307.ショットガン作成

 ショットガンの試作をしてから数日、ようやく満足のいくものができるようになったので販売開始する事に。

 値段の方は柚月と話し合って適当な額に設定した。

 品質が高くなっている分、決して安くはないのだが……販売初日からかなり好調な売れ行きになり、追加生産することになった。


「トワ、忙しそうじゃのう」


 工房で黙々とショットガンを量産していたらドワンがやってきた。

 これは全員に言えることだけど、他のメンバーの工房を訪ねてくるなんて珍しいな。

 ちなみにだが、ユキは今日ログインしていない。

 用事があるとかいってたし、この後もログインしてくることはないだろう。


「ドワンか。忙しいといえば忙しいけどな。まさかここまで売れるとは思ってなかったよ」

「初期の頃は物珍しさで買っていく者も多いだろうからの。それから頼まれていた銃身の追加分、倉庫に入れておいたぞい」

「サンキュ。助かるよ」

「なに、これくらい構わんよ。イリスの方のグリップも完成しているようじゃし、後は組み立てるだけじゃな」

「その組み立てが一番神経を使うんだけどな」

「それは諦めい。まあ、売れ行きも好調な訳だし、売れるときに売ってしまった方がよかろう」

「そうだな。市場でもちらほらと出品されてるし、ここまで売れるのは今のうちだけだろうからな」

「そうじゃの。今の状況は特需とでも言える状況じゃからの」


 実際、新しい武器ができたことでガンナー、あるいは銃をサブウェポンとして使っているプレイヤーからの需要は凄まじい。

 俺がテストをしていた範囲では有効射程と距離によるダメージ差しか調べてなかったが、ショットガンはヒットストップやノックバック効果が非常に高いらしい。

 それに派生スキルとしての【ショットガン】スキルを覚えると、射程を伸ばしたり拡散しない代わりに着弾時の威力が上がる、なんていうスキルも覚えるらしいのだ。

 ……まあ、俺はここ数日ショットガン作りが忙しくて狩りにいけてないから試せてないし、【ショットガン】スキルも覚えてないんだけど。


「それで、ドワン。何か用事でもあったのか?」

「一つ聞くが、おっさん用のショットガンは作ったのかの?」

「ああ、それか。まだ作ってないぞ。イリスから部品はもらったけど、満足のいく品ができるかどうかわからないからな。もう少し試してから作ろうと思って」

「なるほどの。それで相談なのじゃが、銃身をアダマンタイトではなくヒヒイロカネで作るというのはどうじゃ?」

「……ヒヒイロカネ製か。試した事がないから何とも言えないけど、武器にした場合の性能ってアダマンタイトと比べると攻撃力は劣るよな?」

「確かに、素の状態ではアダマンタイトに劣るのう。じゃが、そこから改造……というか、別の武器の取り込みをすればアダマンタイトよりも強い武器になるぞい」

「そうなのか? そんな事いつ試したんだ?」

「先月の間に試しておいたのじゃよ。……まあ、ヒヒイロカネが吸収強化できる回数は5回までと決まっているがの」

「5回しか出来ないのか。聖霊武器に比べると大分少ないな」

「そもそも聖霊武器の下位互換のような物じゃからの。あとは、属性持ちの武器を取り込んでも、属性は継承できないと言うところか」


 なるほど、そこまで便利な武器でもないのか。

 ……だとすると、なんでヒヒイロカネ製の武器を勧めてくるんだろう?


「聖霊武器の下位互換ならわざわざ作る必要はないんじゃないか?」

「まあ、そこは実験の続きと思ってもらえるとよい。ヒヒイロカネ製の武器は、作成時に添加剤として属性付きの魔石を加えるとその属性が付与されるからの。添加剤としての魔石と作成時に使用する魔石、それらが組み合わさったときにどういう属性が付くのか興味があるのじゃよ」

