300.守護石像を求める少女
ガーゴイルの強化用特殊装備の件が終わって数日後、俺達はクランホームで生産漬けの毎日を送っていた。
俺の場合は、新しく発見したメガポーションとカラーポーションの強化版であるハイカラーポーションの研究だ。
どちらも相当レベルの高いポーションらしく、発見してから暇をみては練習しているのだがなかなか品質が安定しない。
それでも★9以上の品質に収まるようになってきており、その回復量はハイポーションやカラーポーションの★12よりも上である。
「うーん、メガポーション系がなかなか安定しないな」
「ご主人の腕前でも安定しないのですかニャ」
独り言のつもりだったが、そばにいたオッドが反応してしまった。
オッドの方も熟練の腕前まで達しており、ミドルポーションならば★8を安定して作れるようになっている。
「ああ、全然安定しない。それでも★9以上にはできるようになってきたけど」
「……そこまでできれば十分ではないですかニャ?」
「できれば最低でも★11で安定させたい。目標はもちろん★12の安定」
「……ご主人の目標が高いのはわかりましたニャ。後は、どうやってそこまで持っていくかですニャ」
「そうなんだよなぁ。住人から買える素材の量は毎日決まっているし、住人以外の素材入手経路がまったくないしなぁ」
「……それはもう、時間をかけてゆっくり練習するしかないのですかニャ?」
「それはわかってる。でも、できれば練習数を増やしたいだろう」
「ご主人、それは贅沢ですニャ」
「わかってるって。……とりあえず、メガポーションもハイカラーポーションも素材が尽きたな。残りの時間はハイポーションとカラーポーションを作って過ごすか」
「それがいいですニャ。ミドルポーションの★8品を量産するのはボクに任せてくださいニャ」
「ああ、頼んだ。さて、始めるとするか」
そうして始めたハイポーションやカラーポーションの生産。
こちらは問題なく★12で完成していく。
……この差は何だろうな。
慣れもあるだろうけど、単純にスキルレベルがまだ足りてない感じだろうか。
悩みながらも作業の手は止めずにポーションの山を築いていく。
オッドの方もあらかじめ渡しておいた素材をミドルポーションへと作り替えていく。
ケットシー達に普通の素材を渡してアイテム生産をさせれば、それは通常通りのアイテムとなる。
そうしてできたアイテムはプレイヤーメイドと同じ扱いになるので、ミドルポーションの店売り品については基本的にオッドに全部任せてる。
俺が作っても同じものにしかならないし、大した問題じゃないよな。
「ふぅ、これでハイポーションとカラーポーションの在庫作りも完了と」
「お疲れ様ですニャ」
「……後は何をしようかねぇ」
「少し休んできてはいかがですかニャ? 他にやれることもなさそうですしニャ」
「……やっぱりそうなるよな。そうさせてもらうわ」
「行ってらっしゃいですニャ」
オッドに見送られて談話室に向かう。
今日はユキが用事があるとかでログインしてこない予定なので、このまま工房にいても暇なのだ。
談話室では柚月が先に来て休憩していた。
「お疲れ柚月。そっちの調子はどうだ?」
「ああ、トワ、お疲れ。調子ねえ、まあ順調よ」
「それならよかった。曼珠沙華から依頼されていた品は完成したのか?」
「そっちはあと少しって感じね。……普段はしない装飾とかが多いから大変よ」
「だろうなぁ。あいつの作る装備って、実用性より見た目を重視してるからな」
「そうね。ただ、一定割合でそっちの装備を求める客もいる訳なんだけどね。そういう客は『ライブラリ』には来なかった訳だけど」
「だな。でも、曼珠沙華が加入することが知れ渡ればそういった依頼も増えるだろ」
「それは間違いなくね。まあ、そういう依頼は曼珠沙華に全部渡すわ」
「……まあ、それが適材適所って奴か」
「ええ、そうよ。……そういえば、トワが今研究している、えーと」
「メガポーションとハイカラーポーション」
「そう、それ。それって店売りする気あるの?」
「今のところはないな。まずは身内で使ってみて、効果を確かめてからだな」
「身内、ね。つまり『白夜』に流すと」
「そうなるな。白夜もスレイプニル入手のレイド戦に勝ててないみたいだし、いい支援策になるんじゃないかな?」
「回復アイテムだけじゃ勝てないと思うけどね。タンクが3発で死ぬって圧倒的にステータス不足よ」
「でも、『白夜』のタンクもフェアリーブレス3積みのアクセサリー装備者だからな。それでもステータス足りないとなると、レベルキャップの開放待ちになるぞ」
「つまりはそういうことなんじゃない? まだスレイプニルの入手はプレイヤーには早いとか」
「実装している以上は入手できない事はないと思うんだがな。……それこそ、強化結晶ガン積みで挑むとか」
「……さすがに『白夜』でも強化結晶ガン積みはできないと思うわ。強化結晶のドロップ率ってそんなに高くないし」
「やっぱりそうなるか。っていうことは、地道に装備の更新とかをするしかないのかな」
「でしょうね。装備をヒヒイロカネで強化すれば、また変わってくるんじゃない?」
「んー。それなんだけどな、ヒヒイロカネってアダマンタイトと大差ないみたいなんだよな」
「あら、そうだったの?」
「ドワンに軽く聞いただけだけど、ヒヒイロカネはアダマンタイトより魔法系ステータスが高くなる代わりに、物理系ステータスは低くなる感じらしい」
「つまり?」
「ヒヒイロカネだけで防具を作ると魔法防御系の防具になってしまうって。ミスリル金ほど物理防御が低いわけじゃないけど、物理防御はアダマンタイトに遠く及ばないそうだ」
「そうなると、装備更新しても結構きつそうね」
「だな。もっと別のブレイクスルーがほしいところだよ」
ヒヒイロカネはドワンの希望で時々採掘に行っている。
なので、あまり多くはないとは言え、実験するには十分な量がドワンの手元にはあるはずだ。
「なかなか上手く行かないものねぇ」
「だなぁ」
そんな風に柚月と話しているとイリスがやってきた。
見知らぬ少女プレイヤーを連れて。
「お客さんだよ、トワー」
「客? 俺に?」
「うん、そう。トワに依頼があるんだって」
依頼があるということは、後ろにいるプレイヤーが俺への客なんだろう。
ただ、装備品からみて魔術士系だし、俺の客層ではない気がする。
フェアリーブレスの加工というわけでもなさそうだし。
「あの、あなたがトワさんですか?」
「ああ、俺がトワだが、君は?」
「あ、申し遅れました。私は『魔法の庭』のクランマスター、摩耶といいます」
「『魔法の庭』ね……柚月、聞いたことある?」
「いいえ、私も知らないクランね」
「ああ、『魔法の庭』はそんな大手じゃないので知られてなくて当然です。『ライブラリ』さんみたく少数精鋭という訳でもありませんし」
「……まあ、クランの話はいいや。俺に依頼って一体何の依頼なんだ?」
「はい。実はガーゴイルを作っていただきたいのです。もちろん、謝礼はご用意しています」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます