310.カボチャのケーキ
「ふむ。なかなか上手いことできないものだな」
封印鬼討伐から一夜明けた日曜日、昼間は結局まとまった時間が取れなかったため、夜になってからのログインとなった。
『白夜』に納めるショットガンの納期は明日にしてあるので、先程からいくつか作っているのだが……なんというか、イマイチ納得のできるものができない。
「この魔石の品質なら攻撃力600以上は固いはずなんだけどな……」
先程から試しているのは、樹木属性と溶岩属性の属性を持ったショットガン。
残りの2つは1回で成功したのだが、この1つだけはなかなか上手くいかない。
属性同士で反発していることもないので、大きな問題は発生していないはずなのだが、攻撃力が580台で止まってしまっている。
3回作って3つとも同じ結果になっているという事は、何か理由がありそうな気がする。
「うーむ。何が悪いんだろう」
属性的には問題なし。
魔石の品質も問題なし。
後は……作ってる本人の腕前という話になるが……
「他のショットガンは成功している以上、俺の力量不足って事も無いよな」
そもそも、俺の力量不足なら他のショットガンでも攻撃力が不足するはずだ。
それがないという事は、特に力量不足という事は無いと思われる。
そうとなると、可能性としては……
「属性の相性が問題か? でも、雷鳴と氷雪では特に問題はなかったしな」
一番反発がありそうな、聖滅の組み合わせでも問題が出ていない。
そう考えると属性の組み合わせという事はなさそうなんだが……
「……下手な考え休むに似たり、か。この機会だから他の組み合わせも試してみよう」
幸い、ヒヒイロカネの銃身は多めに作ってもらってある。
実験という事で色々試してみよう。
「まずは聖滅以外で問題のありそうな氷雪と溶岩だな」
この2属性でショットガンを作って見た結果、氷雪をコアにしたショットガンでは攻撃力570台、溶岩をコアにしたショットガンでは攻撃力560台まで下がった。
その他、雷鳴と樹木を組み合わせた場合でも、それぞれ570と560と言う形になった。
また、雷鳴と溶岩、氷雪と樹木の組み合わせでは攻撃力は特に大きな影響を受けた様子はなかった。
「……これは確定かな。属性の組み合わせ方によって攻撃力が減少することがあるようだ」
さて、そうなると後はどうするかだが……
まずは、今まで樹木をコアにしていたのを溶岩をコアに入れ替えてみようか。
「……ふむ、溶岩をコアにした場合は攻撃力600に届くのか。どちらがコアでどちらが添付なのかっていうのも重要みたいだな」
攻撃力601と本当にギリギリの値ではあったが溶岩と樹木の組み合わせで攻撃力600以上のショットガンを作る事ができた。
さて、残りの問題は……
「……試作品として作ったショットガンはどうしようかね」
樹木コアの溶岩ショットガンが3つ、氷雪と溶岩、雷鳴と樹木、雷鳴と溶岩、氷雪と樹木のショットガンがそれぞれ2つずつ。
どれも攻撃力にばらつきはあるが、最低でも攻撃力560以上あるのでおいそれとは売りに出せない品だ。
困ったときの柚月頼みといこうかね。
「トワくん、そっちの作業は終わったの?」
「うん? ああ、終わったけど、何かあったのか?」
「昨日狩ってきたワイルドパンプキンでパンプキンケーキを作ってみたんだけど、少しお茶にしない?」
「……そうだな。少し疲れてるし、それも悪くないか」
「よかった。それじゃあ、談話室に行こう」
試作品のショットガンについては棚に上げておくとして、ひとまずユキのケーキでゆっくりお茶を楽しむとしよう。
談話室には誰もいなかったので、他のメンバーは全員工房にでもいるんだろう。
「それじゃあ、はい、これ。お茶は紅茶でいい?」
「ああ、それでいい」
「うん、ちょっと待ってね。……はい、できた。それじゃあ、食べよう」
「ああ、いただきます」
ユキの作ったパンプキンケーキを一口食べてみる。
うん、カボチャの甘みが前面に出ていて優しい甘さのケーキだ。
「トワくん、味はどうかな?」
「ああ、おいしいぞ。カボチャの甘さがよく出てて食べやすい」
「そっか、よかった。あまりパンプキンケーキって作った事が無かったからちょっと心配だったんだ」
「これなら問題ないと思うけどな。……ちなみに、このパンプキンケーキのバフ効果は?」
「STRとVIT、それからINTとMNDが上がるよ。上昇量は少し少なめだけど」
「……まあそれだけの種類が上がるのなら十分だろ。これって量産できるのか?」
