321.ハロウィンパーティ 1
火曜日、今日と明日はハロウィンイベントの一環として、パーティが開催される。
着用する服のドレスコードは、ハロウィンイベントでパンプキン系アイテムと交換できる衣装か、パンプキン系アイテムを使用して作った衣装であることだ。
このうち、交換できる衣装の方は、ハロウィンの仮装といった趣旨で統一されているため、色々なコスプレ系装備がほとんどである。
例えば狼男だったり、全身を包帯巻きにしたミイラ男、怪しげな魔女風衣装にお化けカボチャを頭にかぶった衣装など、種類は多岐にわたるがどれもコスプレ系装備である。
逆にパンプキン系アイテムを使用して作った衣装の方は、かなり自由度が高い。
様々な衣装が作れるため、逆をいえば、作る側のセンスが問われる物という事になる。
その辺は曼珠沙華のセンスに任せた結果であるが、俺としては何の問題もない結果になった。
「さて、そろそろ約束の時間だが……」
今日のイベントは現実時間午後八時開始ということで、現実時間七時半に集まる予定になっていた。
俺も夕飯の時間を早めたりして、時間に間に合うようにログインする。
集合場所の談話室に向かうと、おっさん以外のメンバーは既に揃っていた。
「あ、トワっち、ようこそー」
「ああ、時間に間に合うようにきたぞ」
「うんうん、あとはおじさんだけだね」
「みたいだな。おっさんから連絡は入ってないのか?」
「入ってるよ、三十分前後遅れそうだって」
「そっか。それじゃあ、実質的に俺が最後か」
「そうなるね。さあ、早く昨日渡したスーツに着替えて」
「わかってるって。そう急かすなよ」
どっちにしても着ることになるのだから、拒否せずに大人しく昨日もらったスーツ装備に切り替える。
それを見て、曼珠沙華は満足そうにしていた。
「うんうん、トワっちのそういう格好もよく似合ってるよ」
「それはどうも」
「女性陣も色々とアクセサリーを追加してるから、そっちも楽しみにしててね」
「はいはい。見たところ女性陣はまだ着替えてないみたいだけど、それでいいのか?」
「ギリギリまで粘ろうと思ってねほら、やっぱりこういうのってサプライズ感が大事じゃない。女性陣のお披露目はもうしばらく待ってね」
「そうか。曼珠沙華がそうしたくて、他のメンバーが問題ないならそれでいいさ」
この程度の我儘なら判断を他のメンバーに任せても大丈夫だろう。
実害はなさそうだし。
「そういえば、今日のイベントって内容はどんな感じなんだ?」
「んー、イベント用の特別エリアでパーティってことくらいしか事前情報がないんだよね。明らかに何かを隠してる感じだけど」
「そうか、それなら一応消耗品関係も持ち込んだ方が良さそうだな」
「そうだね。そっちの準備はトワっちに任せた!」
「はいはい。それじゃあ、準備するか」
俺はクランの共有倉庫に放り込んであった各種ポーションを取り出す。
念のため、全員十個ずつくらい持っていれば十分だろう。
取り出したポーションはそれぞれに配布していく。
これさえあれば、何か問題が起きても対処出来るだろう。
「やあ、遅れてしまって済まないねぇ」
「ああ、おっさんか。おっさんもこれを持っていってくれ」
「うん? ポーションかい? 戦闘に行くわけじゃないんだろう?」
「念のためってやつだ。ないよりもあった方がマシだろう」
「……まあ、ここの運営だし、何かを仕込んでても不思議じゃないしねぇ。ポーション、ありがたくもらっておくよ」
「そうしてくれ。……さて、これで全員揃ったな」
「そうだね。おじさんも早く着替えて」
「わかったよ。……これでいいかな?」
「オッケー。それじゃあ、女性陣のお披露目だよ!」
曼珠沙華の宣言とともに、女性陣がドレス姿に装備を切り替える。
【アーマーチェンジ】スキルにドレス装備一式を登録していたのだろう。
ドレスだけでなく、アクセサリーや髪飾りもまとめて装備していた。
「ほう、これはなかなか。昨日に比べてさらに華やかになったな」
「当然じゃない。私が監修したんだからね。そんじょそこらのドレスとは一味も二味も違うよ!」
「昔はここまでじゃなかった気がするがな」
「そこはほら、劇団で色々作ってるうちに磨かれたんだよ」
