331.武闘大会 ルーキークラス

 イリスと柚月にガーゴイルを作った翌日、今日は武闘大会最初のクラス、ルーキークラスの開催日だ。

 ……もっとも、ルーキークラスには知り合いも参加しないし、とくに目をかけているプレイヤーがいるわけでもない。

 特段、注目しているわけでもないので、完全にスルーの体勢だ。

 なので、日中は家事に費やして、いつも通り、夜にログインすることに。

 クランホームにログインして、薬草の仕入れに出かけようと談話室に行くと、曼珠沙華に捕まった。


「トワっち、いま暇? 暇だよね?」

「暇じゃないぞ。これから、薬草を仕入れに行くところだ」

「つまり、普段通りのことしかないんでしょ? だったら、ルーキークラスの観戦に行こうよ」

「……俺は興味ないから、ほかをあたってくれ」

「ほかは皆聞いたよ。誰も行かないって言うんだもん。一人で行ってもつまらないしさー。トワっちとユキちゃんを捕まえようと思って」

「俺もユキも、ルーキークラスにあまり興味はないぞ」

「ルーキークラスに、じゃなくて、武闘大会全般に、でしょう」

「否定はしないな」

「別にいいじゃない。少しくらい、付き合ってくれても」

「そうは言うがな……」

「あれ、トワくん、どうしたの?」


 間がいいのか悪いのか、ユキもログインして談話室にやってきたようだ。

 そうなると、当然、ユキの方にも曼珠沙華は食らいつく。


「ユキちゃん、ルーキークラスの応援に行こう」

「……唐突ですね。曼珠沙華さん」

「せっかくのイベントなんだしさー。皆、もう少し興味を持ってもいいじゃない」

「別に観戦に行かなくても、気になれば中継で見られるしな」

「お祭りは現地に行って楽しむものだよ!」

「……うーん、トワくん、どうしようか?」

「正直、俺はあまり行きたくないんだけどなぁ」

「トワっち、出不精だものね。ユキちゃんは?」

「私ですか? ……うーん、私もどっちでもいいような……」

「だったら、見に行こうよ! たまには、イベントで積極的に参加してもいいと思うんだ!」

「……トワくん、どうしよう?」


 ……相変わらず、曼珠沙華はイベント好きだよな。

 さて、どうしたものか。


「……とりあえず、今日は面倒だからパスだな」

「えー」

「……まあ、明日の三位決定戦と決勝戦くらいなら見に行ってもいいかな」

「よっし、言質は取った! 明日は絶対行くからね!」

「わかったわかった。……今日はどうするんだ?」

「うーん、ほかのフレに一緒に行かないか聞いてみる。それじゃね!」


 明日の予定が決まると、すぐに曼珠沙華は談話室を出て行った。

 ホント、行動力の塊みたいな奴だよな。


「……トワくん、いいの?」

「……まあ、三位決定戦と決勝戦なら、見てみてもいいかなと」

「それなら、私も一緒に行くね」

「わかった。それじゃあ、明日の夜は観戦ということで」

「うん。……私、料理の素材を買ってくるね」

「ああ。俺も薬草類を買い出しに行ってくる」


 嵐のように過ぎ去っていった、曼珠沙華のことは置いておいて。

 俺とユキは、それぞれの用事を済ませるために行動を開始した。

 ……明日は曼珠沙華に付き合わなくちゃだし、昼間もログインするか。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「いやー。ゲームだから荒天はないとわかっているけど、晴れ渡って気持ちがいいね!」

