311.ショットガン納品
パンプキンケーキを味わった翌日、今日は『白夜』にショットガンを納める日だ。
納品する分のショットガンは完成しているので、後は引き取りに来てくれるのを待つだけだ。
引き取りに来てもらえるのを待っている間に、店売り用のショットガンを量産しておく。
あと、ロックンロールから頼まれた分も作っておかないとだよな。
そういうわけで、最近ショットガンばかり作っているが、実装直後の特需と思って諦めるしかないだろう。
『トワー。白狼さんが来たよー』
イリスがクランチャットで白狼さんの来訪を告げてくれた。
「わかった。すぐに行くから談話室で待っててもらってくれ」
『りょうかーい』
俺は手早く作りかけのアイテム類を片付けると談話室へと向かう。
談話室では白狼さんがイリスと話をしながら待っていてくれた。
「お待たせしました」
「ああ、トワ君。大丈夫、大して待っていないから。それに、イリスちゃんから面白い話も聞けたしね」
「面白い話?」
「フォレスタニアでしてる弓術修業の話だよー。遠距離攻撃だけじゃなくて近接戦闘の練習もしてるんだよねー」
「そうなのか? 弓だから遠距離攻撃ばかりだと思ってたけど」
「そうでもないよー。極至近距離でしかダメージ倍率が伸びないけど、防御や耐性を無視した必殺の一撃みたいな技も習ったしね」
「そうなのか。それは便利だろうな」
「うん、便利だよー。ただ、習ってる技がβの時のトワの戦術に似てるんだよねー、なんとなくだけど」
「……βの時にやった武闘大会の話か?」
「うん、そう。あの時のトワって、弓持ちなのに、至近距離から矢を放ったり、直接矢をさしたりしてたからねー。なんとなくだけど習ってる技の雰囲気が似てるんだよー」
「……俺の動きを元に流派スキルとして作ったのかもな。確か、βの時の許諾内容に『行動パターンを参考にさせてもらう事があります』とか書かれてたような気もするし」
「ああ、そういえばそんなのもあったねー」
「なるほど。トワ君の戦い方を参考にしているのか。それなら近接戦闘もできるようになって当然かな」
「近接戦闘はまだまだ苦手なんだけどねー。それじゃ、ボクはもう行くね」
「ああ、面白い話を聞かせてくれてありがとう」
「またねー」
イリスは廊下の方へと去っていった。
これから生産作業でもするのかな?
「さて、トワ君。頼んでいたものはできてるかな?」
「ええ、できてますよ。今から出しますね」
俺はテーブルの上に完成品のショットガンを並べていく。
デザインは特にいじってないので、無骨な銃が並べられている事になるが、仕方がないだろう。
……曼珠沙華あたりに見せたら、少しはデザインを変えろと言われそうだが。
「……うん、素晴らしい出来栄えだね。全部、攻撃力600っていうのは苦労したんじゃないかな?」
「そこそこ苦労しましたね。属性の組み合わせによっては攻撃力が落ちる組み合わせも多数ありましたから」
「そうなのかい? それなら試作品も結構あるんじゃないかな?」
「ええ、試作品も結構できましたよ。見ますか?」
「そうだね。見せてもらってもいいかな」
「それじゃあ、取り出しますね」
俺は倉庫の中から試作品として作ったショットガンを取りだして並べていく。
さすがに全部は並べきれないので、あくまでも一部だけだが。
「……こんなに試作品を作ったのかい?」
「複合属性である、雷鳴、溶岩、氷雪、樹木の組み合わせは一通り試しましたね。単一属性は試してませんが」
「いやはや、これだけ揃うと壮観だね。……ちなみに、これって販売しないのかな?」
「売りに出すか悩んでるところです。原価がかなり高いので、売値も相応に高くしないといけないし、転売とかの対応まで手が回りそうにないので」
「なるほどね。原価ってどれくらいになってるのかな?」
「白狼さんからもらった魔石が一個あたり2Mから4Mします。それで、ショットガンを1丁作るのに同じモンスターの魔石を3つ、それから属性を増やすためにも魔石を1つ、合計4個消費します。なので、魔石代だけでも10M前後になるんですよね」
「……平均値をとっても12M位はいくのか。その他の素材は?」
「グリップについてはモンスター素材のなかでも品質が高いものを使ってますが、魔石代と比べると誤差程度ですね。木材一個から作れるグリップの数は5つなので」
「なるほど。となると、あとは銃身かい?」
