313.追加報酬の回収
昨日はユキの作ったカボチャ料理の試作品を食べつつ、ロックンロール達に納めるショットガンを作成していた。
ミスリルで作ったショットガンは想像以上に耐久力が少なく、いつもの雷獣クラスの魔石を使ってしまうと、魔力過剰状態になり耐久力がガクンと下がってしまった。
仕方がないのでもう一ランク下の魔石を使うことで耐久力と攻撃力を両立させることができた。
なお、これらのショットガンの攻撃力は400程度、品質が低いのもあるが、魔石の質が低いのも影響しているだろう。
ともかく、ロックンロールの依頼の分、10丁を作り終えた俺はログアウトする事になった。
翌日、ドワンに確認を取ったが、アダマンタイト製の銃身はまだ完成していないという事なので、次元弐の依頼は後回しになった。
この空いた時間のうちにポーション作りをやってしまおうと思い、各地に出向きポーション素材を買い込んでくる。
後は帰ってポーションを作ればいいのだが、クランホームの談話室に戻ってきたところで一人のプレイヤーに捕まった。
俺達のクランホームに来ていた教授である。
「お邪魔しているのであるよ、トワ君」
「ああ、教授か。何か用事でもあったのか?」
「ふむ、その様子でいくとやはり忘れているようであるな」
「忘れている? 何がだ?」
「【学術都市】であったクエストの話であるよ。あそこのギルドマスターが言っていた追加報酬の支払日、今日であるよ」
「……ああ、そうだったか。最近忙しくて、すっかり忘れてた」
「そうだと思っていたのである。そういう訳なので、これから追加報酬を受け取りに行くのであるよ」
「わかった。……その前に、ユキも呼んできていいか?」
「構わないのである。ユキ君も一緒だったであるのでな」
「それじゃあ、呼んでくるから少し待っててくれ」
ユキはこの時間なら工房にいるはずだから、工房を覗いてみる。
予想通り、ユキは工房で料理の最中だった。
「ユキ、ちょっといいか?」
「あ、トワくん。ちょっと待っててね」
そう言って、料理台から鍋をおろし、皿に注いでいる。
「うん、これでパンプキンスープも完成。それで、トワくん、何かあったの?」
「ああ、2週間ほど前にガーゴイルの部品集めのクエストを受けたのを覚えているか?」
「……ああ、そんなクエストもやったね」
「それで、クエストの追加報酬が支払われるのが今日なんだが、一緒に来ないか?」
「うん、いいよ。料理の方も一段落ついたし」
「わかった。それじゃあ準備が出来たら教えてくれ」
「準備なんてほとんどないけどね。装備を生産用から普段の戦闘用に変える位かな。……うん、変更完了だよ」
「よし、それじゃあ、教授が待ってるから談話室に向かおう」
「教授さんも来てるの?」
「あのクエストを受けたときに一緒だったからな。実際、教授に言われるまで追加報酬の存在を忘れてたし」
「……そうなんだね。私も忘れてたから仕方がないよね」
「まあ、そんなところだな。ともかく、教授のところへ急ごう」
「うん、わかった」
工房を出て談話室に戻り教授と合流、3人で一緒に【学術都市】へと向かった。
「さて、ここの街のギルドマスターは追加報酬を支払うと言っていたのであるが……どうであるかな」
「ああ、確か……サハス、だっけ? あいつが邪魔をしてるって話だったよな」
「そういうことである。すんなりと追加報酬が受け取れればいいのであるが」
「その辺は行ってみればわかるさ。ギルドマスターとしても、渡すと約束していたアイテムなんだから、渡せないとなると色々と問題があるだろうし」
「……そうであるな。まずは錬金術ギルドまで行ってみるのである」
俺達は最近の様子を話し合いながら錬金術ギルドまで足を運ぶ。
教授達に丸投げしたフォレスタニアのイベントは、順調に進んでいるらしい。
もう少し調査が進めば巣の掃討作戦が決行されるだろうとのこと。
俺達も誘われたが、今は生産活動の方が忙しいので断っておいた。
それから、教授達に情報をまだ渡していなかったヒヒイロカネについても聞かれた。
ただ、ヒヒイロカネの特性についてはドワンの方が詳しいという事で、俺の方からは説明しないで済んだ。
その他にも細かい情報交換をしている間に、錬金術ギルド前まで辿り着くことができた。
「うむ、到着であるな」
「そうだな。さて、それじゃあ、ギルドマスターに会いに行くか」
「そうだね。早速だけど、お邪魔しようか」
俺達が受付で用件を伝えると、ギルドマスターに確認を取ってくるという事で受付の人はギルドの奥へと向かっていった。
待っている間、暇なので周囲の様子を見回しているが……こちらのことをみている