「……まあ、そうね。まったく、あなたは少し落ち着いたほうがいいわよ?」

「せっかくのイベントなんだから、楽しみたいじゃない!」

「そういう問題でもないと思うのよね……」


 翌日、ルーキークラスの三位決定戦が行われる時間帯。

 俺たちは、武闘大会のボックス席を用意して試合開始を待っていた。

 あのあと、曼珠沙華は柚月を捕まえることに成功していたようで、ボックス席には俺とユキ、柚月に曼珠沙華の四人が座っている。

 ちなみに、食べ物類の持ち込みは自由だったため、普通にユキが作ったスナック類が用意されていた。


「曼珠沙華、ほかの皆は?」

「ドワンとおじさんは、依頼の品物を作るのに集中。イリスは、レベル上げだって言って出かけたよ」

「そうか。で、柚月を捕まえることには成功した、と」

「まあ、そんな感じ」

「……私も依頼はあるんだけどね」

「まあ、いいじゃない、一日くらい。納期に遅れるわけじゃないし」

「それはそうだけどね……」

「武闘大会は今日しか楽しめないんだし、そっちに集中しようよ!」

「……まあ、いいわ。それで、ルーキークラスで勝ち残っているプレイヤーって、どんなプレイヤーなの?」

「うーん、昨日からいろんな試合を見てたけど、皆、余り差はない感じかな。ルーキーって言うだけあって、そこまでうまい人はいないみたい」

「そう。第一回目と似たようなものなのね」

「レベル40以下っていう制限があっては仕方がないさ。レベル40なんて、普通にプレイしても、一カ月もしないうちに過ぎてしまうわけだし」

「……それもそうね。ある程度スキル上げをしていたら、すぐに越えてしまうわよね」

「そういうこと。ゲームに慣れるころには、すでにレベル40なんて達成しているさ」

「……まあ、そうだよね。生産系プレイヤーでもない限り、一カ月で余裕で過ぎちゃうよね」


 まあ、そういうものだろう。

 ゲーム的にも、現在のボリュームゾーンはレベル50以降だし。


「それで、残っているプレイヤーの詳細は見てないのか?」

「いちおう見てるよ。トワっちたちの言うとおりじゃないけど、四人中三人は生産職だね」

「……へえ、そうなのか」

「うん、そうみたい。やっぱり、種族レベルをメインで上げる人が少ない分、ルーキークラスの出場条件を満たしやすいみたいだよ」

「……それはそれで、ルールの穴の気がするが」

「そこら辺は、次の大会で改善されるんじゃない?」

「どちらにしても、私たちの気にすることじゃないわね」

「……それもそうか。それで、今後はどうなりそうなんだ?」

「うん、まずは生産職同士で三位決定戦。そのあとで、決勝戦って流れみたい」

「ふむ、やっぱり、生産職じゃ対人戦慣れしてないか」

「まあ、そうだよねー。それに、ゲーム歴が長くても、戦闘用スキルの習熟度は同じかやや劣る程度だし」

「そう簡単には勝てる条件は揃わないんですね」

「そういうものだよ、ユキちゃん。簡単に勝てるものじゃないって」

「どちらにしても、まずは三位決定戦からだな。……もうそろそろ開始か?」

「あと五分だね。どっちが勝つのか楽しみだよ」

「……まあ、どっちが勝っても、私らには影響ないんだけどね」

「それを言ってはいけないのだ」


 ボックス席でゆるいやりとりをしていると、試合開始時間となり、選手が出てくる。

 さて、その装備は……


「うーん、二人とも遠距離用にライフルを持ち込んでるみたいだね」

「まあ、生産職だと普及率が高いそうだし、おかしくはないんじゃない?」

「そうだけど……そうなると、遠距離からの撃ち合いになるのかな?」

「どうだろうな。どちらもメインジョブはガンナー系じゃないみたいだし、普通に撃ち合いをするよりも、自分の間合いに持ち込んだ方が、戦い易いと思うんだが」


 事前に開示されているジョブを見る限り、メインウェポンは槍と剣になるはずだ。

 この組み合わせなら、槍のほうが間合いが広いことになるが……さて、どうなるか。


 試合が始まると、まずはお互いにライフルで撃ち合い、チャンスを待つような状況となった。