昨日のドレスではついてなかった、コサージュやネックレス、ブレスレットに髪飾りといった装備がしっかりと調えられている。
足下も、昨日の時点では各自が普段使っている靴だったが、今日はしっかりとドレスに合った靴になっていた。
「どうかな、トワくん。似合ってる?」
「ああ、よく似合ってるよ。……この辺のセンスは曼珠沙華が一番だな」
「そうだね。曼珠沙華さん、すごいよね」
なんとなく悔しいが、総合的なドレスアップについては、曼珠沙華が一番詳しいだろう。
リアルでも各種コスプレ衣装作りを手がけているだけあって、服の種類やデザインにも詳しいし。
同じく服飾系の生産職である柚月は、服飾系デザインの学校に通っているらしいが、こういったドレスアップに関しては曼珠沙華の方が一枚上手だ。
専門的な知識は柚月の方が詳しいが、踏んできた場数が曼珠沙華の底力になっている。
なんでも、中学生の頃から自分で衣装を作るようになったらしいし、コスプレ自体は小学生の頃からやっていたらしい。
……さすがにその頃は、家の中で着てみて満足していたらしいが。
「まったく、曼珠沙華も暴走しなければセンスのいいデザイナーなのよね」
「その様子だと、今回も暴走気味だったようだな。柚月」
「ええ、もっと派手な感じにまとめようとしてたから、さすがに止めさせてもらったわ。特にユキはあまり派手なのが好みじゃないみたいだしね」
「そうですね。あまり派手なのはちょっと……」
「まあ、そういうわけだから、そこら辺についてはストッパーをしてきたわ」
「おつかれ、柚月。……そういえば、アクセサリーってどこから調達したんだ?」
「元から曼珠沙華が持っていたアクセサリーを借りているのがほとんどよ。劇団時代に色々なアクセサリーを作ってもらってたらしいわ。今回はそれらのアクセサリーから選んだようね。時間があるなら、ドレスに合わせておじさんに頼みたかったって言ってたけどね」
「さすがに、今回はその時間はなかったからな」
「そうね。いくらおじさんでも、昨日の今日で四人分のアクセサリーを作る事なんてできやしないものね」
さすがのおっさんでも、一日で四人分のアクセサリーは作れないだろう。
色々素材も用意しないといけないだろうし、一つ一つ手作りする事になるから時間がかかる。
これが一週間とか時間があったのなら話は別だろうけど。
……なお、錬金アクセサリーだったら、デザインが決まっているなら一個数分で作れてしまうので間に合った。
ただ、錬金アクセサリーは、宝石と金属の組み合わせしかできないから、デザインの幅が狭いんだけど。
「そうそう。トワっち達、男性陣にも靴を渡さなきゃね。普段使っている靴じゃ、せっかくのスーツが台無しだもの」
「……昨日のうちにまとめて渡してくれればよかったんじゃないか?」
「昨日の時点ではできてなかったんだよ。女性陣のアクセサリー選びが終わった後、全員分の靴を作ったんだからね」
「よく間に合ったな」
「バッチリ徹夜しました。その辺は、エナドリをがっつり飲んでテンションを上げてたから大丈夫だったよ」
……そういえば、曼珠沙華はエナドリ信者だったな。
確かに、ここぞというときには便利らしいけど、俺はあまり好きになれない。
単純な好みの問題だけど。
「さて、これで男性陣のファッションも完璧だね! さっすが私、復帰三日目でもバッチリ決まってる!」
「はいはい。曼珠沙華、そろそろイベント開始の時間よ。どうやって移動すればいいのかしら?」
「あれ、トワっちだけじゃなくて柚月も知らないんだ。トワっちがイベント関係のお知らせをあまり見ないのはいつもの事だけど、柚月は見てると思ってたよ」
「ざっとしか見てないからね、今回のイベントは。それで、移動手段はどうすればいいの?」
「えーと、ゲーム内時間で開始三十分前になったらポータル転移の移動先に【イベント会場】が追加されるから、そこに転移すればいいってなってたよ」
「そうなのね。それじゃあ、移動しましょうか」
「そうだな。もうそろそろ時間だし、移動するとしよう」
俺達は談話室にあるホームポータルから、イベント会場とやらに転移する。
転移した先は大きな城の城門前だった。