声をかけようかと思ったが、声をかける前にギルドから出て行かれたので仕方がないだろう。
出て行かれたものは仕方がないので、追いかけるのは諦めて受付の人が戻ってくるのを待つ。
少し待つと受付の人が戻ってきて、ギルドマスターの部屋へと案内された。
「ようこそ、諸君。今日は追加報酬の受け渡しだったね」
「ええ、その予定日ですね。それで、追加報酬の方は集めることができたんですか?」
「ああ、なんとか集めることができたよ。さすがにここには置いていないので、済まないが資材倉庫まで一緒に来てもらえるか?」
「わかりました。行きましょう」
「うむ。では、ついてきてくれ」
ギルドマスターに促されるまま、ギルド内を歩き、ギルド奥にある資材倉庫まで辿り着いた。
「さあ、この中だ。ついてきてくれ」
資材倉庫の中は至る所に照明が設置されているので、さほど暗くはなかった。
その資材倉庫の一角に大量の鉱石が積まれている場所があった。
「これが報酬の鉱石だ。数も間違いないと思うが、確認してくれ」
「それでは遠慮なく」
俺は大量の鉱石をインベントリの中にしまう。
そうすればインベントリの中で、勝手に鉱石の数を数えてくれるので便利である。
……さすがに1,000個を越えるアイテムを手作業で数えるとかはやってられない。
「……うん、指定した鉱石が指定していた量だけありますね」
「そうか。それでは今回の依頼の報酬は、これで全て渡せたことになるな」
「ええ、ありがとうございました」
「なに、報酬をすぐに用意できなかったのはこちらの落ち度だ。それに邪魔をしていた者ももういないことだしな」
「……邪魔をしていた者って、たしかサハスとか言う錬金術士ですか?」
「ああ、そうだ。彼だが、結局ガーゴイル作りに失敗してな。失脚してこの街から出て行くことになっている」
「……わざわざゴーレムの魔核を集めたのに、散々な結果であるな」
「むしろ無理にゴーレムの魔核を扱ったのが悪かったのだろうな。完成したガーゴイルは暴走状態で手がつけられなかったそうだ。ガーゴイルの製造装置も破損させたと聞くし、もう明るい未来は残っていないだろう」
うーん、そう言う話を聞くと少し同情してしまうかな。
まあ、俺達のせいじゃないけど。
「……っと、すまない。部外者に聞かせるような話ではなかったな」
「いえ、クエストで集めた物の顛末が聞けてよかったですよ」
「それなら構わないのだが。……そういえば、サハスについて不穏な噂があるな」
「不穏な噂ですか?」
「ああ、何でも柄の悪いゴロツキどもを集めているとかなんとか」
「……そんな余裕、よくありますね」
「私財のほとんどは没収されたはずなのだがな。ともかく、そういう噂があるとだけ覚えておいてくれ」
「構いませんけど、どうしてそんな事を?」
「……こう言ってはなんだが、サハスは君達が集めてきた魔核が不良品だったから失敗したと言い張っていてな。魔核が不良品ではないことはギルドが事前に調べているので、単なる言いがかりに過ぎないのだが」
「……つまり逆恨みですか」
「そうなるな。これ以上問題を起こせば、左遷程度では済まなくなるというのに、まったく困った話だ」
「それではこの街にいる間は気をつけることにします。教えてくれてありがとうございました」
「なに、元はといえば我々の問題だ。君達に非はない以上、君達を助けるのは当然だからな」
「そうですか。それでは、俺達はこれで」
「ああ、気をつけて帰ってくれ」
物品の受け渡しも終わったし、俺達は錬金術ギルドを後にする。
「教授、本当にこの鉱石類の分け前はいらないのか?」
「必要ないのであるよ。この街にこういったクエストがある事がわかっただけで十分である」
「それならいいんだが」
「それよりも、その鉱石類はガーゴイルの材料であるな? どうするのであるか」
「とりあえずは倉庫にしまっておく感じかな。使い道は今のところないし」
「そうであるか。まあ、それもいいのである」
「だな。……ところで教授、さっきから【気配察知】が反応してるんだが」
「やはりそうであるか。柄の悪い連中が私達の後をつけてきているのであるよ」
「……そうか。とりあえず、このまま転移門まで向かってしまおう。転移門を越えれば手出しはできないはずだから」
「……そうであるが、既に手遅れのようであるよ」
「……だな」
俺達の行く手を遮るように、柄の悪い連中が道を塞いでいた。
それに呼応するように左右にも、連中の仲間と思われる輩が出てきて俺達を包囲する。
「さて、お前がトワだな?」
「だとしたら何か用か?」
「何、大した用じゃないさ。お前達が錬金術ギルドからもらった鉱石類を返してもらおうと思ってな」