 単純な射撃戦であるがゆえに、有効打になるような攻撃は決まらず、膠着状態となっている。

 そんな中、先に仕掛けたのは、ランサーのほうだった。

 ステップ系のスキルを連続で使い、相手の懐まで潜り込み、槍による強烈な一撃を加えようとする。

 しかし、もう一方も黙って攻撃を食らうようなことはせず、逆に自分もステップスキルで間合いをつめて、槍の間合いから剣の間合いへと状況を変える。

 槍による攻撃は完全には決まらず、技後硬直で動けないところを剣スキルでの一撃をもらってしまった。


 このダメージが有効打となり、試合の流れは決まった。

 残りの時間、早めに挽回しようと焦るランサーに対して、剣士のほうは焦らずに攻撃を決めていく。

 結果、剣士のほうが先に相手のHPを削りきり、三位決定戦を制することとなった。


「さて、トワっち。今回の戦いの勝因は?」

「普通に最初の接近戦が全てだろうな。あのあと、ランサーは焦って攻撃を仕掛けたが、うまく決まらず、逆に攻める隙を見せたのだから」

「だよねー。トワっちなら、どう動く?」

「まずは、間合いを離してライフル戦に戻すだろうな。そのあと、また隙を窺って接近戦に持ち込むよ」

「そっかー。対人戦は簡単じゃないよねー」

「そんなものだ。……それで、決勝戦はどういうカードなんだ?」

「ええと、生産職のほうは、ガンナーだね。対する相手は、えーと、スカウト系みたい」

「スカウトか。アサシンタイプかスカウトタイプか。どちらなのかで、装備がガラッと変わるはずだな」

「そうなんだ。ちなみに、どっちがどういう装備なの?」

「アサシンタイプは、短剣メインだな。高火力スキルもあるし、手数でも攻められる。逆に、スカウトタイプだと、メインウェポンの幅は広い。自分の好みに合った武器を選ぶ事もできるし、状況に応じて持ち替えることもできる、らしいぞ」

「そっか。さて、どっちなんだろうね」

「さあな。レベル40以下ってことは二次職程度だし、職業だけじゃスキルビルドまで判断できないからな」

「だよねー。……あ、試合、始まるみたい」

「のようね。さて、どっちが勝つのかしら」

「……観戦に来てると気になりますよね」

「逆を言えば、観戦に来てない限り、あまり気にする内容でもないというが」

「トワっち、それは言わない。……さあ、始まったよ」


 試合開始と同時に、両者が動く。

 ガンナーは自分の間合いを得るために離れようとするが、対戦相手のスカウトのほうが一歩上手だったようだ。

 一気に間合いを詰めたスカウトは、短剣を使った連続攻撃を仕掛ける。

 それを受けるガンナーのほうは、完全に回避するのは諦めているようで、多少のダメージは覚悟の上、回避と防御に専念している。

 だが、スカウトのほうはそのまま攻撃を続け、スキルを使った瞬間にガンナーの背後を取った。


「……どうやら、アサシンタイプだったようだな」

「……つまり?」

「勝負は決まった、ということだ」


 スカウトによる背後からの攻撃が決まり、ガンナーのHPはゼロになった。


「……なんだか、決勝にしては呆気なく終わっちゃったね」

「それだけ、実力差があったってことでしょうね」

「確かに、あのスカウトの人、かなり動き慣れてましたね」

「どこかの対人系ゲームから流れてきたか、リアルでも武術の経験があるか。……まあ、どちらにしても実力差がありすぎたな」

「……レベル差がほとんどないと、こんな感じになるんだね」

「装備の質にもよるけどな。装備の品質も差がないんだったら、こんな結果になるさ」

「……まあ、これはこれで楽しめる内容だったからいいか」


 観戦を終えた俺たちは、表彰式を見終わったあとクランホームに戻ってきた。

 クランホームに戻った時点で解散となり、俺とユキはそのままログアウトすることに。

 ルーキークラスということで、あまり期待していなかったけど、そこそこ楽しめたかな?

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