 今回は四つのクラスにわかれての開催となるようだ。


 まずは、ルーキークラス。

 種族レベル40以下のプレイヤーのみが参加できるクラスらしい。

 このクラスの開催が一番早く、今週末の開催となっている。

 種族レベル40というのは、割とすぐに上がってしまうので、本当にルーキー向けのクラスだろう。

 賞品も相応だし。


 次は、リミテッドクラス。

 本来の種族レベルにかかわらず、レベル50に設定されるクラスのようだ。

 スキル関係も色々と制限がかかるみたいで、制限内容については別ページで詳細が書かれている。

 このクラスは、一定条件下で戦いたいプレイヤー向けなんだろう。

 あるいは、無制限では勝ち目がないプレイヤーが参加するか。


 その次が、俺にとっての本命、マイスタークラス。

 サブジョブが戦闘職以外のプレイヤーが参加できるクラスだ。

 今回も種族レベルの調整がかかるらしく、最高レベルは60に設定される。

 ただし、使用可能なスキルは制限されず、各自が覚えているスキルを無制限で使えるらしい。

 今回は出場条件として、『サブジョブが戦闘職以外の二次職以上になっていること』が設定されている。

 いまから二次職まで上げるのは、かなり苦労することになるから、戦闘職がサブジョブを変更して参加、というのはほぼできないだろう。

 他にも制限が変更されており、たとえば、『持ち込み可能な武器は製作者を問わず10個まで』、『攻撃アイテムは使用不可』、『一部回復・補助アイテムの使用制限、または効果制限』、といった内容が追加されている。

 ……どう考えても、前回大会で俺がやりすぎた結果だな。

 武器の持ち込み個数はともかく、攻撃アイテムと回復・補助アイテムの制限は俺がやりすぎた結果だろう。

 もっとも、いまのスキルレベルだと、前回使ったバリア系ポーションは★12で作っても、2~3発で貫通してしまうのだが。

 なにはともあれ、制限内容が変わっていることは注意が必要だな。


 最後が、オープンクラス。

 これは一切の縛りをなくした全力での戦いとなるクラスだ。

 持ち込み装備の制限もアイテム制限もなし。

 唯一の制限は、全クラス共通で制限されている『回復アイテムは運営が用意したもの以外使用不可』くらいだろう。

 種族レベルも使えるスキルも制限なし、現状でいけばレベルキャップであるレベル70での参加が前提のはずだ。

 スキルだって、どんなスキルが飛び出すかわからない。

 俺の十二天将クラスの大技が飛び交う可能性だってある。

 ……もっとも、十二天将はキャストタイムの長さゆえに、一対一では使いにくいなんてレベルじゃないけど。


 クラス分けは以上だ。

 それぞれのクラスが11月の週末、土日を使って開催されることになっている。

 順番は、先程述べたとおりの順番であり、マイスタークラスは第3土曜と日曜に開催されることになる。

 ……あ、ということは……。


「病院の通院日とかぶってる」


 ……うん、月一の定期診断を行う日と、マイスタークラス一日目の予定日が一緒である。

 さて、これは困った。

 いまから病院の日付をずらすことも難しいし……


「トワくん、なにかあったの? 難しい顔をしてるけど」

「ああ、マイスタークラスの開催日がな……」

「開催日? ……あ、病院の日と同じだね」

「そうなんだよな。マイスタークラスの予選が通院日の午前中と一緒だから、これ、参加できないんじゃないのかな」

「……いまから病院に連絡して、別の日に変えてもらう?」

「それも難しいだろ。それに、ゲームのためにリアルの用事をずらすというのも、何か違う気がするし」

「……それもそうだね。それじゃあ、トワくんは不参加?」

「しかないだろうなぁ。病院から直行で帰ってきても午後2時にはなるだろうし、予選は完全に参加できないよな」

「そうだね。……リアルの都合がつかないんじゃ仕方がないよね」

「そうだな。今回の武闘大会は参加を見送ることにするか」


 よし、武闘大会に参加しない理由ができた。

 さすがに病院の日とかぶっていれば、不参加でも問題ないだろう。


 そんなことを考えていると、一通のメールが届いた。

 差出人は運営、タイトルは『前回大会上位入賞者への案内』だ。

 内容を確認してみないとわからないけど、基本不参加なのは仕方がないよな。

 さすがに内容を確認しないわけにはいかないけど。

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