「……そういうことなら試してみるか。おっさんには急かされてない訳だし」

「うむ、やる気になってくれたようで何よりじゃ。という訳で、これがヒヒイロカネ製の銃身じゃよ」

「既に作って持ってきてたのか。それなら早速だけど試してみるか」

「うむ。それから魔石はこれじゃ。聖属性の魔石が3つに死滅属性の魔石が1つじゃ」

「……確かに、聖属性が3つに死滅属性が1つだな。随分、準備がいいことで」

「いちいちマーケットを探すのも面倒じゃろうと思うてな」

「確かに、そういう意味では助かるが」

「それらの魔石はレベル50台のモンスターの物じゃからおっさんに渡すには弱いじゃろう。完全な試作品となるが試してみてくれ」

「はいよ。それじゃあ、始めよう」


 俺はヒヒイロカネの銃身とグリップ、それからコアになる聖属性の魔石3つを並べる。

 魔石については、もちろん【魔石強化】を使って調整済みだ。

 さらに添加剤として死滅属性の魔石を組み込んで、ショットガンの製造を始めた。

 添加剤を使ったアイテム作成は通常の作成より難しくなるが、スキルレベルが高いので特に問題なく作成は終了した。


「どうやらできたようじゃの」

「ああ、完成したな。さて、ステータスはどうなっているのやら」


 ―――――――――――――――――――――――


 緋緋色ショートバレルショットガン(聖滅) ★12


 ヒヒイロカネの銃身とホーリーレイスの魔石からできたショートバレルショットガン

 添加剤としてデッドリーレイスの魔石が使われている

 ヒヒイロカネの特性により、攻撃時に属性効果が発生する


 装備ボーナスDEX+130

      DEX+60

 攻撃属性:物理・神聖・死滅


 ATK+365 DEX+190

 耐久値:200/200

 装弾数:4


 ―――――――――――――――――――――――


「……属性付与はできたようじゃの」

「そのようだな。メテオライトでも作成時の属性付与ができたから、ヒヒイロカネはメテオライトの上位互換なんだろうな」

「……ふむ、確かにその通りじゃの。そう考えると、アダマンタイトの下位は何になるのじゃ?」

「おそらく魔鉄あたりじゃないか? 魔鉄も攻撃力と耐久に特化した素材だし」

「確かに、そういわれるとそうじゃの。……それで、おっさんの装備にはヒヒイロカネ製の武器でいくのかの?」

「この結果を見る限り、ヒヒイロカネで作った方が便利そうだな。問題は何の魔石を使うかだけど」

「そこは、緋緋色の亡霊武者でいいのではないか?」

「ああ、あいつの魔石も多少はストックがあるか。足りない分は白狼さんにお願いしよう」

「そうじゃの。『白夜』はあのダンジョンを周回しておるはずじゃし、魔石はかなり貯め込んでおるじゃろう」

「基本的にヒヒイロカネ鉱石がドロップするせいで、魔石はなかなか出ないんだけどな」

「まあ、そこは仕方があるまい。亡霊武者の属性は何なのじゃ?」

「ちょっと待ってくれ、今調べる。……神聖属性だな」

「……亡霊なのに神聖かの」

「そうらしい。となると、それにあわせる魔石をどうするかだが……」

「そこも『白夜』に相談でいいじゃろう。あのクランならば、高レベルボスの魔石をゴロゴロ持っていそうじゃしの」

「……確かに、そんな気はするな。とりあえず白狼さんに連絡してみるか」


 実際に作るときには魔石が必要になる以上、この場で悩んでいても仕方がない。

 高レベルボスの魔石となると市場ではなかなか出回らないので、そういったものを集めていそうな『白夜』を頼るのが一番の近道だろう。

 時間的にもログインしているみたいだし、白狼さんにフレチャで連絡してみるか。


『おや、トワ君。君から連絡してくるなんて久しぶりだね』

「こんばんは、白狼さん。今、大丈夫ですか?」

『ああ、今はクランホームにいるから大丈夫だよ。それで、何かあったのかな?』

「少し高ランクボスモンスターの魔石がほしくなったので連絡しました。そういった在庫ってありますか?」

『高ランクボスモンスターか。……ひょっとしてショットガンを作るのかい?』

「ええ、まあ。もっとも、自分用じゃなくておっさん用ですが」

『なるほど。それじゃあ、これから使えそうな魔石を集めて持っていくよ。僕の方からもお願いがあるしね』

「わかりました。よろしくお願いします」

『ああ。10分ほどでいけると思うからよろしくね』


 フレチャの感じからすると魔石の在庫はそれなりにありそうだ。

 後はどんな属性の魔石があるかだな。


「トワ、どうじゃった?」

「魔石の在庫はあるみたいだな。もう少ししたらこっちに来てくれるそうだ」

「そうか、それはよかった。それでは談話室に移動して待っているとしようぞ」


 俺の工房から談話室に移動して待つこと暫し、白狼さんがクランホームにやってきた。


「お待たせ。トワ君だけじゃなくドワンさんもいるんだね」

「うむ。ヒヒイロカネを使った装備の関係で同席させてもらっておるぞ」

「ああ、なるほど。それで、トワ君はどんな魔石がほしいんだい?」

「残念ながら高ランクボスモンスターは名前すら知らないので、できれば全部見せてほしいですね」

「わかったよ。とりあえず、持ってきた魔石類は全部見せるとしよう」


 白狼さんはテーブルの上に大量の魔石を並べていく。

