323.ハロウィンパーティ 3
「パーティとは言っても、そんな堅苦しいものじゃなくて立食式のパーティなんだな」
「そうみたいだね。トワくんはなにが食べたい?」
「さすがに自分の分くらいは自分で取るさ。ユキは食べたいものはないのか?」
「うーん、あそこのマリネとか美味しそう。行ってみよう」
「わかった。まずはそこからだな」
俺達は早速、ユキが見つけたマリネのあるテーブルへと移動する。
こんな場所で食事を鑑定するのも野暮な話だけど、ここに並べられている料理の品質は全て11だな。
「うん、このマリネ美味しいよ。トワくんもどう?」
「ああ、それじゃいただこうか」
ユキが俺の分も用意してくれたので、それを受け取って口に運ぶ。
うん、確かに美味しいマリネだ。
使われてるのは、スモークサーモンっぽい魚だけど、そもそもサーモンを見たことがないんだよな。
住人達の間での特別な仕入れルートがあるのか、それとも見過ごしているだけなのか。
「これに使われてるのってスモークサーモンだよね。サーモン、このゲームにも実装されてたんだね」
「そうらしいな。問題は入手経路が不明ってことか」
「うん、そうだね。もし入手経路がわかって、安定して入手できるならサーモン料理をお店でも出せるんだけど……」
「まあ、確かになぁ。そのためにはまず、安定した供給元を探さなくちゃだな。パーティが終わって11月になったら少し探してみるか?」
「うん、ありがとうトワくん」
その後もパーティ会場をウロウロしながら、色々な料理に舌鼓をうつ。
ユキの作る料理の方がおいしいと思うけど、たまには味付けの仕方が違う料理も美味しいものだ。
何より、使われている食材が、今まで出回ってなかったものが多く、そういった意味でも生産職としては気になるところである。
……こんなパーティ会場でまで、アンテナを張り巡らせるのは、自分でもどうかと思うけどね。
「おう、トワにユキじゃねーか。さっき曼珠沙華を見かけたが、やっぱりお前達もこのパーティ会場だったんだな」
美味しい食事をめがけてテーブル巡りをしていると、横合いからそんな言葉がかけられた。
振り向いてみると、そこにいたのは狼男の仮装をしたプレイヤーだった。
だが、声から察するに、このプレイヤーは……
「ひょっとして鉄鬼か? また大胆なコスプレをしたものだな」
「おう、まあな。俺達は、ワイルドパンプキンのパーティ用スーツなんて仕立てる柄じゃないからな。各自、コスプレ衣装を手に入れて参加、ってことになってるぜ」
「それで、狼男か。他のを選ぶつもりはなかったのか?」
「カボチャ頭はなんか違ったしなぁ。ミイラ男もありかと思ったんだが、俺の巨体でミイラ男をやると不気味で恐いって言われたからよ……。どっちかって言うと、消去法で狼男になった、って感じだな」
「それはまた大変そうだな。あらかじめ曼珠沙華にでも頼んでおけば、嬉々として対応してくれただろうに」
「まあ、そうなんだがよ。さすがにクランメンバーは仮装衣装がメインなのに、俺だけビシッとしたパーティ用スーツっていうのも浮いちまうだろ? それに曼珠沙華に会ったのだって、この間、『ライブラリ』で顔を合わせたのが数ヶ月ぶりなんだ。さすがに、その場で発注しても間に合わんだろうし、大人しくクランメンバーに合わせてコスプレ衣装の方が目立たないってもんだ」
「そういうものかねぇ」
「ああ、実際、お前ら『ライブラリ』の連中はかなり浮いてるぞ。ハロウィンパーティで、ビシッと決めたドレスやスーツを持ち込んでるのは、お前達のクランだけだからな、このサーバーでは」
「……ああ、やっぱりパーティ会場はサーバー分けされていたか。パーティだって言ってるわりに、プレイヤーの数が少ないと思ってたんだ」
「まあ、そういうこったな。基本的にクランやパーティ単位だと同じ会場に飛ばされるようだが、そうじゃないプレイヤーは本当にランダムに飛ばされているようだぞ。人見知りなプレイヤーとかもいることだし、なかなか厳しいと思うんだがね」
「そこは仕方がないだろうよ。全てのプレイヤーをこの会場に集めるなんて、物理的に無理なんだし。今日のところは諦めて、この状況でもパーティを楽しめるくらいの度量を持ってもらいたいものだな」
「なかなかスパルタだねぇ。……さて、俺もそろそろ次に行くわ。こんな美味しい料理をたらふく食える機会なんて、滅多にないからな」
「そうだな。それにVRなら食べ過ぎても太ることはないし」
「そいつが大きいよな。体型を維持するには、カロリーコントロールが基本でよぉ。爆食いなんて、リアルじゃできねぇからよ」
「ああ、それならせっかくの機会だ。楽しんでこいよ」
「おう。……ところで、そのサラダ、どこのテーブルにあったんだ?」
「ああ、このマリネか。あっちのテーブルにあったぞ」
「サンキュー。それじゃ、俺は行くわ。じゃあな」
「ああ、またな」
俺達がマリネをゲットしたテーブルに向かい、ガッチリとした体格の狼男が歩いて行った。
なんというか、あの巨体で狼男というのは迫力満点だな。
「鉄鬼さんのコスプレ、すごかったね」
「ああ、そうだな。鉄鬼のコスプレにも驚いたが、マリネに興味を示したのも驚きだ」
鉄鬼、肉食系なイメージがある、というか、同じクランだった頃は、バフの関係上肉料理ばかり食べてたからな。
マリネが用意されていたテーブルにもたどり着けたようだし、とりあえず、あっちはこれでいいか。
「さて、ユキ、今度はなにを食べたい?」
「うん、そうだね。シーフード系のお料理が充実しているみたいだから、そっちをメインに食べてみたいかな。料理によっては、一度食べればレシピがわかるものもあるし」
「料理人ってそんな事もできたんだな」