「ええ、銃身が問題ですね。ヒヒイロカネは実質独占状態にあるので……」
「つまり、値段がつけにくいと」
「そうなります。それを踏まえて考えると、原価が14Mから15Mになるので販売しようとすると20Mとかにせざるを得ない状況でして……」
「なるほどね。それならオーダーメイドで作ってもらえる値段だね」
「そうなりますね。なので、これはしばらく死蔵品になりそうです」
「それなら『白夜』にいくつか売ってもらえないかな? 今回、頼んでいない属性の組み合わせのものを」
「構いませんけど、複数属性がある場合は有効属性が適用されますよ? 頼まれていた属性内容で十分に対応できると思いますが」
「うちもガンナーは一人だけじゃないからね。クランからの貸し出しとして渡せば、戦力増強につながるよ」
「それなら構いませんよ。代金は前にもらった魔石の分で十分ですから、気に入ったものを持っていってください」
「さすがにそれは悪い気がするけど……」
「魔石の価値を考えれば問題ないですよ。どうしても気になるようでしたら、また魔石とヒヒイロカネを融通してください」
「わかったよ。また今度来るときに持ってくるようにしよう」
「……あまり大量に持ってこなくてもいいですからね。買取の支払いに困ることはないですけど、こんな高級品を大量に作る事は滅多に無いので」
「わかったよ。でも、『白夜』としてはレベル上げやアイテム回収で持て余し気味の魔石を消費してくれるのはありがたいんだけどね」
「『白夜』の中で使わないんですか?」
「さすがにレベル60クラスの魔石を使うほど職人が育っていないんだよ。レベル50台の魔石でまだまだ十分なんだよね」
「そうなんですね。『白夜』の生産職もそろそろ俺達と同じステージに立てる頃かなと思ってました」
「なんとか★12を作れるようにはなったけどね。安定してるとはまだまだ言い難いんだよ」
さすがの『白夜』も内部ではまだまだ消費できていないのか。
そうなると、ヒヒイロカネ製の装備とかも作れてないんじゃなかろうか。
「そういえば、ヒヒイロカネの装備って作れるんですか?」
「ああ、ヒヒイロカネの装備かい。うちでは作れないから、ドワンさんに頼んでるよ」
ああ、俺の知らないところで発注済みだったのか。
それなら俺が口を挟む必要も無いだろう。
「そうなんですね。ヒヒイロカネ製の装備って使ってみてどうです?」
「おや? トワ君は自分で使っていないのかい?」
「試作品として試し撃ち程度はしてますけどそれだけですね。というか、自分用のショットガンは作ってないですし」
「ふむ、トワ君らしくない……事も無いか。最近だと、トワ君の戦い方は遠距離重視だし、接近されたら刀にスイッチしてるからね」
「まあ、そういうことです。今からショットガンを作るのも必要なのかなと思ってまして」
「選択肢としてもっておいてもいいんじゃないかな? うちのガンナーも住人売りのショットガンを使って、戦法の幅が増えたって言ってたし」
「そうなんですね。とりあえず、この特需状態が落ち着いたら自分の分を作るか考えます」
「そうだね。今なら作っただけ売れてるんじゃないかい?」
「そんな感じですね。先週にかなり作っておいたはずなのに、もう在庫が切れそうですから」
「まさに特需だね。それじゃあ、忙しいんじゃないかな?」
「まあ、忙しいと言えば忙しいですけど。多少なら問題ないですよ」
「そうかい? でも、そろそろお暇しようかな。僕も早いところこの銃をガンナーに届けてあげないといけないからね」
「わかりました。それでは何かありましたらまた」
「うん、またね」
さて、白狼さんも帰ったし、店売り用の続きでも……
「ああ、トワ。ここにいたのね」
「柚月か。何か用事か?」
「ええ、用事よ。あなたに銃の発注をしたいって人が来てるんだけど」
「……納期が延びてもいいっていうなら聞くけど……」
「そこはすでに確認を取っているから大丈夫よ。鉄鬼からの紹介だし話を聞いてあげて頂戴」
鉄鬼の紹介?
って事は……
「次元弐か?」
「そうよ。ショットガンの依頼をしたいそうね」
「わかった。話を聞こう」
さて、依頼が片付いたと思ったらまた舞い込んできたな。
……他に有名なガンスミスが現れてくれないかな。
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