298.ゴーレムの魔核集め 3

【工業都市】に辿り着いた俺達は、街の中を素通りしてさらに北を目指すこととなった。


「教授、方角はこっちであっているのか?」

「間違いないのである。このまま30分ほど騎獣で走れば、【機人の迷宮】というダンジョンに辿り着くのである」

「そこのボスなんですか?」

「正確にはそこの入口を守っているボスであるな。ガーディアンゴーレムはそこの入口にいるのであるよ」

「なるほど。迷宮の入口を守るガーディアンって訳か」

「そういうことである。ちなみに、ガーディアンゴーレムのレベルは63から65の変動制、もっとも強さ的には誤差の範囲であるがな」

「了解。なるべく弱いのを引くことを祈ろう」

「そうであるな。ガーディアンゴーレムの情報は持っているであるか?」

「いや、何も知らないな」

「それでは説明するのである。ガーディアンゴーレムは、物理態勢と魔法態勢の2パターンを切り替えて戦闘するタイプの敵である」

「物理態勢と魔法態勢? 何が違うんだ?」

「ガーディアンゴーレムが物理態勢を取っているときは、物理攻撃しかしてはいけないのである。魔法態勢の時は逆で、魔法攻撃のみで戦うのである」

「うん? どうしてだ?」

「物理態勢の時に魔法攻撃をしてしまうと、手痛いカウンター攻撃が飛んでくるのであるよ。逆もまた然りであるな」

「……物理と魔法、両方の特性を持った武器の場合どうなるんだ?」

「それは未調査である。……という訳で、トワ君、まずは一戦目で人柱になるのである」

「……まあ、構わないけどな。死んだら起こしてくれよ」

「それは任せるのであるよ。おそらくトワ君のHPでは、即死かギリギリ残るかくらいにはカウンター攻撃の威力はあるのである」

「……それは気をつけないといけませんね」

「そうであるな。プロキオンにもそこは注意させるのであるよ」

「わかりました。実戦に入ったら注意します」

「それがいいのである。ちなみに、左腕に盾を装備している状態が物理態勢、杖を装備している状態が魔法態勢である。態勢切替の間隔は60秒、切替のタイミングで周囲にノックバック効果のある全方向範囲攻撃をしてくるのである」

「……いよいよもって倒しにくそうな相手だな」

「この戦力であれば大丈夫であるよ。物理態勢の時は牽制程度に留めておいて、魔法態勢になったときに一気にたたみかけるのである」

「それが一番ですね」

「俺らの構成じゃ、物理ダメージはあまり稼げないからな」

「ユキ君が神楽舞で支援に入る以上、物理攻撃ができるのはプロキオンとトワ君だけであるからな。それともシリウスを呼ぶであるか?」

「……いや、魔法攻撃力優先のままで行こう。変に散らすより一点突破の方が安定しそうだ」

「であるな。無理をせずに一点突破でクリアしてしまうのである」


 作戦を立てながら騎獣で移動することしばらく、目的地である【機人の迷宮】へと辿り着いたようだ。

 迷宮入口前に広がってる広場がボスフィールドのようだな。


「教授、ここの情報を持ってるって事は何か特別なイベントでもあったの?」

「うーむ、今のところは見つかっていないのである。もっとも、我々の戦力では潜れないレベルのダンジョンが出てきたせいであるが」

「教授達で潜れない? それって『インデックス』の攻略班がクリアできないって事か?」

「うむ。【機人の迷宮】をクリアすると【機人の王城】というダンジョンに続いているのである。【機人の迷宮】はレベル65から70であるが、【機人の王城】はレベル71から上なのである。確認出来た範囲では78まではいたのであるな」

「……なるほど。それだけレベルが高いと消耗を避けられないか」

「そういうことである。いかに通常のダンジョンモンスターといえど、レベル差がここまで高くなると消耗が激しすぎるのである。おそらく、ボスレベルは79か80であろうな」

