299.ゴーレムの魔核集め 4

 ガーディアンゴーレムまでの魔核を集め終わった俺達は、最後の魔核を手に入れるために【マナファウンテン】から南に向けて走り抜けていた。

 途中、ザコモンスターに襲われるが、そういったものは無視して振り切っている。


「一応地図も渡されてはいるんだけど、プロトタイプゴーレムβのいるところまでどれくらいかかるんだ?」

「そうであるな。……騎獣で3時間程度といったところであろうかな」

「3時間ですか。ずいぶんと遠いんですね」

「遠いのであるよ。しかもその先に、ダンジョンや大きな街があるわけではなくいくつかの中継地点を挟んで帝国との国境があるだけであるからなぁ」

「つまりこっち方面から帝国に入国できるんだ?」

「それは可能、らしいのである」

「らしいって事は、未確認情報?」

「未確認であるな。帝国は入国審査がきついので、あまり入国できる人間がいないのである」

「そんなに面倒なのか」

「そこはプレイヤーによる、といったところである」

「なるほどね。……しかし、こう変わり映えのしない景色を3時間眺めるのもきついよな」

「そうだね。風が気持ちいいし、なんだか眠くなってきちゃった」

「それならば仮眠を取ってはどうであるか? フェンリルほどの知能があれば細かい指示を出さなくとも目的地まで運んでくれるはずであるよ」

「……それはまたリスキーな話だな」

「それに私は起きているので問題ないのである」

「でもそれじゃ、教授さんが休めないんじゃ……」

「まとめなくてはいけない仕事が山のようにあるのである。移動中でも出来る事はやっておきたいのであるからな。心配は無用である」

「そうか、それじゃあ少し休ませてもらおうかな」

「それでは失礼しますね、教授さん」

「うむ、眠っている間の進路設定は任せるのである」


 俺はシリウスに地図を見せ、地図上のある地点に向かうことを頼んだ。

 その他、ザコモンスターは無視して駆け抜けるなど細かい話も詰めておく。


 シリウスとの意思疎通が終わったら、その毛の中に埋もれて軽く目を閉じる。

 ……ああ、これは眠気にあらがえそうにないや。


「トワ君、目標地点に着いたのであるよ」

「……うん? もう着いたのか」


 どうやらシリウスの上でガッツリ眠ってしまったらしい。

 移動中に戦闘が発生すれば強制的に目を覚ますから、シリウスはうまく走ってくれたようだ。

 ユキも目を覚ましたようだし、ここからが本番なんだよな。


「で、教授。プロトタイプゴーレムβの特徴は?」

「攻撃特化型のゴーレムであるな。防御力やHPは低いのであるが、攻撃力は高いのである」

「つまり、高火力で圧殺した方が早いと?」

「そういうことであるな。下手に持久戦に持ち込めば、こちらのリソースをガリガリ削られるのである」

「わかった。それなら攻撃重視で行こう」

「神楽舞の効果もそれにあわせますね」

「うむ、頼んだのである。……それではボス戦を開始するのである」


 教授がボスエリアに進入したことで、ボスのプロトタイプゴーレムβが姿を現した。

 今回はどこからともなく飛んでくる演出だったな。

 さて、演出はさておき、ボスのレベルは55、こちらよりも低めだ。

 体高も2メートルちょっとくらいしかなさそうな人型だが、両腕は鋭利な刃物のようになっており、見た目の凶悪さは随一だ。

 確かに攻撃力特化というのもうなずけるな。


「プロちゃん、相手の注意を惹きつけて!」

「ウォン!」

「エアリルは俺と一緒に全力攻撃。一切気を抜くなよ」

「オッケー! それこそボクの得意なこと!」

「我々も支援するのである。まずは各種デバフからであるよ」


 プロキオンが挑発技でプロトタイプゴーレムβの注意を惹き、その隙に教授が大量のデバフをかける。

 教授のデバフが終わったら、今度は俺達の出番だ。


「行くぞ、共鳴増幅サンダーブレイク!」

「いっけー!」


 共鳴増幅可能な最大攻撃力スキルをぶつけた結果、これだけでボスのHPを2割ほど削ることができた。


「本当にHPが少ないんだな」

「うむ。HPは少ないのであるが、HPが減るにつれて攻撃パターンが変化するのである。最終的には全体攻撃もしてくるので注意であるよ」

「ふむふむ、つまり反撃を受ける前に倒しちゃえばいいんだね! いっくよー、サンダージャベリン、サンダーレイン!」

「ああ、もう、エアリルの奴……。まあ、こうなったら一気に詰めるしかないな」

「そのようであるな。私も攻撃にシフトするのであるよ」


 ユキとプロキオンを除いた全員から集中砲火を浴びることになった、プロトタイプゴーレムβ。

 耐久力の低いその体では耐えることができずに、5分ほどで倒しきることができた。


 なお、途中でプロトタイプゴーレムβの攻撃が一回こちらに飛んできたが、エレメンタルシールドでブロックすることに成功した。

 このスキルって、ガードに成功するとカウンターダメージも発生するんだな……


〈エリアボス『プロトタイプゴーレムβ』を初めて撃破しました。ボーナスSP6ポイントが与えられます〉


 さて、ボス討伐報酬も手に入ったし、後はドロップの確認っと。


「……俺はハズレだな」

