301.守護石像・ガーゴイル

 俺に依頼があるといって『ライブラリ』を訪れた少女、摩耶。

 依頼の内容とはガーゴイルの作成だった。


「あー、色々と聞きたいことはあるけど。まずは、どこで俺がガーゴイルを作れることを知ったんだ?」

「やっぱり作れたんですね。……作れるかどうかまではわからないでここまできました。ですが、現状、名前が知れ渡っている錬金術士でもっともランクが高いであろうトワさんでしたら作れるんじゃないかと」

「……まあ、作れるけど。それってどこから聞いた情報だ?」

「教授さんから聞いてきました。おそらくガーゴイルの製法を知っているだろうと」

「……教授らしいな、まったく」


 さて、どうしたものか。

 ガーゴイルは作れるけど、本当に素材は揃っているのか?


「ちなみに、ガーゴイルを手に入れるための手順は知っているのか?」

「はい。まずは錬金術士ギルドでガーゴイルの情報を入手、その後で錬金術ギルドのマスターから素材を聞き出しました」

「なるほど、それで、必要な素材は揃ってるのか?」

「大丈夫です。アダマンタイト鉱石300個、メテオライト鉱石300個、ミスリル鉱石200個、魔鉄鉱石100個、それにレベル50以上のボスモンスターの魔石と魔核がそれぞれ4セットずつ。全て揃っています」

「……確かに、全て揃ってるな」

「はい。かなり時間がかかりましたが、なんとか揃えることができました」

「かなり時間がかかったって、どれくらいかけたんだ?」

「ええと、夏休みが始まる直前くらいからですね。さすがに鉱石を買い集めるのは苦労しました」


 ふむ、そこまで努力はしてるのか。

 となると、追い返すのもなんだな。


「わかった、それなら対価次第だがガーゴイル作成を引き受けてもいいぞ」

「本当ですか!? ありがとうございます。それで対価の件ですが、これを受け取ってください」


 トレード画面が表示され、そこに大量の鉱石類が追加されていく。

 ……って、これは……


「……これ、ガーゴイルの材料じゃないか?」

「はい。作成の依頼料としてもう1つ分の素材を集めました」

「1つ分だけでも相当な手間だったろうに……」

「……まあ、時間はかかりましたけど、なんとか集まりましたから」


 それは時間がかかるよな。

 アダマンタイト鉱石やメテオライト鉱石を600個ずつとか、鍛冶をやる人間でも集めるのが大変だ。

 でも……


「なあ、1つ聞くが、ガーゴイルの成長方法について知っているか?」

「ええと、普通にレベルを上げるだけじゃダメなんですか?」


 なるほど、そこまで詳しいわけではないようだな。


「ガーゴイルの成長方法は、装備させた武器や防具の強さに比例するらしい。つまり、強力な装備がないと、ガーゴイルは役に立たないって訳だな」

「……そんな」

「……ちなみに、装備を買うだけのお金は持ってるのか?」

「素材を集めるだけで精一杯だったので……」


 だろうな。

 ガーゴイル2つ分の素材とか、買い集めるとどれくらいになるんだろうな。


「……柚月。話は聞いてたよな?」

「ええ、聞いてたわよ。ガーゴイル素材の値段を割り出してほしいんでしょ?」

「そうなるな。どのくらいになるのか、概算でもいいから頼む」

「任せなさい。……えーと、鉱石がこのくらいで、でも、一気に集めなくちゃいけないから……」


 呆然としている摩耶を視界の外に追いやって、柚月にアイテム価値の試算を任せる。

 俺では、さすがにこの大量のアイテムの価値を理解できないからな。


「……よし、まあこんなところでしょう」


 どうやら計算は終わったようだ。

 さすが、柚月、計算が速い。


「試算できたのか?」

「ええ。概算だけど25Mくらいでどうかしら」

「それなりな額になったな。内訳は?」

「アダマンタイト鉱石が12M、メテオライト鉱石が9M、その他が合計4Mね。アダマンタイト鉱石やメテオライト鉱石をこの数まとめて集めるのは大変だから、その分は上乗せしているわ」

「なるほど。……さて、摩耶。そういうわけだから、トレードで提示されているアイテムは25Mで買い取ろう」


 俺のその言葉に反応して、摩耶が再起動する。


「ひゃい!? そんな高額で買い取ってくれるんですか!?」

「相場からみてもそこまで高額でもないだろう。大量にまとめて入手できる分、上乗せしているけどな」

「はい、それではそれでお願いします。……ああ、でも、そうなると手数料が……」

「……まあ、手数料は素材を揃えて持ってきてくれたって事でいいや。なんか、考えるのが面倒になってきたから」

「……なんだか済みません」

「いや、気にするな。……さて、ガーゴイルを作るのはいいが、レシピは知っていてもどこで作ればいいかまでは知らないな」

「あ、そうなんですね。てっきり、そういったものも知っているものだと」

「作る気がなかったからな。色々な国で各国のガーゴイルのレシピはもらったが、作り方までは聞いてなかった」

「ええと、どうすればいいでしょう?」

「とりあえず、王都の錬金術ギルドに行ってみよう。何かわかるだろうし」

「はい、わかりました」

「それじゃあ、先にトレードだけ済ませておくぞ。……よし、完了と」

「……私、こんな大金見たことがないです」

「集めた素材を考えればそこまでの大金でもないと思うけどな。……とにかく、王都の錬金術ギルドだ。ゲスト権限でそこのホームポータルを使えるようにしておいたから、そこから移動するぞ」