「さすがにそれは倒せないですよね」

「うむ。白狼君も誘ったのであるが、あちらはあちらで忙しいそうであるからな。こちらの攻略は打ち止めであるよ」

「了解。さて、それじゃあ、ガーディアンゴーレム戦と行こうか!」

「うむ、それでは始めるのである」


 戦闘を始めると、黒いコアが現れ、その周囲に様々な部品が飛んで集まり、やがて人の形をなす。

 ガーディアンゴーレムは合体メカタイプか。

 その左腕が持っている装備は……盾だな。


「ふむ、今回は物理態勢からスタートのようであるな。レベルは……65。運がないと嘆くべきであるかな」

「……まあ、誤差なんだろ。倒せるように踏ん張るしかないさ」

「そうですよ。……プロちゃん、物理攻撃を含んだ挑発で敵の注意を惹いて!」

「ウォン!」

「エアリル、お前は態勢が変わるまで待機。間違っても魔法攻撃するなよ」

「わかってるよ。無意味に戦闘不能になりたくないからね!」

「さて、私達も物理態勢では何も出来ないのであるよ。デバフをかけるのも反撃対象であるからな」

「……ひょっとして、それで反撃食らったことがあるのか?」

「初戦の時に一度もらったのである。いい情報源ではあったのであるがな」

「なるほど。それじゃあ、俺はこいつでいっちょ攻撃してみますか」


 取り出したのはイニアスナイプ。

 物理攻撃と魔法攻撃の複合攻撃武器だ。

 さて、これで反撃が飛んできたら、複合攻撃も禁止っていうわけだけど……


「照準よし……ハイチャージバレット!」


 コアが胴体部分にあったので、そのあたりに向かってハイチャージバレットを叩きこむ。

 注意をプロキオンに集められていたガーディアンゴーレムは、回避することも防御することもできずに直撃を受けた。

 さて、問題はここから反撃が来るかだが……


「……反撃は来ないようだな」

「そのようであるな。後は、魔法態勢の時に攻撃して反撃が来るかどうかである」

「……そっちも試さなきゃだよな」

「いい機会なのである。検証、頼むのであるよ」


 まあ、物理と魔法を持つ武器ならそれなりの数があるけど、物理と魔法を同時に行える武器なんて、輝竜装備くらいだからな。

 属性だけのパターンは……教授達が試してると思うしやらなくていいか。


 とりあえずイニアスナイプによる攻撃は有効だとわかったので、物理態勢の間はイニアスナイプによる攻撃を繰り返す。

 やがて1分が経過する頃、ガーディアンゴーレムの全身が分解されてはじけ飛んだ。

 そばにぴったりと貼り付いていたプロキオンが弾き飛ばされたので、これが態勢変更時の特殊攻撃なのだろう。

 現在、むき出しになっているコアに向けてハイチャージバレットを一発叩きこんでみたが、何かにはじかれて無傷だった。

 ダメージも与えられてないし、態勢変更が終了するまでは無敵なんだろう。


 全身がはじけ飛んでから3秒ほどでまたパーツが集まってきて、人型のゴーレムとなる。

 今度は左腕に杖を持っているという事は、魔法態勢のようだな。


「教授。ちなみに、同じ態勢が二度続くことはあるのか?」

「我々が調べた範囲ではなかったのである。ほぼ交代交代だと思って大丈夫であるよ」

「それは安心だ。……さて、エアリル。態勢変更まで一気に攻めるぞ!」

「おっけー! 待ってました!」

「プロちゃんも攻撃は魔法攻撃に切り替えて! MPの消費に気をつけてね!」

「ウォフ!」

「さて、私達も頑張るのであるよ!」


 魔法態勢に態勢変化したことで、全員が全力で攻撃出来る環境が整った。

 教授のデバフを待った後に、俺とエアリルで全力攻撃を叩きこむ。

 先程までとはまったく別次元の攻撃力で、ガーディアンゴーレムのHPを削り取っていく。

 それと、魔法と魔法の合間にイニアスナイプで攻撃してみたが、カウンター攻撃は来なかった。

 どうやら、反撃に該当しない攻撃が含まれていれば反撃は発生しないようだ。

 ……まあ、魔法態勢の時は、マギマグナムとマナカノンで全力攻撃の方がダメージ高いんだけどな。


 魔法攻撃を集中して行っても、さすがに一度じゃHPを削りきることはできない。

 再びバラバラに分解されて、物理態勢へと切り替わる。

 物理態勢の間は、半数のパーティメンバーが攻撃できないので、主に回復に割り当てる時間となっている。

 そして、1分間物理態勢を耐え抜いたら、再び魔法態勢となり、反撃を開始する。


 そんな繰り返しを何度かすることで、思ったよりは安定した形で戦闘に勝利することができた。


〈エリアボス『ガーディアンゴーレム』を初めて撃破しました。ボーナスSP8ポイントが与えられます〉


 さて、ボーナスSPはもらえたし、後はドロップアイテムな訳だが……


「……うん、俺はハズレだ」

「私もハズレであるな」

「あ、私は魔核がでたよ」


 どうやら、ユキの方で魔核がドロップしてくれたらしい。

 さすがにガーディアンゴーレムの連戦は避けたいところだからな。


「さて、これで4つ必要な魔核のうち3つが揃ったわけであるな」

「ああ、そうだな。残りはプロトタイプゴーレムβだ」

「残り1つですね。今日中に集めてしまうんですか?」

「……それでも私は構わないのであるが、そろそろ君達は寝る時間ではないのかね?」

「……あ、本当ですね。そろそろ寝ないと」

「最後の1つは明日か。……教授は明日も来るのか?」

「ここまで引っぱっておいて、クリアするところを見せないというのはどうかと思うのであるよ?」

「別に見せないとはいわないさ。じゃあ、明日も一緒に来るんだな」

「うむ、同行させてもらうのである。プロトタイプゴーレムβは【マナファウンテン】から南に進んだ荒野にいるのである」

「了解。それじゃあ、また明日だな」

「うむ。……ああ、帰る前に【機人の迷宮】のポータル登録を薦めるのであるよ」

「……来る機会があるといいんだがな」

「帰るのにもポータルがあると便利なのである。ささ、登録するのである」


 教授に急かされながらも俺とユキは【機人の迷宮】のポータルを登録した。


 今日はこの時点で解散ということになり、教授はさっさとポータルで帰還していった。

 俺とユキもポータル経由でクランホームに帰還してログアウトする事となった。


 さて、明日がこのクエストの最終日になってくれるといいんだけど。

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