「返すだと? あれは正当な報酬としてもらった物だが?」
「そんな事は俺達には関係ないな。大人しく鉱石を渡した方が痛い目を見ないで済むぜ?」
「……ここは街中だぞ。こんなところで暴れる気か?」
「それはお前達次第だ。それで、鉱石を返す気はあるのか?」
「……あるわけないだろう。邪魔をするなら押し通るまでだ」
「ちっ、これだから異邦人は厄介なんだよ。……お前ら、殺さない程度にいたぶってやれ!」
ゴロツキどものボスと思われる男の号令で、周囲の連中が全員武器を取り出した。
……こっちは街中だから武器を使うことができないんだがなぁ。
〈特殊イベントが発生しました。イベント終了までセーフティエリア内での戦闘行為が許可されます〉
困っていたら都合よく戦闘行為禁止が解除された。
やっぱりこれってイベントなんだな。
「さて、戦闘も解禁になったし、一気に片付けるか」
「であるな。さっさと終わらせてしまうのであるよ」
「そうだね。早く終わらせてクランに戻ろう」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる! お前ら、やっちまえ!」
俺達の周囲を囲んでいたゴロツキどもが襲ってくるが……はっきり言って脅威じゃないな。
俺はハンドガンで襲ってくるゴロツキどもを撃ち抜き、ユキは薙刀で切り伏せ、教授は魔法で吹き飛ばす。
戦闘は1分とかからないうちに終わってしまった。
「……さて、残りはお前だけだが、どうする?」
「……畜生、聞いていた話と違うぞ!? 異邦人でも弱い連中だと聞いていたのに!」
「ふむ、どうやら雇い主がいるようであるな」
「さて、それなら雇い主のことを聞かせてもらおうか」
「……誰がお前達なんぞに話してやるかよ!」
うーん、イベントなんだろうけどこれはめんどくさいな。
誰かに丸投げできないものか……
「失礼します。トワさん達でよろしいでしょうか?」
「うん? そうだが、あんたは?」
ゴロツキのボスをどう締め上げようか考えていたら、不意に声をかけられた。
「私は錬金術ギルドの者です。これが身分証になります」
見せられたカードには確かに錬金術ギルドの紋章が彫られていた。
「それで、錬金術ギルドの人間がなんの用なんだ?」
「今回の一件、我々に任せてもらえないでしょうか。この者達の依頼主についても情報を持っております」
「……随分手回しがいいな。俺達が襲われるのを知っていたんじゃないか?」
「さすがに異邦人に手を出すとは思っていませんでした。そんな事をしても返り討ちにあうだけでしょうに」
「それもそうだな。……錬金術ギルドに連行するのか?」
「はい、そうなりますね」
「それなら、俺達も確認したいのだが構わないか?」
「ええ、わかりました。それでは参りましょう」
錬金術ギルドの手の者はそれなりの人数がいたらしく、襲ってきたゴロツキども全員を縛り上げて錬金術ギルドへと連行していった。
錬金術ギルドに到着すると、ギルドマスターが待っていた。
「……すまないな。どうやら私の予想以上に深刻な事態になっていたようだ」
「つまり、やつらの雇い主はサハスであると?」
「取り調べをしなければわからないが、そうだろうな。そう考えるのが妥当だろう」
「……こんな事をして、どうするつもりだったんですかね?」
「さあな。ともかく、我々の問題でまた迷惑をかけてしまったな。数日後にまたきてもらえるか。その時に謝罪の品を渡すとしよう」
「……わかりました。ユキと教授もそれで構わないか?」
「うん、大丈夫だよ」
「心得たのである」
「本当に迷惑をかけてしまったな。……街中で戦闘をした件については、我々から官憲に報告しておくので問題ない。今日はこのまま帰ってもらって大丈夫だ」
「わかりました。それではこれで」
クエスト報酬を受け取りにきただけなのに余計なイベントにも参加することになってしまったな。
今日のところは、大人しく帰って残りの作業をするとしようか。
「教授、この後はどうするんだ?」
「そうであるな。用事もないので、クランに戻るのである」
「わかった。俺達もそうするよ」
「それで、今度はいつここのギルドを訪れようか?」
「金曜日くらいでいいのではないのであるか」
「それじゃあ、そうしようか。またな、教授」
「うむ、お疲れ様である」
「ああ、お疲れ様」
教授と別れて転移門を抜けてクランホームへと帰還。
さて、とりあえずはポーション作りから始めるとしますか。
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