「やろうと思えば難しくないかな? ワイルドパンプキンの在庫はたくさんあるし、ワイルドパンプキン以外の素材は普通に手に入るものばかりだし」
「そうか、それなら店売りすることも考えるか?」
「そうだね。柚月さんに聞いてみようかな?」
俺達はパンプキンケーキを食べ終わった後、柚月を呼び出すことにした。
呼び出されてきた柚月は少々お疲れの様子だ。
「トワにユキ、何かあったのかしら」
「柚月に見てもらいたいものがあってな。ちょっと相談に乗ってもらおうと思って」
「まあ、構わないわよ。それで、相談って何かしら」
「まずはユキの方からかな。そっちの方がわかりやすい話だろうし」
「うん、わかった。柚月さん、これ、イベントアイテムのワイルドパンプキンから作ったケーキなんですが売れますでしょうか?」
「ええと、どれどれ……ステータス4種類アップとか随分と豪華なケーキね」
「ワイルドパンプキン自体がSTRとVITを上げる効果をつけてくれるんです。なので、4種類アップになってますね」
「なるほどね。味は……うん、結構おいしいわね。これなら十分に売り物になると思うわ」
「よかった。それで、いくらぐらいで売ればいいでしょう?」
「そうね……原材料費ってどれくらいなの?」
「ワイルドパンプキンを除けば、8つ作るのに1,000
「なるほどね。ワイルドパンプキンが肝って事になるわね」
「はい、そうなりますね。どれくらいがいいでしょう?」
「そうね……とりあえず、他の料理の1.5倍くらいの値段から始めてみましょうか。それで、すぐに売れてしまうならもう少し値段を上げればいいし、売れ行きがあまりよくないなら少し値段を下げましょう」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
「どういたしまして。……それで、トワの方は何を作ったのかしら」
「ああ、俺の方か。俺の方はこれだな」
俺は試作品として作ったショットガンをテーブルの上に並べる。
もちろん全部は置けないので一部だけだけど。
「……これは?」
「『白夜』からの依頼で作ったショットガンの試作品、および微妙になった練習品」
「……見たところ、全部攻撃力500台後半はあるんだけど?」
「完成品は全部600以上だからな。だからこそ、それが試作品になる訳だけど」
「……相変わらずぶっ飛んでるわね。それで、これを売りたいわけ?」
「売ってもいいものなのか悩みどころなんだがな。これってどれくらいの値段にすればいいと思う?」
「……難しいところね。★12装備な訳だし、私達の基本の値段で行くと10Mを越えるくらいなんだけど、新規実装装備、それも複数属性を標準搭載してるとなると、値段をつけるのが難しいわ」
「……だよなあ。これ、どうしたらいいかね」
「……とりあえずしばらくは眠らせておきましょう。そのうち、いい案も見つかるでしょうし」
「だといいんだが。まあ、懐はそんなに痛んでないし、問題ないといえば問題ないか」
「ちなみにこれの材料は?」
「ドワンに作ってもらったヒヒイロカネの銃身、イリスに作ってもらったモンスター素材のグリップ、白狼さんから譲ってもらったレベル60以上のボス魔石」
「なるほどね。ちょっと、素材の相場を見てみるとしましょう」
「そうだな。そうするか」
とは言っても、ヒヒイロカネは流通していないから、調べられるのはグリップと魔石の値段くらいだ。
それだけではあったんだが……
「グリップの元になる木材はそこまで高くないけど、ボス魔石はさすがに高いわね」
「レベル60以上だからな。まさか、1個あたり2M以上するとは思わなかった」
「ショットガン1つにどれくらい使ってるの?」
「ショットガン1つにつき4つだな。これだけでも8Mから12Mの材料費か」
「……そう考えると15Mでも原価すれすれってところになるのかしら。だとすると、1丁につき20M近くになるけど……」
「問題はそれを誰が買うのかだな」
「そこよね。買ったとしても転売される可能性は否定できないし……」
「量産すればいい話だけど、魔石とヒヒイロカネがな……」
「……やっぱり、しばらくは様子見ね。何かいい方法が見つかるまで寝かせておきましょう」
「そうだな。そうしよう」
想定以上に原価が高かったショットガン達。
すまないが、しばらくの間は倉庫の奥で眠っていてくれたまえ。
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