 見た限りだと、全部違う種類の魔石に見えるが……


「白狼さん。こんなに種類があるんですか?」

「ああ、あるね。持ってきたのはレベル60以上のボスモンスターの魔石だけだ。色々と倒してきたけど、かなりの数を倒しているからね」

「なるほど。それじゃあ調べさせてもらいますね」

「ああ、構わないよ。僕からの依頼はその後で話そう」


 白狼さんに許可をもらってから一つ一つ魔石を調べていく。

 ……かなりの数があって調べるのに多少時間はかかったが、ほとんどの属性の魔石が揃っていた。


「ありがとうございます。どうやら、ほとんどの属性の魔石が揃ってるみたいですね」

「おや、そうなのかい? ほとんどって事は足りない属性もあるみたいだけど」

「光属性だけはないみたいですね。神聖属性はありましたけど」

「神聖属性はあったのか。それらしいボスを倒した覚えはないんだけど」

「緋緋色の亡霊武者が神聖属性なんですよ。理由はよくわかりませんけど」

「ああ、なるほどね。あそこのダンジョンはよく周回してるからそれであったのか」

「そういうことですね。それで、白狼さんの頼み事って何ですか?」

「いや、実は僕達のクランでもショットガンがほしくてね。実用レベルで作れるようになってるのだったら、作ってもらおうかと思って」

「なるほど。十分に実用レベルで作れますから用意できますよ」

「本当かい。それは助かるよ。……それで、属性魔石がほしかった理由はヒヒイロカネに関係したことなのかな?」

「うむ。ヒヒイロカネを使った武器を魔石込みで作ると、武器に属性を付与出来るのじゃ」

「あと、ショットガンを作るときの銃身にヒヒイロカネを使えば、コアになる魔石の属性を持たせることができますね」

「なるほど。それって複数属性を持たせる事はできるのかな?」

「できますよ。これが見本です」


 先程作ったショットガンを白狼さんに見せる。

 それを見た白狼さんは、感心したように頷いていた。


「なるほど。確かに複数属性があるね。しかも、神聖と死滅っていう真逆の属性でも可能というわけだ」

「そのようですね。他の組み合わせは試していないので何とも言えませんが」

「それって実験してないだけかな?」

「ですね。ドワン、実験できるだけのヒヒイロカネってあるのか?」

「難しいところじゃの。残っているヒヒイロカネで作れる銃身の数は15個じゃ。実験をするには足りぬじゃろうよ」

「……確かに足りないな。今度また掘りに行くか?」

「掘りに行くのは確定じゃが、すぐにというわけにもいかんじゃろう」

「だよなぁ。さて、どうしたものか」


 ヒヒイロカネは市場に出回ってないしなぁ。

 本当にどうしたものかな。


「ふむ、実験が間に合わないなら、試しに作ってもらったものでも構わないよ」

「そうですか? 

 まあ、攻撃力だけなら十分に実戦レベルのものが作れると思いますが」

「ああ、それで構わないよ。それで発注したい数だけど、ショートバレルショットガンを3丁用意してもらえるかな」

「ロングバレルの方は必要ないんですか?」

「とりあえずはショートバレルだけで構わないよ。それで、いくらになるかな?」

「……そうですね。魔石を提供してもらう事ですし……ドワン、どうするのがいいと思う?」

「ふむ、高ランクボスモンスターの魔石自体がかなり高額じゃからのう。ヒヒイロカネを少々工面してもらえれば、それで相殺という事でいいのではないか?」

「うん、それでいいなら助かるよ。それで、ヒヒイロカネはどれくらい必要かな?」

「ヒヒイロカネ鉱を30個ほどでよいぞ。それだけあれば十分に元が取れるからのう」

「わかったよ。それじゃ、明日のレイドの時に渡すよ」

「頼んだぞい」

「それじゃあ、作るショットガンの属性を決めないとですね」

「属性か……後から決めることはできないんだよね?」

「それはできないですね。作るときの魔石で決まってしまうので」

「……それじゃあ、作るのは待ってもらってもいいかな。明日までに決めておくから」

「わかりました。作るのはその後という事で」

「うん、よろしく。それじゃあ、持ってきた魔石は全部おいていくよ。僕らが持っていても使い道はないからね」


 白狼さんは残りの魔石を机の上に並べていった。

 ……うん、一種類につき6個から10個くらいあるな。


「それじゃあ、また明日」

「ええ、よろしくお願いします」

「ヒヒイロカネ、頼んだぞい」


 ポータルから帰っていく白狼さんを見送り、ドワンとこの後の事について会議だ。


「それで、ドワン。ヒヒイロカネ製の銃身、量産してもらえるか?」

「わかっておる。明日の夜までには準備をしておくわい」

「ああ、頼んだぞ」

「うむ。……ところでトワよ。お主、自分の分のショットガンはいらぬのか?」

「んー、もうしばらく考えてからだな。俺の場合、あまり出番がなさそうだし」

「最近は遠距離からのライフル攻撃がメインじゃからのう」

「そういうこと。それじゃ、俺もそろそろログアウトの時間だからよろしくな」

「うむ、銃身の方は任せておけ」


 ドワンの頼もしい言葉を背に俺はこの日の活動を終えてログアウトする事にした。

 ……ショットガン、今の戦法だと使わないんだよなぁ。

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