「私もハズレである」

「あ、私は魔核が出ました」

「相変わらず、ユキ君は強運の持ち主であるなぁ」

「まあ、そのおかげで連戦しなくて済んだと思えばいいんじゃないか?」

「……それもそうであるな。さて、あそこにポータルがあるのでそこから帰還するのであるよ。帰還先は【学術都市】でよかったであるな?」

「ああ、クエストを終わらせてしまおう」

「そうですね。終わりにしましょう」

「では、反対意見はないというわけであるので、【学術都市】に向かうのである」


 俺達3人は【学術都市】に移動したら、まっすぐに錬金術ギルドを訪れた。

 錬金術ギルドに着いたらウォーレンを呼び出してもらおうとしたが、ギルド職員の方が先に動きウォーレンを呼びにいったようだ。

 受付で少し待っていると奥の方からウォーレンがやってきた。


「随分と早い帰還だが、何かトラブルでもあったかね?」

「いや、トラブルなんてなにもなく順調だったよ。おかげで必要な魔核が全て揃う程度にはね」

「なっ……、まだ依頼してから数日しか経っていないぞ? もう集めたというのか?」

「うん、集めたよ。ほら、これが証拠の魔核だ」


 うろたえているウォーレンに対して、俺はユキ達から集めておいた4つの魔核を手渡す。

 ウォーレンはそれを一つ一つ確認して、問題がないか調べている。


「……確かに、サハスが要求していた素材に間違いないな。いやはや、異邦人プレイヤーというのはここまで早くあのモンスター達から集められるものなのか」

「俺達以外の外部に協力を依頼したからね。それで、報酬の方は」

「わかっている。まずは私の部屋にきてくれ。そこで報酬の話をしよう」


 ウォーレンの案内でギルドマスターの部屋に通された俺達は、そこで報酬の精算をする事になった。


「さて、まずは最初に提示したガーゴイルの強化用特殊装備、『魔力循環機』のレシピとその素材だ。受け取ってほしい」

「ええ、確認させてもらいますよ」


 渡されたレシピを使用して『魔力循環機』とやらの内容を確認する。

 ……どうやら、ガーゴイルのステータスを増加させる事のできる特殊装備のようだな。

 一度組み込むと取り外し不能、ただし、新しい循環機を取り付けることで上書きは可能と。

 素材の方は、お馴染みのアダマンタイトやミスリル金、ボスクラスモンスターの魔石などなど。

 これは色々と魔改造ができそうですな!


「『魔力循環機』の確認は終わったかね?」

「ええ、終わりました。なかなか面白いアイテムをありがとうございます」

「ああ、それは私達が近年実用化にこぎ着けた最新技術だからな。扱うときは注意して使ってほしい」

「わかりました。……それで、残りの報酬は?」


 残りの報酬、アダマンタイト鉱石やメテオライト鉱石など、ガーゴイルを直接作るのに必要な鉱石類も報酬として上乗せさせていた。

 それらを受け取っていないが、果たしてどうなったのやら。


「……それなんだが、サハスの奴が報酬を出し惜しみしていてすぐには渡せそうにない」

「……またあの男ですか。それにしてもサハスが錬金術ギルドの報酬をどうこうできる権利ってあるんですか?」

「実際にはないな。ただ、街の顔役としての権利を濫用してギルドに圧力をかけている。そんなところだ」

「街の権力争いには興味はないんですけどね。それで、残りの報酬はいつ支払われるんです?」

「……2週間ほど待ってもらいたい。そうすればなんとかしよう」

「わかりました。それではまた2週間後くらいに受け取りにきます」

「手間をかけさせて済まないな。よろしく頼む」


 今日は報酬を受け取れないことがわかったので、錬金術ギルドを後にする。

 さて、後は教授との報酬分配なのだが。


「教授、今回のクエスト報酬の分配はどうする?」

「そうであるな。私としてもクエスト情報が手に入ったので必要ないのであるが……では、トワ君が手に入れた『魔力循環機』とやらができたらそれを見せてもらう事で十分であるよ」

「わかった。問題はこれを取り付けるガーゴイルがいないことだがな」

「……そういえば、ガーゴイルはまだ開放されてないのであるな。トワ君は作り方を知っているのであろう? サクッと入手してしまってはどうであるか?」

「うーん、あまり興味がないんだけどな。考えておくよ」

「トワ君自身が使わないのであれば、ユキ君に持たせるのはどうであるか?」

「えっと、私の場合、プロちゃんがいるので……」

「……なるほど、役割が被るわけであるな」

「そういうわけだから、ガーゴイルを作るにしても、もうしばらくはかかりそうだ」

「承知したのである。ガーゴイルを作る機会があったら教えてほしいのであるよ」

「わかった。それじゃ、今日はこれで解散かな」

「そうだね。教授さん、お疲れ様でした」

「うむ、お疲れ様である。また何かあったら知らせるのであるよ」


 パーティを解除して、ポータルからそれぞれの目的地に向かい転移する。

 俺達はクランホームに戻って生産活動だな。

 クエスト対応していたこの3日間はあまりやってなかったから、その分も頑張らねば。

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