ただ、他のプレイヤー達の姿がないのが気になる。
「曼珠沙華、ここであってるのか? 他のプレイヤーの姿が見当たらないんだが」
「受付場所はインスタンスになってるらしいよ。クランやパーティ単位では同じ場所に飛ばされるけど、それ以外のプレイヤーは入口では出会わないんだって」
「なるほどな。それで、これからどうすればいいんだ?」
「あそこの門衛をしてる住人さんに話しかけて、服装チェックを受ければいいんだって。それで問題がなければ、お城まで案内してくれるらしいよ」
「なるほどね。そういうことなら、早いうちにチェックとやらを受けてしまいましょう」
「そうだな。そうしよう」
門衛に服装チェックを受けなければいけないらしいので、門衛のところまで移動する。
すると門衛の側から話しかけてきた。
「ようこそ、ハロウィンパーティ会場へ。申し訳ありませんが、まず服装を確認させていただきます」
「わかった。どうすればいいんだ?」
「そのまま、ゲートをお通りください。問題がなければ、そのまま通ることができます。通り抜けることができなかった場合、申し訳ありませんが、服装を変えていただくかパーティ参加を辞退していただくことになります」
「わかったわ。それじゃあ、私から通ってみるわ」
まずは柚月からゲートを通り抜けてみることに。
柚月は特に問題なくゲートを通り抜けることができた。
その後も次々とゲートをくぐり抜けていくが、全員問題なくゲートを通り抜けることができた。
「全員問題ないようですね。では、今回のパーティについての注意事項を説明させていただきます。お客様方、異邦人の皆様は武器を持ち込めますが、使用できる武器は二つまでと制限させていただきます。こちらは会場入口で選んでいただくことになりますので、そちらで手続きをお願いいたします」
「わかったわ。他には何があるの?」
「そうですね……。お客様方の服装について、パーティ会場内では変更することができません。既にロックがかかっていると思いますが、その点はご了承ください」
「ふむ、確かに変更できんようじゃの」
「それ以外について、パーティ会場内での戦闘行為は制限させていただいております。パーティ会場内での戦闘行為は基本的にお控えください」
「パーティ中に戦闘というのもおかしな話だけどねぇ。その点についても了承したよ」
「注意点については以上になります。パーティ会場までは少々距離がございます。あちらに馬車を用意してありますので、そちらにお乗りください」
「りょうかーい。馬車に乗るなんて初めてだねー」
「注意事項、了解したよ。それじゃあ、俺達はこれで」
「はい。ごゆっくりハロウィンパーティをお楽しみください」
門衛の説明を聞き終えた後、俺達は指示された場所に並んでいた馬車一台に乗り込んだ。
全員が乗り終わると、馬車はゆっくりと動き出す。
向かう先はやっぱりあの城のようだな。
「うーん、お城でパーティとか楽しそう。ここの運営もなかなか楽しませてくれるじゃない!」
「そうだねー。お城とか入ったことがないから、楽しみだよー」
「そうですね。ちょっとワクワクします」
柚月を除いた女性陣に、今回の演出は大変好評なようだ。
確かに、城でパーティなんて機会はリアルではないだろうし、そこは楽しめる要素だが……
「トワ、難しい顔をしてるけど何か不安でもあるのかしら?」
「うん、ああ。パーティ会場での戦闘禁止なのに、武器を持ち込めることが不安でな」
「確かに、不安要素ではあるわね。ここの運営だし、意味もなくこんな半端な制限をかけるとは思えないわ」
「そうじゃの。おそらく何かイベントを仕込んでいるじゃろうな」
「おじさんもそう思うよ。……まあ、最初のうちは普通のパーティだろうから、楽しまないとねぇ」
「……それもそうだな。最初のうちはせっかくのパーティだし楽しませてもらうか」
女性陣三人とは裏腹に一抹の不安を感じている柚月と男性陣。
絶対になにかイベントを仕込んであるはずだ。
そこには注意しないといけないけど……まずは、普通にパーティを楽しむか。
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