「うん、もっとも上級料理人になって初めて解放された機能なんだけどね」
「それでも、食べただけでレシピが増えるならいいことじゃないかな?」
「うん。いちいちレシピを聞き出したりして、増やさなくていいのはいいことなんだけど……」
「けど、どうした?」
「うん、なんだか他の人のレシピを盗んでるみたいで申し訳なくて」
「そんな事、気にしなくても大丈夫だと思うがな。大抵のプレイヤーは、用意されているレシピ通りに料理を作るだろうし、それを食べてレシピを覚えたところで、元々覚えていたレシピを再発掘するようなものだろう。……まあ、オリジナルレシピだと問題だろうが」
「そこは大丈夫だよ。オリジナルレシピの料理は、レシピがわからないようになってるみたいだし」
「そうか、それなら気にしなくてもいいんじゃないか?」
「そういうものかな?」
「そういうものだろ。さあ、次の料理に向かうとするか。今度はなにが食べたい?」
「うーん、あそこにあるパスタが食べてみたいかな」
「了解。それじゃあ、そっちに向かうとしよう」
その後もパーティ会場のテーブルを行ったり来たりしながら、様々な料理を食べ歩くこと一時間ほど。
さすがに、もうめぼしい料理はなくなってきているので、壁際に用意されていた休憩スペースでのんびりと過ごすことに。
「お料理美味しかったね、トワくん」
「ああ、そうだな。……ちなみに、この料理って再現できそうか?」
「うん、材料さえ揃えば大丈夫だよ。……ただ、その材料がどこで手に入るかなんだよね」
「材料か……空いた時間に港町関係を探してみるとするか?」
「そうだね。そうしてみよう」
ユキと今後の活動方針について確認し合う。
俺としても美味しいシーフード料理が食べられるならありがたいし、そこにバフがつくならなおのこと嬉しい。
ユキとしても、新しい料理が作れて嬉しいだろうから、時間ができたら港町関係を探索だな。
「あれ、トワさん。同じサーバーだったんですね」
休んでいた俺に、そんな言葉を投げかけてきたのはミイラ男だった。
……顔が見えないから、まったく誰だかわからんぞ。
「ああ、俺達もこのサーバーだが……スマンが、誰だ? 顔が完全に隠れてて、誰だかわからないんだが……」
「ああ、すみません。今、開けますね」
ミイラ男の頭部装備は開閉式らしく、顔を覆っていた包帯が上の方にずれて、素顔があらわになった。
「……誰かと思えばロックンロールか。お前達のクランもこのサーバーに?」
「はい、パーティに参加できるメンバーは全員一緒です。……それよりも、ショットガンの製造ありがとうございました」
「うん、ああ、気にするな。あくまでもビジネスとして受けた依頼だからな。注文内容や金払いに問題がないなら、普通に作って渡すだけだ。特に問題はないな」
「ありがとうございます。それで、今度はロングバレルショットガンも依頼をしたいのですが……」
「前と同じ条件でなら引き受けられるぞ。ただ、あれよりも上位の素材を使って作ろうとすると、一気に値段が跳ね上がるけどな」
「……ああ、やっぱりそうですか。クラン内でも上位金属が軒並み値上がりしてるって話題になってたんですよ」
「ドワンとも話したが、どうやらその傾向が強いらしいな。供給自体は増えているみたいだけど、安めな設定になっているものは、端から売れていってるイメージらしいぞ」
「ですよねぇ。何でもガーゴイルの取得を目指しているプレイヤー達が、こまめに市場をチェックして、買い集めているという噂なんですが……」
「それについては、何とも言えないな。ガーゴイルの作製に必要な素材の個数は公開されているんだろ? あれだけの数を集めるなんて、メチャクチャしんどいと思うんだが……」
「それでも集めている人は実際にいるらしいですね。まあ、出品される量もそこまで多くないので、なかなか集まらないらしいですが」
「だろうな。……さて、悪いけど、俺達はそろそろ行かせてもらうよ。注文をするときは、いつも通り店の方にきてくれ」
「わかりました。お時間を取っていただき、ありがとうございます」
「この程度なら構わないさ。それじゃあ、これで失礼するよ」
「はい、ありがとうございました」
ユキと一緒に休憩スペースからパーティ会場内へと戻ってくる。
パーティ会場は、先程までに比べても人数が増えているのがわかった。
「なんだか人数が大分増えているね」
「大方、仕事にいっていた社会人が合流したとかそんな感じだろうよ」
「そっか。お仕事をしてる人達ならこの時間から参加でもおかしくないよね」
「そういうことだ。……さて、パーティ会場に戻ってきたけど、これからはなにをしようか」
「うーん、やっぱり食べ歩き?」
「……他にやることもないしな。適当にまだ食べていないものを探して食べてみるか」
「うん、そうしよう」
結局は食べ歩きモードで色々なテーブルを周り、様々な料理を食べ歩くことになった。
途中で一度、曼珠沙華にも出会ったが「それだけ着飾っておいて、やることはそれだけ!?」と言われたが、他にやることが思いつかないんだし仕方がないだろう。
パーティ会場に設けられたステージでは、色々なパフォーマンスが行われていたけど、俺達にとっては料理を食べ歩くことの方が優先度が高かったんだし。
その後もパーティは何事も問題なく、終了予定時刻が近づいてきた。
そんなさなか、突然の轟音とともに、地面や建物が揺れた。
お偉いさんらしい人のところに近づいていっているのは、伝令兵といったところか。
「報告します。モンスターの軍団がこの城を攻撃し始めました。至急援軍を求めます!」
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