「はい、わかりました」

「というわけで、王都まで行ってくる。何かあったらメールなりフレチャなりで知らせてくれ」

「了解。気をつけて行ってらっしゃい」

「またねー。トワ」


 まとまったお金を受け取って動きがギクシャクしている摩耶を引き連れ、王都の錬金術ギルドまで移動する。

 錬金術ギルドに着いたらマスターとの面会を希望して、マスターと会うことにした。


「久しぶりだね、トワ君。今日はどうかしたのかね」

「ええと、ガーゴイルの作成をしたいのですが、どうやればいいのかなと思いまして」

「ああ、遂にガーゴイルを作る決心をしたのかね。わかった、協力しよう。ガーゴイルの作成は、ギルドにある錬成装置でしかできないからね。では、そちらに向かうとしよう」

「わかりました。……彼女のガーゴイルも作りたいのですが、一緒に連れて行っても?」

「構わんよ。……ああ、あまり変なところを触ったりはしないでもらえればな」

「大丈夫です。滅多なものには触りません」

「それならばよろしい。それでは付いてきたまえ」


 ギルドマスターに案内され、錬金術ギルドの奥深くにある工房へと辿り着く。

 そこにはかなり大がかりな装置が設置されていた。


「ここがガーゴイル錬成用の部屋だ。専用の機材が必要になるため、かなり大がかりになっているのだよ」

「……そういえば、ガーゴイルを保管している場所は案内されたことがありましたけど、作るための部屋には入ったことがなかったですね」

「まあ、そういうものだろう。無闇矢鱈と外部に公開する場所でもないからな」

「それもそうですね」

「……そういえば、トワ君はセイルガーデン王国この国のガーゴイルの製法は知っていたか?」

「どうでしたっけ。よく覚えてないですね」

「念のため、我々が持っているガーゴイルの製法も見ておくといい。そこに置いてあるのでな」

「では遠慮なく確認させてもらいます」


 色々な国で製法をみてきたから、この国でみたかどうか覚えてないな。

 とりあえず、製法は頭に入れてと……


「製法は覚えたな。それで装置の使い方だが……」


 ギルドマスターから装置の使い方の説明を受ける。

 とは言っても、どこにどの素材を投入するかとか、どういった流れで操作するのかとかだから覚えやすい。

 材料さえ投入してしまえば半分以上は自動っていうのは素晴らしいね。


「さて、これで装置の使い方も大丈夫だろう。早速、ガーゴイルを作ってみるかね?」

「そうですね。やってみましょうか」


 装置の確認も終わったので一旦離れて摩耶のそばに戻る。


「という訳で作成の準備は整ったぞ。先に作ってもらって構わないぞ」

「ああ、いえ、先はトワさんがどうぞ」

「ん? 別に遠慮しなくてもいいぞ」

「遠慮ではなく、ここでガーゴイルを作ったらワールド初ですよね」

「だろうな。ヘルプにもまだガーゴイルの項目がないし」

「という事は、ワールド初取得の称号も手に入りますよね?」

「手に入るだろうな」

「……私、そんな重い称号、いらないです」

「そうは言われてもな……。称号なんてオマケみたいなものだし気にしなくていいぞ?」

「いいえ、気になります。という訳で、トワさん、先に作ってください」

「……まあ、いいけどね」


 さて、自分のガーゴイルが先になったか。

 色々種類はあるけどどれを選ぼうか。

 飛行可能な悪魔像タイプとかだと少しステータスが劣るんだったよな。

 ……うん、見た目重視で金剛力士像タイプでいこう。


「えーと、金属素材をここに投入して、魔石素材はこっち。ここの装置で作るガーゴイルの外観を決定っと」


 最初から手順通り素材の投入や外観の決定などを終えていく。

 後は、ガーゴイルの主人になる人間の魔力を流す装置で魔力を流せば完成だ。


「さて、これで仕上げと。……確認メッセージか。『決定後、外観を変更するには素材が再度必要になります。よろしいですか?』か。問題ないので、そのまま決定と」


 装置に魔力を流し始めると、部屋中の設備が大きな音を立てて駆動し始める。

 やがて、装置から光が漏れ出すようになり、部屋の中央部にある台座に向けて光が集まっていく。

 光は一つの形になってまとまり、やがて、部屋中の装置が蒸気を吐き出しながら停止した。


 光が集まった先には俺の選んだとおりの金剛力士像が立っていた。


「………………」


 あれ、微動だにしないな?


「トワ君、まだ眷属契約が成立していないぞ。ガーゴイルに命名をしたまえ」

「……ああ、そうか。お前は『降魔』だ。よろしく頼む」

「…………」


 降魔と名付けたガーゴイルはゆっくり頷くと光の粒子となって消えていった。

 これで眷属契約まで完了かな?


〈眷属『ガーゴイル』を入手しました。最初のガーゴイル入手者のため称号【守護石像の導き手】を入手しました〉

《とあるプレイヤーにより『ガーゴイル』が開放されました。詳しくは追加されたヘルプをご確認ください》


 うん、アナウンスも入ったな。

 これで、入手イベントも終了か。


「トワさん、入手おめでとうございます」

「ああ、ありがとう。今度こそそっちの番だぞ」

「はい、わかりました。手順も見させていただいたので大丈夫です」


 摩耶は俺がやった手順通りに素材を装置に投入していく。

 素材類の準備が終わり、外観を決定するための装置の前まで行ったとき、装置を操作しようとして動きを止めた。


「あれ? 『作成可能なガーゴイルのパターンが存在しません』ってでてますけど……」

「ああ、そうだったな。トワ君、あちらの奥にある装置に移動してくれ。自分以外の錬金術士の助けを借りて作成する場合、補助をする錬金術士はあちらの装置から魔力を流してやる必要があったのだった」

「この装置ですね。……魔力を流してみたが、摩耶、どうだ?」

「あ、ガーゴイルの種類が表示されました。……うわ、こんなに種類があるんですね」


 俺の覚えているレシピから外観を決めるので、10種類以上は表示されているはずだ。

 少し悩んだ様子だったが、作る外観も決定し、最後の装置に魔力を流し始めた。

 俺の時と同じように部屋中の装置が稼働を始めて、最終的に出来上がったガーゴイルの形状は戦乙女タイプだった。


「それではあなたを『ノルン』と名付けます。よろしくね」


 命名も済んで、ノルンは光の粒子になって消えていく。

 これで、ガーゴイル作成は終了だな。


「ありがとうございました。これで、ガーゴイルを扱う事ができます」

「それは結構。それで、装備はどうするんだ?」

「えーと、お金に大分余裕ができたので、『ライブラリ』で装備を用意したいのですが」

「了解だ。まあ、そっちは重装備がメインになるだろうから、『ライブラリ』に戻ったら、担当者から話を聞いてくれ」

「わかりました。色々とありがとうございます」

「まあ、客だからな。それくらいはサービスするさ」


 錬金術ギルドを後にして『ライブラリ』に戻った後、ちょうどログインしていたドワンに装備の件は任せることにする。

 ドワンの方も、装備によって色々とステータスが変わることを面白がって結構サービスしたみたいだった。

 結局、俺が渡した25Mのほとんどを使い切ったようだが、満足していたので問題はないだろう。

 俺のガーゴイルの装備は、また後日に用意してもらおう。


 最後に、ガーゴイルの入手方法を広めてもいいかと聞かれたので、問題ないとだけ伝えておいた。

 集めなくちゃいけないアイテムの数から考えて、そんなに依頼が来るとも思えない。

 それに前提条件として、錬金術ギルドで情報を入手しなければいけない訳だから、ガーゴイル作りで忙しくなることはないだろう。


 新しい眷属も増えたが、前衛盾役の眷属を今後どうやって活用するか。

 ……正直、あまり使うことはないかもな。

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